新曲も人気曲も披露せず。バンド初期~中期楽曲に限定された、いぶし銀なセットリスト
9月12日、今年結成30周年を迎えたフラワーカンパニーズ(以下、フラカン)がワンマンライブを行った。それは、なんとも不思議なライブだった。会場となったのは、東京・恵比寿のライブハウス「LIQUIDROOM」。『30年のキセキSPECIAL PART 2【1989~2005】』と題されたこの夜のライブは、8月10日に同じくLIQUIDROOMで開催された『30年のキセキSPECIAL PART1【2005~2019】』の続編となるコンセプトライブで、タイトルが示すように、演奏されるのは、バンド結成の1989年から2005年までの16年間にリリースされたフラカンの初期~中期楽曲に限定されていた。
9月4日に新作フルアルバム『50×4』がリリースされたばかりにも関わらず、そこからの曲は一切演奏されない。また、1989年~2005年の楽曲といっても、今でもライブで頻繁に演奏されるような有名な曲が並んでいるわけでもない。リリース時期としてはコンセプトに該当しているが、フラカン楽曲のなかで最も知名度があるであろう“深夜高速”は演奏されなかったし、“真冬の盆踊り”や“東京タワー”などの人気曲も、この日は演奏されなかった。
この日のセットリストは以下の通り。
1. ソウルサーフィン
2. 波の下
3. どこへいこうかな
4. 口笛放浪記
5. 空想無宿
6. NUDE CORE ROCK'N' ROLL
7. HOLE
8. さよならバイバイ
9. JUMP
10. 雨
11. 真赤な太陽
12. 虹の雨上がり
13. 星を見ている
14. 白眼充血絶叫楽団
15. トラッシュ
16. 俺たちハタチ族
17. くるったバナナ
EN1-1. たらちね
EN1-2. 孤高の英雄
EN1-3. YES, FUTURE
EN2-1. 恋をしましょう
11曲目“真赤な太陽”まで、シングル曲も演奏されていない。かなりいぶし銀な楽曲が並んだセットリストといえるだろう。しかし、決して盛り上がりに欠けるようなライブではなかったし、フラカンの熱心なファン「しか」そこについていけないような、マニアックで閉塞感のある空間にもなっていなかった。
もちろん懐古的なムードもあったが、湿っぽく懐メロを愛でるような感じではなく、フラカン自身も含め、会場に集まった人たちみんなが純然とした態度で、演奏される曲のたしかさに触れていくような、幸福な空間だった。はじまりからアンコールまでとんでもなく盛り上がっていたし、そこには、通常のフラカンのライブでは感じることができない類の、特別な清々しさと開放感があったといってもいい。
「Dragon Ashみたいになってると思っていたけど、全然なってなかったなぁ(笑)」(鈴木)
4曲目“口笛放浪記”を終えたあとのMCで、鈴木圭介(Vo)は「20代の頃は音楽的に冒険したと思っていたけど、今聴くと、いいよね。時代に流されたんじゃないかとも思ってたけど、全然、時代には乗ってなかったね(笑)」と語った。続けて「2000年頃の曲はDragon Ashみたいになってると思っていたけど、全然なってなかったなぁ(笑)」と呟くと、グレートマエカワ(Ba)が「でも、かっこいいよ」と応える。
また“JUMP”の演奏後、竹安堅一(Gt)が、「初期の頃は、当時好きだった洋楽のまんまっていう感じで。ストーンズ(The Rolling Stones)やFreeになりきっているところが、かわいいよね。初期衝動というかさ」と、珍しく饒舌に、嬉しそうに語る場面もあった。たしかに、この日演奏された初期楽曲たちは、フラカンのルーツとなるブルースやロックンロールからのダイレクトな影響を感じさせるものも多く、「フラカン節」ともいえる独自の詩情を得るに至った今のフラカンを思うと、この30年の年月のなかで、彼らがどれだけ独自性を帯びた進化を遂げてきたかということを痛感させられるライブでもあった。
憧れを模倣する無邪気な季節があって、時代の波に「流されたくないけど、乗りたい」と思う瞬間があって、自分が発する声が、果たして本当の自分の声だったのかと不安になって、それでも結局は、どう足掻いたって「自分」は「自分」でしかあれないということを知って……そういう、あらゆる瞬間が、音楽として作品に保存されている。憧れも欲望も焦燥も含めて、常に実直に「今」に向き合ってきたこと。そういう作品作りを続けてきたこと。それが、この日のライブの清々しさを生み出していた。
フラカンは、リアルタイムの自分たちを作品に刻む
思えば、近年のフラカンは、メンバーが48歳のときにリリースされたアルバムのタイトルは『ROLL ON 48』、50歳になる今年リリースされるアルバムには『50×4』と、メンバーのそのときの実年齢が、そのまま作品名に反映されている。こうした「リアルタイムの自分たちを作品に刻む」というスタンスは、フラカンの場合、きっとデビュー当初から一貫しているのだろう。
恥じることなく、臆することなく(あるいは、そうしたあらゆる感情を受け止めたうえで)、自らの「過去」に堂々と向き合うことができるのは、「今、この瞬間」を全力で生きているからだし、そういう瞬間を30年間刻み続けて、フラカンは2019年の今、この場所に立っている。
“真赤な太陽”の<今日も頑張れよ>という言葉が、この曲がリリースされてから17年経った今でも一切の強度を失わないのは、そういうことだろう。17年前の「今日」は今日ではないが、しかし、今日という日は今日しかない。
変わり続けてきたバンドだから、変わらないものを歌える
この日、僕はメモを取りながらライブを観ていたが、振り返ってそのメモを見返してみると、グシャグシャの字で“雨”の歌詞の一部を殴り書きしていた。“雨”の歌詞が、僕はとても好きだ。この曲で歌われるのは、どれだけ時代が変わっても解決されない、「生きること」にまつわる問題。歌が人から生まれる以上、そこに刻まれ続ける救いと悲しみについて、だ。
フラワーカンパニーズ“雨”を聴く(Apple Musicはこちら)さよならはいくつ繰り返したら
慣れることができるんだろう?
寂しさはいくつ乗り越えたら
感じなくなるんだろうか
大人になれば全てが変わって
穏やかに暮らせると思ってた
大人になっても何も変わらない
全ては繋がっているんだ
人が「変わらないもの」を見出す瞬間というのは、「変わっていくもの」を敏感に感じ取っている瞬間でもある。体の形や調子が変わったり、暮らす街が変わったり、隣にいる人が変わったり。そうやってなにかが変わるから、「でも、ここだけは変わっていない」と、人は自分や他者や社会のなかに、普遍的なものを見出す。フラカンは、その瞬間瞬間に変わり続けてきたバンドだから、変わらないものを歌える。消えない寂しさと、降り注ぐ雨がもたらす悲しい安らぎを歌える。この夜、そんなことを、心から理解した。
- イベント情報
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- 『フラワーカンパニーズpresents「シリーズ・人間の爆発 ~ROY、で、あの水色のベースどうする? ダブルヘッダーQ太郎より~」』
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日時:2019年10月19日(土)
会場:秋田県 秋田Club SWINDLE
出演:フラワーカンパニーズ、THE BAWDIES
チケット料金:4,000円
- 『フラワーカンパニーズpresents「シリーズ・人間の爆発 ~ROY、で、あの水色のベースどうする? ダブルヘッダーQ太郎より~」』
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日時:2019年10月20日(日)
会場:福島県 郡山HIP SHOT JAPAN
出演:フラワーカンパニーズ、THE BAWDIES
チケット料金:4,000円
- 『フラワーカンパニーズpresents「シリーズ・人間の爆発 ~ニワトリはネズミも食べちゃうらしいよ~」』
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日時:2019年10月28日(月)
会場:大阪府 堺Live Bar FANDANGO
出演:フラワーカンパニーズ、キュウソネコカミ
チケット料金:4,000円
- 『フラワーカンパニーズpresents「シリーズ・人間の爆発 ~滋賀の成り上がり VS 名古屋の消えぞこない~」』
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日時:2019年11月10日(日)
会場:滋賀県 滋賀B-FLAT
出演:フラワーカンパニーズ、climbgrow
チケット料金:3,300円
- フラワーカンパニーズ ワンマンツアー『50×5』
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2019年11月16日(土)
会場:埼玉県 HEAVEN'S ROCK 熊谷 VJ-12019年11月17日(日)
会場:新潟県 CLUB RIVERST2019年11月23日(土)
会場:青森県 八戸ROXX2019年11月24日(日)
会場:青森県 八戸ROXX2019年11月30日(土)
会場:長崎県 ホンダ楽器アストロホール2019年12月1日(日)
会場:大分県 T.O.P.S BittsHALL2019年12月6日(金)
会場:京都府 磔磔2019年12月7日(土)
会場:京都府 磔磔2019年1月13日(月・祝)
会場:静岡県 Sunash2019年1月18日(土)
会場:福岡県 Live HOUSE CB2019年1月21日(火)
会場:三重県 四日市club chaos2019年1月25日(土)
会場:群馬県 club FLEEZ2019年1月26日(日)
会場:福島県 OUT LINE2019年2月11日(火・祝)
会場:愛媛県 松山WstudioRED2019年2月15日(土)
会場:北海道 札幌PENNY LANE 242019年2月22日(土)
会場:山形県 酒田MUSIC FACTORY2019年2月24日(月・振休)
会場:岩手県 盛岡CLUB CHANGE WAVE2019年2月29日(土)
会場:福井 CHOP2019年3月14日(土)
会場:宮城県 楽天生命パークイーグルスドーム2019年3月20日(金)
会場:神奈川県 F.A.D YOKOHAMA2019年4月5日(日)
会場:広島県 SECOND CLUTCH
- リリース情報
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- フラワーカンパニーズ
『50×4』(CD) -
2019年9月4日(金)発売
価格:3,000円(税込)
XQNG-10031. Eeyo
2. DIE OR JUMP
3. 夜をまるごと
4. ロックンロールバンド
5. まずはごはんだろ?
6. 花束
7. 50
8. いましか
9. バート
10. 25時間
11. 西陽
12. 見晴らしのいい場所
- フラワーカンパニーズ
- プロフィール
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- フラワーカンパニーズ
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名古屋が生んだ「日本一のライブバンド」フラワーカンパニーズ。通称フラカン。Vocal:鈴木圭介、Bass:グレートマエカワ、Guitar:竹安堅一、Drums:ミスター小西の4人組。1989年、地元の同級生によって結成され、95年メジャーデビュー。6枚のアルバム&12枚のシングルをリリース後、2001年メジャーを離れ、インディーズレーベル「TRASH RECORDS」にて活動。「自らライブを届けに行く事」をモットーに活動、大型フェスから小さなライブハウスまで日本全国津々浦々…メンバー自ら機材車に乗り込み、年間で100本を超える怒涛のライブを展開(機材車走行距離は年間軽く40000kmを超え、その距離は地球1周分に相当する)。2008年11月、12枚目のアルバム『たましいによろしく』を7年8か月振りにメジャーよりリリース。以降、コンスタントにライブとリリースを重ね、「メンバーチェンジ&活動休止一切なし」4人揃って結成26周年目の2015年12月19日、自身初となる日本武道館公演『フラカンの日本武道館 ~生きててよかった、そんな夜はココだ!~』を開催、チケットをSOLD OUTさせ、大成功を収めた。2017年再びメジャーを離れ自分たちのレーベル「チキン・スキン・レコード」を設立、9月6日に16枚目となるフルアルバム『ROLL ON 48』を発売。そして2019年4月23日、「メンバーチェンジ&活動休止一切なし」4人揃って結成30周年を迎えた。2019年9月には17枚目となるアルバム『50×4』をリリース。
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