箭内道彦、永井一史らが、現役学生たちと真剣に「今、デザインにできることは何か?」をディスカッション
第一線で活躍するプロのデザイナーから美大生まで、デザインに関わるさまざまな人々が分け隔てなく集結し、白熱したディスカッションが行われる『INTER-DESIGN FORUM』。今年は虎ノ門ヒルズで2日間にわたって開催されたこの無料イベント、2014年のテーマは「PROVOKE=DESIGN『挑発するデザイン』」だった。デザインが、個人を、社会を、世界を挑発し、未来を生み出す可能性が語られたこの2日間。さまざまなトークプログラム、ディスカッションの中から、印象的だった2つのセッションを紹介する。
初日となった、3連休中の10月12日。午前11時からさっそく始まったプログラム「円卓会議:挑発するデザイン1」では、クリエイティブディレクターの箭内道彦、アートディレクターの永井一史、建築家の團紀彦という三人に対して、現役の美大生たちが、それぞれの「デザイン観」に関するプレゼンテーションを行い、世代を超えた意見がぶつかった。「7割くらいヨイショしつつ、3割くらいは芽を摘むつもり(笑)」と冗談めかしながら箭内は語っていたが、学生たちのプレゼンを聞く視線は真剣そのもの。世代の異なる今の学生たちが、どのようにデザインを捉え、デザインに何を求めているのかは、シーンの最先端で活躍する彼らにとっても新たな刺激となっているようだった。
学生たちのプレゼンから見える、従来のデザインから、「コミュニケーション」や「地域」を重要視するデザインへの傾向
学生たちのプレゼンを聞いていて印象的だったのは、モノを美しく見せたり、かっこよさで憧れを抱かせるといった従来型の「デザイン」概念ではなく、「コミュニケーション」や「地域」を重要視する「デザイン」概念への傾向が見られたことだ。
テーブル左から、箭内道彦(左)、永井一史(中央)、團紀彦(右)
耳が聞こえず人工内耳に頼って生活をしているという多摩美術大学の上田昴輝さんは、「聞こえ」をテーマとした写真作品をプレゼン。難聴者が活用する読唇術にヒントを得て、マフラーを巻きながら「ま」の形の唇を、ぬいぐるみを抱えながら「ぬ」の形の唇を撮影している。一見では、健常者には理解が難しい作品だが、「マジョリティーの顔色を伺ったデザインが多すぎるのではないかと違和感を感じています。普通の人ではなく、あえて耳が聞こえない人が共感できるものを作りました」と、既存のデザインをまさに「挑発」した。
泥谷(ひじや)夏輝さんは、大分の大学で地域デザインを学び、武蔵野美術大学に編入。「ムサビに入って驚いたのが、パッケージなどの表層的な表現ではなく、企画の深い部分から考えることです。デザインを通して人と人とがどれくらい豊かに生活できるかを発想しています」という泥谷さん。地元・別府でのコミュニケーションを促す「温泉カフェ」という企画をプレゼンし、温泉から上がった後も、地域の人々が触れ合いを促す仕組みを提案した。
「僕が若い頃は『金持ちになりたい』『有名になりたい』と、もっとよこしまな気持ちがあった。デザイナーという仕事は、基本的に『楽しい仕事』であるということを忘れてほしくないですね」(箭内)
しかし、第一線で活躍するデザイナーの目は甘くない。永井は「それぞれに学ぶポイントはあるけど、惜しい感じのプレゼンが多かった」と総評を語る。
「デザインが社会の中で機能するためには『思い』『アイデア』『表現』『実行力』の4つが揃っていないとダメ。それぞれの要素としては刺激のあるものが多かったけど、正直、まだ何かが欠けていて惜しいと思うものばかり。今感じている思いを忘れずに、社会に出て足りない要素を補っていってほしい」
とアドバイス。また箭内は、永井とは別の方向からエールを送る。
「10年くらい前から、『誰かの役に立ちたい』『自分にできることは?』と、若い人たちがどんどん純真になっているように感じます。けれども、僕が若い頃は『金持ちになりたい』『有名になりたい』と、もっとよこしまな気持ちがあった。若い人に期待する気持ちもありますが、重い荷物を背負わされているのではないかと心配になることもあります。デザイナーという仕事は、基本的に『楽しい仕事』であるということを忘れてほしくないですね」
これからのクリエイティブには、文理両方の素養を持った人間が必要。バスキュールとPARTYによる新しい「デザイン教育」
一方2日目、10月13日閉会前の夕方に行なわれたトークセッション『BAPA新しいデザイン教育』では、デザインの「未来」を考えるために、今後の教育問題についても議論が交わされた。
朴正義率いるインタラクティブ・クリエイティブカンパニー「バスキュール」と、NIKEや無印良品などの広告を手がけるクリエイティブディレクター・伊藤直樹率いる「PARTY」では、2014年3月より、デザインとプログラミングの両方をフォローする新しいタイプのクリエイターを創出するための学校「BAPA」を開校。アイデア出しから制作まで、現役のデザイナーやプログラマーの支援を仰ぎながら、徹底的に実務を学んでいくカリキュラムの様子を紹介した。
「現在の教育は文系・理系という枠組みから抜けだしていません。けれども、BAPAでは、文理両方の素養を持った人間が必要だと考えています。数学を諦めてしまうと、フィジカルコンピューティングが何なのかまるでわかりません。文理の壁を乗り越えて突破できる人間を探したいんです」
と伊藤。デザインとテクノロジーの境界が曖昧になった現代だからこそ、最先端のクリエイティブの現場では、BAPAが目指すような横断的なスキルを持つ人材が求められているようだ。
進行を担当した、CMディレクターの中島信也はBAPAの哲学を受けて、
「義務教育における美術のカリキュラムも『デザイン』し直すべきかもしれません。デザインは算数や国語、社会などを含む問題であり、世の中の枠組みや人の生き方を作っていくもの。そのようなデザインの可能性を僕らが伝えていくべきではないでしょうか」
と提言。来場者にとっても、BAPAの教育事例を通じて、社会におけるデザインの価値をあらためて考えるきっかけとなったようだ。
生活や仕事の延長として、誰もがデザインを必要とする時代はもう近い
そして、2日間のフォーラムの最後に、主催する日本文化デザインフォーラム副理事長の建築家・プロダクトデザイナーの黒川雅之が語ったのは、「挑発」というテーマに込めた思いだった。
「デザインに限らず、『挑発』というのはとても大切なことです。民族が同じであっても人はそれぞれ生活も記憶もまったく違います。そのような人々がどのように同じ思いを持つことができるのか? 『挑発』をきっかけとしたコミュニケーションによって、共感、共振、反発を生み出し、人と人を結びつけられることができるのではないでしょうか」
趣味趣向が細分化された現代において、人と人を結びつけるデザインのコミュニケーション機能は、ますます重要性を増している。これから、どのような未来を作っていくのか、どのように私たちは生きていくのか? 人間なら誰もが考えざるをえない問題の解決に、デザインの果たす役割は大きい。そして、それは生活や仕事の延長として、誰もがデザインを必要とし、デザインをしていかなければならない時代の到来を意味するのではないか。そんなことを考えさせられた2日間であった。
- イベント情報
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- 『INTER-DESIGN FORUM TOKYO 2014』
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2014年10月12日(日)、10月13日(月・祝)
会場:東京都 虎ノ門ヒルズ 5階 ホールA
料金:無料
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