日本のクラブカルチャーとは違う、ヨーロッパのクラブカルチャーの熱気

「ビジネス」の場としても機能している世界最大級のダンスミュージック見本市

『Amsterdam Dance Event』会場の様子 Photo by Tsuyoshi Yamada , De Fotomeisjes (RA)
『Amsterdam Dance Event』会場の様子 Photo by Tsuyoshi Yamada , De Fotomeisjes (RA)

オランダの首都であり、ダンスミュージックを国の文化の一部として様々な形で取り入れているアムステルダム。そんなアムステルダムで10月に開催された世界最大級のダンスミュージック見本市『Amsterdam Dance Event』(以下、『ADE』)の現地リポートをお届けしたい。

まるでディズニーランドの中にいるようなキッチュでかわいらしい建物が並び、セントラル駅の広場、運河に掛かる橋の上、会場前など街のあちこちに『ADE』のロゴが記された旗が掲げられ、街をあげてフェスティバルを歓迎しているように感じた。昼間開催されているカンファレンス会場前は、世界中から集まったビジネスチャンスを求めた音楽業界関係者たちで溢れかえっている。今回は夜のパーティーをメインに取材に来たため、カンファレンスには参加しなかったが、想像以上に「ビジネス」の場であることを実感した。今回『ADE』オフィシャルの中で、唯一の日本人オーガナイザーとしてパーティーを開催したアムステルダム在住のKnock氏は語る。「3,000人以上入るいわゆる大箱のクラブが多数存在するアムスにおいて、野外フェスを含むビッグイベントは他にも多数ある。しかし、世界中のレーベルが一同に集結し、ビジネスチャンスを掴めるのはこの『ADE』でしかない。昼間のカンファレンスにこそ参加する意義がある」。

リッチー・ホゥティンがスペシャルシークレットゲストの「フリーパーティー」

『Amsterdam Dance Event』会場の様子 Photo by Tsuyoshi Yamada , De Fotomeisjes (RA)
Photo by Tsuyoshi Yamada , De Fotomeisjes (RA)

アムステムダムはとにかくベニューのスケール、クオリティーが違う。現地Red Bull社のスタッフに会うために向かったPllekはセントラル駅から無料フェリーで運河を越えたノールト地区にある巨大倉庫のようなレストランだったが、ここではリッチー・ホゥティンがスペシャルシークレットゲストというフリーパーティーが行われていた。外のオープンスペースだけでも3,000人以上は収容出来る広さをほぼ埋め尽くすオーディエンスで、DJブースは全く見えない。テーブルやイスの上に登って踊る人々、フェンスを乗り越えて運河の水しぶきを浴びながら踊る人々、この日は一日曇り空だったが、肌寒さを忘れるほどの開放感で、この場所で夏にパーティーをやれたらどんなに気持ちいいだろうと思った。周辺のグラフィティーだらけの廃虚ビル、何もないガランとした広大な空き地、風に舞う砂ぼこり、それらが4つ打ちと妙にマッチングしていて、もっとアンダーグラウンドでディープなパーティーで再度体感したいベニューだった。

何もかもが完璧だった、『RBMA & TROUW PRES. HENRIK SCHWARZ & DARKSIDE』

メイン取材の1つであった『RBMA & TROUW PRES. HENRIK SCHWARZ & DARKSIDE』は、数年前からヘンリック・シュワルツが制作している、自身の楽曲をオーケストラ用に作り直し、いわばクラシックとして発表する試みで、先日日本でも『Red Bull Music Academy Weekender in Tokyo』のオープニングとして築地本願寺で披露された。4つ打ちには絶対不可欠であるドラムとベースを全て取り除いているというから言葉だけでは想像が付かない。

まず、会場となったCONCERTGEBOUWの美しさにはため息が出た。普段は世界有数の交響楽団が演奏をしているまさに宮殿で、社交界や、メゾンブランドのランウェイショーやパーティーがピッタリとハマる豪華さと品の良さ。360°音が響き渡るように作られたホール、計算しつくされたスピーカーの配置、照明、観客席の配置、何もかもが完璧だった。近くで実際に観るオーケストラは、指揮者の指先に全神経が集中し、演奏者の滑らかな指先から奏でられる繊細な音、オケが一体となった時の圧倒的なパワーと全会場に駆け抜ける音。それの1つ1つが全身に響いて終始鳥肌が止まらなかった。

アムステルダム最高峰のクラブ「Trouw」

ウェブマガジン「RA」のパーティーが行われていたのは、一番注目していたクラブTrouw。入った瞬間、軍艦とWarehouse702を合わせたようなその迫力とスケールの大きさに驚く。ドアポリシーこそないが、ベルリンのBerghainを思わせる玄人向けの空気感も漂う。2階のメインフロアはこれでもかというぐらい縦長で、Funktion One(スピーカー)が上から吊るされ、音響や雰囲気はどこにいても抜群。バーもあちこちに設置され、スモーキングエリア、チルエリア、レストランラウンジ、物販エリアなどとにかく広い。着いた時には1階のフロアーでMotor City Drum Ensembleのホットなプレイ。背の高いヨーロッパ人を掻き分けながらどうにか見える位置に辿り着いた時にはすでに汗だく状態。1階のフロアーでも充分広いのにその倍以上はある2階のフロアーではピーター・ヴァン・ホーセンがロングセット。続いて、すでに大御所の貫禄と人気を放つRødhådが登場し、外見の男らしさに見合った力強いテクノでフロアを引っ張っていく。長時間踊っていても飽きが来るどころかどんどん引き込まれていき、目を瞑って音にハマっていると突然、鳥肌が立つほどのソリッドな変化球ノイズをカットイン。日本には今夏初来日を果たしたばかりだが、10年以上のキャリアと耳の肥えたベルリンのクラバー達から熱い支持を得ていることに改めて納得した。

唯一日本人オーガナイズパーティーが行われた「Toren」

Torenで開催されていたWAKYO&VASTのパーティーの様子 Photo by Tsuyoshi Yamada , De Fotomeisjes (RA)
Photo by Tsuyoshi Yamada , De Fotomeisjes (RA)

運河を結ぶ無料フェリーに再び乗り、降り立ったすぐ先にあるTorenで開催されていたWAKYO&VASTのパーティーへ。先に述べた通り、『ADE』オフィシャルパーティーの中で唯一の日本人オーガナイズとなったこのパーティーは、SUSHIとSAKEが振る舞われる中、A Guy Called Geraldが3時間のエクスクルーシブセットを披露。今夏にオープンしたばかりのTorenは、オーガナイザーであるKnock氏が以前からパーティーをやりたいと思っていた場所で、タイミングが『ADE』と重なったこともあり、正式な段取りを踏んで、開催へと至った。『ADE』のオフィシャルパーティーとして認定されるには、『ADE』に企画書を提出し、審査を通過する必要がある。こういった情報からも、『ADE』がいかにダンスミュージックビジネスを真剣に捉えているかが伺える。

Torenは、ガラス張りに高い天井、広々としたラウンジ、壁にはアート作品が展示され、ラグジュアリーなライティングが印象的だ。デコレーションアートが設置されたオープンエリアは天気が良ければとても気持ちが良さそうで、開放的な空間が広がっていた。

A Guy Called Geraldはサンセットパーティーに合わせたライトめなセットからスタートし、深い時間になるにつれて徐々に重低音でディープなセットへ。来場者には日本人も多く、日本人ならではの温かみある演出はとても居心地が良く、緊張しっぱなしだった『ADE』の中で一番ほっと出来た瞬間だった。

日本とヨーロッパのクラブカルチャーの違い

Photo by Tsuyoshi Yamada , De Fotomeisjes (RA)
Photo by Tsuyoshi Yamada , De Fotomeisjes (RA)

今回で18回目となった『ADE』は、アムステルダム市内のクラブ80か所で450のパーティー、2,000組以上のアーティストが出演し、30万人以上という過去最高の動員数を誇った。今年は政府のバックアップがなくなり、メインスポンサーにSamsungが付いたことにより、エントランスフィーの急激な値上がりが気になったが、どのパーティーにおいても必要以上に収容することはせず、音を楽しめる環境を徹底しているように思えた。

海外(特にヨーロッパ)へ行くと、日本とのクラブカルチャーの捉え方の違いを目の当たりにして、落胆させられることがある。求める側であるオーディエンスと受け入れる側であるクラブやアーティスト、そして政府までもが同じ目線でいられるということは、パーティー全体に圧倒的なクオリティーの違いが出る。そのクオリティーは、日本においては奇跡のようにさえ思える。クラブカルチャーの存在が危ぶまれている日本において、自分のルーツになったこのカルチャーを終わらせたくはない。外で学んだ多くのことを自分の言葉で可能な限り伝え、広げていきたいと強く思った。

イベント情報
『Amsterdam Dance Event 2013』

2013年10月16日(水)〜10月20日(日)

プロフィール
宮沢香奈

セレクトショップでのプレス経験を経て、インディペンデントなPR事業をスタート。レーベルやフェスなど音楽PRも手掛けている。その他、フリーライターとして執筆活動も行う。近年ではヨーロッパを中心とした現地取材を行うなど海外での活動の幅を広げている。



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