これまでの人生を振り返って、自分自身を見つめ直すためのアート作品
「人類が地球に生き残るためのプロジェクト」――なんとももっともらしい言葉だが、何が正解と考えるかは人により千差万別だろう。
4月24日、東京ミッドタウンのイベントスペース「アトリウム」にて、伊勢谷友介が代表を務めるREBIRTH PROJECTのアート作品『T in Art「旅は自分を映す鏡である。」』がお披露目され、3日間にわたって展示が行われた。
『T in Art』は世界各地で免税店を手がけるDFSグループのリブランディングにともない、それぞれの地域における著名なアーティストとコラボレーションしたプロジェクト。那覇市内にある国内唯一の路面型免税店「DFSギャラリア 沖縄」が、10周年の節目に「Tギャラリア 沖縄 by DFS」に生まれ変わることを機に、「T」をモチーフにした作品の制作をREBIRTH PROJECTに依頼したことで今回の展示が実現した。なお、東京ミッドタウンでの展示は終了しているが、「Tギャラリア 沖縄 by DFS」では5月31日まで一般公開が行われている。
その作品は、高さ約3メートルにもなるT字型の巨大なオブジェ。鏡面仕様になった板状のユニットをいくつも結合した構造になっており、板状の鏡面を立体的に組み合わせたことで合わせ鏡のような機能も持っている。また、板状のユニットにはT字型のスリット(穴)があり、板の向こう側が覗き見えるようになっていることも特徴。オブジェとしての美しさは素直に目を見張るものだった。
お披露目に先立ち行われたプレス発表では、伊勢谷も登場。今作のモチーフとなった「T」が「Traveler(旅行者)」を意味することから、「旅先では自分がどういうリアクションをしたかで、相手の出方だったり、すべてが変わってくる。旅は自分に対する鏡のようなものであると経験を通して感じてきたので、『旅を通して自分自身を見つめる』ということをテーマに作りました」と作品のコンセプトを説明。さらに「この鏡に写るご自身の顔を眺め直していただいて、どんな顔をされてるか、今までの旅を振り返っていただければ。そして、このTのスリットの先は未来だと思うので、その先に何が見えるのか考えていただければと思います」と、作品の見方についても解説してくれた。
同作品はREBIRTH PROJECTのメンバーであり、デザインオフィス「Leif.designpark(リーフデザインパーク)」の本多恵三郎が発案・デザインし、同じく上野卓史がディレクションを担当。伊勢谷は監修というかたちで携わっているが、ここで少し、REBIRTH PROJECTについての説明もしておいたほうがいいだろう。
ビジネスと環境のバランスについての伊勢谷友介なりの答え
2008年に設立されたREBIRTH PROJECTには、伊勢谷も卒業した東京藝術大学の出身者を中心に、さまざまなクリエイターが集結。冒頭で紹介した「人類が地球に生き残るためのプロジェクト」を標榜し、アートワークの制作や展覧会の開催だけでなく、再生品を活用したプロダクトの制作、さらには米作りまで、多岐にわたる活動を行っている集団だ。
今回の『T in Art』も、そのREBIRTH PROJECTの作品だけに、環境負荷の少ない素材が用いられている。オブジェを構成するボードの表面には、軽量なアルミニウム蒸着鏡面シートを貼り付けているが、芯材には小径木材や端材、間伐材などを原料とした再生中密度繊維板(再生圧縮木材)を使用。その理由について伊勢谷は、「最近は間伐されることが少なくなって、どんどん山が死んでいっているんです。その間伐材を使うことが、未来の環境活動につながっていく」と話す。
山や森にとって余分な木を間引く間伐は、適切な環境維持のために必要とされているが、間伐材は使い道や費用対効果が難しいこともあり、十分には行われていないそう。全国森林組合連合会によると、世界の森林は過度の伐採により面積が減少しているが、日本ではまったく逆の「利用されないことによる危機」に陥っているのだとか。
しかしながら、「人類が地球に生き残るためのプロジェクト」を標榜するREBIRTH PROJECTが、ラグジュアリーの代名詞でもある免税店のアートを手がけるというギャップは実に興味深くもある。これは決して穿った見方をしているのではなく、この日のプレス発表およびお披露目の場で話す伊勢谷の姿は、節々から聡明さと深い思慮を感じさせ、純粋に彼がどんな信念のもとにREBIRTH PROJECTの活動に臨んでいるのか、もっと知りたくなった。
REBIRTH PROJECTのウェブサイトには会社のビジョンとして、「私たち人間がこれまでもたらした環境や社会への影響を見つめ直し、未来における生活を新たなビジネスモデルと共に創造していくために活動」と書かれている。ビジネスと環境の持続可能なバランスについては、冒頭で述べたように人によって感じ方は千差万別で、誰もが納得いくような答えは、そう簡単に(おそらく永遠に)出るものではないだろうが、きっと伊勢谷なりの正解はあるのだろう。伊勢谷はプレス発表の場でREBIRTH PROJECTの活動内容について、「ここでは説明しきれないので、個人的に時間をいただければ説明させていただきたいと思っています」と話していたが、機会あればぜひ彼の考えを詳しく聞いてみたいと強く感じる時間だった。
- イベント情報
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- 『T Galleria Exhibition ~Wish you were here~』
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2014年4月24日(木)~4月26日(土)
会場:東京都 赤坂 東京ミッドタウン アトリウム
- プロフィール
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- REBIRTH PROJECT (りばーす ぷろじぇくと)
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「人類が地球に生き残るためにはどうするべきか?」という命題のもと、人間がこれまでもたらした環境や社会への影響を見つめなおし、未来における生活を新たなビジネスモデルと共に創造していくために活動。代表・伊勢谷友介のもとに、様々な才能を持ったアーティスト・クリエーター・プロデューサーが集結している。2009年に株式会社リバースプロジェクトを設立。衣「HATCH YOU」、食「HOUSE475」、住「THE SPIKE SHOW」をはじめとし、教育・芸術・支援といった社会生活を営むうえで必要とされる分野での活動をクリエイティブな視点から考察・実行している。最終的にはこれらのプロジェクトを統合・組織化することで、「社会彫刻」としての「リバースヴィレッジ」という名の村が形成され、さらに世界各地で展開されることを目指している。
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