『旅ガール、世界をゆく。』第1話:フィリピン ~ゲイと祈りと青い海~

記念すべき1か国目は、英語公用語国人口が世界3位のフィリピンへ

ある日世界地図をぼんやりと眺めていたら、「私がこの世で知っていることは何てちっぽけなんだ!」とふいに眩暈に襲われて、「そうだ、世界へいこう」とCMばりに思い立ったのが今から3年前のこと。実際のところはさておき、でも本当に3年前からこっそりとその準備をし始めて、勇気を出して5年務めた会社を退職し、住んでいたアパートや家具はもちろん、大方の所有物を全て処分して、住所不定・無職28歳(独身)という錚々たる肩書きを手にいれた私は文字通り、身ひとつ(と、カバンがふたつ)で、世界一周へ旅立ちました。

世界地図上の日本

今回から、この旅で訪れる国々で実際に私が見て知ったこと、感じたことなど、今この瞬間の世界のカルチャーをお届けしてゆくことになりました。リアルな実情から意外な一面まで、新たな発見のきっかけになるようなことたちを、ゆるりとお届けしていけたらいいなと思っています。1年以上の長旅ですが、一緒に世界を旅する気分でお付き合いいただけたら嬉しいです。

さて、そんなこんなで記念すべき第1回目!

世界一周の旅1か国目として私が選んだのは、バックパッカーの聖地であるタイでもなく、旅人に人気の南米の地でもなく、どちらかといえば印象の少ない国、フィリピン。私のこの国に対するイメージも、「よくバナナのラベルで見かけるな」ということと、「治安は悪そうだ」ということくらい。とりあえず世界を周る前に英語力を伸ばそうと、実は英語公用語国人口が世界3位らしいこの国で、ただ英語を学ぶという理由だけでやって来ました。

警戒心剥き出しのまま降り立ったマニラの街での出会い

そんな、下調べ不足で警戒心剥き出しの私の肩を透かすように、夜8時に降り立ったマニラの街でまず出会ったのは、フィリピンの人たちの笑顔と優しさ。場所はおろか名前すら調べていなかった宿を全力で探してくれたかと思えば、タクシードライバーは料金をぼったくるどころか、道中ずっと日本語で話しかけてくれて大盛り上がり。あくる日も道に迷っていたら見知らぬフィリピン人が話しかけてくれて、目的地まで連れて行ってくれた後何時間も街を案内してくれた(元の予定は大丈夫だったのでしょうか)。

確かに治安がいいとは言い切れないけれど、でもそれが住まう人々によって形成されるものだとするなら、そのイメージは正しくはなかったと私は言いたい。この国で出会った人たちの誰もがフレンドリーでホスピタリティーが高く、困っている人がいれば助けるのだということを、ごく自然なことのように行う。そしてこの寛容さは、この国のあらゆる面でも垣間見ることができました。

カメラを向ければ、大人子どもにかかわらず自然と笑顔が返ってくる。
カメラを向ければ、大人子どもにかかわらず自然と笑顔が返ってくる。

驚きのゲイ人口! フィリピン人曰く「男性の6割がゲイ」

まず何と言っても私を驚かせたのは、そのゲイの数の多さ。「ゲイと言えばタイ」のイメージが強いですが、フィリピン人曰く男性の6割がゲイ(!)なんだとか。確かに道を歩いていれば、あ、あそこにゲイ、ここにもゲイ、前方からもゲイ、といった風にいつでもどこでも簡単にゲイを見つけることができます(ちなみにフィリピン人女性たちに訊ねてみたら、その全員がゲイの友達がいると答えた)。

多くの国ではマイノリティーなはずの彼ら、しかしこの国では確実に、ゲイや同性愛者が市民権を得ています。彼(彼女)らは自分がゲイであることを隠すことはないし、逆に誇らしげに見えることも多々。でも自らゲイであることをオープンにできるかどうかって、社会の認識が非常に重要で、つまり、この国の人たちはゲイに、あるいは特異な存在に対して、とても寛容なのです。

手を取り合うゲイのカップルたち。
手を取り合うゲイのカップルたち。

なぜフィリピン人は寛容なのか?

このフィリピン人の寛容さは、一体どこから来ているのだろう? と考えていたとき、ひとつ思い当たる節がありました。それが、彼らの例えようもないほどに深い信仰心のこと。実はフィリピンは国民の9割がキリスト教信者というキリスト教大国。そしてそのうちの大半は厳格なカトリック教徒で、必ずと言っていいほど毎週末教会に通う。人々はクロス(十字架)やマリア像をいつも身近に置き、そうそう、ある日乗ったタクシードライバーは、ミサの時間だったのか運転中にバックミラーに吊るしたクロスにそっと手を伸べ、その後自らの胸と唇にそっと手を触れていました。

ご存知の通り日本人の大半は、仏教や神道、キリスト教などの宗教儀礼に参加することはあっても、信仰が深いとは言えず、無宗教だと自認する人がほとんど。そんな私にとって、彼らのその姿はまさにカルチャーショックでした。私たちがよくお正月に神社でするようなあの願掛けとは似て非なるもので、これこそが祈りというもの。今は足りない何かを求める心が「願い」だとすれば、「祈り」とは、今既にあるものへの感謝の心、とでも言えるでしょうか。彼らはカトリックの教えに基づき、見返りを求めない愛や赦すことの何たるかを、日々の中で自然と心に宿しながら生きていました。

サントニーニョとマリアの象。
サントニーニョとマリアの象。

しかし実はここにひとつの矛盾が。なんとカトリックの教えでは、同性愛は罪である(!)とされているのです。では国民の多くが厳格なカトリック教徒であるこの国で、どうしてこんなにもゲイがたくさんいるのか。この事に関しては様々な見方があると思いますが、ひとつ私が思うのは、これもまた、やはり彼らの寛容さによるものなのではないかということ。宗教によってもたらされた思想は今や、この国の豊かな風土と掛けあわさって、彼らのひとつの立派な国民性なのだと。ゆえに、厳しいカトリックの戒律は充分承知の上で、彼らはそれさえも許容しているのだと思うのです。

日本による侵略の歴史もあった

もうひとつ、フィリピンには日本に侵略された歴史があります。調べれば同じ日本人として目を覆いたくなるような悲しい歴史ですが、それにも関わらず、フィリピン人が親日家だと言われることは非常に多いのです。ご存知の通り、侵略の歴史によって今もなお複雑な国交問題を抱える国も多い中、この事にも、私は彼らの寛容さを感じずにはいられませんでした。

勝手にイメージしていた「治安が悪いバナナの国」は、実は笑顔溢れる寛容の国だった――そこにあったのは、自由なゲイカルチャーと、深い祈りを捧げる人々の姿、そして、そんな彼らの寛容さにも似た、どこまでも続く青い海と空。

やっぱり世界はまだまだ知らないことに満ちているなあ。こんな風に、実際に足を踏み入れなければわからないことがたくさんあるのだ。それを身を以て知った今、これから訪れる国々でも、ありのままに伝えていきたいなと改めて思っています。

1年中夏であるフィリピンならではの、美しい海。
1年中夏であるフィリピンならではの、美しい海。

と、いうわけで、次回以降も様々な国のリアルなカルチャーをお届けしていきます。

お次は韓国から。既に知り尽くされているこの国で、どんな意外な一面を発見できるでしょうか。それではまた。

書籍情報
『tasogare times』創刊号

価格:500円(税込、送料込)
A5版・16ページ
世界一周中のtakiがとれたての世界をリアルタイムでお届けする旅マガジン。

プロフィール
瀧あゆみ
瀧あゆみ (たき あゆみ)

1985年生まれ。鳥取市出身。日本大学芸術学部卒業。日本写真学院在学。幼少の頃よりピアノと歌を学び、音楽と共に育つ。卒業後もレコード会社勤務の傍ら、写真、執筆、映像制作などの創作活動を行う。2014年1月より世界一周の旅へ出発。世界の国々を周りながら現地からリアルタイム旅マガジン「tasogare times」発行中。帰国後は関西と東京で写真展を開催する(2015年夏頃)。



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