君島大空らが見せた、「音楽家」としての確固たるアティチュード

エモーショナルな演奏でグッドメロディをかき鳴らした、ザ・モアイズユー

3月28日、CINRAと音楽アプリ「Eggs」が共同主催する無料音楽イベント『exPoP!!!!!』が、渋谷のライブハウスTSUTAYA O-nestにて開催された。

この日のトップバッターは、大阪出身の3ピースバンド、ザ・モアイズユー。

ザ・モアイズユー(ざ・もあいずゆー)
大阪発、本多真央(Gt, Vo)、以登田豪(Ba)、オザキリョウ(Dr)の3人からなるセンチメンタルロックバンド。どこか懐かしくも親しみやすいキュンとくるメロディーが最大の武器。2ndデモシングル『花火』のMVはインディーズながら18万回再生を突破している。『イナズマロック フェス 2017』への出場権をかけた「イナズマゲート」でグランプリを獲得。2018年7月にはback numberが所属するイドエンターテインメントのオーディション『SUPEREGO』でグランプリを獲得。2019年4月初の全国流通盤となる1stミニアルバム『想い出にメロディーを』をリリース。全国8か所をまわる全国ツアーを開催し、東京・大阪公演はチケットソールドアウトとなった。
本多真央(ザ・モアイズユー)

結成から8年の月日を経て、今年、初の全国流通盤『想い出にメロディーを』をリリースした彼ら。その魅力は、音源においてはグッドメロディが冴える普遍的なソングライティングに寄って堪能することができるが、ライブでは、その曲のよさに加えて、ライブバンドとしての熱情的なパフォーマンスがとにかく刺激的だ。

以登田豪(ザ・モアイズユー)
オザキリョウ(ザ・モアイズユー)

ライブハウスで鍛え上げられたバンドの筋力と、「伝えたい!」という意志が濃縮したかのような音圧、そして銀杏BOYZのカバーバンドから始まったという出自を強く感じさせるエモーショナルな演奏で、一気にフロアの温度を高めてみせた。

活動歴10年の26歳、マーライオンは威風堂々とステージに立つ

2番手に登場したのは、マーライオン。26歳とまだ若いものの、活動キャリアは今年で10年目を迎えるというベテランシンガーソングライターだ。

マーライオン(まーらいおん)
1993年ひなまつり生まれ横浜育ちのシンガーソングライター。NIYANIYA RECORDS主宰。2018年にはシンガポールからミュージシャンを招聘し、国内外のシンガポールにまつわるバンドを集め『シンガポール祭り』というイベントを長野東京の2都市で開催。2019年には、曽我部恵一氏と6年ぶりに共同企画を開催。山田稔明(GOMES THE HITMAN)さんをゲストに招きイベントを開催。最新作はROSE RECORDSから発売した『ばらアイス』12インチ45回転。

登場するなり、“ひなまつり”と“ボーイミーツガール”の2曲をアコギの弾き語りで聴かせたかと思えば、続いてはDJを迎え入れ、ハンドマイクでラップ曲“とんかつ道”を披露。その緩く、脱臼したようなユーモラスなセンスでフロアの目線を惹きつけていく。

一見ひょろひょろとしながらも、ステージの真ん中に威風堂々と立つその姿からは、自分の好きなものをとことん愛しながら、繊細さと笑いを持って、この世界をサバイブしていく――そんな彼の内側にたぎる作家としての、ひいては人間としての強靭なアティチュードを感じることができた。

ボカロPのピノキオピーがライブを通して浮かび上がらせた「人間味」

3番手に登場したのは、ピノキオピー。

ピノキオピー(ぴのきおぴー)
2009年より活動開始。作風は、フロアを意識したダンスミュージックから、ノスタルジックなフォークなど幅広いサウンドをエレクトロパンク精神で発信するサウンドクリエイター。ライブにおいては、電子と肉体の共演、融合を基軸に、ドラムとDJの2名をサポートメンバーとして従えたバンドセットか、ワンマイク&バックDJスタイルで、笑って歌って踊って楽しめるパフォーマンスを提供している。

ボカロPとして知られる彼だが、彼にとってのボーカロイドとは、きっと単なる音楽制作のツールではない。彼はボカロというカルチャーに対する敬意を持ち、それを駆使しながら、同時に作家自身の「人間味」や「身体性」すらも、そのボカロ楽曲を通して浮かび上がらせようとする。もはや、ボカロに対する「愛憎」そのものを作品に昇華しているアーティストともいえるだろう。

この日は、ドラムとDJを加えた3ピース編成で登場。VJも駆使したステージングは曲の世界観を徹底して聴き手に伝える。その中心で汗を滴らせながら動き歌うピノキオピーの姿は、その音楽の中で、自分自身の体の形を確かめていくような切実さを感じさせた。

君島大空は、艶やかで華やかなサウンドと多幸感でステージを締めくくる

この日のトリは、今年リリースされた自身初のソロアルバム『午後の反射光』が大きな話題にもなっている音楽家の君島大空。

君島大空(きみしま おおぞら)
1995年生まれ、日本の音楽家。高井息吹と眠る星座のギタリスト。2014年からギタリストとして活動を始める。同年からSoundCloudに自身で作詞 / 作曲 / 編曲 / 演奏 / 歌唱をし多重録音で制作した音源の公開を始める。ギタリストとしてタグチハナ、konore、坂口喜咲、婦人倶楽部、Orangeadeなどのアーティストのライブや録音に参加する一方、2017年には霞翔太監督作品『離れても離れてもまだ眠ることを知らない』の劇中音楽を担当するなど、様々な分野で活動中。

ドラムとベースのサポート(共に木(KI)のメンバー)を加えた3ピース編成で始まったライブ。君島の奏でるギターは、ブルージーに、饒舌に、この空間に「不和」を告げるように響く。ゴリッ、ガリッと、ダイレクトに、切り裂くように奏でられるそのギターの音を聴きながら、「君島大空とは、こんなにも肉体的な音楽家だったのか」と驚かされた。

『午後の反射光』からは、反射する光を通して実態を掴もうとするような、平凡な言い方をしてしまえば「サイケデリック」な印象も得たものだが、このバンドセットでは、光の当たらない暗闇の中で、暗闇そのものを血肉化し、その輪郭を音像化してしまうような……そんな君島の獰猛な表情を見た気がした。

“都合”“遠視のコントラルト”“19℃”と、冒頭3曲をバンドセットで披露。サポートメンバーが去り、ひとりステージに残った彼は、また違う景色を奏で始める。続く4曲目“午後の反射光”では、サンプラーとガットギターを駆使し、悲しくも美しい光のような音世界を立ち昇らせる。

この場、この瞬間に彼が弾く、儚くも凛としたギターの音と、サンプラーから鳴る、彼が幻視する世界が具現化した万華鏡のような音が絡み合い、これまで見たことがないような音の色に視界が染められていく。

この日は君島のボーカリストとしての凄みを強く感じさせられた日でもあった。決して安定しているわけではない。ときに振り絞るように力強くもあれば、ときに消え入りそうなほど弱弱しくもある。その不安定な声、歌の在り様が、これ以上なく君島大空という人間の秘密……他の誰もが絶対にわかりえない秘密を、リアルに表現し得ているように感じられた。

本編を“夜を抜けて”の弾き語りで締めた君島は、アンコールでは“鬼壓床”を、サンプラーをバックに披露。ヒリヒリとした空気の中で始まったライブは最後、その艶やかで華やかなサウンドに導かれるように、多幸感に満ちた空気に包まれて幕を閉じた。君島大空という才能が、この時代に直立して突き刺さる瞬間を目の当たりにするような興奮が、確かにこの日のパフォーマンスにはあった。

君島大空『午後の反射光』を聴く(Apple Musicはこちら

各アーティストが多面的な魅力を、音楽を通して奏でてみせた、この日の『exPoP!!!!!』。4組それぞれが、自己表現のためだけの音楽ではなく、新たな自分自身を発見するための音楽を鳴らしているような新鮮さと刺激があった。この日、この場にいて、自身の価値観を揺さぶられた人も多かったことだろう。筆者自身が、まさにそうだった。

ザ・モアイズユー
マーライオン
ピノキオピー
君島大空
イベント情報
『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume119』

2019年3月28日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest

出演:
ザ・モアイズユー
マーライオン
ピノキオピー
君島大空

『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume125』

2019年9月26日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest

出演:
さとうもか
笹川真生
ぜったくん
ましのみ

プロフィール
ザ・モアイズユー (ざ・もあいずゆー)

大阪発、本多真央(Gt, Vo)、以登田豪(Ba)、オザキリョウ(Dr)の3人からなるセンチメンタルロックバンド。どこか懐かしくも親しみやすいキュンとくるメロディーが最大の武器。2nd Demo シングル『花火』のMVはインディーズながら18万回再生を突破している。イナズマロック フェス 2017への出場権をかけた、イナズマゲートでグランプリを獲得。2018年7月にはback numberが所属するイドエンターテインメントのオーディション『SUPEREGO』でグランプリを獲得。2019年4月初の全国流通盤となる1stミニアルバム『想い出にメロディーを』をリリース。全国8か所をまわる全国ツアーを開催し、東京・大阪公演はチケットソールドアウトとなった。

マーライオン (まーらいおん)

1993年ひなまつり生まれ横浜育ちのシンガーソングライター。NIYANIYA RECORDS主宰。これまでに曽我部恵一、澤部渡(スカート)と共同企画イベントを開催。近年は劇団コンプソンズに劇中歌を作曲&俳優として参加、子どもワークショップやラジオのジングル作曲、マセキ芸能社のお笑い芸人に弾き語りを教えるなど多岐に渡って活動中。2017年からはマーライオンバンドとして、イベント毎に編成を変えて活動中。2018年にはシンガポールからミュージシャンを招聘し、国内外のシンガポールにまつわるバンドを集め「シンガポール祭り」というイベントを長野東京の2都市で開催。100名以上来場した。2019年には、曽我部恵一氏と6年ぶりに共同企画を開催。山田稔明(GOMES THE HITMAN)さんをゲストに招きイベントを開催。最新作はROSE RECORDSから発売した『ばらアイス』12インチ45回転。

ピノキオピー (ぴのきおぴー)

2009年より動画共有サイトにボーカロイドを用いた楽曲の発表し、ピノキオピーとして活動開始。以降も精力的に楽曲を発表しつつ、ここ数年はライヴ活動に尽力している。作風は、フロアを意識したテクノミュージックやお祭りどんちゃん盆踊り型ダンスミュージックから、ノスタルジックなフォークなど幅広いサウンドをエレクトロ・パンク精神で発信するサウンドクリエイター。ライヴに於いては、電子と肉体の共演、融合を基軸に、ドラムとスクラッチ&スクラッチの2名をサポートメンバーとして従えたバンドセットとワンマイク&バックDJスタイルと柔軟な形で、さらに笑って歌って踊って楽しめるパフォーマンスを提供している。

君島大空 (きみしま おおぞら)

1995年生まれ 日本の音楽家。高井息吹と眠る星座のギタリスト。2014年からギタリストとして活動を始める。同年からSoundCloudに自身で作詞/作曲/編曲/演奏/歌唱をし多重録音で制作した音源の公開を始める。ギタリストとしてタグチハナ、konore、坂口喜咲、婦人倶楽部、Orangeade、などのアーティストのライブや録音に参加する一方、2017年には霞翔太監督作品『離れても離れてもまだ眠ることを知らない』の劇中音楽を担当。アイドルグループ sora tob sakanaへの楽曲提供など様々な分野で活動中。



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