過剰な装飾や演出はないけど、芯のあるシンプルなアート
旅行先や音楽フェス、自然に囲まれた芸術祭、または人気のカフェなどで、周りの景色や作品をじっくり楽しむ余裕もないまま、せわしなくスマホを覗き込んで写真撮影し、FacebookやInstagramに投稿。その後は反応が気になって、何度も画面をチェックしてしまう……。常にスマホを手放さない私たちの生活リズムはタイムラインに支配され、いつの間にやら「ソーシャル疲れ」「ソーシャルデトックス」「SNSメタボ」なんてワードが聞こえてくるほど。
そして、そんな私たちの「過剰な生き方」に反比例して、注目を浴びているのが「ミニマリズム(最小限主義)」というキーワード。余計なモノを捨て、最低限のモノだけを手元に置く「断捨離」や「ミニマリスト」と呼ばれるライフスタイルが話題なのも、そんな「過剰な時代」に対する反省の意識からだろう。
そこで今回はSNSメタボ要因を見つけ出すウェブサイト『SOCIAL RESET』のオープンにあわせて、この夏に体験できるオススメの「ミニマル」なアート&カルチャーをご紹介。どの作品もシンプル極まりない要素で構成されているけれど、噛めば噛むほど味の出るスルメのような味わい。過剰な装飾や演出はないけど芯がある。そんな「美しさ」「楽しさ」は、いったい私たちにどんな体験、気づきを与えてくれるのだろうか?
ミニマルテクノの第一人者「ジェフ・ミルズ」
まず、最初に紹介したいのが、ミニマルテクノの第一人者、ジェフ・ミルズ。3月に行われた、東京フィルハーモニー交響楽団とのコラボレーションライブの感動がまだ忘れられない人もいるだろう。
4つ打ちのバスドラムに、細かく刻まれるハイハット、反復するベースラインなど、極限まで音数を省きながら、独特のグルーヴ感を生み出すジェフ・ミルズの音楽。シンプルながらソリッドな音で世界中のダンスフロアを踊らせてきた“Changes of Life”や“The Bells”といったダンスクラシックも印象深い。
しかし、彼の発言を紐解けば、ミニマルテクノは「踊らせる」という目的にとどまらない広がりを持っているのがわかる。テクノの可能性について、「普段気づいていないことを気づかせる」「いろんなかたちになり得る音楽」「さまざまな種類の問題を提起するのに適った音楽」と口にするジェフは、宇宙飛行士・毛利衛とのコラボレーションを実現させるなど、テクノというジャンルを飛び越えた活躍も見せている。
微かな「光」を感知する体験。光の魔術師ジェームズ・タレル
美術の世界にも「ミニマリズム」がある。代表的なのは、1960年代に生まれた「ミニマルアート」。シンプルな直方体を並べたアーティスト、ドナルド・ジャッドに象徴されるように、極限まで装飾を削ぎ落としたアートフォームで、エモーショナルで表現主義的な芸術に対抗し、静謐ながら極めて強い力を持っていた。
厳密には、そんなミニマルアートにジャンル分けされているわけではないが、『瀬戸内国際芸術祭』の中心地、香川県・直島や、金沢21世紀美術館で恒久展示されているアーティスト、ジェームズ・タレルの作品は「光」や「人の知覚」をモチーフとして、「ミニマル」な体験にこだわった作品だ。
直島で恒久展示されている『Backside of the Moon』(1999年)は体験型の作品で、ほぼ完全な暗闇空間に案内された鑑賞者が、じっくりと時間をかけながら「ごく微かな光」を感知していくというもの。自分の身体すら見えない暗闇の中で、距離や時間の感覚を奪われながらじっと座っていると、数分後、思いもしないような変化が視覚に表れてくる。網膜で光を感知するという、普段当たり前に行っている身体機能を振り返る体験は、自らに対する意識を揺さぶるだけでなく、派手なアトラクションも及ばないほどダイナミックな経験となるだろう。
わずか3秒の演劇「スイッチ総研」
最後に紹介する「ミニマル」なアートは、演劇界から「スイッチ総研」。2015年、劇団「ままごと」の俳優によって結成された集団だが、その上演手法のユニークさで注目を集めている。
街の中で行われるこの演劇は、観客が各所に設置されたさまざまな「スイッチ」を押すことによって、「結婚して下さい!」と突然の愛の告白を受けるハメになったり、ジェイソンに襲いかかられたりと、わずか数秒間の「演劇」を体験できるというもの。これまでに『六本木アートナイト2015』や『下北沢演劇祭』『多摩1キロフェス2015』などで上演され、今年も『瀬戸内国際芸術祭2016』に参加するなど、最先端の演劇の形として高く評価されている。
演劇といえば1、2時間、劇場の椅子に座りながらゆっくりと世界に浸るもの。しかし、スイッチ総研の「演劇」は、数秒間のミニマルな演劇を街中にインストールすることで、普段劇場に足を運ぶことのない子どもやお年寄りの日常にも溶け混んでいく可能性を持っている。
自分の根源を知ることになる「ミニマル」な体験
「ミニマリズム」とは、「シンプル」や「最小限」を突き詰めること。そこに「禅」や「禁欲的」なイメージを持つような人も多いだろう。しかし、その削ぎ落とされて、濃縮された「小ささ」は、時にダイナミックな経験を誘発し、自分の世界を押し広げる役割をも果たしてくれる。大量の情報が生まれては競い合い、猛スピードで消えていく情報社会にも「刺激的な面白さ」がある反面、こういったシンプルさをあえて追究することは、あらためて自分を知るきっかけにもなるだろう。アート体験を通して、もう一度シンプルであることの価値を振り返ってみてはいかがだろうか。
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