kz、SKY-HI、斉藤迅が語り合う、デジタル時代に変容していく歌詞のあり方

トークセッションで熱い議論、デジタル時代の歌詞のあり方とは?

デジタルテクノロジーの進化によって音楽はどうなっていくのか? そんなテーマを打ち出した新機軸の音楽フェスティバル『THE BIG PARADE 2014』が、9月13日(土)~15日(月)までの期間、代官山エリア内の複数のライブハウスやホールで同時開催された。期間中には、ライブやクラブイベントに加え、国内外のアーティストやクリエイター、音楽業界関係者などによるトークセッションも実施。刻一刻と変化する音楽メディアの未来について、さまざまな角度からスポットライトが当てられた。

そのなかのひとつ『デジタル時代の歌詞 feat. new product by SIX』では、タイトルにもあるように「歌詞」をテーマに約1時間のトークセッションが行われた。登壇したのは、クリエイティブエンゲージメントエージェンシーSIXのクリエイティブディレクター斉藤迅、livetune主催のkz、SKY-HI名義で活動するラッパー日高光啓の三名。話題は少年時代に影響を受けた歌詞からはじまり、それぞれの楽曲制作時における歌詞の付け方についてへ。それぞれプロデューサー、ラッパーという異なった立場から意見を述べた。

『デジタル時代の歌詞 feat. new product by SIX』の会場風景
『デジタル時代の歌詞 feat. new product by SIX』の会場風景

「自分はプロデュースするという視点で歌詞を考えることが多い。そのなかでアーティストに楽曲を提供する場合は、自意識を捨てて、歌う人のイメージに合わせて歌詞を考える。初音ミクに関して言うとまたちょっと違っていて、彼女は概念のようなものだから、歌詞も人間が歌ったら成立しないようなものになっている。それを人間で誰が歌えるかというと、マイケル・ジャクソンとかその道の頂点の人くらい。人格がないからこそできる歌」(kz)

「定義としての話であれば、ラップはどんなことを歌っても自分の話になる。それがストーリーテリングで、ライオンの歌だったり、少女の歌だったりしても。それは自分が生きてきたなかで培った思想が根底にあってできあがるものだから」(日高)

左から:斉藤迅、日高光啓、kz
左から:斉藤迅、日高光啓、kz

歌詞をインテリアとして楽しめる新プロダクト「Lyric speaker」が登場

そして大きなトピックになったのは、ダウンロードやストリーミング配信の普及によって、歌詞の担う役割が減っているのではないか? という斉藤の問いかけ。それに対してkzからは「今から20年くらい前は、何の気なしにCDコンポの前に座って歌詞カードを見ながら音楽を聴いたりしていたけれど、楽曲がダウンロードできるようになってからは、カラオケで歌いたいからとか、みんなで歌って盛り上がりたいからとか、何かしらの目的がないと歌詞を見なくなっているのではないか」と同調の声があがった。

そうしてトークセッションの後半、「デジタル時代に歌詞をどう楽しむのか」という自身の問いかけに対するひとつのアンサーとして斉藤が用意したのが、SIXが開発に携わった新型スピーカー「Lyric speaker」のコンセプトモデルである。

Lyric speakerコンセプトモデル
Lyric speakerコンセプトモデル

透過型ディスプレイを内蔵したこのBluetoothスピーカー、専用のアプリで楽曲を再生すると、その歌詞が美しいタイポグラフィーでディスプレイに表示される。歌詞を楽しみながら音楽が聴けて、しかもその歌詞がインテリアにもなる、これまでに類を見ないプロダクトなのだ。登壇したkz、SKY-HIの楽曲を利用してデモンストレーションが実施され、二人からは「リリックビデオの到達点」「音楽を見るという選択肢が広がっている」という賛辞が送られた。


歌詞の二極化によって進化する、リスナーの音楽体験

さて、早足で今回のトークセッションについてまとめてしまったわけだが、特に興味深かったのは歌詞の二極化という話題だ。伝えることを極限にまで削ぎ落とすか、逆にこれでもかと詰め込むかということである。たとえばkzのEDMに関する発言に次のようなものがあった。

「今は音楽がよりプリミティブになっている気がする。たとえばEDMだと、極論、歌詞を覚える必要がなくて、サビのところで盛り上がれればいい。Owl City & Carly Rae Jepsenの“Good Time”とかはいい例。また、過去にベルギーの『Tomorrowland』(世界最大級のEDMフェスティバル)に行ったときは、歌詞のないシンセだけが鳴っている場面で全員がメロディーに合わせて歌っているという現象も起きていて、『エレトロニック・ダンス・ミュージック』ならぬ『エレトロニック・大合唱・ミュージック』になっていた(笑)。でも、それってすごく楽しい」(kz)

左から:斉藤迅、SKY-HI、livetune

その一方で、先ほど述べた「伝えたいことを詰め込む」という側面は、BPM速めで言葉がふんだんに盛り込まれた楽曲が近年増えていることに通じている。もちろん、それはただ言葉を詰め込めばいいというわけではない。限られた譜割のなかで、もっとも効果的にメッセージを伝えられる言葉を見つけ出さなければいけないわけだから、楽曲制作者には非常に高度な能力が必要になる。

そのどちらかが良い悪いということではなく、音楽の楽しみ方に広がりが生まれているという点において、これから先の音楽家はそういった土壌のなかで育まれるからこそ、より新たな才能も期待できるはずだ。そうした音楽家たちから生まれた音楽を楽しむリスナー側の体験も、さらにアップデートされていくだろう。

『デジタル時代の歌詞 feat. new product by SIX』の会場風景

日高から「音楽がデジタル化し、歌詞カードが分離されたことによって、歌詞だけを読んでも楽しめる物語性の強い楽曲も増えてきている」という意見があったことからもわかるように、デジタル時代において歌詞の重要性は増している。そのなかにおいて、歌詞をタイポグラフィー化して視覚的にも訴えかけてくるLyric speakerは、リスナーに新たな音楽体験をもたらしてくれるはず。トークセッション中に「リリックビデオの到達点」という言葉があったが、まさにこれからの歌詞のあり方がこのプロダクトに詰まっているのだ。

イベント情報
『THE BIG PARADE』

2014年9月13日(土)~9月15日(月)
会場:東京都 代官山 T-SITE Garden Gallery、Hillside Plaza、Digital Garage、Theatre CYBIRD、UNIT、LOOP、恵比寿 LIQUIDROOM

製品情報
Lyric speaker

モバイルから楽曲を再生するblue toothスピーカー。楽楽曲再生時、透明モニター上にその楽曲の歌詞を美しいタイポグラフィーで表示し、「言葉をインテリアとして楽しむ」ことが可能。2014年9月13日に『THE BIG PARADE』で発表されたLyric speakerは、博報堂グループである株式会社SIXとaircord、THE GUILD、シンクパワー、takcom、博報堂プロダクツと共に開発したコンセプトモデル。将来的には、「歌詞と共に音楽を楽しむスピーカー」というコンセプトの中で、このモデルのほかにProjection type・Wall‐hanging type・Holography typeなども構想中。



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