さいたまスーパーアリーナでの単独公演。でもライブだけじゃない催しだらけの1日
04 Limited Sazabys(以下、フォーリミ)が9月29日にさいたまスーパーアリーナで開催した『YON EXPO』。
『EXPO』の名が表している通り、アミューズメントスペース、写真展、タイアップしたコンテンツとのコラボブースなど、フォーリミを形成しているもの全部を一気に展覧した上でライブを行うコンセプチュアルな1日である。彼らにとって最大キャパでのライブであること以上にこの日の取材で凝視したかったのは、会場規模云々の話ではない「フォーリミのネクストステップ」がどこにあるのかだ。最新シングル『SEED』のインタビューの際、GENは「目標が、規模云々ではないところになってきた。これからは、自分たちの活動をどうカルチャーにしていけるか。だから、次に向かうべき目標が規模云々ではなくなってきた」と語ってくれたが、逆に言えば、フォーリミがどこに軸足を置いていくのかがようやく明確になっているのが今だからこそ、これまでとは違う「フォーリミを時代の中で確立すること」に対する試行錯誤が生まれているのである。
04 Limited Sazabys『SEED』を聴く(Apple Musicはこちら)
1990年代から連なる英詞のメロディックパンクを鳴らしてデビューし、日本詞主体の歌へシフトすると同時に歌自体をリズムとして機能させるようになり、ソリッドさが求められてきた日本のメロディックパンクにしなやかなイマジネーションを持ち込んで定型を突き破った。それに従って2010年代のギターロックもラップミュージックもモータウンポップスも消化して幅広いジャンルへ攻め込んできたのがフォーリミだ。
しかし逆に言えば、憧れ続けたパンクのシーンから浮いた個性(GENの声質もそうだし、アナログからデジタルへとリスニング環境が変容していく様をリアルタイムで体験した年代特有のミクスチャーな音楽的趣向もそうだ)を自覚し、元々なかった自分たちの居場所を作るために音楽性も立ち位置も広げ続けたのがフォーリミだと言えるだろう。その上で、2018年にリリースした『SOIL』が過去最もアグレッシブなパンクロックを背骨にしていたことから窺えたのは、フォーリミがようやく自分たちがどこからきて何を鳴らすべきバンドなのかを提示できた「確信を持っての里帰り」だった。
04 Limited Sazabys『SOIL』を聴く(Apple Musicはこちら)
Hi-STANDARDをはじめとする憧れの存在たちとも次々に競演し、『AIR JAM』にも出演、東名阪アリーナツアーも成功。そうして夢を叶え続けたからこその里帰りと集大成を同時に鳴らしたのが『SOIL』だったし、それは、アリーナツアーを経たからこそ「人と熱を交感できるライブハウスの距離感で音を鳴らすのがフォーリミだ」と宣誓する作品だったとも位置付けられる(実際にそう語ってくれた)。
それで言うと、『YON EXPO』は「ライブハウスで闘うと宣誓したバンドとしての番外編」だと言えるだろう。敢えて自分たちの立ち位置をはみ出すトライをすることで新たな目標を自分自身で確認するような1日なのだと思った。だから、1日丸ごと密着してフォーリミの本質と次へのヒントを僕も共に得たかったのだ。
朝7時34分。さいたまスーパーアリーナ周辺を歩いてみると、早朝にも関わらず驚くほどファンが多く集まっている。ライブ自体のオープンは16時半。上述した多くの催しが行われる『YON PAVILION』も10時開始なので、まだまだ時間がある。そこにいた男性に「かなり早いですね」と声をかけてみると、「6時半に来ました! なんせ、ラーメンを絶対に食べたいので!」という回答が。……ラーメン?
このラーメンとは、RYU-TA(Gt)が開発・完全監修を務めたオリジナルラーメン「麺や おがた」(おがた、はRYU-TAの苗字・小縣から)のことだ。今年4月のフォーリミ主催フェス『YON FES』で初めて出店されたが、それがこの日も用意され、メインゲート前に巨大な看板を掲げている。4月の『YON FES』では予想以上の風が吹いたこともあって寸胴(スープを温める大きな鍋)の温度が下がって客への提供が遅れ、そのラーメンを食べられなかった人が多発したことをRYU-TAが悔いていたことを思い出す。いわば、RYU-TA店長のリベンジも、4月にラーメンを食べられなかった人のリベンジも懸けられた日なのである。
各セクションに散りばめられた「全力の遊び」。それこそがフォーリミの音楽の核心にある「童心への憧憬」を具現化したもの
そのラーメン屋以外にも、上述したように端から端までフォーリミ監修のアトラクションが張り巡らされ、フォーリミの音楽に通底してきた遊び心をそのまま遊び場にしてしまおうーーそんな意志が伝わる。名古屋のアンダーグラウンドを維持してきたアートや音楽もプレゼンテーションしている『YON FES』とは違った志向として、徹底的にポップで触れやすいものを一気に広げているのがこの『YON EXPO』なのだ。
8時29分。楽屋エリアに到着すると、フォーリミも会場入り。
車から降りてきたのはRYU-TA、HIROKAZ(Gt)、KOUHEI(Dr)だ。GEN(Vo,Ba)だけがいないので心配して話を聞いてみると、声の調子を整えるため、入り時間が遅く設定されているそうだ。特に不安要素はなくホッとし、制作スタッフの方々への挨拶に向かったーーのだが、なんと、ステージ周りのスタッフも楽器チームも、もちろんフォーリミチームも、全スタッフがスーツ姿なのである。しかも全員が『YON EXPO』のテーマカラーであるオレンジのネクタイで揃え、まさに博覧会。かく言う僕もライブの2日前に「とりあえずスーツで来て!」という電話だけもらっていたのだが、そこにすぐさまフォーリミのマネージャー氏がやってきてオレンジ色のネクタイを手渡してくれた。「一日よろしく!」と。
そこから、会場入りした3人のスケジュールは分刻み。各メンバーが全アトラクションを体験するところをドキュメント映像に収めるため、オープンの10時までに広いさいたまスーパーアリーナを大移動し続けるのである。
KOUHEIは早速『YON PAVILION』へ。『YON EXPO』のロゴを配して真っ黄色に染められたトラックが鎮座する『YON PAVILION』。アミューズメントコーナーを無邪気に楽しんで参加賞をもらうKOUHEIの姿に、マネージャー陣をはじめとしたスタッフたちも一緒になってはしゃぐ。このチームの、その日その日を全力の童心で超えていく様には取材のたびに感動する。もちろん、その求心力になっているのはフォーリミ4人が放つ「永遠のやんちゃさ」そのものだ。
KOUHEI:とにかくお客さんに一日楽しんでもらえたら。自分たちのライブも大事だけど、今日が次のフェーズに向かうものかと聞かれたら、自分でもよくわからないっていうのが正直なところ。会場の規模云々より、『SOIL』以降は特に、俺たちはライブハウスのバンドだって焦点が定まってるから。だからこそ、今日みたいにお客さんにただ楽しんでもらう場所があってもいいと思ったんだよね。
GENにインタビューした時と同じような言葉が自然とKOUHEIからも出てくる。逆に言えば、フォーリミの本質にある遊び場感がどこまで発揮されるのか、そこにストッパーが一切ない1日でもあるのだ。だからこそライブがどんなものになるのかが楽しみになってくる。
9時34分。タスキを頭に巻いた「RYU-TA店長」が「麺や おがた」へ。ラーメンの最終チェックを行うのだろうーーと思ったら、その手前にあるカラオケブースを少しだけ覗く。オープン前にもかかわらず大勢の観客がメインゲート前に集まっていて、観客がRYU-TAに気づくと、一気にカラオケブース前がライブエリアに変貌。そうして「歌わざるを得ない」空気になってしまったRYU-TAが入れたのは、GLAYの“SOUL LOVE”だった。で、これが上手い上手い。
入場待機列の人々から大歓声が上がる中、HIROKAZも合流。早速、完成品の最終チェックと称し、ふたりで濃厚な朝食にありついて大盛り上がり。HIROKAZが「美味いから食べてみ!」と勧めてくれるので一口いただくと、まろやかなスープがこれまた美味い美味い。ライブでは両翼を担うギター隊ふたりの愛嬌と優しさ。それが、フォーリミの音楽とパフォーマンスにそのまま映っていると改めて実感する。
そして、Bゲート内に設置された「フォーリミ写真館」にHIROKAZが向かう。で、その写真たちが凄かった。ただ写真展とだけアナウンスされており中身は当日まで内緒だったこのブース。外に設置された看板には何やら「Supported by リトルワールド」という文字が見え、「リトルワールド」と言えば彼らの地元・名古屋にある野外民族博物館のことだよな……と思いながら中に入ってみると、「ロックバンドの写真展=ライブ写真」という刷り込みを一気に覆す、リトルワールドのトラディショナルな世界観に4人が溶け込んで「いそうでいない偉人」になりきったポートレートの数々が広がっていた。
像と戯れて暮らしている(っぽい)タイの青年「ヒロチャイ・カズサワット」になりきったHIROKAZの写真がマネージャー氏のツボにハマっているらしく、何度も確認で目を通しているはずなのに笑いが止まらない様子。セネガルの伝統的な衣装に身を包んで凛とした表情を見せたり、西洋の貴族になりきったり……そのシュールな写真全部を手がけたカメラマン・ヤオタケシ氏がこの日も帯同していたが、にっこり笑いながら「大変だったけどね……」と零していた。そりゃそうだろう、質感にしろ完成度にしろ、とんでもない工程を踏んだことが伝わってくる。
愛する名古屋の名所をフックアップしての全力のおふざけ。それが観客にとってのエンターテイメントにもなっていくフォーリミの遊び場。メロディックパンクシーンの定型に居心地の悪さを感じ、自分たちにしかできない音楽を探す旅のようにして様々なシーンに身を投じてきた彼らだからこそ、人に対しても、「今日1日くらい型を破って馬鹿になってもいいだろ」と語りかけてくるようだ。
徐々に全貌が見えてきた「フォーリミ全部盛り」のライブ。茶番、映像演出、そしてアコースティックセットの試み
10時7分。制作本部で進行用セットリストを受け取る。全28曲のボリューム以上に驚くのは、MEMO欄に記された特効の数と、謎の「麺や おがた 中継VTR」という文字が各セクションの合間に多くインサートされていること。この謎についてHIROKAZに聞くと、「ふふふ」とイタズラっぽく笑って詳しく教えてくれない。「麺や おがた」の中継ということはRYU-TAがフル稼働するのだろうが、それをどうライブに入れ込むのか? 楽屋に訪れるスタッフ陣もそのセクションについて「茶番をどうしようか」などと話しているが、そのたびに謎は深まっていく。
思い返すと、2015年に『CAVU』のリリースツアーに密着した際も、“Teleport”の間奏でRYU-TAがステージから消え、暗転している間に会場の他の場所から登場する「テレポート演出」で観客の笑いを誘っていた。
04 Limited Sazabys『CAVU』を聴く(Apple Musicはこちら)
そうして、テンション高く観客を煽っていくRYU-TAのステージ上のキャラクターを生かしたエンターテインなセクションを作ることが過去にもあったわけだが、もしかしたら「ラーメン屋店長」というキャラクター性をそのままキャラクターにしてしまう演出が施されるのかもしれない。音楽も歌で描く心象風景もソリッドになっていくフォーリミだが、その一方で「ありのままでいること=童心を失わないこと」という意識はずっと変わらないのだ。
KOUHEI:今日って、本当はソールドアウトを打てる券売数なんですよ。でも、俺らはソールドアウトって打たない。俺らも年数を重ねてきた分、家族ができたり社会人になったりしたお客さんって、休日とはいえ予定が見えないこともあるじゃないですか。そういう人たちも、予定が変わって「フォーリミのライブ行きたいな」って思った時にチケットを買えるようにしたいと思ったし、「ソールドアウト」って打ちたいだけの見栄なんてどうでもいいから、数百枚余ってるっていうのを隠さないのが、ありのままで俺ららしいと思ったんですよ。
―それは、音楽的にも表れていることかもしれないですね。自分のエゴを叩きつけるよりも先に、曲を曲として飛ばすにはどうしたらいいか。そこで4人がぎゅっと束ねられているのが『SEED』の楽曲たちだったと思うんですよ。
HIROKAZ:ああ、そうかもね。で、そのほうが4人のフレーズがよかったりするし。
KOUHEI:自分のプライドを叩きつけるのとは違う感じになってきたよね。たとえば“Cycle”のイントロのフィルも、要らないかなと思って仕舞おうと思ってたの。そしたらメンバーが「それ、好きだよ」って言ってくれたり。自分を押し通すのが第一じゃなくなった結果、お互いをまた面白がれてる感じはする。だからこそ、今日みたいな1日を作ってもいいと思えた気がするし。
HIROKAZ:「楽しみますか!」っていうテンションだよね。全然緊張してないのが不思議なんだけど(笑)。
すると、HIROKAZはそのままステージへ。この日はアリーナ中央にサブステージが組まれ、セットリストを確認すると、そのステージで“labyrinth”と“hello”、“shine”の3曲がアコースティックセットで披露されるようだ。
HIROKAZ:広いからこそ、お客さんの近くに行きたいと思ってアコースティックも入れたんだけど……まあ、アコースティックは緊張するよね(笑)。
どっちなんだよ、と笑ったが、たとえば2010年代「フェス台頭世代」と呼ばれたバンドたちが、アリーナツアーやホールツアーを展開するまでに成長している今。その中にあってフォーリミは特にそうだが、とっくに「フェス映え」がどうとか、キャパ云々の「勝ち負け」とか、そんなことを引き合いに出すまでもなく、自分たちの音楽がどこに向かうものなのかだけに真摯に向き合っているフェーズにきている。だからこそ音楽的にも重要な過渡期にいるし、そのための新しいトライがここに見受けられた。
11時15分。GENが会場入り。
入りの瞬間からドキュメント用のカメラが彼に張り付くが、GENはいつも通り、「カメラに対して」ではなく「人に対して」話す。この日は地元・名古屋のプロモーションスタッフも一気に集っていて、膨大な数の人がバックステージを駆け回っているが、フォーリミ4人自身の人懐っこいキャラクターも活きて、各セクションに「線がない」。だからこそ後から会場入りしたGENもスルリと空気に馴染んで、楽屋に入ったその足でそのままマッサージを開始した。「麺や おがた」での稼働を汗だくで終えたRYU-TAも、両手にラーメンを持って楽屋へ帰還。魚介の香りが強烈なこと以外は至ってアットホームでリラクシングな楽屋だ。
12時19分。HIROKAZがステージ上でギターをポロリと弾き始める。各々がマイペースで調整を進める中にあって最も繊細というか、のんびりした表情の奥で、至って真面目に自分のルーティーンを守っているのが彼だ。これがバンドの重要なペースメーカーとして機能しているのだろう。そのゆったりとした試奏にフォーリミの楽曲が混ざり始めると、そのメロディの美しさに改めてハッとする。メロディックパンクをベースにしていると同時に、オルタナティブロック台頭以降の2000年代ギターロックも食っているのが彼らの音楽の個性。その要素の大部分を担い、GENの歌をさらに飛ばすように弾き倒されるHIROKAZのオブリガートやカウンターメロディの流麗さが、アリーナの反響から細やかに伝わってくる。
その頃、楽屋ではGENがライブのオープニング映像をチェック。紗幕を使って文字と映像を映し、ブレイクで4人が登場するという段取りだが、そのオープニング映像が凝りに凝っていて、調整を繰り返すうちに、この日の昼まで映像の調整が行われていたというのだ。バラバラな場所でごく普通の生活をしている4人(GENは高級クラブに通う実業家風の青年に扮していて、その演技がまた面白い)がスーツを纏った瞬間にスペシャルな集団へと変貌し、さいたまスーパーアリーナに集ってくるーーというSF洋画風の映像。映像自体は笑いどころ多数だが、その確認は真剣そのもの……GEN曰く「この規模だからこそ、マジなおふざけのほうが笑えますよね」とのこと。うん、間違いない。
フォーリミの音楽が辿ってきた道のりにおける新たなトライが随所に見えた1日、徐々に高まっていく緊張感と、随所に見える各々の役割
12時55分。4人揃ってのリハがスタート。
ライブ自体のゲネは事前に行われたそうで、そうなるとリハの軸になるのは「演出」である。ステージを移動するアコースティックセクションまでの流れや、映像の見え方などなど……で、このリハによって、上述した「茶番」の正体が判明した。ざっと説明するとーー。
フォーリミのファンである「麺や おがた」の店長、小縣氏(という設定。つまりRYU-TAです)がフォーリミにラーメンを食べて欲しいと思い立ち、岐阜県(RYU-TAの地元)からなぜかマラソンでさいたまスーパーアリーナへ向かう様子を、ライブの各所で中継する。その中継リポーターは、なぜか「髭男爵」のひぐち君。ZARD“負けないで”をRYU-TA自身が歌唱した音源をバックに、小縣氏はさいたまになんとか辿り着き、フォーリミと感動の対面を果たす。そこでGENから「僕ら以外にどんなバンドが好きなんですか?」と聞かれた際に、小縣氏が「Official髭男dism」の名前を挙げ、ひぐち君は「ヒゲダン違い」だったと判明するーー。
という流れだ。この映像の間にも綿密な調整が行われ、ステージをそのまま客席のほうへ降りてアリーナ中央のサブステージへ移動するアコースティックセットの尺も丁寧に擦り合わせていく。この調整も予想された以上にハマり、リハは滞りなく進んだ。何より、4人の演奏がビシッと研ぎ澄まされているのがいい。超多忙な1日を過ごしてきた4人だが、疲労よりも、この1日に対する集中力と没入感が演奏にも表れている。
リハの最後は、終演後のエンドロール映像を確認。最近は演奏されることが少なくなった“SOUP“が使用された映像なのだが、ここもラーメンの「スープ」にかかっていて、究極のスープを探し求めるRYU-TAが、なぜか自分が浸かっている銭湯のお湯が最高のダシだと確信するというオチだ。そうしてリハが終了した16時前。ステージのフロントに爆炎が上がり続ける曲も多く、それを真ん中で食らい続けたGENはぐったりとしながら楽屋へ戻っていく。「火薬も移動も多くて、疲れましたね」と苦笑いを浮かべ、再び電流マッサージを受けてしばし小休止。その横では、衣装スタッフが4人分のスーツの準備を始めている。そうそう、この日のライブの前半は、フォーリミ4人もスーツで演奏するのである。つくづく徹底したお祭りだ。
GEN:僕らも10周年を超えて、大人になったじゃないですか。だから、普段とは違う雰囲気でビシッと決めてもいいんじゃないかと思って。こうして年齢層に関係ない人が集まれるライブですし、同年代でも家族連れで来たいって言ってくれる人も増えた。一緒に歳を重ねていくことを実感できるライブがあってもいいと思ったんですよね。
2015年に『CAVU』でメジャーデビューし状況を広げ、出自であるメロディックパンクが音楽としても遊び場としても定型化してしまったことに幾度となく苦言を呈していた時期もあった。『eureka』(2016年)で名古屋から東京へと拠点を移し、希望を真っ向から歌うのだと意志を強め、それに伴ってメロディをよりポップに拡張した時期もあった。そして、その中で吸収してきた音楽的な素養を血肉にした上でメロディックパンクを真っ向から鳴らすのだと視界を明瞭にした『SOIL』(2018年)。そうして自分たちの居場所を作り上げるまでの道のりがあったからこそ、今は何処へでも行けるし、何をしても誤解が生まれないと確信できているのだろう。外的なものに左右されず今の自分をそのまま面白がって表現していくこと。それこそが大人になることであり自由になることなのだと、彼らは11年の旅で表現してきたのだ。
スタッフの動きが激しくなる17時。楽屋にも訪問者が増える。舞台監督がきて、GENたちと冗談を交わしながら曲の繋ぎを確認したりと忙しないが、そのどれもがハッピーな掛け合いになってグルーヴが生まれているところが面白い。邪魔にならないよう物陰から観察していても、KOUHEIがこちらに自然と声をかけてくれるし、なんかもう、その場にいる人全員が「自分もこの仲間の一部だ」という自覚を持って自然と盛り上がっている。
17時26分。一人ふたりとメンバーが楽屋を出て行き、GENひとりを残して、今日初めて楽屋の扉が閉まった。中からは、雄叫びのような発声が聴こえてくる。少年性に満ちた彼の声だが、その個性を持ったまま、太く、強くなってきた歌がフォーリミの音楽を強靭にしてきたことは言うまでもない。フォーリミ全部盛りの1日の仕上げはもちろん、その歌と音楽そのものだ。
17時40分、さあ、開演だ。
全力疾走のライブと1日の総決算を4人で語る。インタビューで見えてきた「次なるフェーズ」
オープニング映像に続いて、紗幕に“Now here, No where”のリリックが投写されていく。彼らが初めて日本語詞にトライした同曲をオープニングに持ってくることも、メロディックパンクのシーンを飛び出して道を作ってきた彼らの物語を象徴しているようだ。4人のスーツ姿にも大歓声。サプライズは大成功だ。即着火したライブ、あとはもう駆け抜けるだけである。
04 Limited Sazabys“Now here, No where”を聴く(Apple Musicはこちら)
“Cycle”から“message”、そして“My HERO”の快速チューンが連打されるセクションは、疾走感の中にもドシリとしたスケール感が宿っているのがいい。GENの声も1日の疲れを感じさせず、伸びやかにアリーナを泳ぐ。たとえば“Galapagos”や“me?”のように歌をリズミカルに刻んでいく楽曲も、より硬軟自在なものへと変貌している。『SEED』に収録された“Puzzle”が疾走感よりもサビでじっくりと落とす展開になっていたのも、蒼さを保ったまま彼らの音楽的な成熟も同時に感じさせるポイントだったが、それが音楽にも歌にも表れているライブだと言える。
……とはいえ、やはりスーツは相当暑かったようで、GENが言うところの「お色直し」でTシャツ姿になった後半の解放感といったらなかった。アコースティックセットを機に、歌も演奏も緊張感を増してキレが上がっていく。
演出や移動も多いライブにもかかわらず散漫な印象がないのは、このビシッと筋の通った演奏があるからこそだ。ちなみに書いておくと、上述してきた「RYU-TAのラーメンマラソン」も大ウケだったのでご心配なく。全力で作り上げた「茶番」がビシッと決まって、RYU-TAもところどころで安堵の表情を見せていた。ああ、よかった。
GEN:今年は、バンドマンで亡くなった人も多かったりして。自分も病気をした時期があって、バンドを続けていけるのは当たり前じゃないと改めて思った。そんな中、こうしてたくさんの人に見てもらえるのが幸せです。幸せに慣れちゃうことは怖いけど、こういう一瞬を大事にしていけたらと思います。皆さんにとっても、フォーリミの楽曲が冒険の書みたいに「あの時こんなことがあったな」って思い出せるきっかけとして大事にしてもらえたらいいなと思ってます。
ここまで広げてきた状況を、いかに長く人とともに生きていくための道にしていけるか、そういう未来への視点が生まれているのが今のフォーリミだ。それを示せることこそが、彼らが憧れたロックバンド、もっと言えばスーパースターの姿だったはずである。だからこそ、『eureka』に収録された“Horizon”のように真っ向から希望と未来を歌った楽曲が、今こそリアリティを持って響いてくる。GEN自身の歌も、スキルとしてではなく実感として同曲を歌い切るようになった。そこがこのライブの素晴らしさの多くを担っていたし、モッシュもダイブに加え、大合唱するオーディエンスも多くなったのも、その歌のエモーションに誘われたからだろう。
GEN:今日はソールドアウトにしてもいいくらいお客さんが来てくれたんですけど、でも、そこで「GEN、どうする? ソールドアウトにする?」って聞かれた時に、見栄を張ったら違う気がして。僕らはありのままでいたくてロックバンドを始めたし、嘘をつきたいわけじゃない。それに、大人になったからこそわかることだけど、急に予定が空いたりする人だっている。そういう人たちにも来てもらえるような、そんな場所になったらいいなと思ったんです。
最後の最後まで潔いライブ。自分を誤魔化したりカッコつけたりしたくない、だからロックバンドに憧れ、目の前の世界に対して純粋に生きる童心を追い求める。その本質を見失わないまま、大人になっていく。そんな新たなストーリーの始まりを刻む28曲だった。
21時23分、終演後の楽屋。4人は、さぞ充実感でいっぱいだろうーーと思って扉を開けると、予想以上の疲労感でぐったりしている。そんな中でも自然と今日の実感を語り始めてくれたので、慌ててレコーダーを回した。
―まずはざっくり、どんな一日でしたか。
GEN:演出もいっぱいあって、普段は着ない特別な衣装感もあって。衣装っていうもの自体、僕らは避けてきたんですけど。着飾らないことに対して、極端なくらいこじらせたところがあるバンドなので(笑)。でも、今日はエンタメ性高めな一日にしてもいいと思ったんです。RYU-TAもフル稼働だったし。
RYU-TA:そうだね(笑)。プレイヤーとして以外の役割も自分にはあるんだと思って、それを必死にやり遂げる感じだったんですけど。でも、それがライブの集中力にも繋がったと思うし。
GEN:純粋にやれたというか。感動させるとか、ぶっ倒すとか、そういう気持ちもない1日だったんですよね。前のインタビューでも、「今は目標迷子だ」っていう話をしたじゃないですか。きっと、ただ楽しい1日にしたいっていう気持ちだけを持ってライブをすることで、自分たちの新しい可能性を見つけたい気持ちもあったと思うんですよ。
―そうですよね。具体的に言うと、その可能性はどういうところに見出せました?
GEN:隅々まで人を楽しませるエンターテイナーとしての自分の成長も必要だなって思ったし、それはロックバンドとして「ライブ」っていう軸が貫けていれば磨いていいところだと思ったんですよ。スタッフさんも僕らもスーツを着て過ごした1日でしたけど、それが背伸びじゃなく、ちゃんとサマになってると感じたし。大人になって、これがキマるバンドになれたんだなって実感できて。そうやって大人になっていく部分を曲にしていってもいいんだろうなって思えましたね。
HIROKAZ:その中でも、あくまで自分たちっぽい楽しさとか、ガキっぽさが出せたっていうのがよかったと思うんですよ。
RYU-TA:そうだよね。俺個人も、どんどん自分を解き放っていける気がしたし。
HIROKAZ:そうだよね。ライブハウスを回るのはもちろん一番大事だけど、それと同時にこういうエンターテインなこともやっていけるのは俺ら4人の武器だと思うので。新しいことも恐れずやれればいいなって。
RYU-TA:アコースティックアルバム作ったりしてもいいかもね。
GEN:あ、お前言ったな(笑)。たぶん超大変だぞ!
―ははははは! でも、いいかもしれないですね。楽曲自体も成熟してきて、それを自然に乗りこなせるバンド力が一番素直な形で出るかもしれない。
GEN:そうですね。それに、「麺や おがた」もさらにパワーアップしていくと思うので、楽しみにしててください。
RYU-TA:マジか…………。
- リリース情報
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- 04 Limited Sazabys
『YON EXPO』(Blu-ray) -
2020年1月22日(水)発売
価格:6,380円(税込)
COXA-1186内容:
・YON EXPO @2019.9.29 さいたまスーパーアリーナ
・DOCUMENT OF “YON EXPO”
・Special Photo Book1. Now here, No where
2. Warp
3. Kitchen
4. Cycle
5. message
6. My HERO
7. fiction
8. Montage
9. Chicken race
10. midnight cruising
11. Galapagos
12. me?
13. swim
14. labyrinth
15. hello
16. Shine
17. Utopia
18. Alien
19. discord
20. Horizon21.Puzzle
22. Letter
23. milk
24. Feel
25. monolithencore
26. Squall
27. Remember
28. Give me
- 04 Limited Sazabys
- プロフィール
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- 04 Limited Sazabys (ふぉー りみてっど さざびーず)
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GEN(Vo,Ba)、HIROKAZ(Gt)、RYU-TA(Gt,Cho)、KOUHEI(Dr,Cho)による4ピースロックバンド。2008年、名古屋にて結成。2015年4月に1stフルアルバム『CAVU』でメジャーデビューし、2016年にはバンド主催の野外フェス『YON FES 2016』を地元・愛知県で初開催。2018年には結成10周年を迎え、東名阪アリーナツアーを行なった。同年10月10日には3rdフルアルバム『SOIL』を発表し、2019年9月4日にシングル『SEED』を缶の形態でリリースした。9月29日にはさいたまスーパーアリーナでの単独公演『YON EXPO』を開催。
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