CDのセールスが実人気と比例しなくなったと言われて久しいが、昨年はCDデビュー前のアーティストが紅白歌合戦に出場するなど、ヒットの基準が明確に変化した年になったのではないだろうか。加えてコロナ禍によってライブには制限がかけられ、音楽におけるビジネスモデルは大きな転換点を迎えている。
こうした流れはメジャーな音楽シーンに限らず、いわゆるインディーズのシーンにも影響を与えている。実際、どのような変化が生まれているのか。先月より番組レポートを掲載しているポッドキャスト番組『MOTION GALLERY CROSSING』では、3月10日より4週にわたって「インディ・ミュージックの現在地」をテーマとした特集が行なわれている。
インディー・ミュージックの現在地を語るにあたって「既存のレコード会社ではないよなっていうのが直感的にあった」(武田)
ひとくちにインディーズと言っても幅広いが、今回の「インディ・ミュージックの現在地」を語るにあたってゲストに迎えられたのは、シンガーソングライターのマイカ・ルブテと、TuneCore Japanディレクターでウェブメディア『THE MAGAZINE』編集長も務める本田次郎。緊急事態宣言下ということもあり収録はリモートで行なわれたが、この2人を招いた理由について、番組パーソナリティの武田俊が説明する。
武田:まずアーティストサイドとビジネスサイド、2つの視点がクロスするといいなと考えていました。そのなかでビジネスサイドのゲストについては、既存のレコード会社の方ではないよなっていうのが直感的にあったんです。そこでプラットフォーム側、あるいは、そこの仕組みのなかで新しい動きをしている人と考えたときに、自然とディストリビューターとしてTuneCore Japanが浮かんで、(もともと親交があった)次郎さんがいるじゃないかと。
TuneCoreは2006年にアメリカで始まった音楽配信の流通サービスで、2012年にTuneCore Japanが日本でもサービスを開始。同サービスを利用すれば、レコード会社に所属していない個人でも、Apple MusicやSpotifyなどを含む約45の音楽配信ストアを通じて、約世界185カ国に自らの楽曲を配信でき、近年は著名なアーティストも利用し始めている。ちなみに大ヒットした瑛人の“香水”も、TuneCore Japanを通じて配信されていた楽曲だ。
そのTuneCore Japanを利用して楽曲を配信しているアーティストの一人がマイカ・ルブテ。彼女は事務所に所属せず、自らが信頼する少人数のスタッフとともに、インディペンデントな形態を保った活動を続けている。しかしながら昨年は、大手自動車メーカーとして知られるマツダのCMに楽曲が使われるのみならず、自らもCMに出演。コロナ禍前は頻繁に海外ツアーも行なうなど、インディーズとは思えない規模で活躍している。
武田:彼女がナショナルクライアントのCMに、楽曲提供どころか本人出演まではたしたことは、ぼくのなかで大きな事件として記憶されていたんです。彼女に活動開始からそこに至るまでのバックストーリーを語ってもらえたら、それは必然的に音楽環境の変化にも対応した話になるんじゃないかと思ったんです。実際、想像していた以上に自分の言葉を持っている人でしたよね。
マイカ・ルブテの活動スタイルから「ヘルシーな組織のあり方が見えた」(武田)
番組ではストリーミングで音楽を楽しむことが一般的になったことで、どのような変化が生まれたのか、2人のゲストそれぞれの目線から具体的な事例が数多く語られた。武田と共に番組パーソナリティを務める長井短は、収録を終えて多くの刺激を受けたと感想を口にする一方、「演劇モデル」として舞台を主戦場とする自身とは、環境が異なるということも感じたようだ。
長井:ストリーミングは普段からめちゃめちゃ使ってましたけど、そもそもどういうものなのか理解できていなかったんです。今日は本田さんのお話を聞いて、それがわかったことがまずうれしかったです。マイカさんは年も近いと思うんですけど、同年代の違う職種の人が、どうやって活動しているのか、記事を読んだりするだけでは、なかなか理解しきれないじゃないですか。だから今日お話して、それを知ることができて、心強いなと思いました。
ただ、自分に置き換えて考えると、演劇や映画は一人では作れないし、関わる人数が増えれば増えるほど政治も働く(笑)。そのへんとは関係なく活動したい気持ちはありますけど、まだ難しそうですね。
長井の言う通り、あくまで音楽業界における話ではあったが、ゲスト二人が語った小さなチームで戦う組織論や、必要に応じたモジュールの使い方などは、音楽以外の世界でも参考になるはずだ。その理由を武田が解説してくれた。
武田:ぼくはメディア環境の変化によって、収益構造などがどう変わるか、それにともなってクリエイティブのあり方がどう変わるかに興味があって、こういう仕事をしているんです。これは収録でも話しましたが、音楽は環境変化の最初の潮流に乗りやすくて、先進事例として捉えやすい。それが一体なぜなのか、今日は見取り図をとれた気がする。音楽関係者はもちろん、そうじゃない業界の人にも響く話をしていただけた気がします。
それと、いろんなデジタルツールをモジュールとしてどう組み合わせて使うかという意味で、小さなチームのあり方自体が作品の質やあり方そのものにまで影響しうる、とも感じました。マイカさんは彼女のナチュラルボーンな魅力そのものによって、チームが組成され、その魅力をチームとしてどう増幅させ届けるかという理想的な発展の仕方をしていて、すごくヘルシーな組織のあり方が見えたんです。だから話を聞きながら「いいね、いいね!」とワクワクしちゃいましたね。
本稿では約2時間に及んだ収録のなかから、3月17日に公開された2週目の配信分の一部を書き起こし、編集・補足を加えてお届けする。そもそも音楽ストリーミングとはどのようなサービスで、どのような特徴を持っているのか、アーティストとディストリビューターという二つの目線から語られた1週目を経て、2週目ではマイカ・ルブテがレーベルを介さず個人で楽曲配信をするようになった理由や、それによって得られたメリットを語り、本田次郎が国内外の事例を交えて解説。「インディ・ミュージックの現在地」に起きている変化を二人のリアルな言葉から知ってもらえればと思う。
MOTION GALLERY CROSSING #043 特集『インディ・ミュージックの現在地』section1を聴く(Spotifyを開く)
ディストリビューターを使えば「主導権を握った状態でやれるんだということに気がついて、すごく希望を感じた」(マイカ・ルブテ)
武田:(1週目で)いまのサブスクリプションサービスが前提になった音楽環境が、少しおさらいできたと思うんですけど、それによって変わったものがいっぱいあると思うんです。いままでだったらレコード会社に所属しないと、CDがお店に並ばなかった。並ぶっていうことは、いっぱい売れるものを作ろうとか、コンスタントに出して売上を高めるぞみたいな。そういう既存のCDを売るということが前提のビジネスモデルじゃなくなってる気がするんです。
それこそ“香水”の例が出ましたけど、それもサブスクで聴ける状態にあったからこそ、話題がバーンと広がっていったのもあると思うし。いろんな変化があると思うんですけど、そういう音楽環境の変化のなかで、マイカさんは2016年から活動開始して、まさに変化そのものと並走してきた印象があるんです。活動開始したときと、5年くらい経ったいま、体感して変わってきてるとか、自分にとっていいなと思う部分って、何かありますか?
マイカ:2016年頃に既に「脱CDだよね」みたいな動きというか、空気感があった気がしていて。特に自分がCDを買わなくなったなと感じていたんですね。その当時。
武田:いちリスナーとして。
マイカ:はい。2016年って、既にApple Musicとかあったと思うんですけど、CDを売るにしても、ちょっと工夫して、フィジカルとして持ってて面白い、グッズとしてのCDみたいな気持ちで作っていて。それがたぶん、武田さんが買ってくださっていたZINE付きのCDだったんですけど。
武田:代官山の蔦屋書店で買ったよ。
マイカ:ありがとうございます。CD屋さんに流通するのじゃなくて、本屋さんに流通してもらったんです。あと雑貨屋さんとか。ヴィレッジヴァンガードでも雑貨扱いで売ってもらって。そのときは正直、まだ配信でTuneCore Japanみたいなサービスを使って、自由に自分でリリースのタイミングをコントロールしたりとかっていう部分までは、意識がいってなかったんですね。で、2016年から2018年くらいまで、なんとなく「レーベルがないと配信は難しいよな」みたいな意識があって。
ただ、私が人見知りだったり、「この人、信頼できるのかな?」みたいに、いつもレーベルとかの話があるたびに思っちゃたりして。興味あるとか言ってるけど、本当に興味あるのかな、どれぐらい好きなんだろうとか。すごいヒネくれてますね(笑)。でも、そう思っているうちに、「じゃあ、海外のレーベルは?」とか思って。そもそも日本語じゃない歌を作っていたりもしたので、メールでデモを送ったりしたんですけど、結局人と人なんですよね。
武田:どういうことだろう?
マイカ:結果から言うと、自分でディストリビューションのサービスを使ってリリースすることが、いま主流になってきてるよっていうブログを2018年の終わりくらいに読んだんです。そういうTuneCore Japanのようなサービスが増えていて、アーティストがいかに自由な気持ちで、クリエイティブをちゃんと最優先して、リリースを定期的に作ってファンビルドしていくことが、必ずしもレーベルに所属しないとできないことではない。ディストリビューターを通して、主導権を握った状態でやれるんだということに気がついて、すごく希望を感じたというか、楽しそうだなと思ったので、一回そのやり方で、少人数のチームなんですけど、試行錯誤しながらやってきたのが、ここ5年間くらいの私の冒険でした。
マイカ・ルブテを聴く(Apple Musicはこちら)
TuneCore Japanは「水脈を届ける、水道屋さん」(マイカ・ルブテ)
武田:いいですね。活動の変遷自体を、いま年表みたいにお話ししてもらって、すごく見やすくなりました。重要だなと思ったことがあって。2016~2017年の頃、CDが主流じゃなくなってきて、配信とかサブスクが出てきたときに、マイカさんは配信しようっていうのもあったうえで、じゃあレーベルをどうしようかって、まず考えたと言ったじゃないですか。これ非常に重要だと思う。
つまり、まだデジタル卸問屋みたいなものの情報が、あんまり入ってなくて、新しい配信のプラットフォームも、既存のレコード会社とかレーベルと手を組まないと、そこに置けないんだろうなっていう考えが、ナチュラルにあったということですよね?
マイカ:そうですね。それがナチュラルにあって、グラデーションしていくんですけど、出せても「どうやって宣伝するの?」っていう。TuneCore Japanがあるのは知ってるけど、それでたった一人で(作品を)出したあとに、どうやって誰がそれを拡張してくれるの? っていうのが、すごく大きい。
インディーアーティストが最初にレーベルを探そうとする動機って、そこだと思うんですよね。宣伝力があるサービスではないというか、いわゆるプロモーションのツールではない。水脈を届ける、水道屋さんみたいな状態だと思うんですけど、オーディエンスとアーティストのマッチングが課題だと思うんです。そのマッチングっていうのが、たとえばSpotifyの「お前はこれが好きだろ?」みたいなオススメする機能があるじゃないですか。それが使えるようになっていけばいくほど、解消される話だと思うんです。
武田:これまでのレーベルやレコード会社が担っていたのは、ディストリビューション的な機能もだけど、アーティストのプロモーションとか、場合によってはマネジメントとか、そういうもののパッケージがあって、「あなたはどこまでウチで契約しますか?」みたいなモデルだったと思うんです。ただ、いま流通の部分という意味では、水道のたとえがまさにそうだと思うけど、「185カ国のご家庭にお水を届けられますよ」みたいな状態なわけで、そのうまい使い方さえわかれば、自分たちでいろいろできると。長井さん、ここまでどうです?
長井:私がミュージシャンの人をいちばんうらやましく思う理由って、主導権を握った状態での活動の仕方が確立されつつあることというか。音楽の卸問屋さんはあるけど、お芝居の卸問屋さんはない。同じ「表現をする」ということでも、そこは明確に違うものがある。だから、そういう音楽でできていることが、どんどん私たちもできるようになるといいなって、すごく思います。
武田:音楽って、過去を見ても、メディアの環境変化に、すごく早い時期に立ち向かっている。よくメディア業界の人は、「新しいツールを最初に使うのは音楽かエロか」みたいなことを言うんです。それだけ人間の生活に入り込んだジャンルなのかなと思うんですけど、ディストリビューションの立場である次郎さんの目線からは、どんなふうにマイカさんのタイムラインの変化は見えましたか?
プレイリストに「新曲をピックアップされることが、一つの大きいプロモーションになっている」(本田)
本田:鶏と卵じゃないんですけど、供給する側に材料があっても、消費する側も成長しないと、マッチングしていかないと思うんですよ。日本にサブスクが定着したのが、去年とか一昨年くらい。音楽好きな人は前から使っていたけど、一般の方々がSpotifyとかApple Musicをガンガン使い始めたのって、本当に去年とかだったと思うんです。そういう動きがあったからこそ、マイカさんもこっちに移ろうみたいな感じで、いまTuneCore Japanを使っていただいていると思うんです。
Chance The Rapperが『グラミー賞』を獲ったのは2017年なんですけど、そのとき(アメリカの)TuneCoreを彼は使っていて。CDを出さないまま、初めて『グラミー賞』の最優秀新人賞を獲って話題になったんですよ。去年、紅白に出たアーティストのなかでも、瑛人さんはCDを出してなくて、ああいうところに出始めたと。日本は3、4、5年くらい遅れながら、そういう状況になってきているので、マイカさんの動きは本当にその通り来ているんだなと。インディペンデントでリリースしているのに、去年はナショナルクライアントのデカいCMにも出ちゃってるみたいな。
武田:鶏・卵なので、どっちがどうなっていくかが難しいじゃないですか。サブスクを多くの人が使う環境になったからこそ、CDリリースしない、サブスクヒーローみたいな人が立ち上がってくるっていう現象が起こる。一方で、魅力的なアーティストがサブスクの環境に入ってきているからユーザーが増える。どっちが先かというよりは、相乗効果なんだろうなと思うんですが、それくらい日本でも一般化したということは、おそらく確かなことで。
そういう環境の変化のなかで、マイカさんがお話しされていたところで気になるポイントがいくつかありました。まず、レコード会社は流通だけじゃなくて、プロモーション的なナレッジとか機能も持っていたと。当初はそこをどうするのか迷ったというお話があったじゃないですか。TuneCore Japanの役割は卸問屋さんですけど、アーティストをサポートするとか、そういう目線はあるんですか?
本田:はい。ぼくらもそこはできる限りできればと思っていて。ストリーミングサービスが普及したことで、今度は音楽の聴き方にトピックが移り変わっていくんですけど、そのときに重要視されているのがプレイリストなんですよ。プレイリストで音楽を聴かれることも増えてきたと思うんですけど、みんなが聴くような大きいプレイリストが、いまどんどんでき始めていて。そこに新曲をピックアップされることが、一つの大きいプロモーションになっているんです。
そこにピックアップしてもらえるように働きかけることを、TuneCore Japanではシステムとして実装したので、ストリーミングというなかでは、ぼくらのサービスを使っていただいても、いわゆる資本のあるところと比べても、同じようなアプローチができるんですよね。なのでマイカさんもTuneCore Japanを使っていただいて、たくさんのプレイリストに入っていたりもしますし。“Show Me How”とか“Mist”とか最近の2曲とかも。
マイカ:ありがたいですね、本当に。
プレイリストに入ることは「自分のPOP展開されてるかな? って、タワレコとかに行って、写真撮ってイエー!」と同じ(マイカ・ルブテ)
武田:簡単にかいつまむと、どんなサブスクリプションのサービスでも、プレイリスト機能というのがあります。これは個人でも作ることができるけど、最近みんながよく聴いているのは、何かテーマに沿ったオフィシャルのプレイリストとか、企業やメディアのアカウントが作るプレイリストなどが、非常に注目されていると。
これって、たとえば雑誌が「今月のレコメンド」を作っていたような、ある種メディア的な機能だと思うんです。信頼できるセレクターが選んでいて、多くの人がそれを頼りにいいものを探しに来る。目利きみたいな人たちだよね。そこに掲載されることの影響は大きいんですか?
マイカ:プレイリストがアーティストにもたらす影響はすごく大きいと思います。プレイリストに入ると単純に再生回数が増えるし、もともと自分の音楽を知ってくれていた人たちではない層にも届くので。そういう意味で「出会いの場」みたいな感じになるんです。
これは私がSpotifyのプレイリストで感じている話なんですけど、日本国内はSpotify Japanが作っているプレイリストがあって、各国のSpotifyにそれぞれキュレーターがいて、プレイリストがあるんですよ。たとえば「New Music Friday」という金曜日に新譜を紹介するプレイリストが、どんな国にもあって。「New Music Friday Japan」とか、「New Music Friday Vietnam」とか、それぞれフォロワー数が違ったり、規模も様々で。そこがいまははっきり分かれていて、日本のアーティストは国内のプレイリストでは聴いてもらえるけど、海外のプレイリストのキュレーターにはなかなか聴いてもらえないということもあったりして。でも今後、その垣根はどんどんなくなっていくんじゃないかなとも思うんです。
Spotify - New Music Friday Japan(Spotifyを開く)
武田:なるほど。未知のリスナーに出会える場。
マイカ:いままでで言うところのCDショップみたいな。自分のPOP展開されてるかな? って、タワレコとかに行って、写真撮ってイエー! みたいなことあるじゃないですか。プレイリストに入るということは、それに代わるような存在だと思います。
武田:マイカさんの楽曲を聴こうと思ったら、いちばん多いのは「新曲のリリースしたよ」的な情報を見て、「マイカ・ルブテ」って打ち込んでみたり、あるいはリンクを叩いて直接聴きに来る。これはマイカさんに対して能動的なリスナーのたどり着き方だよね。だけれども、まったく知らない人がニューリリース的なプレイリストを適当にチェックしていたときに、「あ、なんかこれいいな」みたいな。とりあえずファボって、あとでしっかりチェックしてみようみたいなときにマッチングするわけだよね。
マイカ:そうですね。
武田:これはリスナー側からしても出会いの場だと、とても思うんですよ。よくぼくはSpotifyのムードとかで選ぶプレイリストのなかから、気になったものをファボして、あとから聴きに行ったり、未知のものに偶然出会える機能がやっぱりあって。
長井:しかも曲数がめっちゃ多いじゃん。CDとかの時代と比べて。だから、私は何を聴きたいのかわからなくなっちゃうの。そういうときにプレイリストがあると助かりますよね。「お腹すいた」とか「お風呂あがり」とか入れると、知らない人が作ったお風呂あがりのプレイリストが出てきたり。「あ、なんか同じ感じ」って、知らない人だけど気が合うなと思えたり。
Spotify - お風呂あがりにホットミルクを飲みながら。(Spotifyを開く)
「助けてくれる人が多いほうが、なんとなくよさそうだ」みたいなのは、完全に幻想(マイカ・ルブテ)
武田:あと、もう一個マイカさんの年表話のときに気になったのが、「アーティストの自由」っていうフレーズがあったと思うの。いわゆるレコード会社との契約のいろんな定めによって、コントロールされちゃう部分があると思うんだけど、こういったディストリビューションサービスを使うと、自由になる部分が多くなると思うんです。マイカちゃん的に「ここの自由が自分はほしかったんだ」とか、いま確保できていてうれしいところはありますか?
マイカ:いちばんはリリースの時期ですかね。曲って、作ってから「いま出したい」とか「ここで出したいんだ」っていうのがあって。たとえばアルバムができるじゃないですか。それを本当にシンプルな思考で「出したいから出す。以上」。本来それでいいはずなんですけど。
長井:そうですよね!
武田:急に共感したね(笑)。
マイカ:出したいけど誰かが承認してくれないとか、誰かが反対してるとか、そこにサポートがないと出せないみたいな、腰が重くなっちゃう感じが排除されて、すごいシンプルに行動ができる。その部分がアーティストにとっては、すごい精神衛生上いいことだと思うんです。
長井:素敵だと思う。ただちょっとやりたいって思っただけなのに、よくわからない会議が必要みたいなことってあるじゃないですか。会議中、私は何を考えて待ってればいいんだろうって。
マイカ:それは本当に様々だとは思うんです。その会議で「いや、あなたの売り方を考えるんや」「この作品を届けるために知恵をみんなで絞るんじゃないか」って言われたら、「そうですよね」って言うしかない。それがうまくいってるチームだったらいいと思うんですよ。お互いに信頼し合えていて、アイディアが相乗効果でワーっとなるようなチームなら、その会議はすごく意味あると思うんですけど、「助けてくれる人が多いほうが、なんとなくよさそうだ」みたいなのは、完全に幻想だと思います。
武田:船頭多くして船山に登るみたいな話ですよね。想定していたルートなんかたどり着けなくて、船なのに山の上に行っちゃったみたいな。謎のおじさんたちが会議にめちゃくちゃいる問題は、たぶんいろんな業界にあるし、自分もそういう立場になっていないかな、嫌だなと思ったりするんだけど、クリエイティブの現場において、「それ全然クリエイティブじゃない……」問題みたいなことは横たわってるわけで。
長井:心配したり、いろいろ確認するのって超大事だけど、心配のあまり石橋を叩きすぎて、本来必要な回数を叩いている分には、その橋は折れなかったのに、お前の叩きすぎで折れたよみたいな(笑)。
武田:なんかことわざにことわざで返す、ことわざバトルターンになったけど(笑)。
長井:はははは! ごめんなさいね(笑)。
モジュールを「コントロールできるチームさえ組めれば、アーティストとして長く健康的にやっていける状況になっている」(本田)
武田:これまでディストリビューションサービスにプロモーション機能がなかったという問題があったとしたら、逆にそれが実装されたいまは、例えば旧来型のレコード会社によるプロモーションプランが適切じゃなかった、という課題が解決されることもあるわけですよね。次郎さん、このあたりは自立したチームをうまく組むことさえできれば、あるいはTuneCore Japanさんが提供しているサポートをうまく活用すれば、より創作活動やプロモーション活動がスムーズになることも考えられるっていうことですかね?
本田:そうですね。いまはブロック分けできる世界になったというか。昔は大きな会社が、そのブロックを全部持っていたんですけど、いまは配信はTuneCore Japanを使えばいい、情報の発信はSNSを使えばいい、資金を集めるのはMOTION GALLERYを使えばいいとか、モジュールが分かれるようになってて。それをコントロールできるチームさえ組めれば、アーティストとして長く健康的にやっていける状況になっているのかなって。
武田:使えるツールがいっぱいあるからこそ、次郎さんが言うところのモジュールをうまく組み合わせて、アッセンブルして使えるチームが、どういうふうに作れるかが、次のクリエイションの重要なポイントのような気もしてきましたが、一旦、今回はこのあたりまでということで。
でもね、これどんどん面白くなってきそう。ぼくも話を聞きながらどんどんジェスチャーが大きくなって、ワクワクしてきちゃってるんですけど、次回も引き続きマイカ・ルブテさんと本田次郎さんにお話をうかがっていきたいと思います。
MOTION GALLERY CROSSING #044 特集『インディ・ミュージックの現在地』section2を聴く(Spotifyを開く)
2週目の配信はここまで。そして3~4週目ではマイカ・ルブテが実際にどのようなチーム作りをして活動しているのかについてや、本田次郎が編集長を務める『THE MAGAZINE』についてなど、さらに深堀りしたトークが繰り広げられた。ぜひポッドキャストで全編を聞いてほしい。
- 番組情報
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- 『MOTION GALLERY CROSSING』
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編集者の武田俊と演劇モデルの長井短が「これからの文化と社会のはなし」をゲストとともに掘り下げていく、日本最大級のクラウドファンディングサイト「MOTION GALLERY」によるポッドキャスト番組。毎月テーマに沿ったゲストトークが行なわれるほか、「MOTION GALLERY」で進行中の注目プロジェクトも紹介。東京・九段下の登録有形文化財「九段ハウス」で収録され、毎週水曜に最新回が公開されている。
- プロフィール
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- 武田俊 (たけだ しゅん)
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1986年、名古屋市生まれ。編集者、メディアリサーチャー。株式会社まちづクリエイティブ・チーフエディター。BONUS TRACK・チーフエディター。法政大学文学部兼任講師。大学在学中にインディペンデントマガジン『界遊』を創刊。編集者・ライターとして活動を始める。2011年、代表としてメディアプロダクション・KAI-YOU,LLC.を設立。2014年、同社退社以降『TOweb』『ROOMIE』『lute』などカルチャー・ライフスタイル領域のWebマガジンにて編集長を歴任。2019年より、JFN「ON THE PLANET」月曜パーソナリティを担当。メディア研究とその実践を主とし、様々な企業のメディアを活用したプロジェクトに関わる。
- 長井短 (ながい みじか)
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1993年生まれ、東京都出身。「演劇モデル」と称し、雑誌、舞台、バラエティ番組、テレビドラマ、映画など幅広く活躍する。読者と同じ目線で感情を丁寧に綴りながらもパンチが効いた文章も人気があり、様々な媒体に寄稿。近年の主な出演作品として『書けないッ!?~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~』『真夏の少年~19452020』『家売る女の逆襲』、舞台KERA×CROSS第二弾『グッドバイ』、今泉力哉と玉田企画『街の下で』、映画『あの日々の話』『耳を腐らせるほどの愛』などがある。執筆業では恋愛メディアAMにて『内緒にしといて』、yom yomにて『友達なんて100人もいらない』、幻冬舎プラスにて『キリ番踏んだら私のターン』を連載。2020年に初の著書『内緒にしといて』(晶文社)上梓。
- Maika Loubté (まいか るぶて)
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シンガーソングライター/トラックメーカー/DJ。幼少期から10代を日本・パリ・香港で過ごし、ビンテージアナログシンセサイザーとの出会いからエレクトロニックミュージックの影響を受ける。EAでの活動を経て2016年にソロ名義で活動を始め、ライブ出演・DJ・楽曲提供・CM歌唱提供・ナレーションなどで、agnès b・SHISEIDO・GAPなど様々なブランドとのコラボレーションも行う。台湾・中国・香港・韓国・タイ・フランス・スペインなどでのフェス出演・ツアーを行うなど国外でも活動中。
- 本田次郎 (ほんだ じろう)
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1977年生まれ。音楽デジタルディストリビューションサービス「TuneCore Japan」ディレクター兼TuneCore Japan運営のウェブメディア「THE MAGAZINE」編集長。自身での音楽活動、音楽メディア編集者、スタートアップ立ち上げなどのキャリアを経て、現在はTuneCore JapanおよびTHE MAGAZINEにてストリーミング時代にインディペンデントアーティストがサステナブルかつチャレンジングな音楽活動ができるためのコンテンツ、プロジェクト、情報発信を手がける。
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