必見作や問題作が続々。フランス発のネット映画祭、今年も開幕

審査委員長にニコラス・ウィンディング・レフン。世界中で話題のオンライン映画祭

2011年にスタートし、今年第6回目の開催を迎える『マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル(myFFF)』。ユニフランスが世界中で展開するこのオンライン映画祭は、最新のフランス映画を世界の映画ファンと同時に体験できる(もちろん日本語字幕にも対応している)機会として、年々注目度を高めてきた。第6回となる今年は審査委員長に『ドライヴ』『オンリー・ゴッド』などの先鋭的な作品で知られるニコラス・ウィンディング・レフン、審査員にマルジャン・サトラピ(『ペルセポリス』)、デヴィッド・ロバート・ミッチェル(『イット・フォローズ』)らを迎えての開催となった。

ミシェル・ゴンドリー監督が審査委員長を務めた昨年の『第5回マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル』は 207 の国と地域において、延べ 56 万回の視聴回数を記録。昨年審査員賞を受賞したトマ・リルティ監督による秀逸な医療ドラマ作品『ヒポクラテスの子供達』は、本国の『セザール賞』(フランスにおける『アカデミー賞』にあたる、最も権威のある映画賞)で助演男優賞(レダ・カデブ)を獲得するなど映画界における大きな話題となった。

「ネットで見ることができる日本未公開作品」というと、新人監督による習作的な作品や完全なインディペンデント作品という先入観を持っている人も多いかもしれないが、『マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル』のラインナップはそのような作品ばかりではない。例えば、今年のラインナップに入っている『美しいとき』のカトリーヌ・コルシニ監督は、2001年には『彼女たちの時間』が『カンヌ国際映画祭』のコンペティション部門に選ばれるなど、現在のフランスを代表する女性監督の一人。前作『黒いスーツを着た男』も本国フランスで大ヒットして日本でも公開された。そんな彼女の新作だけに出演陣も豪華で、セシル・ド・フランス(『ヒア アフター』『少年と自転車』)、イジア・イジュラン(『サンバ』)の最新出演作としても映画ファンなら見逃せない作品だ。

ジェンダー問題にLGBT。現在の映画界の最重要テーマをめぐる作品群

『美しいとき』は1970年代のパリを舞台に、地方の農村から出てきた少女と、女性解放運動に没入する女性との出会いを描いた作品。物語の設定は近過去だが、そこから非常に今日的なテーマを照らし出した作品だ。

『美しいとき』(監督:カトリーヌ・コルシニ)
『美しいとき』(監督:カトリーヌ・コルシニ)

もう一本の目玉作品となる監督ジェローム・ボネル(『明るい瞳』)&主演アナイス・ドゥムースティエ(『彼は秘密の女ともだち』)の『彼らについて』もまたLGBTについての深い考察から生み出された作品となっている。

『彼らについて』(監督:ジェローム・ボネル)
『彼らについて』(監督:ジェローム・ボネル)

念のために言っておくと、ジェンダー、LGBTが今年の『マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル』の裏テーマにあるわけではない。ジェンダー問題、LGBTをめぐる物語というのは、ハリウッドも含めた現在の映画界における最重要テーマとして秀作が続々と生まれて高い注目を集めているジャンルであり、『マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル』もそんな「世界の映画の最前線」の上に当然のように立脚しているということだろう。

予告編が公開されると同時に本国で論争が巻き起こった問題作も

「物語の設定は近過去だが、そこから今日的なテーマを照らし出す」という観点から、もう一本、絶対に見逃せないのがディアステム監督の『フレンチ・ブラッド』だ。80年代後半から現在まで、約30年間に及ぶフランス人の極右青年の狂乱と悔恨の半生を描いたこの作品は、昨年フランス国内100館程度の公開が予定されていたが、予告編が公開されると同時に論争、批判が巻き起こり、上映を予定していた映画館に対する脅迫が直接的な理由となって結局60館のみでの公開となった問題作。昨年1月のシャルリー・エブド襲撃事件、及び11月のパリ同時多発テロを経て、フランス国内で移民排斥を謳う極右勢力が支持を伸ばしている2016年、この作品は重く切実な問題を観客に投げかけてくる。

『フレンチ・ブラッド』(監督:ディアステム)
『フレンチ・ブラッド』(監督:ディアステム)

HuluやNetflixやAmazonプライムビデオなどのストリーミングサービスが日本でも普及しつつある今、一昔前まであったPCやタブレットやスマートフォンで映画やドラマを見ることへの抵抗は、若い世代においてはほとんどなくなってきている。数年後には、きっと誰にとっても当たり前のことになっているだろう。2011年という、ある意味で早すぎるスタートを切った『マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル』は、今後、ますますその真価を発揮していくに違いない。

イベント情報
『第6回マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル(myFFF)』

2016年1月18日(月)~2月18日(木)
上映作品:
[コンペティション部門 長編作品]
『彼らについて / À trois on y va』(監督:ジェローム・ボネル)
『美しいとき / La Belle saison』(監督:カトリーヌ・コルシニ)
『砂の城 / Les Châteaux de sable』(監督:オリヴィエ・ジャアン)
『フレンチ・ブラッド / Un Français』(監督:ディアステム)
『年下のカレ / 20 ans d'écart』(監督:ダヴィッド・モロー)
『カプリス / Caprice』(監督:エマニュエル・ムレ)
『ブラインド・デート / Un peu, beaucoup, aveuglément』(監督:クロヴィス・コルニアック)
『熱風 / Coup de chaud』(監督:ラファエル・ジャクロ)
[ケベック映画招待作品]
『アンリ、アンリ / Henri Henri』監督:マルタン・タルボ
[コンペティション部門 短編作品]
『最後の扉 / Dernière porte au sud』(監督:サシャ・ファイネール)
『男 女を求む / H recherche F』(監督:マリナ・モシュコヴァ)
『日曜の昼食 / Le Repas dominical』(監督:セリーヌ・ドゥヴォー)
『ダイ・ヤング / Essaie de mourir jeune』(監督:モルガン・シモン)
『夜のさまよい / Errance』(監督:ピーター・ドゥルンチス)
『サラの夏 / Belle gueule 』(監督:エマ・ベネスタン)
『僕のウルフガール / Jeunesse des loups garous』(監督:ヤン・ドゥラトル)
『ドラゴンの最期 / La Fin du dragon』(監督:マリナ・ディアビ)
『ファースト・マッチ / Les filles』(監督:アリス・ドゥアール)
[ケベック招待作品 短編]
『みんなビッチ / Toutes des connes』(監督:フランソワ・ジャロ)

『スクリーンで見よう!マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル』

2016年1月22日(金)~1月24日(日)
会場:東京都 飯田橋 アンスティチュ・フランセ東京
上映予定作品:
『イースタン・ボーイズ』(監督:ロバン・カンピヨ)
『呼吸―友情と破壊』(監督:メラニー・ロラン)
『ギャロップ』(監督:ルイ=ドー・ドゥ・ランクザン)
ほか
料金:一般1,200円 会員500円 学生800円

『Café de cinéma 企画上映会』

2016年1月30日(土)15:00
会場:東京都 自由が丘 KURASSO
上映予定作品:
『ブラインド・デート / Un peu, beaucoup, aveuglément』(監督:クロヴィス・コルニアック)
定員:30名
料金:2,500円(お茶と軽食付)

2016年2月6日(土)18:00
会場:東京都 自由が丘 KURASSO
上映予定作品:
『男 女を求む / H recherche F』(監督:マリナ・モシュコヴァ)
『日曜の昼食 / Le Repas dominical』(監督:セリーヌ・ドゥヴォー)
『サラの夏 / Belle gueule 』(監督:エマ・ベネスタン)
『ファースト・マッチ / Les Filles』(監督:アリス・ドゥアール)
※上映タイトルは予告なく変更する場合もあります
料金:1,500円(1ドリンク付)



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