Sex Pistolsのシドに「オマエにベースは無理」。毒舌Motörhead・レミーが『フジロック』に初見参

生誕70年を迎えるMotörheadのレミーが苗場の地に初見参

間もなくやって来る戦後70年の夏。もう1つの「70年の夏」があるとすれば、生誕70年を迎えるMotörheadのレミー・キルミスター(Vo,Ba)が苗場の地に初見参する夏、に違いない。デビューから半世紀を迎えたレミーは、この数年で不整脈や糖尿病を患ったこともあり、今になってようやく健康に気遣うようになった模様。酒やタバコも殆どやめたそうだ。ジャックダニエルを常飲し、随時酔っぱらっていたかつてのレミーならば、『フジロック』の会場である苗場スキー場に向かう急カーブの連続に耐えられなかったかもしれない。生誕70年、デビュー50周年、バンド結成40周年、このメモリアルな年に、わざわざ苗場の山奥まで御大がいらっしゃるのだ。馳せ参じなければならない。

Sex Pistolsのシド・ヴィシャスに「オマエにベースは無理だな」と言い放つ

ハードロックもメタルもパンクも、そのルーツを問う時に、Motörheadを欠かすことは出来ない。万が一、そんな見識があるとすれば漏れなく偽史である。レミーの自伝『レミー・キルミスター自伝 ホワイト・ライン・フィーヴァー』(ロフトブックス)では、「今だから言うが」と前置きして、Sex Pistolsのシド・ヴィシャスにベースを教えて欲しいと頼まれ、3日後に「シド、オマエにベースは無理だな」と言い放ったエピソードを明かしている。シドは意気消沈したまま出ていくが、それから2か月後に「俺、ピストルズに入ったんだぜ!」と報告を受けるのだった。

その上で改めて、シドについて「楽器のセンスはからっきしだった」と書いたかと思えば、25歳の若さで飛行機事故によって急逝してしまったオジー・オズボーンのバンドのギタリスト、ランディ・ローズについても「あえて書いておくが」と前置きした上でこう書く。「奴は亡くなった後に言われてるほどのギタリストじゃなかったと俺は思ってる」「確かに優れたギタリストだったよ。そこは間違いない。でもあいつが偉大なるイノヴェーターだったって評価は、後付けで作り上げられた伝説に過ぎない」。半世紀もの間、ロックンロールの歴史を引っ張り続けてきたレミーならではの辛口の評定が続く。

「プードルの待ってる家に帰ろう」みたいな職業ロックンローラーを許さない

ロックンロールを長く続けてきた矜持がただ偉そうに並ぶ本では決してない。むしろ、いつまでもダラダラとロックを縮小再生産しているベテランの面々にこそ厳しい。ステージに出ても「自分で腕時計を見ながら、切り替えのタイミングを計ってるのがわかるような奴ら」を断じ、「『さて、ここはもういいかな? それじゃカミさんとプードルの待ってる家に帰ろう』みたいな職業ロックン・ローラー」に噛み付いていく。そして御大は、一般社会の中でどのように受け容れられるかを意識した時点でロックではないとおっしゃる。

ならば当然、金勘定ばかりに励むレコード会社には容赦ない。アメリカのレコード会社と契約する際に、「ご新規様歓迎ブランチ」の中身が中華料理屋のテイクアウトの酢豚だったことにキレるのは大人げないにしても、「2週間前に契約のために詰め込み勉強」したような「大手のレーベルで重役か何かやった後、起ち上げたばっかりの新しいレーベルで、天下り的に新しい役職に就いただけ」の奴らを執拗に罵る。かつて、CDボックスセットをレコード会社に勝手に発売されたことを根に持ち続けるレミー。ロックの発展に貢献したミュージシャンを讃えるハリウッドの「ロックウォーク」への殿堂入りを果たした際、自分の手形を記念プレートにする儀式では、中指を立てたポーズを刻印した。権威や体制に向かう底意地は、どこまでも徹底されている。

Motörheadパーカーの着用を禁じられた少年に贈った言葉

本書に収録されているエピソードだが、Motörhead好きの少年がバンドのアイコンである「ウォーピッグ」がプリントされたパーカーを着て登校したところ、先生に着用を禁じられた。その理由は「ギャングを連想させる」という陳腐なもの。それに怒った少年はネット上で毎日着続けることを宣言した。レミーはこういう少年を見逃さない。彼に対して、わざわざメッセージを送った。「モーターヘッドを熱心に擁護してくれて、ありがとう。君のように言ってくれるファンがいて嬉しいよ!負けるなよ!」。

適当な金儲けをするレコード会社の連中にはどこまでも厳しいが、純粋なファンにはどこまでも優しい。自伝には「女どもの大群が俺を離さず、生のニンジンを使ってあんなことやこんなことをしてくれる」といった類いの下ネタやドラッグの話があちこちに充満するが、それさえはね除ければ、ロックンロールに向かうレミーの純真な態度が濾過されてくる。

70歳を迎える御大による「青空説法」に立ち合うべし

今年の『フジロック』、Motörheadは初日の7月24日に登場する。初日のトリを務めるFoo Fightersのデイヴ・グロールもまた、レミーを崇拝してきたミュージシャンの一人だ。デイヴが尊敬するメタル界のレジェンドと1曲ずつコラボレーションした企画アルバム『Probot』にも、レミーは当然ながら参加していた。さらに、今年の1月に行なわれたデイヴの46歳の誕生日を祝うチャリティーライブではレミーがゲスト参加し、チャック・ベリーの“Let It Rock”を共にプレイしている。現時点ではステージ別のタイムスケジュールは発表されていないが、まさか同時刻に別のステージなどという配慮に欠けたスケジュールにはなるまい。彼らの親密っぷりからして、共演する可能性は高い。

ミュージシャンとして歩み出した頃、流行っていたモッズが嫌いだったレミー。「俺たちはあいつらを女々しい軟弱野郎どもだと思ってたし、向こうは向こうで俺たちを田舎者のゴロツキだ」と思われていた。でも今では「結論から言えば、どっちの意見も正しかったってことだろう」と立場を変えた。ロックの歴史を猛速度で駆け抜けてきたレミー。70歳を迎える御大による「青空説法」に立ち合わない選択肢は無いだろう。

書籍情報
『レミー・キルミスター自伝 ホワイト・ライン・フィーヴァー』

2015年4月8日(水)発売
著者:レミー・キルミスター
訳者:田村亜紀
価格:3,132円(税込)
発行:ロフトブックス

プロフィール
武田砂鉄 (たけだ さてつ)

1982年生まれ。ライター / 編集。2014年秋、出版社勤務を経てフリーへ。「CINRA.NET」「cakes」「Yahoo!ニュース個人」「マイナビ」「LITERA」「beatleg」「TRASH-UP!!」で連載を持ち、「週刊金曜日」「AERA」「SPA!」「beatleg」「STRANGE DAYS」などの雑誌でも執筆中。著書に『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社)がある。



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