1億総デザイナー時代? ユニクロのTシャツアプリは新しいクリエイティブシーンを生み出すか

スマホアプリとSNSで、誰もがTシャツデザイナーに

たとえばAppleによる楽曲制作アプリケーション「GarageBand」がDTMの世界を身近にし、あるいはLINEの「LINE Creators Market」がLINEスタンプデザイナーへの門戸を広げたように、「誰もがTシャツデザイナーになれる」楽しさと面白さを提示するのが、ユニクロによるスマートフォン・タブレットアプリ「UTme!」である。昨年リリースされた同アプリでは、自分だけのTシャツを簡単にデザインし、購入することが可能。そんな「UTme!」が4月28日にリニューアルを果たし、同日、東京・青山のスパイラルホールにてマスコミ向け記者発表とアプリ体験会、そして2015年春夏コレクションの「UT」の特別展示が行われた。

2015年の「UT」春夏コレクション特別展示の展示風景 撮影:近藤みどり
2015年の「UT」春夏コレクション特別展示の展示風景 撮影:近藤みどり

記者発表に登壇したのは、株式会社ユニクロのグローバルマーケティング部プロジェクトリーダー・松沼礼と、「UTme!」クリエイティブディレクター・中村勇吾。今回のリニューアルについて「大きなポイントは、プリントできるTシャツのサイズやカラー、各種エフェクトやスタンプのバリエーションが増えたことです。また、以前から展開しているトートバッグへのプリントも可能です。さらに、新サービスとして、自分がデザインしたアイテムを出品すると他のユーザーが購入できる『UTme!マーケット』を開設しました。自分が出品したアイテムが売れると、1点につき300円(消費税別、源泉税込)のデザイン料が支払われます。誰もが気軽にTシャツデザイナーとしてデビューできる場を整えました」と話した松沼。クリエイティブディレクターの中村勇吾は「『UTme!』は、子どもから年配の方まで『誰でも遊び感覚で簡単にデザインできる』ことに常にこだわっています。より多くの人にクリエイティブの楽しさを実感してほしいです」という思いを語った。

左から:松沼礼、中村勇吾 撮影:近藤みどり
左から:松沼礼、中村勇吾

「UTme!」でTシャツをデザインして「UTme!マーケット」に出品できるという一連の流れをわかりやすく見せているのが、リニューアルに伴い公開された「UTme!」スペシャルムービーだ。ブレイクビーツユニットHIFANA のJUICYジューシーが作曲し、ラッパーの鎮座DOPENESSが歌うオリジナルナンバー“How to make a UTme!”にのせて、アプリの簡単な操作方法からオリジナルTシャツの使い道までを紹介。同ムービーには、世界的に活躍するブレイクダンサー・内海貴司、BMXライダー・田中光太郎も出演。ムービーを通して、Tシャツとは自分らしいファッションでメッセージを発信したり、仲間と体験を共有したりすることができるアイテムであると伝えている。


では、実際に「UTme!」ではどんなTシャツが作れるのか? 個性的なショートアニメーションを製作し、YouTubeで世界発信している現役美大生クリエイターユニットOmamezに、「UTme!」でのTシャツ作りを体験してもらった。

クリエイターユニットOmamez 撮影:近藤みどり
クリエイターユニットOmamez

クリエイティブは「楽しむこと」からはじまる? OmamezによるオリジナルTシャツ作りを通して考える

「UTme!」でのTシャツデザインは、写真や画像が取り込める「PICTURE」、好きなメッセージをタイプできる「TEXT」、絵の具ツールで自由にペイントする「PAINT」など、4種類の方法からスタートできる。

「UTme!」体験の様子 撮影:近藤みどり

「UTme!」体験の様子 撮影:近藤みどり
「UTme!」体験の様子

今回Omamezには、目下制作中の新作に登場するオリジナルキャラクター「レンとゲン」のイラスト画像を持参してもらった。画像を取り込んで白のTシャツに配置し、サイズを決め、まずはそのままプリント。「実は私たちも自作Tシャツを作っているのですが、いつもシルクスクリーンの単色刷りなので、フルカラーでプリントできるのはとてもうれしい!」と喜ぶ二人。

Omamezオリジナルキャラクター「レンとゲン」 撮影:近藤みどり
Omamezオリジナルキャラクター「レンとゲン」

プリントされたオリジナルTシャツ 撮影:近藤みどり
プリントされたオリジナルTシャツ

続いて、エフェクトを活用したデザインに挑戦。エフェクトは、インクが飛び散る「SPLASH」、モザイク柄へ分解する「MOSAIC」、シェイクするたびに自動でビジュアルがレイアウトされる「AUTO DESIGNER」などの7種類が用意されていて、そのかかり具合はスマホやタブレット端末をシェイクしたり、フリック操作をすることで調節が可能だ。

エフェクト「AUTO DESIGNER」 撮影:近藤みどり
エフェクト「AUTO DESIGNER」

なかでもOmamezが気に入ったのは、MoMA(ニューヨーク近代美術館)とのコラボエフェクト。MoMAエフェクトは、グラフィックのイメージを丸や四角で切り貼りして再配置する「COLLAGE」と、ブラシや点描など印象派の技法風の処理をする「EARLY MODERN」の2種類。エフェクトを切り替えながらタブレットをフリックするたびに、二人から楽しそうな歓声があがる。

MoMAエフェクト「COLLAGE」 撮影:近藤みどり
MoMAエフェクト「COLLAGE」

タブレットをフリックしてエフェクトを調節 撮影:近藤みどり
タブレットをフリックしてエフェクトを調節

「UTme!」を体験するOmamez 撮影:近藤みどり
「UTme!」を体験するOmamez

「エフェクト機能、とても面白いです! MoMAエフェクトの点描スタイルなどは、何も考えずに使ってもオシャレになるし、モザイクはレトロなデジタル画像っぽくてすごくかわいい。レイヤー機能で画像を重ねられるので、複雑な表現もできますね。また、背景をペイントで作ってスタンプ型で切り抜いたりできるのも、裏技みたいで楽しいです。絵が描けなくても、文字やペインティングにエフェクトを加えるだけで素敵なデザインになると思います」と話すOmamez。

テキストを重ね、MoMAエフェクト「EARLY MODERN」(点描スタイル)を使用 撮影:近藤みどり
テキストを重ね、MoMAエフェクト「EARLY MODERN」(点描スタイル)を使用

エフェクトを使用して作成したオリジナルTシャツ
エフェクトを使用して作成したオリジナルTシャツ

一通り体験してみて思う「UTme!」の魅力を聞いてみると「私たちも作品制作で意識していることですが、狙いすぎず、楽しみながら作る良さって絶対あると思います。『UTme!』はシェイクする時のポコポコっていう音も気持ちよくて、ノリノリで踊りながらやるととっても楽しい。あーだこーだみんなで遊びながら作れるのが、すごくいいと思います。また、このアプリはやり直しもすごく簡単なのですが、シェイクしすぎたかな? 失敗したかな? と思っても、そこに他の画像やエフェクトを重ねると予想外のカッコ良さが生まれることがある。全てが思い通りにはならないからこその面白さもありますね」と語ってくれた。

完成したTシャツを着るOmamez 撮影:聞谷洋子
完成したTシャツを着るOmamez

クリエイターとファンとをつなぐSNS時代のコミニュケーションツール

話題はクリエイター目線から見る「UTme!マーケット」の可能性にも及んだ。「『UTme!マーケット』は、駆け出しのクリエイターが作品を発表できる場としても機能するのでは? と思います。私たちもOmamezのウェブサイトでTシャツを売っているのですが、買う側からすると、知らない人から直接商品を買うのはすごく不安ですよね。ユニクロのシステムを通していれば安心して買えると思いますし、クリエイター側もグッズ制作のコストを気にせずに作品発表の場を得られる。『UTme!マーケット』は、クリエイターを目指す人にとっても、うまく活用することで活躍の場を広げられる画期的なサービスなんじゃないでしょうか?」

冒頭で触れた「LINE Creators Market」のように、近年ではSNSを通じてクリエイティブシーンが広がる光景をよく目にする。「UTme!」はクリエイターとそのファンとをつなぐ、新しいコミュニケーションツールになりうるとも言えるだろう。また、今後のアップデートで、お気に入りのTシャツやデザイナーをフォローする機能も追加されるそうだ。Tシャツのデザインを通じた新しいコミュニティーや、新たなクリエイティブシーンの誕生に期待したい。

プロフィール
Omamez

武蔵野美術大学映像学科在籍中のPiとMina Ohmatsuによるアニメーターユニット。カートゥーン調のキャラクターたちが繰り広げる、ブラックユーモア溢れる日常を描く。2014年、NYLON×SONY MUSIC主催の『JAMオーディション』にてグランプリを受賞。『Pimples』や『Pillow Pets』といったアニメーションのシリーズをYouTube上で公開中。



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