amazarashiのライブが今の日本で最も刺激的で、クリエイティブな現場のひとつであることは間違いない。ステージの前方に大きなスクリーンが張られ、そこに映し出される様々な映像と、そのバックで演奏する秋田ひろむを中心とする5人編成のバンド、さらには照明や音響も含めた演出効果が一体となって作り出されるメディアアート、それがamazarashiのライブなのである。
秋田の作り出す楽曲自体はとても人間くさいものであり、一度は挫折を経験しながらも、それでも音楽をあきらめなかった彼自身の個人史と、現代の社会が持つ構造的な不条理や、現代人の抱える精神的な不安定さを鋭く突いた言葉が同居したものである。そんなamazarashiの音楽が内包する小さな物語と大きな物語の振れ幅を、歌詞・アニメーション・実写・CGの組み合わさった映像がより拡大し、観る者のイマジネーションを強く刺激するのだ。
僕がamazarashiのライブを観るのは3回目だったのだが、この日はサラウンドシステムを用いて音響効果の充実を図るなど、観る度に演出がアップデートされていくのも見事。時節柄、冬や雪に関する曲がライブのアタマとラストに印象的に配置され(秋田が北国の出身であることも関係しているだろう)、中でもスノードームの映像がパッと切り替わると、ステージ上に実際の雪が降り出す“真っ白な世界”の演出は特に美しかった。
また、amazarashiのライブは、フィジカルであることが求められがちなライブの現場に対するオルタナティブを示しているという点でも、大きな意味があるように思う。今お客さんの入るバンドのライブというのは、「のれる」「踊れる」「盛り上がれる」といったフィジカルな側面を重視したものが多く、どうしてもその方向にバンドの表現が引っ張られがちな傾向がある。amazarashiもバンドの形態自体はオーソドックスなロックバンドであり、もしも普通のライブを展開していたら、「どうやってオーディエンスを盛り上げるか」という命題と向き合わざるを得なかったかもしれない。
しかし、ホール公演におけるamazarashiのオーディエンスは全員が着席し、音と言葉と映像の世界に誰もがどっぷりとつかっている。お決まりのアンコールもなく、最後の曲が終わると同時に会場が明るくなり、現実へと引き戻される感じは、まさに映画と同じ。決してフィジカルなだけではなく、空間にひたすら圧倒されるという経験もまた、ライブの醍醐味なのだ。バンドのイメージこそ異なるものの、同じように映像を用い、寒い地域の出身らしい厳しくも暖かみのあるライブをするという意味では、SIGUR ROSのライブあたり、似たような経験だと言えるかもしれない。
ちなみに、この日のライブはamazarashiにとって初のライブDVD『0.7』の発売に合わせたものであり、そのDVDについても触れておこう。今年の夏にZepp DiverCity TOKYOで行われたライブを中心とした『0.7』は、スクリーン越しや背後からの撮影が多いとはいえ、実際に演奏するメンバーの姿が多く映し出されていることが特徴。基本的に、現場ではシルエットぐらいしかメンバーの姿はわからないので、映像の方がよりバンドのライブであることが感じられるという、不思議な逆転現象が起こっていて面白い。とはいえ、やはりamazarashiのライブはあの大きなスクリーンと共に味わうのが一番であることは間違いなく、未見の人はDVDを入り口に、ぜひとも会場に足を運んでみてほしい。
- リリース情報
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- amazarashi
『0.7』初回限定盤(DVD+CD) -
2012年11月28日発売
価格:4,500円(税込)
AIBL-92521. #1
2. .ポエジー
3. ラブソング
4. ナガルナガル
5. 空っぽの空に潰される
6. 無題
7. #2
8. 逃避行
9. アポロジー
10. 光、再考
11. 少年少女
12. カルマ
13. #3
14. 隅田川
15. アイスクリーム
16. 夏を待っていました
17. ハルルソラ
18. #4
19. ナモナキヒト
20. #5
21. #6
22. LIVE 「千年幸福論」
23. 美しき思い出
24. ピアノ泥棒
25. 千年幸福論
- amazarashi
- プロフィール
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- amazarashi
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青森県むつ市在住の秋田ひろむを中心としたバンド。2012年6月、アルバム『ラブソング』をリリース。2012年11月28日には、ライブDVD『0.7』を発表。2012年7月に東京・お台場のZepp Divercity Tokyoで開催されたワンマンライブ『ごめんなさい ちゃんといえるかな』からの映像を中心に、他公演のライブ映像や秋田ひろむによる朗読詩、自身ゆかりの地で撮影された映像などが収められている。
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