オンラインライブにも関わらず、100名限定で、福岡から配信された『Studio LIVE ORANGE vol.1』。オープニングを飾ったのはASOBOiSM
去る3月20日、音楽のパッケージ販売 / 配信のディストリビューションを行っている「The Orchad Japan」の企画によるオンラインライブイベント 『Studio LIVE ORANGE vol.1』が開催された。
MCにZoomgalsの活動も話題のシンガーソングライター・ASOBOiSMを起用し、ライブゲストには4ピースバンド、クレナズムと、ソロアーティスト・Doul(ダウル)という福岡在住の2組のアーティストが出演したこのイベント。「オンライン」といってもチケットは100名限定で販売され、配信ライブでありながら現地の模様を見ることができたのは非常に限られた人のみ。キャパシティの関係ないオンラインライブであればチケットは無制限で販売できるにも関わらず、『Studio LIVE ORANGE vol.1』には心地よく閉ざされた時間が流れていた。
またライブだけでなく、アーティストのトークセクションも設けたイベント構成は単なる「ライブ配信」の枠に収まらないメディアとしての広がりを感じさせるものであったと同時に、今回は、ライブに出演するアーティストのブッキングも、音楽性的なジャンルではなく、福岡という地域性に根差しており、とても作り手の意思を感じさせるものだった。
イベントは、MCを務めるASOBOiSMによる“あまのじゃく”のライブパフォーマンスで幕を開けた。メロウなトラックに乗せて、世間の既成概念への疑問符と、自分の人生を生きる決意をあくまでも軽やかに綴るこの曲は、このイベントが目指す方向性を指し示しているようでもあった。
活動に関するあらゆるクリエイティブをセルフプロデュースする17歳、Doulとのトークセッション
曲が終わるとASOBOiSMとDoulのトークへ。作詞、作曲、アレンジ、演奏だけでなくヘアメイクやスタイリング、映像制作なども自身でプロデュースする現在17歳のDoulは、この日はデヴィッド・ボウイや宝塚の男役を彷彿とさせるような、ジェンダーレスかつ耽美でパンキッシュな出で立ちで登場。
ASOBOiSMの質問に答えて、「(ファッションは)誰かを参考にすることは全然なく、ハイブランド系のファッション誌で見たイメージをもとに、自分で古着屋に行って探してコーディネートする」「(楽曲が英詞である理由は)生まれたときから英語の曲と洋画にしか触れていなかったから、耳馴染みがいいのは英語の曲」「音楽以外でやっていることは、滑ること(※スケートボード、インラインスケートのこと)。少林寺拳法やキックボクシングもやっている」「将来はアメリカや、いろんな国に行きたい。今はまだ、気持ちはいつも他のどこかにいるけど、体が福岡にいる状態」……など、未だ謎の多いそのマルチカルチュラルな人物像の一部を垣間見せていた。
TikTokでも人気を集めるシューゲイズバンド・クレナズムの蒼い心象を垣間見た、ライブ&トークセッション
Doulのトークセクションが終わると、スタジオでクレナズムのライブが始まる。シューゲイザーやドリームポップをルーツに持つ硬派な音楽性ながら、最近はTikTokなどでも人気が高いという彼ら。その音楽が内包する抒情性や切実さが、今を生きる若者たちの心象にリンクしていることの表れだろう。
1曲目の“白い記憶”から、強烈に視覚イメージを呼び起こさせるようなバンドサウンドで、独自の空間を作り上げていく。去年リリースされて話題になった“ひとり残らず睨みつけて”や、3月24日に配信リリースされた新曲“酔生夢死”なども披露。萌映(Vo,Gt)の存在感のある歌声を中心に、疾走感や焦燥感を感じさせるものから壮大な情景を描くものまで、多彩な音楽的情景を生み出していくアンサンブルは、ラストの“青を見る”において、ノイズと叫びが混ざり合う、激しくも儚い音世界に到達。感情と音楽の渦巻くステージに幕を下ろした。
クレナズムの演奏が終わると、萌映とASOBOiSMのトークへ。この日のクレナズムのライブを「命を燃やしているようだった」と評するASOBOiSMと萌映の対話は、バンド結成の経緯から楽曲制作のこと、さらにコロナ禍におけるバンド活動の在り方などに話が及ぶ。クレナズムは去年、福岡エリアの対象のライブハウスを支援するためのプロジェクト「Make With Music」を、地元を同じくするアーティストたちと共に立ち上げていた。
他にも「BUMP OF CHICKENを感じた」というASOBOiSMの感想からの音楽的ルーツの話、さらに「(バンドのソングライティングに関して)自分の曲じゃない方が歌いやすい。自分の歌詞だと感情が入り乱れすぎてしまう葛藤がある」「(“ひとり残らず睨みつけて”に関して)歌詞はけんじろう(Gt)の実体験」「(新曲“酔生夢死”に関して)タイトルの言葉自体の意味合いは『何もせずに虚しく一生を過ごす』というものだが、曲に込めたのは『現状を一緒に頑張ろう』というポジティブなメッセージ。今の世の中に疲れてしまっている人に聴いてもらいたい」……など萌映の話も興味深く、クレナズムを深堀りするトークを繰り広げた。
その異彩さはファッションやトークではない。自然体でありながら堂々としたDoulのライブパフォーマンス
そして、イベントの締めを飾ったのはDoulのライブパフォーマンス。1曲目“Dearest Frienads”を倉庫のような、機械室のような場所で披露し、そこから螺旋階段を下りてステージに登場、“Howl”を披露……という流れは、本人の美しく威風堂々とした佇まいも含めて、「絵になる」という言葉を体現するような、まるで映画でも見ているかのようなクールさ。
さらに、これらの序盤に披露された楽曲は打ち込みのトラックをバックに歌われるものだったが、ライブ中盤にはギターの弾き語りも披露するなど、音楽家としての筋力の高さを感じさせるステージング。ラストには新曲“The Time Has Come”、そして世界的に話題になったデビュー曲“16yrs”を披露し、その若く鮮烈な存在感を刻み付けた。
本編終了後にはTikTokでアフタートークを行うという、メディアミックスの仕方も現代的な『Studio LIVE ORANGE』。ジャンルの壁やアーティスト同士の距離感など、既存の価値観を崩していくイベントの今後の展開にも更に期待が高まる。
- イベント情報
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- 『Studio LIVE ORANGE vol.1』
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2021年3月20日(土)
出演:
ASOBOiSM
クレナズム
Doul
- プロフィール
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- ASOBOiSM (アソボイズム)
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1994年生まれ、横浜市戸塚区育ちのソングライター / シンガー / ラッパー。飾り気ないOLライフを遊び心あふれる歌&ラップで描いたガールシティポップで、2018年より怒涛の配信シングルを発表。なみちえやサイプレス上野らラッパーとのコラボも注目を集めたほか、『ねこねこ日本史』(NHK Eテレ)やアイドル・神宿などへのジャンルを超えた楽曲提供で「作家」としても高く評価されている。
- クレナズム
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大学の同級生で結成された4人組ロックバンド。2018年5月より活動を開始し、同年9月には『りんご音楽祭2018』に出演。2020年11月、3rdミニアルバム『eyes on you』をリリース。2021年3月24日には新曲『酔生夢死』を発表した。シューゲイザーやドリームポップに影響を受けたサウンドで福岡市を拠点に活動中。
- Doul (ダウル)
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2003年生まれ、福岡県出身。歌唱、作詞、作曲、アレンジ、楽器演奏、ヘアメイク、スタイリング、映像制作など全てをプロデュース。2020年、9月16日に配信シングル『16yrs』でデビュー。世界90か国で再生され、3,000以上のプレイリスト入りを果たす。2021年3月17日、シングル『The Time Has Come』をリリースした。
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