デザインコンペテーマは「和える」、異なる要素を掛け合わせた作品の数々
今年で7年目を迎えた『Tokyo Midtown Award』の授賞式が10月17日、東京ミッドタウンで行われた。今年はデザインとアートの両コンペに計1429点の応募作品が寄せられ、デザインコンペではhitoeの『和網(わあみ)』、アートコンペでは原田武の『群雄割拠』がグランプリに輝いた。厳しい審査を勝ち抜いた今年の受賞作を駆け足に紹介していこう。
まずは、テーマに「和える」を掲げたデザインコンペから。異なる性質を持った要素を掛け合(和)わせることで生まれるデザインを提案するテーマだが、受賞作もその期待に力強く応えた。
先に述べたようにグランプリは榎本大輔と横山織恵によるクリエイティブチームhitoeの『和網』が受賞した。これは、肉や野菜を焼くための焼き網の模様を「麻の葉」「三崩し」「青海波」などの和柄にデザインしたもの。洋風のステーキであっても、これで焼けば「和テイストに変身!」する楽しさが光る。受賞スピーチで榎本は「(和える、のテーマに対して)自分たちは和えてるのか? 混ぜてるのか? 添えてるのか? それとも揉んでるだけでは?」という問いを、常にチーム内で検証しながらデザインを練り上げていったと述べた。アイデアの本質に客観的な眼差しを向け、完成度を高めていく粘り強さが評価されたと言えるかもしれない。
クリエイティブチーム「85」は、子ども用の雨合羽を鎧武者風にデザインした『鎧カッパ』で準グランプリを受賞。
優秀賞には、山本悠平『kokki(こっき)』、審査員特別賞には、遠藤可奈子『origami tale』、wunit design studio橋本&松井『HARMONACA』、前田紗希『婚鑑ーKONKANー』、泉美菜子『金継ぎ煎餅』、土屋寛恭『おみく枝(おみくじ)』が選ばれた。
上段左:山本悠平『kokki(こっき)』
上段右:遠藤可奈子『origami tale』
中段左:wunit design studio橋本&松井『HARMONACA』
中段右:前田紗希『婚鑑ーKONKANー』
下段左:泉美菜子『金継ぎ煎餅』
下段右:土屋寛恭『おみく枝(おみくじ)』
アートコンペはテーマ「なし」、アーティストの制作行為を見つめ直す新たなチャレンジ
アートコンペでは大きな変化があった。これまで「JAPAN VALUE(新しい日本の価値・感性・才能)」や「都市」をテーマに作品プランを募ってきたのを、今年は「(規定)なし」としたことだ。これは、自らが課したテーマに基づいて作品を変化・発展させていくアーティストにとって自然な制作行為と、特定のテーマに沿って作品を作る公募というあり方が乖離しているのでは、という判断に基づくもので、例年以上に多彩な作品が寄せられた。
グランプリの原田武『群雄割拠』は、どこにでもあるコンクリートブロック風の壁を、鍛金(たんきん)、鋳金(ちゅうきん)などの伝統工芸の技法を用いて再現した作品。壁だけでなく、ブロックの間から顔を覗かせる草花や、壁面に止まった蜘蛛やトンボもすべて金属加工して制作した、いわゆる超絶技法の一作だ。受賞のコメントで「マイナーとされがちな伝統的な表現の魅力を現代に伝えたい」と原田は語った。会期中、東京ミッドタウンを行き来する大勢の人々は作品の精巧さに驚かされることだろう。
工芸性の強いグランプリに対して、準グランプリを受賞した加藤立(かとうりゅう)『TODAY』は、コンセプトを重視した写真作品である。1台の車を撮影した風景写真は、一見すると何の変哲もないものだ。しかし、見るべきは自動車のナンバープレート。授賞式当日(つまり10月17日)のナンバーは「10-17」。そう、この作品のナンバープレートは日付になっているのだ。作者によると、これは写真合成で作ったものではなく、実際に車を探して撮影したものだそうで、毎日異なる写真へと展示替えしていくという。アイデア的には、ダンスの律動が時計の役割を果たす『UNIQLOCK』や、さまざまな映画に登場する時計のシーンをつなぎあわせて24時間の映像時計を作ったクリスチャン・マークレーの『ザ・クロック』を想起するし、労力的には、みうらじゅんが全国津々浦々のレアな漢字278字を採集し般若心経を再現した『アウトドア般若心経』を思い出す。本作が毎日切り替わっていく様子は、作家のウェブサイトでも確認できるので、ぜひチェックしてほしい。
優秀賞には大塚亨『Empty freezer(m12)』、小林万里子『明日へ変わる』、住田衣里『The other』、山田弘幸『欲玉』の4作が選ばれた。
上段左:大塚亨『Empty freezer(m12)』
上段右:小林万里子『明日へ変わる』
下段左:住田衣里『The other』
下段右:山田弘幸『欲玉』
応募者の「本気」を求めるコンペの独自性
デザインとアートの2部門を設け、「JAPAN VALUE」の創造・結集、そして発信を目指すのは同アワードの大きな柱だが、語るべきもう1つの独自性がある。それは、作品発表を実現するまでの「本気」を応募者に求める審査の姿勢だ。
デザインコンペでは、まず将来の商品化を念頭に置いたプレゼンテーションが必要で、受賞者には模型作りも求められる。主催側である東京ミッドタウンも商品化の実現を中~長期的にバックアップする。2008年に学生の部で準グランプリを獲得した『歌舞伎フェイスパック』(受賞時名称: JAPANESE、FACE)のスマッシュヒットは、幸せな成果の1つだろう。
画像:『歌舞伎フェイスパック』(受賞時名称: JAPANESE、FACE)
一方アートコンペは、書類審査の1次、模型によるプレゼンテーションの2次審査を突破した入選者には制作補助費100万円が支給され、公共空間での展示を意識した緻密な制作プランやコンセプトの明晰化が求められる。単に作品を評価し、予算を与え、あとは各人にお任せ! ……ではなく、協力業者への発注見積もりや、長期間の展示に堪えるだけの高い技術水準を作家自身に要請するのは、そのままアーティストとしてのスキルアップにもつながる。『Tokyo Midtown Award』は、クリエイターを顕彰するだけでなく、成長させるというミッションを自らに課したアワードなのだ。今年の受賞者たちから、未来のデザイン&アート界を牽引する才能が現れる、かもしれない。
- イベント情報
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- 『Tokyo Midtown Award 2014』授賞式
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2014年10月17日(金)
[アートコンペ]
テーマ:なし
審査員:
児島やよい
清水敏男
土屋公雄
中山ダイスケ
八谷和彦
[デザインコンペ]
テーマ:「和える」
審査員:
小山薫堂
佐藤卓
柴田文江
原研哉
水野学
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- 『Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2014』
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2014年10月17日(金)~11月3日(月・祝)
会場:東京都 六本木 東京ミッドタウン各所
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