イマジネーションの赴くまま、「自分らしい暮らし」を想像してみると……
外の世界へ発つ場所であり、帰ってくる場所でもある家。気がつけば当たり前のように過ごしている家での時間を、あなたはどのように過ごしているだろう? 仕事を終えて帰宅後、明日に備えて1日の疲れを癒やす束の間の時間。その空間はあなたにとって心地よい場所であるはずだ。
例えるなら、家は自分らしい暮らしを自由に描けるキャンバスだ。余白のある空間が自宅にあれば、もしかしたら休日にミュージシャンを招いてライブイベントを開催することもできるかもしれない。
そんな理想の暮らしの例を実際に体験してみることで、「自分らしい暮らし」を想像するきっかけを育むイベント『くらしの音色 緑ひろがる家でアコースティックライブ』が開かれた。11月末の秋空のもと、都心からすこし離れた、たまプラーザ駅の閑静な住宅街に佇むリノベーション住宅「広がる屋根」の会場には、終始アットホームで心地よい時間が流れていた。
ルーフバルコニーがすべて芝になっていたり、大きな窓から家全体に風が抜けるように、1階の天井の木材は一定の間隔で隙間を空けていたり。「広がる屋根」は、自然を身近に感じられる工夫が随所に施された2階建ての家だ。
「ここは自由な余白のある家で、これで完成というわけではないんです」。リノベーションを手がけた株式会社リビタの担当者である立花さんはそう語る。
「元あった家の柱などを活かしながら自由に空間を作ったりして、暮らしを家に合わせるのではなく、家を暮らしに合わせていけるようにしています」。築37年の旧宅の柱や梁を活かしつつも、大胆に生まれ変わった「広がる屋根」。その1階のフロアで、木原健児withケンネル青木、Nozomi Nobodyのライブは行われた。
茶の間に寝転んだり、ダイニングテーブルに座りながら。普段の生活の場で奏でられる音楽
友人の家に招かれたように、続々と「広がる屋根」に人が訪ねてくる。寒い外気と家の中に入った時の寒暖差に、皆がゆるっと脱力し、その様子がなんだかとても嬉しい雰囲気を作っていく。
当日、キッチンに出店していたのはコーヒー豆の焙煎から抽出までを一貫して行っているCHEEERS COFFEE。ホットドリンクと焼きたてのワッフルを手にとって、ダイニングテーブルやソファ、畳など、皆が思い思いの場所に着き、徐々にあたたかな空気が家を満たしていく。
そんな中、響き始めたのは、スティールパンとギターの音。「ここには昔住んでいた家族がいて、夏には冷たい麦茶、冬にはあったかいスープを飲んだりしていたのかな、なんて想像していました。そういうささやかな時間が大事だと思って」という木原の言葉から、木原健児withケンネル青木のライブがスタートした。
ありふれた日々、家に帰ることのあたたかさを歌う“茶の間”、雨の日に家で過ごすゆったりとした時間を描いた“雨音”などが披露された。その日、朝から降り続いていた雨のように粒立って光るスティールパンの丸い音と、優しい歌声が「広がる屋根」に染み入っていく。日々を愛でる旋律に包まれて、さっきまで元気に歩き回っていた幼い女の子が、畳の上ですやすやと寝息を立てていた。
続いては、Nozomi Nobodyのライブ。木造の家によく響く、自然美の宿る力強い歌声が室内に広がる。ループステーションを使ったNozomiならではの重層的なハーモニーが心地よい。
「雨の中ありがとうございます。いつも自分がベッドや床でごろごろしながらギターをしている感覚でライブができたらいいなと思っています」と、“Do You Know?”“500miles”のカバーなどを披露。夜の訪れとは裏腹に、窓から差し込む日差しのような繊細で柔らかな音像が、「広がる屋根」をあたためているようだった。アンコールには、大切な人への愛を紡いだ“ふたり”で応え、ライブは終了した。
自分の「心地よさ」に正直にいるために。理想の暮らしを模索するのはミュージシャンも変わらない
ライブ終了後、木原健児withケンネル青木、Nozomi Nobodyに今日の演奏について聞くと、「普段の生活の延長のようにリラックスできた」と声を揃えた。なかなか機会のない、「家」での演奏の感想から、それぞれの暮らし方とその考え方について、話してくれた。
ケンネル青木:僕たちもリラックスできたけど、お客さんが目の前でソファに座ってリラックスしてくれているのが新鮮でした。なによりこの家、気持ちがよくて、率直に住みたいなと(笑)。
木原:ね、住みたい。昔の家の柱が残っているので、昔の家の姿やここに住んでいた人の暮らし、歴史を想像できる。そういう感覚を感じられるところがいいなと思いました。
僕は3年前から葉山に住んでいるんです。自然が溢れている場所なのでリラックスできるし、オンオフの切り替えがうまくいく。葉山に住み始めてからは、時間の流れや季節の移り変わりを強く感じるようになりました。
木原:自然のことについても、よく考えるようになりました。Hayama Ambientっていうプロジェクトを始めて、最近は葉山でフィールドレコーディングした音でアンビエントミュージックを作っています。
今年は4か月間ほど、奄美群島の加計呂麻島で暮らしていたというNozomi Nobodyはこう話してくれた。
Nozomi:ずっと東京に住んでいて、だんだん東京での当たり前が自分の中でも当たり前になっていって……。音楽をやるうえでも、東京のシーンでどうやっていくか、考え続けていたんです。
でも、ある時にその考え方ってすごく狭いと思って。だから外の空気を吸うことが必要だと思って環境を変えました。
Nozomi:加計呂麻に行ったら、暮らしが変わったというよりは、本来の自分の暮らしに戻った感じがしたんです。自分にとっていらなかったものが取れて、シンプルになりました。
今、帰ってきたばかりで都内で新しい家を探しているんですが、都内でも穏やかなところに住むのがいいかなって。自分にあった、いいバランスの生活が見つけられたらと思っています。
誰にもそれぞれ自分にあった暮らしがあり、それぞれが住み考えながら自分なりの理想と答えを追い求める。それはミュージシャンという職業に関わらず、誰にも当てはまること。でも、私たちの毎日の生活は、慣れ親しんだ「家」や、見慣れた「街」という箱に、知らず知らずのうちに囚われてしまいがちだ。
たとえば、友人の家を訪ねた際、自分の「いつも」とは違った暮らしの雰囲気を感じることがあるだろう。そんな時に、自分の家を自由で豊かな時間を過ごす場所として捉え直すインスピレーションがもらえるかもしれない。
自分なりの心地よさが充溢した理想の暮らし方とは、どんなものだろう? 一度、想像を豊かにすると、自由で自分らしい暮らしのイメージは尽きることはない。そんな生活の音色を少しずつ紡いでいくための、最初の結び目になるような時間を感じられた機会となった。
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- 『くらしの音色 -緑ひろがる家でアコースティックライブ-』
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2019年11月23日(土)
会場:HOWS Renovation「広がる屋根」
- プロフィール
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- Nozomi Nobody (のぞみ のーばでぃ)
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様々な情景が浮かぶ楽曲と透明な歌声、ループステーションを用いたコーラスワークで魅せるライブパフォーマンスで注目を集めるシンガー・ソングライター。これまでに2枚のアルバムとシングルをリリース。CM・舞台作品での歌唱や執筆、モデル、写真展の開催等、多岐にわたり活動。2019年12月、最新シングル『あこがれ / Losing My Heart』をデジタル、アナログの二形態でリリース。
- 木原健児 (きはら けんじ)
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音楽家 / サウンドアーティスト エレクトロニカ・アンビエントミュージック、チルアウト・ラウンジミュージック、そしてシンガーソングライターとしての楽曲など幅広いジャンルの音楽を制作。2019年7月 木原健児名義にて歌を中心としたアルバム『日々』をリリース。2016年、宮内優里と背景のための音楽研究室「BGM LAB.」を開室。
- ケンネル青木 (けんねる あおき)
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『うぐいすパーク』、『STARS ON PAN』、『青太郎』などで6枚の作品をリリース。2018年ケンネル青木としての1stソロアルバム『SOUR SWEET』をリリース。2018年10月こだまレコード10号ケンネル青木 feat.ピーチ岩崎『スカラコネクション』リリース。
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