刺々しさのなかに毒気とユーモアを忍ばせるシンガー、サクマリナ
9月27日、CINRAと音楽アプリ「Eggs」の共同主催による無料音楽イベント『exPoP!!!!!』が、渋谷のライブハウスTSUTAYA O-nestにて開催された。
トップバッターとして登場したのは、サクマリナ。
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アコースティックギターを抱えて1人ステージに登場した彼女のギタープレイは、まるで体と楽器が同化しているかのようにしなやか。そして、そんな自在に緩急を操るギターの上で歌われる言葉は、まるで苛立ちや退屈や欲望を率直にぶつけてくるように刺々しい。
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毒気とユーモアが混じり合ったMCもシニカルで、「『たまに椎名林檎に影響受けてるでしょ?』って言われるんですけど、あれすっごいムカつくんです。なので、椎名林檎やります」と言ってはじまった“ギブス”のカバーも素晴らしかった。強烈な才能を感じさせるニューカマーだ。
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ジャンルレスで自在、「現代のポップス」を地で行くペンギンラッシュ
2番手に登場したのは、名古屋出身の4ピースバンド、ペンギンラッシュ。
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1曲目の“ルサンチマン”では4つ打ちを基軸にしたダンスビートを響かせ、2曲目の“Dolk”はニューウェイブ風ファンク、続く“マタドール”は艶やかなジャズ歌謡……と、曲ごとに目まぐるしく変化するサウンド。そして、その全てを見事に自分たちのものにしながら「ポップス」として響かせる懐の深さに、とても現代的な音楽の在り様を感じさせられた。
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音楽を説明するときに、もはや「ミクスチャー」という言葉が通用しないほど、様々なジャンルが織り交ざっていることが前提となっている現代のポップス。ペンギンラッシュは、そんな今だからこそ生まれるべくして生まれたポップスの形だと言えるだろう。
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多彩なサウンドを乗りこなしながら、バンドのフロントに立つ望世(Vo,Gt)の存在感もまた、この先の様々な可能性を感じさせるものだった。
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超本格ファンクなエンタメ集団、ディープファン君
3番手に登場した7人組ファンクバンド、ディープファン君。
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彼らは、確かなテクニックに裏づけされた超本格ファンクに乗せて、笑いと内省、メッセージとナンセンスが入り混じったエンタメ性溢れる独自のステージングを展開する。
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バンドの筋力の高さを感じさせるグルーヴィーな演奏、そしてステージ上をキレッキレに動きながら歌い踊る、チャンサキとスルガアユムのダブルボーカル。踊るのはこの2人だけではない、アベユーセー(MPC)も渡邉光平(Gt)もキレッキレだ。
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奏で、歌い、踊り、たまにMCでわけのわからないことを言いながら、バンド全体が生き物のように躍動する7人。そして、そんなステージ上の7人の「とにかく楽しもうぜ!」というムードが、フロアにも伝染していくのが手に取るようにわかる。
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スルガがステージ前方にいた男性をハグしはじめるなどカオスなステージだったが、楽しくて踊れるのだから仕方がない。ディープなファンクとディープなファン(楽しさ)に満ちた、華やかでバカバカしく、でも切実であたたかいパフォーマンスだった。
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R&B由来のメロウさを繊細かつエモーショナルに鳴らした、STEPHENSMITH
4番手は3ピースバンド、STEPHENSMITH。福岡出身、去年より東京を拠点に活動している彼らは、繊細さと荒々しさが見事に同居したステージングを展開する。
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昨今のR&Bやヒップホップからの反響も感じさせる、細やかなビートを人力で叩き出すドラマーのTAROと、アンサンブルの重心を支えるベースのOKI、そして佇まいは飄々としながら、演奏ではエモーショナルに歌とギターを響かせるボーカル&ギターのCAKEというメンバー3人による音の絡み合いが絶妙。
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今年リリースされた“手放せ”や“豪雨の街角”は、音源ではホーンも加わって艶やかなメロウネスを光らせていたが、ライブではよりアグレッシブな、「3ピースバンド」としての魅力がダイレクトに伝わってくる。楽曲やステージングから感じられた「新しいものを生み出しながら、より広い世界へと羽ばたきたい」という瑞々しい野心には、頼もしさすら感じさせた。
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THREE1989が超満員の観客に見せつけた、ポップスバンドとしての底力
トリを飾ったのは、THREE1989(読み方は「スリー」)。まずステージ上にひとりで登場したDatch(DJ)がCalvin Harris“Slide”などをつないだ巧みなDJプレイで空間に火を灯す。
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超満員のフロア、会場を包むその熱気が、バンドに対する期待値の高さを表しているようだ。そして、メンバーが登場。Shimo(Key)に加え、サポートドラマーと女性コーラスが2人、そして最後ステージに上がったShohey(Vo)。
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彼は人気リアリティー番組『テラスハウス』にも出演したことで既に知名度もあり、この日もステージに上がるや否や大きな歓声を浴びていたが、彼の人気が、その知名度だけによるものではないことは、その後のパフォーマンスを観れば明らかだった。
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躍動感のあるビート、華やかなメロディーとコーラス、オーセンティックなソウルやR&Bの要素を絶妙にモダナイズしたサウンドは、聴き手の心をほぐしながら躍らせるような求心力を持っており、真ん中に立つShoheyは人懐っこさと色気をはらんだ歌を見事な歌唱力で響かせる。
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さらに、コール&レスポンスなどでオーディエンスとシンクロし、対話していく姿には、彼らのポップスバンドとしての底力のようなものを感じさせた。この先、どれほど大きな世界と彼らはシンクロしていくのだろうかと末恐ろしさすら感じさせるパフォーマンスだった。
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苛立ちであろうと、笑いであろうと、野心であろうと、喜びであろうと、5組それぞれが自分たちの「我」を音楽に乗せて表現している――そんな感覚が心地よかった、この日の『exPoP!!!!!』。また5組全てが、これから先の未来への広がりを大いに感じさせたことからも、この夜を支配していたのは「可能性」だった、とも言えるだろう。こんな夜に出会えるからこそ、まだまだ、音楽に期待してしまうのだ。
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- イベント情報
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- 『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume113』
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2018年9月27日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest出演:
THREE1989
STEPHENSMITH
ディープファン君
ペンギンラッシュ
サクマリナ
- 『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume115』
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2018年11月29日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest出演:
eill
んoon
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Rude-α
Quentin
料金:無料(2ドリンク別)
- プロフィール
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- サクマリナ
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1998年9月28日生まれ。3歳からピアノを始め、幼い頃から音楽に囲まれた環境で育つ。中学、高校、大学と音楽学校に通い、大学在学中にバンド活動を開始。現在は弾き語りを中心に都内で活動中。
- ペンギンラッシュ
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名古屋出身。2014年、高校の同級生であった望世(Vo,Gt)、真結(Key)を中心にFUNKやJAZZを作法としたJ-POPの開拓を目指そうと結成。2017年に2人をサポートしていた浩太郎(Ba)とNariken(Dr)が正式加入し現4人体制に。タワーレコードが未流通&デモ音源をウィークリーランキング形式で展開する「タワクル」企画、名古屋パルコ店にて2017年4月から現在まで、1年以上TOP5に毎週チャートインするという驚異的な支持を得続けている。昨今のバンドサウンドとは一線を画す、ジャンルレスなアンサンブル、独自のメロディライン、言い換えるならば現在のPOPsシーンに存在しない「違和感」で構成されるJ-POP。これはまさに中毒必至。
- ディープファン君
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スルガアユム(Vo.)、アベユーセー(MPC)を中心に結成。当初ユニットのような形態で活動をしていたが、二人ではライブの際のノルマが払えず、現在のバンド編成に。これまでマイペースに音源をオンライン公開し、一部の奇特なブラックミュージック·ファンから注目を集めてきたが、2017年、FUJIROCK FESTIVAL'17の「ROOKIE A GO-GO」への出演を果たす。そして2018年6月、親交のあるKan INOUE(STMWLL / WONK)や岩手・花巻のヒップホップ・クルー・BIG-RE-MANをフィーチャーし、欲望の限りを尽くした初のミニアルバム「PRIVATE BLUE」をリリース。今年こそは日本のブラック·カルチャー·シーンの夜明けを宣言する予定。
- STEPHENSMITH (すてぃーゔんすみす)
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2013年、福岡にて結成。ルーツミュージックとしてのR&B、ソウルをオルタナティヴな感性で現代に昇華させる、メンバー全員が1993年生まれのトリオバンド。「リンゴ音楽祭」、「CIRCLE」などのイベントに出演の後、2017年上京。「スロータッチ」なるテーマを掲げ、都内ライブハウスを中心に積極的なライブ活動を展開。2018年5月には「豪雨の街角」「手放せ」「放蕩の歌」の新作3曲を3週連続配信リリース。Spotifyにて全曲、10以上の公式プレイリストにリストインするなど大きな話題を呼ぶ。また同月、Suchmos、D.A.Nなどブレイクアーティストを輩出したシリーズ・イベント「NEWWW @ 渋谷WWW」に出演、圧倒的な歌唱力と緊張感溢れる演奏で、詰め掛けた多数の音楽ファンとメディアから大絶賛を受けた。年内のアルバムリリースを目指し、絶賛レコーディング中。
- THREE1989 (すりー)
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全員が1989年生まれの3人組バンドTHREE1989(読みは「スリー」)。Shohey(Vo)の圧倒的な歌唱力と美声、Datch(DJ)が生み出す、時にアッパーで時にディープなグルーヴ、Shimo(Key)の様々な楽器を使いこなす高いアビリティを駆使しパフォーマンスを行う。1970~80年代のR&B、ジャズ、ロックなどに感銘を受けたメンバーが創り出す、現代的なサウンドの中に当時の懐かしさを感じる、ニューノスタルジックな楽曲が特徴。
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