なぜKISSは、ももいろクロ―バーZと対等にコラボすることを選んだのか?

ロックレジェンドが日本市場で人気を取り戻す方法

KISSのライブでは、観客の多くがとても完璧とは言えない白塗りメイクを施して参戦してくるのが恒例だ。この日も、スーツ姿のジーン・シモンズ(Vo,Ba)が「明日の午後イチまでにはなんとか……」と携帯で平謝りし、ポール・スタンレー(Vo,Gt)同士の母娘がエスカレーターを上ってきては対向して下る人たちを驚かせている。東京ドーム近くのフードコートでは、トミー・セイヤー(Gt)がトッピングのネギを山盛りにしてうどんをすすっていた。街の風景にちっとも溶け込めていないKISSメイクを発見する度に、ライブへの期待感が高まっていく。

デビュー40周年、1年半振り11度目の来日公演は、ももいろクローバーZとのコラボシングルに端を発した露出が目立ったこともあり、やたらと特別な立ち位置での公演のように宣伝されたが、蓋を開けてみれば、ただただ楽しくてたまらない「いつも通り」のライブだった。しかしながら、彼らは日本でこの「いつも通り」を易々と手にしてきたわけではない。今回の東京ドーム公演は14年振りだが、2001年の来日では東京ドーム公演に客が流れて半分程度しか埋まらない横浜アリーナも体験しているし、トリとして参加した2006年の『UDO MUSIC FESTIVAL』ではそれよりも更に厳しい集客に直面している。ロックレジェンドとして評価の定まったバンドが新しい客を取り入れることはそう簡単ではないが、彼らはとにかくしぶとい。新曲を作らないベテランバンドが多い中、2012年にはアルバム『MONSTER』を日本市場で約35年振りにオリコンのベスト10にランクインさせる復活を遂げた。今回は、月日をかけて人気を取り戻した証しとしてのドーム公演でもあったのだ。

KISS 撮影:土居政則

KISS 撮影:土居政則
KISS 撮影:土居政則

「大人の事情」を仕切らせたらKISSほど巧い人たちはいない

観客を楽しませる勘所をこれ以上に熟知しているロックバンドはいない。火を吹き、血を吐き、空を飛び、ギターから花火を噴射し、客をまんべんなく煽り、ベロを突き出し続ける。統率されたパーティーの完成度は、主要メンバーが60代に入ろうとも変わらない。そんな彼らだからこそ、今回の東京ドーム公演へのももクロ参戦に対して疑問を呈す人がいたことはひとまず理解出来る。完成し尽くされたKISSのライブに、コラボ曲とはいえ、アイドルをゲスト参加させるのは、あの完璧なステージングを乱すのではないかという読みにも頷いた。

しかしながら、この手のコラボ企画を「大人の事情だろ」と物知り顔を晒しただけで批判したつもりになる風潮はいただけない。なぜなら、ジーン・シモンズほど「大人の事情」を知り尽くすビジネスマンもいないからだ。彼は、ハローキティから棺桶まで、KISS関連のグッズで1000もの契約を交わしていると言われている。金儲けへの貪欲さがこれほどの快活な活動を生み出してきたとも言える。今回のももクロとの共演も「大人の事情」だろうが、「大人の事情」を仕切らせたらKISSほど巧い人たちはいない。驚くなかれ、KISSは、前回と今回のツアーに併せ、サークルKサンクスとコラボして「食べると口から炎を吐くほど辛い、激辛チリトマトまん」まで開発しているのだ。

ジーン・シモンズ(KISS) 撮影:土居政則
ジーン・シモンズ(KISS) 撮影:土居政則

あくまでも対等な扱いだといちいち強調していた

チラシ等には「特別参戦! ももいろクローバーZ」とのみ明記されてきたので、彼女たちは前座として数曲歌って、コラボ曲であらためて共演する流れだろうと踏んでいたが、彼女たちの登場はアンコールの2曲のみだった。コラボ曲の“夢の浮世に咲いてみな”、KISSのライブのフィナーレを飾る定番曲“Rock and Roll All Nite”に登場し、KISSとじゃれ合いながら共にステージを去っていった。

アンコール前にはスクリーンにKISSとももクロのロゴマークが交互に映し出され、歓声の大きさを競わせ(互角だった)、あくまでも対等な扱いだと重ねて強調したことには驚いた。彼女たちのMCこそ無かったものの“Rock and Roll All Nite”でマイクをシェアしながら歌うというのは、会場に足を運ばずにこのテキストだけを読んだ厳格なKISSファンは怒り心頭に発するかもしれない。しかし、この「あえて対等」という演出は、明らかにKISSのブランディングを高めることに繋がっていた。

KISSとももいろクローバーZ 撮影:kamiiisaka hajime
KISSとももいろクローバーZ 撮影:kamiiisaka hajime

「王道ではない」というKISSとももクロの親和性

自分たちは決して王道のアイドルではないという自覚のもと、叩き上げのガチンコ勝負で懸命に突き進んできたももクロ。KISSの歴史を振り返ると、彼女たちとの親和性が見えてくる。KISSは結成当初、皿洗いやタクシー運転手をしながら鳴かず飛ばずのバンド生活を送っていた。それを打破するために白塗りメイクを施し、ゴジラから影響を受けたコスチュームを着て、サーカス団から習った火吹きで沸かせることを思いついた。つまり、色モノで勝負することを選んだのだ。1973年の大晦日、ニューヨークにあるAcademy of Musicに出演した際、初めて火吹きパフォーマンスをしたジーンは大失敗して頭の上に火が降りかかり髪の毛が燃えたという。

その様子を翌日の新聞が「KISSというおもしろいグループがデビューした。ここのベーシストは頭の上に火をつけて演奏する」と書き、それを読んだジーンが「この方法でいける」と、客を楽しませることを一義にしたロックンロールに舵を切った。結果として、40年経った今でも楽しませ続けるロックンロールショーを見せられるのは、あのときバンドが選んだ「王道を目指さない手法」にあった。KISSは、メンバーそれぞれをコスチュームやメイクで特徴付けることは勿論、ソロアルバムを作ったときにはメンバーを色分けしてアルバムを発売したこともある。何だかこの点にも、ももクロとの親和性がある。

最も重要なラスト2曲でももクロを登場させた理由

ポール・スタンレーは、なぜKISSがアイドルとコラボするのかについて、「俺達なら可能だから」とし、「自分達らしさを保ちつつ、KISSであることはそのままに、しかもKISSであることの意味するところもすべてそのままに、そうしたコラボレートをすることができる」(『BURRN!』2015年3月号)と答えている。自分たちのライブにアイドルを調合してもKISSのブランド力はブレないと自覚していたからこそ、コンサートを締めくくる最も重要なラスト2曲で彼女たちを登場させた。KISSの強度を再確認させ、それでいて、ももクロ側を高める機会にも仕立てる。彼らの策略が、すべてがいいほうに作用していた。

KISSとももいろクローバーZ 撮影:kamiiisaka hajime
撮影:kamiiisaka hajime

サイリウムを振る人たちがドーム公演を支えていた

アリーナ席から振り返りスタンド席を見渡すと、自分が推すももクロメンバーの色のサイリウムを振る光景が広がっていた。アリーナ席よりもその数は圧倒的に多い。彼女たちが出るならば、チケット代が安い後ろの席でも参戦しておこうというファンの忠誠心なのだろう。この日の集客は十分だったが満員御礼ではなかったから、逆に言えば、そのサイリウムの集団がいなければこのドーム公演の客入りは少々寂しいものになっていた可能性はある。おそらくそのことをKISSの面々は理解していただろう。久方ぶりの東京ドーム公演を成功させるための建設的な判断だった。誤って髪の毛を燃やしたことから始まったKISSの成功への嗅覚はまだまだ貪欲だし、ももクロはその貪欲さを裏切らないステージングで応えていた。終演後、配られたチラシを見ると、翌日10時から予約受付開始で「KISS 40th Anniversary メモリアルフレーム切手セットwith ももいろクローバーZ」が発売されるとあった。そうそう、この商魂こそKISSである。そしてその商魂が、KISSの性根に繋がっているのである。

イベント情報
『KISS JAPAN TOUR 2015』

2015年3月3日(火)
会場:東京都 水道橋 東京ドーム

プロフィール
KISS (きっす)

1973年、ニューヨークにて結成されたハードロックバンド。特徴的な白塗りの化粧と奇抜な衣裳で演奏する。現在は、ポール・スタンレー(Vo,Gt)、ジーン・シモンズ(Vo,Ba)のオリジナルメンバー二人と、エリック・シンガー(Dr)、トミー・セイヤー(Gt)の四人で活動中。

プロフィール
武田砂鉄 (たけだ さてつ)

1982年生まれ。ライター / 編集。2014年秋、出版社勤務を経てフリーへ。「CINRA.NET」「cakes」「Yahoo!ニュース個人」「マイナビ」「LITERA」「beatleg」「TRASH-UP!!」で連載を持ち、「週刊金曜日」「AERA」「SPA!」「beatleg」「STRANGE DAYS」などの雑誌でも執筆中。著書に『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社)がある。



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