ピタゴラ装置やOK Goでおなじみ。ほぼ全てが腕時計のパーツで作られた超精密なルーブ・ゴールドバーグ・マシンとは?
NHKのテレビ番組『ピタゴラスイッチ』に登場する「ピタゴラ装置」、あるいはアメリカのインディーロックバンド、OK Goの“This Too Shall Pass”のMVなどによって、すっかりお馴染みとなった感のある、いわゆる「ルーブ・ゴールドバーグ・マシン」。
手の込んだ「からくり」を設置し、それが次々と連動しながら最終的に何らかの作業を達成する装置。一般人によるささやかなものからアーティストや企業による大規模なものまで、古今東西、さまざまな装置の動画が世に溢れるなか、その精密さという意味では群を抜いた動画が登場した。ご存知、日本が誇る世界の時計メーカー「セイコー」が、3月14日より公開しているブランドミュージックビデオ『Art of Time』のことである。
セイコーのグループスローガンである「時代とハートを動かすSEIKO」をテーマに考えられたという今回のアイデア。ピンセットでつまみあげられた微細なカチンコの合図によって、ゆっくりとなめらかに動き始める細やかな装置。そして、静かに音楽が流れ出すなか、見ている者は、この装置が何によって作られているのか、だんだんと気づくことになる。そう、この装置は、我々が普段慣れ親しんでいる、腕時計にまつわるさまざまな部品によって組み上げられているのだ。
ピンセットでつまみまげられた極小サイズのカチンコで動画がスタート
ほぼ全て時計のパーツで作られたルーブ・ゴールドバーグ・マシン
実際にセイコーの機械式腕時計に使用されているという微細なパーツによって組み上げられた今回の装置。使用したパーツの総数は実に1200を超え、最も小さいものは0.7mmというのだから驚きだ。
時計部品だけではなく、時計を作るための工具なども使用されている
さらに注目すべきは、動画の要所要所で登場する、ピンセットを操る人々の存在。その繊細な指の動きによって、装置の働きを影ながら促す役割を担っている彼らもまた、実際にセイコーの腕時計職人として働いている人々なのだとか。なるほど納得の細やかな動き。
日頃、機械式時計を手がけている熟練時計職人も装置の一部となって登場
総勢47種類の時計パーツたちの好演を彩るのは、ミュージシャン・やくしまるえつこ
そして、動画の途中から流れ始める、やくしまるえつこの歌にも注目。ここで彼女が歌い上げているオリジナル曲は、何とセイコーグループCEO、服部真二が、自ら手掛けたものなのだとか。さらに、<急がないで一歩ずつ 一秒を大切に>といったフレーズが印象的なその歌詞は、セイコーグループの社員から公募したものを組み合わせたものであるという。
といった具合に、実際に現場で働く者たちの存在や技術、そして現場の声を反映しつつも、この動画の主役は、あくまでも「機械」。その証拠に、動画の最後、エンドールの部分で「Cast」として紹介されるのが、「アンクル受け」「かんぬき」「一番伝え車」「角穴車」「巻真」など、総勢47種類のパーツの名前なのだから。
MVの途中に登場する赤い球体はルビー。時計のパーツのなかには軸受けの摩耗を最小限にするためいくつものルビーが使われている
丸1年の準備、撮影はワンカット。普段の時計作りの現場を垣間見るようなクライマックス
ちなみに、合わせて公開された本作の「メイキングムービー」では、優雅に美しい本編動画だけではうかがい知ることのできない、その尋常ではない労力と手間暇のかけっぷりが、余すことなく収められている。
現場の時計職人たちと綿密な打ち合わせを重ね、企画から丸1年をかけて完成したという今回の動画。その撮影総時間は3日、70時間に及んだという。そんな念入りな準備を経て、ようやく編集無しのワンカット撮影されたのが、今回の本編動画というわけだ。そもそも普段、一つの機械式腕時計を作るのにもおよそ200のパーツが使われており、全てが組み合わなければ動き出さない。動画のクライマックス、腕時計の心臓部とも言える「てんぷ」が熟練職人の手によって収められたときのカタルシスは、いつもの時計作りと今回の動画制作、そんな二つの現場の苦労が重ね合わせられて生まれたものだろう。
通常、「芸術」と訳されることの多い「アート」という言葉だけど、その元々の意味は「ネイチャー / 自然」に対する「アート / 人為」だった。そんな人為の集積とも言える「腕時計」のメカニズム。そして、それに携わる人々の想い。数あるPR動画のなかで、本作がとりわけ印象的なのは、そんな彼らの「矜持」と「想い」が、その随所に込められているからなのだろう。
- 作品情報
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- セイコー『Art of Time』
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機械式腕時計のパーツで創り上げられた精密な舞台装置と、セイコーの時計職人が操る繊細な指先の連携プレーによって作られたルーブゴールドバーグマシンが一本の動画に。最小サイズ0.7mmの腕時計のパーツや、1200のパーツからなる街並みの造形美やユニークな仕掛けの数々がちりばめられている。音楽は、セイコーのグループCEO自らが作曲した楽曲に社員から集めた歌詞をのせ、やくしまるえつこが歌唱している。
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- セイコー
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セイコーは、創業以来「常に時代の一歩先を行く」という経営姿勢を貫き、革新を続けてきました。この創業からの思いと、「お客さまの感性に訴えたい」という新たな思いを込め、わかりやすく表現した企業スローガン「時代とハートを動かすSEIKO」を制定。時代を牽引してきた技術力と感性で、これからも未来を創造していくというセイコーの熱い意志と躍動感を伝えていきます。このスローガンのもと、スポーツと音楽の二つの文化活動を通して、人々の心に訴えていきたいと考えています。
- プロフィール
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- やくしまるえつこ
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音楽家、プロデューサー、作詞・作曲家として「相対性理論」など数多くのプロジェクトを手がける他、ドローイングやインスタレーション作品の制作、プロデュースワークや楽曲提供、朗読、ナレーション、CM音楽、と多岐に渡る活動を一貫してインディペンデントで行う。数々のヒット曲を生み出す一方、坂本龍一、大友良英、マシュー・ハーバート、Sonic Youthのサーストン・ムーア、my bloody valentine、ジェフ・ミルズら国内外アーティストとの共演や共作、人工衛星や生体データを用いた作品、人工知能と自身の声による歌生成ロボット、オリジナル楽器の制作、バイオテクノロジーを駆使した楽曲など、前代未聞の試みを次々に発表。SMAP、山下智久、ももいろクローバーZらへの楽曲提供も多数。3月30日に“Yakushimaru Experiment”名義での実験コンセプトアルバム『Flying Tentacles』、4月27日に相対性理論の最新アルバム『天声ジングル』、『美少女戦士セーラームーンCrystal』主題歌“ニュームーンに恋して”をリリース。7月22日には相対性理論の武道館公演『八角形』を実施。
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