「編集」という力学で多方面の才能が交わったライブイベント
文:柴那典(P1、P2)
「二度は同じものが生まれない、この日限りの祝祭」をテーマに行われた、CINRA主催のライブイベント『CROSSING CARNIVAL』。それは、ミュージシャン同士だけでなく、クリエイターやダンサーなど、音楽を軸に多方面の才能が文字通り「交わった」場所だった。そして、その背景には、カルチャーメディアとしての『CINRA.NET』が提示している「編集」という視点と力学が働いていることを強く感じた。
それは、ジャンルや業界といった枠組みを超えて、人を触発する「出会い」をいかに有機的に生み出していくことができるか、という発想だ。アーティストたちも、その意気を背骨に、それぞれのステージで様々なコラボレーションや挑戦を繰り広げていた。
開場を心待ちにする多くの客が列をなした 撮影:タイコウクニヨシ
『Crossing Carniva'18』の当日の様子をまとめたダイジェスト映像
歌とラップが絶妙に溶け合うEmeraldと環ROY
この日、duo MUSIC EXCHANGEの1番手に登場したのはEmerald。中野陽介の陶酔感あふれるボーカルとジャズやネオソウルをベースにしたメロウなバンドサウンドを展開する5人組だが、この日はサポートメンバーの藤井健司、えつこ(DADARAY、katyusha)やホーンセクションを擁する10人編成の大所帯だ。1曲目の“Pavlov City”から、昨年10月にリリースしたアルバム『Pavlov City』収録曲を次々と披露していく。ふくよかなアンサンブルの中を泳ぐように身を揺らしながら中野が歌う。
左から:コーラスで参加したえつこ(DADARAY、katyusha)、ステージ中央で伸びやかに歌う中野陽介、磯野好孝 撮影:タイコウクニヨシ
そして、最後に環ROYが登場。『Pavlov City』のラストナンバーであり、ライブでも後に演奏される“黎明”に、環ROYのアルバム『なぎ』(2017年)収録の“フルコトブミ”のラップを組み合わせた“Emerald×環ROY Crossing Session”を披露した。
左から:環ROY(Rap)、高木陽(Dr)、中野陽介(Vo,Gt) 撮影:タイコウクニヨシ
「マジで楽しかった。最高でした」と中野が語ったこのコラボは、YouTubeでもCINRA.NETとヤマハの共同企画による動画『Emerald×環ROY - YAMAHA×CINRA Crossing Session』として公開されている。歌とラップが絶妙に溶け合い、彼らにしか鳴らせない日本語のポップミュージックとして形になっていた。
風通しの良さが伝わるキラキラアプリなステージングのAwesome City Club feat. Jiro Endo
一方、O-WESTは背後にキラキラと光る金色の装飾が施され、マイクスタンドやキーボードスタンドにも電球が灯ったスペシャルなセットでの幕開けだ。1番番手に登場したAwesome City Clubは、建築家・デザイナー・アーティストの遠藤治郎とのコラボレーションによるステージを展開。これまでも演出に凝ったライブの数々を繰り広げてきた彼らだが、水曜日のカンパネラのステージ演出なども手掛ける遠藤治郎との今回のコラボは、彼とも親交のあるPORIN(Vo,Key)が発案。コンセプトは「フィジカルなキラキラアプリ」だという。
紗幕が降ろされたステージで演奏するAwesome City Club 撮影:伊藤惇
1曲目の“Magnet”では、ドラム以外の4人が軽快なステップを踏みながら演奏したり、2曲目“アウトサイダー”の途中でステージ前面に紗幕が降りてきたりと、視覚的にもエンターテイメント性の高いパフォーマンスを披露する。
スペシャルなのはステージセットだけではなかった。3月にリリースされた新作『TORSO』に収録された“燃える星”を、今回は「僕のギターだけで歌ってもいいかな?」とatagi(Vo,Gt)が告げ、急遽彼の弾き語りで披露。atagiは「去年の夏にバンドをやめようかなと思ってて、そんなとき、実家に帰って星空を見上げてたときに思ったことを書いた曲」と、CINRA.NETに掲載されたインタビューを振り返りながら語る。
atagi 撮影:伊藤惇 / 特集「Awesome City Clubが振り返り、明かす、実はピンチだった1年」を読む
終盤に披露された“ダンシングファイター”から“今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる”でも、atagiの熱い情熱とPORINのキュートでオープンな佇まいのハーモニーが生まれるパフォーマンスを見せていた。今のAwesome City Clubが持っている風通しのよさ、そして「CINRAは信頼している音楽メディア」と語った彼らのイベントにかける思いが伝わったステージだった。
ロックバンドGRAPEVINEとダンサー康本雅子が見せた予測不可能な化学反応
今回の『CROSSING CARNIVAL'18』の様々なコラボレーションの中でも、最も事前に予測できないものの1つが、GRAPEVINEと康本雅子によるステージだった。昨年にデビュー20周年を迎え、麗蘭、ユニコーン、クラムボン、UNISON SQUARE GARDENなど世代を超えた相手と対バンツアーを行ってきたGRAPEVINE。
GRAPEVINE 左から:西川弘剛(Gt)、田中和将(Vo,Gt) 撮影:タイコウクニヨシ
ダンサー・振付家としてコンテンポラリーダンスの新しい領域を開拓し、様々なミュージシャンのミュージックビデオの振り付けも手掛けてきた康本雅子。共に「孤高」のイメージがありつつ、実は他者とのセッションを意欲的に繰り広げてきたアーティストでもある。そんなロックバンドとダンサーという異色の組み合わせから、果たしてどんな化学反応が生まれるのか。
ステージには田中和将(Vo,Gt)、西川弘剛(Gt)、亀井亨(Dr)の3人にサポートの金戸覚(Ba)と高野勲(Key)が加わったGRAPEVINEの5人がまず登場。“Misogi”“羽根”“Fly”と、パワフルな演奏を披露していく。
そして中盤、“なしくずしの愛”で、青いスカートに花柄のパーカーを身にまとった康本雅子がステージに登場。長い手足を活かし、予想もつかない動きを次々と見せる独創的なダンスで目を奪う。
続く“Sing”では康本雅子はサブステージに移動し、スローテンポな楽曲に乗せ椅子と本を使ったパフォーマンスを見せる。さらに躍動感あふれるロックンロールの“KOL”では、客席に飛び込み、柵の上に立ち、お客さんの持っているドリンクカップを手にとって飲んだりと、破天荒なパフォーマンス。鳴らされている音楽と深いところでシンクロするような、文字通り目が離せなくなる存在感を見せる。
客席から再びステージに駆け上がる康本 撮影:タイコウクニヨシ
田中和将は「最高でした。非常に感動しました、ありがとう」と康本雅子を紹介していた。
プレイヤビリティとポップ性が際立ったDADARAYと藤井隆
ステージには、REIS(Vo,Key)とえつこ(Key,Cho)の2人の赤いキーボードが並び、休日課長(Ba)がその横に構える。サポートにはギターに長田カーティス、ドラムに佐藤栄太郎とindigo la Endの2人。DADARAYのユニークなフォーメーションから生み出されるのは、テクニカルで技巧的でありつつキャッチーなフックにも満ちた、新しいポップスのスタイルだ。
1曲目“For Lady”のスペイシーな展開から、耳から離れない中毒性を持つ“少しでいいから殴らせて”、切実なメロディと迫力あるプレイが溶け合う“トモダチ”と、オリジナリティあふれる楽曲を次々と披露していく。楽曲を手掛ける川谷絵音の才能がその向こう側に透けて見える。
そして、彼らがこの日の『CROSSING CARNIVAL'18』のために見せたのは藤井隆とのコラボレーションだ。満面の笑顔で手を振りながらステージに登場した藤井隆とDADARAYは、「一緒に楽しい思い出を作ろうと思います」と2000年にリリースされた藤井隆のデビュー曲“ナンダカンダ”をバンドアレンジで披露。大きな盛り上がりを見せる客席を前にREISと藤井隆が絶妙のハーモニーを響かせ、各パートのソロを披露する。
その後“東京Σ”“イキツクシ”と披露してステージを締めくくったDADARAYだが、このコラボには「まさか藤井隆さんと歌える体験があるなんて、家宝にします」とREISも感慨深げな様子を見せていた。普段のDADARAYの曲調とは違うアレンジなだけに、彼らのプレイアビリティも、そして“ナンダカンダ”という曲が持つ色あせないポップ性も明らかになっていた。
チアフルなポップスターとしての藤井隆
DADARAYへのゲスト出演に続き、ソロで登場した藤井隆はDJセットだけのステージを指差し「ガラーンとしちゃってね」と笑わせる。
黒いTシャツを身にまとった彼が見せたのは、身体一つでチアフルな空間を作り出すポップスターとしての風格だった。左右に手を振りながら“わたしの青い空”や“踊りたい”を歌い、「CINRA大好き!」と叫ぶ。
昨年にリリースしたアルバム『light showers』からの曲も織り交ぜつつ、ラストは「神戸が生んだ天才!」と紹介したtofubeatsとのコラボ曲“ディスコの神様”を歌いきった藤井隆。満員のオーディエンスから大きな喝采を浴びていた。
3組の感性がここだけにしかない美に結実したworld's end girlfriend×Have a Nice Day!×大森靖子
様々な「CROSSING」が実現したこの日、O-WESTのラストをつとめたのはworld's end girlfriend(以下WEG)、Have a Nice Day!(以下ハバナイ)、大森靖子という3者によるステージだ。WEGとハバナイは同じレーベルに所属していた盟友であるし、ハバナイと大森靖子にも、昨年にリリースされた“Fantastic Drag”に大森靖子がフィーチャリングで参加し対バンライブも実現したという関係性があるが、3者が共演するのはこれが初めてだ。
まずはツインギター、ベース、ドラム、ヴァイオリン、チェロ、PCというバンド編成でWEGが登場。“Flowers of romance”から新曲“MEGURI”と、シネマティックな音像を鮮やかな色彩の映像と明滅する照明と共に展開する。
幻想的なオーケストレーションから轟音のカタルシスに至るWEGの世界を鳴らしきると、早速ハバナイ・浅見北斗が登場。“Love supreme”から“666”、“NEW ROMANCE”、“Blue mirrorball”とWEGのバンド編成によるアレンジで次々と披露していく。先ほどまで微動だにせずに聴き入っていたオーディエンスからモッシュとダイブが巻き起こる。WEGの構築美とハバナイの突破力が結合したステージだ。
続いては大森靖子が登場し“マジックミラー”そして“セーラー服と機関銃”のカバーをWEGのバンド編成で披露。これも強烈だった。大森靖子の楽曲がWEGの重厚なロマンティシズムによって新しい形を得て、さらに薬師丸ひろ子が歌った1980年代の名曲が蘇る。轟音と絶叫が響く。
world's end girlfriendの演奏で歌う大森靖子 撮影:伊藤惇
そしてステージには大森靖子が1人残り、“死神”、“TOKYO BLACK HOLE”、“めざせポケモンマスター”、“音楽を捨てよ、そして音楽へ”など、次々と弾き語りで披露していく。リズムの緩急も声のダイナミクスも彼女一人が掌握するがゆえに、その場の空気自体も制圧するかのような圧倒的なパフォーマンスだ。ラストの“ハンドメイドホーム”から“PINK”まで、最後に「個」の力を見せるようなパフォーマンスだった。
アンコールに登場した大森靖子は、浅見北斗を呼び込み“Fantastic Drag”を弾き語りで披露。予定になかった“CAMPFIRE”を歌詞を飛ばしながら浅見が歌ったり、即興歌を披露したりとユルいムードも見せつつ、この日のステージを締めくくった。
左から:浅見北斗(Have a Nice Day!)、大森靖子 撮影:伊藤惇
やっている音楽のスタイルや方向性は違えど、どこか通じ合う感性を持った三組の共演は、過激さと危うさと純粋さを研ぎ澄ましたような、ここだけにしかない「美」に結実していた。
「2010年代日本発エレクトリックブルース」前野健太
文:天野史彬(P3)
O-EASTステージのトップバッターを飾ったのは、前野健太×古田たかし。シンガーソングライター前野と、佐野元春や奥田民生、PUFFYなど、様々な名アーティストのバックを務めてきたドラマー古田の即興セッションなのだが、なんと、前野が古田に声をかけたのは本番4日前だという!
1曲目“今の時代がいちばんいいよ”から、前野の力強い歌声と艶やかなメロディに古田のドラミングが絡み合うことで、音圧とエモーションが倍増されていく……その様は、いわば「2010年代日本発エレクトリックブルース」。曲順は一切決めていなかったようだが、“アサクサマンボ・ブギ”のような特徴的なリズムを持つ曲にも瞬間的に呼応する古田のドラミングは凄まじかった。
「ふたり」という、とてもプリミティブな人間関係によって発せられるからこそ、前野の歌の「イキモノ」のような質感……かつての歌謡曲やフォークソングへの回顧などではなく、それが「今を生きる」歌なのだということが強く伝わってくるステージングだった。
LILI LIMITの兄弟コラボレーションに感じる確かなものを追い求める意識
O-nestステージのトップバッターを飾ったのは、LILI LIMIT。フロントマン牧野純平(Vo,Gt)の実兄であり、LILI LIMITのグッズやCDアートワークなどのデザインも手掛けるグラフィックデザイナーの牧野正幸がバックスクリーンの映像を手掛けることで、この日は初めてステージ上での兄弟コラボレーションが実現した。
現行するR&Bやヒップホップに接近し、よりエレクトロニックなサウンドを追求した最新作『LIB EP』(2018年)収録曲を中心に始まったライブ。ステージ上ではメンバーがシンセやサンプラーなどを操ることで身体的なグルーヴを生み出していき、牧野正幸による映像は、ひとつの物語を描くというより、草花の写真や単純な1本の直線など断片的な映像を連続して映し出す。その音と映像のシンクロからは、表層的なイメージよりも、より具体的なもの、より確かなものを追い求めようとする意識が感じられ、刺激的であると同時に温かさも感じさせるステージだった。
新世代の東京を多面的に炙り出したKing Gnu×Ryohu
O-WESTステージの2番手は、King Gnu。常田大希(Vo,Gt)と井口理(Vo,Key)という全くカラーの異なる2人のボーカルの存在に顕著だが、King Gnuにはまるで「聖」と「俗」を内包するような両義性があり、それが彼らの表現にリアリズムと、混沌としたカタルシスを与えている。
この日のステージでもそのカタルシスは爆発していて、キャッチーだが、どこか猥雑な空気を孕んだ狂騒的なサウンドに会場中が熱気に包まれていた。
さらに、この日はゲストとしてKANDYTOWNやAun beatzのメンバーとしても知られるラッパーのRyohuが登場。コラボで3曲披露したが、特に“McDonald Romance”でのコラボレーションが素晴らしかった。マクドナルドという場所を舞台にしたこの曲でKing Gnuが描いたリアルな「東京」の景色に、呂布の視点が混じることでヴィジョンがさらに重層的になるような感覚。新世代の才能たちが描く「東京」の美しさと切なさを、より多面的に感じることができた。
欠けたものに美を見るものたちの共演、THE NOVEMBERSと志磨遼平(ドレスコーズ)
O-WESTステージの3番手は、THE NOVEMBERS。冒頭の“Hallelujah”から強烈にヘビーな音塊がフロアを覆う。その音塊はときに凶暴ですらある一方で、その裏に「多幸感」や「慈しみ」のような温かいものを感じさせるのがTHE NOVEMBERSの魅力だろう。
そして、その魅力はこの日のゲストである志磨遼平(ドレスコーズ)の登場によってより強度を増した。THE NOVEMBERSと志磨遼平、両者共に「欠けたもの」にこそ「美」を見るようなロマンチシズムを強く感じさる表現者たちだ。ステージに志磨が登場するや否や、布袋寅泰と吉川晃司の伝説のユニットCOMPLEXの“BE MY BABY”のカバーという意表をついたスタート。
「ロック」や「歌謡曲」のクリシェやイメージすらも屈託なく受け入れ、そこに命を吹き込み自らの表現とするところが、この2組らしい。
ラストの“Gilmore guilt more”で、THE NOVEMBERSの轟音にまみれながらフロアに飛び込んでいく志磨の姿に、「お前はどれだけ綺麗に咲けるか?」と問われているような気がした。
今、ここにある幸せを守るTempalayとJABBA DA FOOTBALL CLUB
O-nestステージの3番手を飾ったのは、Tempalay。トロトロに溶けていくような、真っ昼間からチルするような、そんなサイケデリックな音楽を鳴らす新世代サイケデリアの旗手だ。
彼らのコラボゲストとして登場したのは、ヒップホップクルー・JABBA DA FOOTBALL CLUB。Tempalayの“革命前夜”と、その“革命前夜”をサンプリングして作られたJABBAの“月にタッチ”がマッシュアップして演奏された。
総勢8名が揃った賑やかなステージ上を見て思ったのは、TempalayとJABBA、この2組は「幸せ」の定義づけの仕方がとても似ている、ということ。怒りを原動力にはしない。ただ、自分たちが仲間たちにとっての居心地よい場所を求めること。そこに流れるのは、ちょっとノスタルジックで、そしてロマンチックなメロディがいい――そんな「今、ここにある幸せを守る」というスタンス。“革命前夜”のメロウなリフを聴きながら、そんなジャンルを超えて共振する若者たちの価値観を感じた気がした。
おとぎ話が体現した、音楽好きの生み出す魔法みたいな時間
O-nestステージのトリを飾ったのは、おとぎ話。多くのコラボが実現した『CROSSING CARNIVAL'18』において、おとぎ話のステージは最も異質なものだったといえるだろう。何故なら、この日、彼らがステージ上で展開したのは、6月にリリースされる新作『眺め』の全曲再現ライブ。異種格闘技戦のようなこのイベントにおいて、ファンですら知らない楽曲「だけ」を、彼らは演奏したのだ。
実際、ステージ上で有馬和樹(Vo,Gt)も「怖ぇ~!」と連発しており、緊張感は相当なものであっただろうが、結果は大成功だろう。序盤から新しいおとぎ話を感じさせる言葉と演奏を、中盤は真骨頂ともいえる蒼く清廉としたメロディを、そして後半は狂気と遊び心が炸裂する疾風怒濤のサイケデリアを……と、まるでグラデーションのように「おとぎ話」というバンドの魅力を描いたステージ。
音楽好きが集まって、いい音楽を作って、人に届ける。それらの工程を全て丁寧にやり尽くしたら、奇跡みたいな瞬間が生まれた――そんな感じの、シンプルに魔法みたいな時間だった。
熱く、それでいて常にクールな演奏の力で場を沸かせたWONK
文:本間翔悟(P4)
さまざまなジャンルのアーティストがクロスしながらもやはりロック系のアクトが目を引く『Crossing Carnival'18』のラインナップの中で、異彩を放っていたのがduo MUSIC EXCHANGEでの2番手「エクスペリメンタルソウル」バンドのWONKだ。
ジャンルを超えて急速に集める注目度そのままに、夕方のduo Music Exchangeは開演前から最後方まで満員。WONKの熱心なファンから、話題のバンドを初めて観にきたという感じの音楽好きまで様々な層がいる中で、WONKはステージに上がるとその期待に応えるかのように熱く、それでいて常にクールでスタイリッシュな演奏を繰り広げた。
この日は特に「5人目のWONK」とも呼ばれるサポートメンバーでマルチプレイヤーの安藤康平が大活躍。サックスでブロウしまくり場内を盛り上げたかと思えばフルートで繊細なメロデイを奏で、さらにエレキギターでもソロを取る。
ライブ最後で長塚が退場した後にはセロニアス・モンク(主に1950~60年代に活躍したアメリカを代表するジャズピアニスト)のカバーで締めくくっていたWONKだが「演奏の力で場を沸かせるのがジャズミュージシャン」との言葉に従えば、まさに彼らのステージはジャズのそれとも言うことができ、異質ながらも「CROSSING」と呼ぶにふさわしい音楽を提示していた。
「ラップってのは病気だな」GAGLE、鎮座DOPENESSとKGE THE SHADOWMEN
直前までアーティスティックなLILI LIMITが出演していたO-nestは、GAGLEによってタフでハードコアなヒップホップのハコへと変貌。「俺はKOHHじゃないけど……」と冗談を言いながらもスキルフルなラップで魅せるHUNGER(Rap)に、調子の悪いターンテーブルから瞬時にCD-Jに切り替えて隙なくビートを繋ぐDJ Mu-R(DJ)、さらにその場でビートを組み替えてみせるDJ Mitsu The Beats(DJ)のコンビネーションが冴える。
この日は鎮座DOPENESSとKGE THE SHADOWMENが途中から参加。GAGLEの最新作『Vanta Black』(2018年)から"和背負い"を歌い、HUNGERと3人で10分近いフリースタイルも披露。鎮座の口から「ラップってのは病気だな」との言葉も飛び出したこのステージは、DJが流すビートとそれに反応するMCのラップというヒップホップの原初的快楽を再確認させてくれるものだった。
左から:KGE THE SHADOWMEN、鎮座DOPENESS 撮影:伊藤惇
代表曲を惜しげもなく投入。一体感と幸福感に満たされていたChara
「恋の調子はどう?」濃紺地にカラフルな花が描かれたワンピースにボリュームのある金髪を揺らしながら、Charaは開口一番そう観客に語りかけた。韻シストBANDと共にO-EASTに登場した瞬間からCharaはその一挙一動で周りを魅了して止まない。
1曲目に“やさしい気持ち”を歌い出すと、階段まで満員の場内は早くもクライマックスを迎えたかのように盛り上がる。2013年の初共演から5年を迎える韻シストBANDは前に出過ぎることなくバックバンドに徹するが、その確かな演奏力がボーカリストとしてのCharaの魅力を引き出している。“Swallowtail Butterfly ~あいのうた~”“Junior Sweet”と代表曲を惜しげもなく投入して大合唱の場内は、一体感と幸福感に満たされていた。
子ども連れも見られる客層は愛を歌い続けてきたCharaならでは。20年以上に渡って支持され、カリスマに君臨するのも納得のパフォーマンスだ。
その存在自体でさまざまな要素が交差する祝祭を体現したKOHH
そんな心温まるCharaの空気を一変させたのが、O-EASTのトリとして出てきたKOHHだ。
不穏なビートが流れ出すとステージ袖から中央まで勢いよく走って登場。歓声とも悲鳴とも怒号ともつかないような声が飛び交う中で“Die Young”、“Living Legend”と畳み掛け、“I wanna be a living legend”と繰り返して会場中を飛び跳ねさせ、熱狂させる。「Dirt!」「Boys!」のコールアンドレスポンスから“Dirt Boys”を歌うとDutch Montanaとのエピソードも披露。そのまま“Drugs”へなだれ込む。
まるで生き急いで命を削っているような、ロックバンドよりもロックスター然としたパフォーマンスを見せるKOHHだが、注目すべきはそのボーカルだ。ときにシャウトし、がなっているように見える瞬間でもKOHHは常に自分の声をコントロールしている。静謐な"Mind Trippin'"では空間を支配するようにその声の良さが活かされており、まさに「再生して破壊」、静と動のコントラストが際立っていた。
そんな圧巻のステージングを続けながらも「KOHHくん誕生日おめでとう!」といった気軽な声も飛ぶ様子からは「最先端を駆け抜けるラッパー」でありながら「北区王子のローカルヒーロー」でもあるその姿が浮かび上がってくる。あっと言う間の40分弱であり、終演後も場内には熱に浮かされたような空気が残る。その存在自体でさまざまな要素が交差する祝祭を体現したKOHHは、『CROSSING CARNIVAL'18』の夜を見事に締めくくってみせた。
最後に、来場者の感想ツイートを紹介
ブッキングを担当した編集部員たちのコメントはこちら
- イベント情報
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- 『CROSSING CARNIVAL'18』
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2018年4月22日(日)OPEN 16:00 / START 17:00
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-EAST、TSUTAYA O-WEST、TSUTAYA O-nest、duo MUSIC EXCHANGE
出演:
KOHH
Chara×韻シストBAND
GRAPEVINE(ゲスト:康本雅子)
大森靖子(Crossing:world's end girlfriend)
藤井隆
おとぎ話(新作の完全再現ライブ)
前野健太
Awesome City Club feat. Jiro Endo
world's end girlfriend×Have a Nice Day!
THE NOVEMBERS(ゲスト:志磨遼平(ドレスコーズ))
GAGLE(ゲスト:鎮座DOPENESS、KGE THE SHADOWMEN)
DADARAY
WONK
Tempalay×JABBA DA FOOTBALL CLUB
King Gnu×Ryohu
LILI LIMIT(Crossing:牧野正幸)
Emerald(ゲスト:環ROY)
料金:前売6,000円 当日6,500円(共にドリンク別)
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