2017年からCINRAがカルチャーフェス『NEWTOWN』を開催している多摩ニュータウン。渋谷から1時間足らずの場所にありながら、そこに流れる時間は都心部と比べて確実にゆるやかなものに感じる。それはなぜだろうか? その秘密を探るべく、多摩ニュータウンにゆかりのある踊Foot Worksに現地取材を敢行。聖蹟桜ヶ丘出身で現在もその地に住まうTondenheyの案内のもと、バンド結成の場所となったスタジオをはじめ、地元スポットを巡り、話を聞いた。彼らの音楽性の根深いところでリンクする、多摩ニュータウンという土地の持つ魅力を紐解く。
緑豊かな「帰ってくる場所」としての多摩ニュータウン
東京都多摩市のニュータウンと言えば、「サンリオピューロランド」があり、そして何より巨大で広大な団地群が印象的な多摩センター駅を中心とした地域が思い浮かぶだろう。
今回訪れたのは、多摩センターからは車で15分ほどの、多摩市の市役所があり、スタジオジブリ映画『耳をすませば』(1995年公開、監督は近藤喜文)の舞台にもなった聖蹟桜ヶ丘駅周辺。古くは鎌倉街道の宿場町として発達し、近年になってからはそういった元来からある地区とともに、「桜ケ丘住宅地」などの新興住宅地も開発され、歴史のある街と新興住宅地がハイブリッドされた場所だと言えるだろう。
左から:Tondenhey、SunBalkan、Pecori、fanamo'
踊Foot Works(おど ふっと わーくす)
2020年型のグルーヴとポップネスをリプレゼントするTOKYO INV.(トウキョウアイエヌビー)。Pecori(Rap)、Tondenhey(Gt)、fanamo'(Cho)、SunBalkan(Ba)による4人組。2019年4月24日、デジタルでフルアルバム『GOKOH』を、7月3日にフィジカルでニューシングルとセットとなった『GOKOH + KAMISAMA』をリリースした。
Tondenhey(Gt):多摩セン(多摩センター地域、および多摩センター駅のこと)は新しく人が住みはじめた、全体的に若い街って感じなんですけど、聖蹟桜ヶ丘のほうは、じいちゃんばあちゃんが昼からスナックでカラオケやってたり(笑)。年齢層が広い感じがするっすね。
そう話すのは、ヒップホップバンド・踊Foot Worksのギタリストで、同グループの楽曲や、FIVE NEW OLDやlyrical schoolの楽曲制作にも参加するなど、その活動の幅を広げているTondenhey。彼は生まれも育ちも聖蹟桜ヶ丘で、現在もこの場所に住む生粋の多摩人である。
Tondenhey:多摩市は、一応東京ではありますけど、世田谷とか23区のほうとはちょっと違う感触がありますよね。緑も豊かなベッドタウンなので、住んでいる人も、東京の中心で仕事や活動はするけど、生活の基盤はこっちにあることが大半で。「帰ってきたらいい空気を吸いたい」っていうような人が住んでたり、引っ越してくる場所だなと思うんですよね。だから「帰ってくる場所」って感じがあると思う。
たしかに、多摩ニュータウンは新宿から特急で30分という場所にあるのだが、多摩丘陵を中心にした山林も多く、多摩川やその支流である大栗川など河川にも恵まれ、自然が非常に豊かな場所だ。そしてこれはロケーションによるだろうが、高い建物がそこまで多くなく、道路の幅も広いので、非常に空が広く感じられる。
Tondenhey:「自然との共生」っていうと話が大きいかもしれないけど、それでも自然を大事しているような気もしますね。それは小学校や保育園とかでも教わったことで。空気感がゆったりしてるのもあってか、俺と同じ年代の多摩出身の人って、どこか牧歌的なんですよね。都心でギラッギラに働いて、「六本木で不動産やってます!」みたいな人に会ったことがない(笑)。
Pecori(Rap):自然は多いよね。聖蹟桜ヶ丘に住みはじめたときは「俺もついに東京に出てきた!」っていう感覚があったんですけど、地元の静岡とかなり似てたっす(笑)。
踊Foot WorksのラッパーであるPecoriもこう話す。彼は静岡県・富士市出身。大学や専門学校が数多く点在する多摩地区の大学に進学し上京した彼が、まず住んだのが聖蹟桜ヶ丘だった。
Pecori:地元と雰囲気がかなり似てて、東京まで2時間かかるのか、30分かかるのか、っていう違いぐらいで(笑)。だからTondenheyが「帰る場所」って言う気持ちはわかるんですよ。今はもう聖蹟桜ヶ丘から引っ越しちゃったんだけど、今日改めてここに来たら、やっぱり「帰ってきた感」があったし、この場所にずっと根づく人が多い気持ちもわかりますね。すごく暮らしやすいと思う。
ただ、俺はTondenheyとは違って、やっぱり渋谷とか下北沢に近いほうがよくて、23区内に引っ越したんですよね。それは23区で育った奴らへの嫉妬心というか、何クソ根性的の裏返しっていう部分もあると思うんですけど。
「都会でもなく、田舎でもない」街が持つ、センチメントやノスタルジー
同じように、地方からこの地域に引っ越してきたトラックメイカー / コーラスのFanamo'はこう語る。
Fanamo'(Cho):僕は大学のときに入ってた水泳部の寮が多摩センだったんです。そして大学を出てから働いてたスタジオがあったのが聖蹟桜ヶ丘。今も住んでるのは立川だし、東京ではずっとこの辺に住んでますね。
多摩センはやっぱり団地のイメージで。僕の地元の島根には十何号棟もある巨大な団地はなかったので、すごくインパクトがあったし、そのイメージが強い。で、キリンジの“エイリアンズ”を聴きながら、原付で多摩センの街を走る、みたいな。(笑)。
Fanamo':その意味でも、多摩センにはちょっとセンチメンタルな感じがあるんですよね。すごく勝手なイメージなんですけど。でも聖蹟桜ヶ丘は、もうちょっとのんびりした感じがあって、同じ多摩のなかでも雰囲気が違うなって。
Tondenhey:わかる。多摩センはニュータウンとして発展したけど、聖蹟桜ヶ丘は「栄えきらなかった」んだよね。その感じが、自分は音楽家としてすごくインスピレーションにもなる。
Pecori:そうだね。東京のネオン街とは違って、聖蹟桜ヶ丘にはノスタルジックな感触がある。夏とかは特に。
彼らの語った、センチメンタルな感覚やノスタルジーというのは、まさしく『耳をすませば』で描かれたような「(あらかじめ失われた)思い出の風景」であるだろうし、都会でもなく、田舎でもない、この何十年かで成立した「ベッドタウンという近郊」というところから想起される感覚だろう。
その意味で言えば、踊Foot Worksの音楽は、洗練と今様にしっかりと沿った「都会的な」音楽に寄せ切るのではなく、かといってベタに徹した「いなたい」音楽では決してない、「現在性」と「いなたさ」を止揚したところにある。それは、ニュータウンという「都会でも、田舎でもない」という絶妙な距離感のなかで育まれたのかもしれない。
Tondenhey:僕のなかで踊Footの音楽は、使ってる音はすごく自由で新しいと思ってるんですけど、そういう音を使って表現しているのは、ちょっと「いなたい」ものだっていうイメージですね。
ニュータウンの持つ時間的・空間的余白が、私たちにもたらすもの
距離感という点では、新宿から聖蹟桜ヶ丘に、京王線の特急で向かう間の30分という時間の重要性も、移動の間に感じさせられた。もちろん、そう感じたのは昼間の下りという、空いている電車だったからであり、朝夕のラッシュではそんなことを感じる余裕はなく、むしろ苦痛だと感じる人も多いかとは思う。
しかし、地下鉄のようにせわしなく駅に止まり、人が入れ替わるのではなく、10分以上の駅間にすっぽりと生まれる、ある種の「空白」の時間は、(「余裕があれば」というエクスキューズはつくが)非常に「豊かな時間」だと感じさせられた。
ベースのSunbalkanもその言葉に理解を示してくれた。
Sunbalkan(Ba):僕は聖蹟桜ヶ丘には縁がないんですけど、以前は所沢に住んでいたので都心に出るには移動時間が長かったんですね。だからその間の時間は、GarageBandで曲を作ったり、新譜とかSoundCloudの音源をずっとチェックしてて。だからその時間は、家にいるよりも集中して音楽に向かえる時間だったような気がします。
今は23区内に住んでるんですけど、移動を自転車にすることが多いのも、いい感じに情報を遮断する時間を求めているのかもしれない。都内の電車移動は、どうしても移動中に雑にスマホを見ちゃったりして、情報がぼんやりした形で自分に入ってきちゃうと思うんですよね。でも、自転車で移動すると、「ここにこんな場所があったんだ」みたいに、視界が広がる。そういう時間の使い方は、自分にとって必要なのかもしれないなって。
ただ、やはり「移動の時間」や「物理的な距離」は、行動を制限してしまうことも間違いないし、それもよし悪しはあるとも話す。
Sunbalkan:所沢に住んでたときは、渋谷に出るだけでも交通費も時間もかかるから、気軽には出られなかったんですね。でも、今は都内に住みはじめて、他のバンドのライブを観に行く機会も確実に増えたし、それによって繋がりも広がって、親交が深まる速度も早くなりました。だから、今後は自分の音楽にも影響が出くると思いますね。前は友達が全然できなかったんですけど、最近やっとよくしてくれる先輩とかが増えてきたんで(笑)。
Pecori:たしかに、いまは「ちょっと来てよ」って言われて、ぱっと行けるようにはなったよね。でも、これは個人的な問題でもあると思うけど、「整理をつける時間」が欲しいんですよね。都内でもにぎやかなところに引っ越すと、毎日騒がしいし、「空気自体」がうるさくて(笑)、それもあって、意識しないと気持ちの整理や、音楽を作るためのメンタルの整理がつけにくい。だから、虫の音が聞こえて、森があってっていう多摩のほうが自分にはあっていたのかな……と今更感じたりもして。都心部に引っ越してから肌荒れもひどいし(笑)。
Tondenhey:だから、もし都会に出るにしても、近くに森や自然があるようなところが、俺はいいですね。正直、PecoriやSunBalkanの家にいくと、住んでる街自体にノイズや情報が多すぎて、「ここでトラックを作るのは、俺にはあってない」って感じるんです。もちろん、そういう忙しい状況のほうが、曲が作りやすい人もいると思うからケースバイケースだとは思うんですが。
でも、マスタリングとかミキシングをしている裏方の人の家って、そういう忙しさとは距離がある、郊外にあったりする場合が多いんですよね。(一軒家であったり、隣家と距離が取れるなどの理由で)音が出せるからっていう条件もあると思うんですけど、「ちょっと(都心の情報過多と)距離を置きたい」ってことがそうさせるのかもしれないし、僕も気質としては裏方寄りな部分もあるんので、余計に郊外のほうが向いてるのかなって。
結成の地でもあるこの地が、踊Foot Worksに与えた根深い影響
そこで思い出すのは、西多摩郡瑞穂町に引っ越し、自宅兼スタジオ「FUSSA 45 STUDIO」を構えた大滝詠一のことだ(ただ、多摩とはつくものの、瑞穂町から多摩市からは直線距離にしても20キロほど離れているのでかなり環境は違う)。
細野晴臣の狭山アメリカ村への転出や、大滝の福生転出には、米軍基地の街という側面や、払い下げの米軍ハウスという、「日本のなかのアメリカ」を求めたという側面も多分にあるだろう。しかし一方では、特に大滝が「FUSSA 45 STUDIO」でエンジニアリングやマスタリングを手がけたのは、時代は大きく変われども、「環境的な忙しさとは距離を置く」というTondenheyの言葉にも通じる部分があるかもしれない。
Tondenhey:ただ、友達が来たときに「クラブがあるのかと思った」って言われるぐらい音を出しちゃってるみたいなんで、そこは気をつけないとなって思ってます(笑)。
Fanamo':「距離」っていう部分では、踊Foot Worksの音楽は「一歩引いて見てる」っていう感覚があるかもしれないですね。
Fanamo':踊Footは「他の人のこともちゃんと認めようとする力」が強いから、そうなるんだと思います。どんなスタイルで、どんなジャンルであっても、イメージで否定するんじゃなくて、逆にイメージだけで肯定するでもなくて、「いいものはいい」「悪いものは悪い」って、一歩引いた目で見てると思うんです。
踊Footのメンバーはそうやって物事を認識できるし、その視点によって自分たちのペースやスタンスを保って活動できている。そういうバンドの柔軟な姿勢にも繋がっているのかなと思います。実際、やってる音楽はすごく変なのかも知れないけど(笑)、そういう感覚が滲み出して、自分たちの音楽になってる気がしますしね。
その「距離感」「一歩引いた目」というのは、リスナーフレンドリーになりすぎず、しかし突き放すことはない、彼らの音楽の持つ、絶妙なリスナーとの距離感にも通じるだろう。
Pecori:聴き手や受け手によって感触や感想が変わるのは当然だと思うんだけど、特に踊Footの音楽はその振れ幅が大きいと思うんです。「めっちゃシティポップだ」って感じる人もいれば、「いなたいラップミュージック」って思う人もいて。だから、超シティボーイが俺らの音楽を聴いて「これは都会の音楽だ」って思ってくれることもあるし、バスが3時間に1本しかないような田舎に住んでる人でも「めっちゃシンパシー感じる」こともあると思うんです。
Pecori:SNSでエゴサすると、そういう感触で受け止められてるんだなって感じることが多い。どうしてそうなるかと考えると、俺らが「フラット」だからだと思うんです。都会にも田舎にも染まってない、逆にどっちの色にも染まってる、というか。それはいい意味で踊Footの音楽性にも紐づいてると思いますね。
Fanamo':Pecoriのリリックも含めて、いろんな解釈ができる音楽だと思うし、なにか自分たちの思う正解を、そのなかに隠してるわけでもないんですよね。だから、リスナーにもフラットに受け止めてほしい。
Pecoriのリリックって、「ときどきふざけてて面白い、笑っちゃう」って感じる人もいるし、「とにかく刺さりまくった」って言う人もいるんですよ。どっちの気持ちもすごくわかるし、別にどっちが正解でもない。だからこそ、その人のなかの踊Footの解釈ができあがれば嬉しいし、「こうやって聴くもんだ」っていうのは僕らも言わないんですよね。その「フラットな先」に、踊Footの面白さがどんどん見えてくるものだと思っているので。
Pecori:そうやってフラットに受け止めてくれた結果、リスナー同士で、「これは実は裏テーマがあるんじゃないか?」「本当はこういうメッセージなのでは?」って考えてくれるのは、すげえ素敵なことだと思うんすよね。そうやって勝手に勘ぐらせたいし、そこも込みで踊Footの音楽だと思いますね。
最後に、「音楽と場所」という今回のテーマから、これからの彼らの展望を導いてもらおう。
Pecori:音楽と場所っていう意味っていう話だと、やっぱりこれからはじまるツアーを成功させないとなって。それから、俺らはまだ海外に行ったことないんですよね。だから、来年ぐらいを目標に、ライブやスタジオワークで海外に行って、海外での音楽の作り方だったり、海外のオーディエンスの反応を直で見て、それを受けての演奏やパフォーマンスの仕方がどう変わるのかなって。それは未経験だからこそ、やってみたいですね。
- イベント情報
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- 『NEWTOWN 2019』
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2019年10月19日(土)、10月20日(日)
会場:東京都 多摩センター パルテノン多摩、パルテノン大通り、デジタルハリウッド大学 八王子制作スタジオ(旧三本松小学校)ライブ:
カネコアヤノ
前野健太
柴田聡子
王舟
国府達矢
眉村ちあき
and more
※日程は後日発表『DTMワークショップ』
講師:パソコン音楽クラブ
※日程は後日発表
- 『GOKOH NAGOYA』
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2019年9月13日(金)
会場:愛知県 名古屋CLUB UPSET
- 『GOKOH SENNDAI』
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2019年10月12日(土)
会場:宮城県 仙台 LIVE HOUSE enn 3rd
- 『GOKOH SAPPORO』
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2019年10月25日(金)
会場:北海道 札幌 COLONY
- 『GOKOH FINAL』
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2019年11月22日(金)
会場:東京都 渋谷CLUB QUATTRO
- 『』
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2019年12月20日(金)
会場:大阪府 Music Club JANUS料金:各公演3,500円(共にドリンク別)
- プロフィール
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- 踊Foot Works (おど ふっと わーくす)
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2020年型のグルーヴとポップネスをリプレゼントするTOKYO INV.(トウキョウアイエヌビー)。Pecori(Rap)、Tondenhey(Gt)、fanamo'(Cho)の3人で2016年12月に始動。2017年3月に全曲オリジナルトラックからなる『ODD FOOT WORKS』をシェア。耳の早いリスナーのみならず多くのアーティストからも注目を集める。5月の初ライブを経てサポートメンバーだったSunBalkan(Ba)が正式加入。
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