OGRE YOU ASSHOLEのライブの楽しみ方。自己感覚が歪む体験

「楽しみ方」さえ覚えれば、他にない高揚感と酩酊感を味わえる

OGRE YOU ASSHOLE(以下、オウガ)のワンマンライブが7月19日、東京・渋谷WWW Xにて行われた。昨年9月には東京・日比谷野外大音楽堂にて、複数のスピーカーによる「クアドラフォニック・サウンドシステム」を導入し、土砂降りの雨の中で立体的な音響空間を作り出したオウガ。また今年4月には、ニュージーランド出身の奇才コナン・モカシンとともにツーマンライブを行うなど、様々な試みをコンスタントに行ってきた彼らの「今」が観られるとあって、この日も会場にはたくさんのオーディエンスがかけつけていた。

オウガのライブは、例えば「つかみのイントロがあって、サビには掛け合いのシンガロングを散りばめて……」といったような、いわゆる「通常のロック」にありがちな展開とはかなり異なっている。そのため、中には「とっつきにくい」と感じている人も多いかもしれない。

しかし、その「異なり方」を把握し「楽しみ方」さえ覚えてしまえば、他のライブでは滅多に味わえないような、めくるめく高揚感と酩酊感を体験することができる。優れた作品に出会うと、それまでとは世界の「ありよう」がまるで変わったような体験をすることがあるが、少なくとも筆者にとってオウガは、ライブへ行くたびにそのような「体験」を味わわせてくれるバンドなのだ。

OGRE YOU ASSHOLE(おうが ゆー あすほーる)
メンバーは出戸学(Vo,Gt)、馬渕啓(Gt)、勝浦隆嗣(Dr)、清水隆史(Ba)。メロウなサイケデリアで多くのフォロワーを生む現代屈指のライブバンド。2000年代USインディーとシンクロしたギターサウンドを経て石原洋プロデュースのもとサイケデリックロック、クラウトロック等の要素を取り入れた『homely』『100年後』『ペーパークラフト』のコンセプチュアルな三部作で評価を決定づける。初のセルフプロデュースに取り組んだ前作『ハンドルを放す前に』ではバンド独自の表現を広げる事に成功し高い評価を得る。

時間感覚が失われ、<未知の感情が生まれてくる>

彼らのライブを観に行ってまず驚くのは、日常とはまるで違う時間が流れていることである。この日のワンマンは新曲“新しい人”からスタートしたが、テンポをグッと落とした勝浦隆嗣のドラムと、タメの効いた清水隆史のベースが織りなす、うねるようなグルーヴに身を任せていると、こちらの時間感覚が徐々に奪われていくのだ。

<新しい感情が生まれてくる>
<未知の感情が生まれてくる>

出戸学(Vo,Gt)による、そんなマントラのような歌詞を頭の中で反芻しているうちに、自分が何者で、どこからやって来てどこへ行くのか。そんな根源的な問いにすら意識が向かっていく。

「自分と他者」の境界線が失われていく、トリップ感

研ぎ澄まされた音数と、反復するフレーズによって構築されたアンサンブルも、オウガのライブの特徴のひとつ。“新しい人”に続いて演奏された新曲は、例えばベースラインはたった2、3音で作られたシンプルなフレーズだが、微妙にアクセントが異なる他の楽器のフレーズや、各楽器のディレイ音が組み合わさることで、モアレのようなアンサンブルを生み出す。すでに時間感覚が奪われている中、反復する演奏はゆっくりと変化していき、気づけば極彩色のサウンドスケープが目の前に広がっている。

<触れているのか 触れられているのか おれの中で>
<見つめているのか 見つめられているのか おれの中で>

そう歌われる歌詞のとおり、自分と音、自分と「他者」との境界線すら曖昧になってく感覚は、演奏はもちろんのこと、彼らのライブでエンジニアを務める佐々木幸生と、中村宗一郎の手腕によるところも大きい。レコーディングエンジニアでもある中村は、バンドの演奏に対してリアルタイムでエフェクトを施したり、ときに大胆な発振音を加えたりと、オーディエンスの反応を見ながら縦横無尽に機材を操っていた。

以前のインタビューで、佐々木と中村はそれぞれの役割を自ら次のように語った。

佐々木:僕は会場のサウンドシステムを調整するところからはじまって、全体のミキシングを整えていく立場ですが、中村さんは自分の手元にある機材で崩していく役割です。

中村:ちゃんとしてるほうと、してないほう(笑)。バンドを応援する人と邪魔する人、みたいな。

OGRE YOU ASSHOLE、屈指のライブ力の秘密を音響チームと語る」より

日常とはまるで違う時間の流れの中、研ぎ澄まされた音の反復を、PAエンジニアとともに拡張していく。そんな特異なオウガのライブを象徴するのが、いつもセットリストのハイライトとなる“フラッグ”だ。2007年にリリースされた2ndアルバム『アルファベータ vs. ラムダ』に収録された楽曲だが、ライブでのアレンジは大きく異なる。序盤は引きずるようなテンポで焦らしに焦らし、2回目のサビの直後でリズムがガラッと変わる。その瞬間、時空がグニャリとねじ曲がったような気がしたかと思いきや、そのままトライバルなリズムとヘビーなギターオーケストレーションが絡み合う、阿鼻叫喚のサイケデリアへと突入していくのだ。

OGRE YOU ASSHOLE“フラッグ”ライブバージョンを聴く(Apple Musicはこちら

それはまるで、自己探求の道が突然宇宙と繋がってしまったような、あるいは個が全体と一体化していくような感覚にも近い。「ここではない、どこか」へ連れ去ってくれるのが「サイケデリック」の定義だと個人的に思っているのだが、オウガのライブは、そんなドラッギーなトリップを、「しらふ」でも体験できるのである。

3年ぶりのアルバムリリース&ツアーが決定

この日、アンコールに登場した彼らは、9月4日にニューアルバム『新しい人』をリリースすることを発表。それを携えてのツアーも行い、EX THEATER ROPPONGIでファイナルを迎えるという。個人的にEX THEATERは、最も好きな音響のライブハウス。ここでオウガのライブを体験できるなんて……想像しただけで、今から脳内麻薬が溢れ出てきそうだ。

イベント情報
『OGRE YOU ASSHOLE Live at WWW X』

2019年7月19日(金)
会場:東京都 渋谷 WWWX

リリース情報
OGRE YOU ASSHOLE
『新しい人』(CD)

2019年9月4日(水)発売
価格:2,916円(税込)
DDCB-19005

イベント情報
『OGRE YOU ASSHOLE『新しい人』release tour』

2019年9月29日(日)
会場:長野県 松本 ALECX

2019年10月6日(日)
会場:大阪府 梅田 TRAD

2019年10月12日(土)
会場:福岡県 INSA Fukuoka

2019年10月22日(火・祝)
会場:愛知県 名古屋 CLUB QUATTRO

2019年10月26日(土)
会場:北海道 札幌 Bessie Hall

2019年11月4日(月・祝)
会場:東京都 EX THEATER 六本木

プロフィール
OGRE YOU ASSHOLE
OGRE YOU ASSHOLE (おうが ゆー あすほーる)

メンバーは出戸学(Vo,Gt)、馬渕啓(Gt)、勝浦隆嗣(Dr)、清水隆史(Ba)。メロウなサイケデリアで多くのフォロワーを生む現代屈指のライブバンド。2000年代USインディーとシンクロしたギターサウンドを経て石原洋プロデュースのもとサイケデリックロック、クラウトロック等の要素を取り入れた『homely』『100年後』『ペーパークラフト』のコンセプチュアルな三部作で評価を決定づける。初のセルフプロデュースに取り組んだ前作『ハンドルを放す前に』ではバンド独自の表現を広げる事に成功し高い評価を得る。2010年全米・カナダ18ヶ所をまわるアメリカツアーに招聘される。2014年『FUJI ROCK FESTIVAL』ホワイトステージ出演。2018年日比谷野外音楽堂でワンマンライブを開催。3年ぶりとなるニューアルバム『新しい人』が9月4日にリリース決定。



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