「虚無」をテーマにした、小説、楽曲、そして幕張メッセでのライブ展開
秋田ひろむを中心に活動するamazarashiが、10月12日にミニアルバム『虚無病』をリリースする。以前より音楽という形態だけに捉われず、マルチメディアな形で作品を発表してきたamazarashiだが、今作の初回限定盤にはDVDと秋田自身の書き下ろしによる小説『虚無病』が同梱される。また、小説の中でも大きな意味を持つ「2016年10月15日」には、幕張メッセイベントホールで作品とリンクするワンマンライブ『amazarashi LIVE 360°「虚無病」』も行われる予定だ。
すでに特設ウェブサイトでは小説の第一章がティザーとして公開され、徐々にその全貌が明らかになりつつある。「虚無病」という罹患した人々を無気力にする奇妙な病の蔓延により荒廃した終末的世界——そこで必死に生き抜こうとする人々を描いたこの作品には、これまでの秋田ひろむの作品に通底する人間そのものへの鋭い洞察と、秋田ひろむ及びamazarashi独自の世界の一歩奥へと踏み入るプロローグのような作品となっている。
amazarashi『虚無病』初回生産限定盤ジャケット(特設ウェブサイトで詳細を見る)
秋田ひろむが綴る言葉の魅力とは? 文藝春秋編集者に訊いた
秋田自身が素顔を明かさないこともあり、楽曲に付随するビデオやアートワークなどビジュアル面での創意に満ちた試みがこれまで取り上げられてきたamazarashiだが、詩や小説などの文学的なアプローチもデビュー以来一貫して行ってきた。文学方面での秋田のキャリアに絞ってamazarashiの活動を見ていくと、転機となったのは今年の3月、文藝春秋より刊行されている電子文藝誌『別冊 文藝春秋』に書き下ろしの詩とエッセイが掲載されたことだろう。
今回、秋田を『別冊 文藝春秋』に起用した編集者・浅井愛に秋田ひろむの文学の魅力について話を訊いた。浅井は、amazarashiの『あんたへ』(2013年発売のアルバム)の詩集を初めて読んだときの衝撃をこう語る。
浅井:生きることに対してポジティブであるとかネガティブであるということではなく、すべてを飲み込んで生きていくという姿勢に惹かれました。そして、それを私たち読者やリスナーにそっと伝えようとしてくれている、その振る舞いもかっこいいなと。まるで、私たちが手を伸ばすのを待って、ひとりひとりに手渡してくれているような気がして。
そもそも秋田さんの言葉は凄まじい濃度で圧縮されていますよね。一度飲み込むと、その後時間をかけてじわじわと身体の中でほどけていく、そんな感触があります。
小説『虚無病』には、過去のamazarashiの楽曲に出てくる主人公たちが集結
今、秋田自身が青森で見ているその景色を書いて欲しい——そう作品をオファーした浅井に秋田が返したのが、「青森唱歌」をはじめとする詩作品とエッセイである。秋田にとってゆかりの深い場所を題材に据え、秋田自身の記憶そのものに触れるような極めてパーソナルなものであるが故に、読み手それぞれの心の深い部分にリンクする作品だ。
浅井:頂いた詩を読んだとき、秋田さんの心象風景が流れこんできて、押し流されるかと思いました。4Kとか8Kとか、物凄く高解像度のカメラで光も影も全部、しかも何年にもわたって撮り続けてきたものを圧縮ファイルで受け取り、脳内で解凍したみたいな感じで。勢いで、ふだん封印している自分の記憶とか感情とか、いろんなものが噴出しそうになって……。秋田さんの詩にはそういう、ひとの根源的な感情を解き放ってしまう威力があるように感じます。
小説『虚無病』を読んで、浅井は腑に落ちたことがあったという。
浅井:『虚無病』を読んで、「ああ、やっぱり!」と思ったんです。この作品には、言葉を体内に入れることへの本能的な畏れが強く滲んでいるように感じられて、それは、他ならぬ秋田さんの作品から私が受けていた印象そのものでした。
いったん身体に入れた言葉は、それがどういう性質のものでもひとを組み替えてしまうぐらいの力を持っている。秋田さんはそのことを、表現者としてはもちろん、先人の詩や小説や音楽を身体の奥深くで受け留めてきたひとりの人間として痛感しているのだな、と。さらに『虚無病』には、これまでのamazarashi作品に登場したひとたちの気配がそこ此処に満ちています。それぞれの楽曲の主人公たちが一堂に集まって、同時に、彼らが背負っていた物語が流れ込んできてる。amazarashiの集大成というか、叙事詩のような作品だと思いました。
小説『虚無病』に登場するキャラクターのイメージ(小説『虚無病』第一章を読む)
編集者として書き手に求めるのは「足場が壊れるもの」
編集者として「自分の生きている現実の足場が壊れるぐらいの作品との出会い」を常に求めているという浅井。『虚無病』は、まさにそんな自分たちが普段眠らせているセンシティブな部分を揺り動かし、覚醒を促すような作品だと指摘する。
浅井:それが怖ろしくもあるし、でもそこに横たわるものこそが自分を支えているとも感じる。秋田さんの作品には、手を伸ばさずにはいられない中毒性があります。いまは何より『虚無病』をモチーフにしたライブが待ち遠しいですが、願わくばその先に、これまでのamazarashi作品とも呼応する、それこそ叙事詩のような文学を秋田さんが書いてくれたらと期待しています。
小説『虚無病』の世界とは異なり、秋田ひろむの「言葉」に触れたものは、虚無に陥るのではなくその切実さに触れ、現実との新たなる接点を模索し始める――amazarashi・秋田ひろむの来るべき作品群を今後も楽しみにして待ちたい。まずは「360°ライブ」と称されている、映像スクリーンで囲んだ円形ステージの上で『虚無病』のコンセプトがいかに繰り広げられるかが気になるところ。
- イベント情報
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- 『amazarashi LIVE 360°「虚無病」』
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2016年10月15日(土)
会場:千葉県 幕張メッセ イベントホール
- 『amazarashi LIVE 360°「虚無病」ライブ・ビューイング』
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2016年10月15日(土)
会場:全国各地27か所の映画館
- リリース情報
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- amazarashi
『虚無病』初回生産限定盤(CD+DVD) -
2016年10月12日(水)発売
価格:2,160円(税込)
AICL-3175~7[CD]
1. 僕が死のうと思ったのは
2. 星々の葬列
3. 明日には大人になる君へ
4. 虚無病
5. メーデーメーデー
[DVD]
『amazarashi Premium LIVE VIEWING「世界分岐二〇一六」』
・穴を掘っている
・この街で生きている
・ナモナキヒト
- amazarashi
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- amazarashi
『虚無病』通常盤(CD) -
2016年10月12日(水)発売
価格:1,620円(税込)
AICL-31781. 僕が死のうと思ったのは
2. 星々の葬列
3. 明日には大人になる君へ
4. 虚無病
5. メーデーメーデー
- amazarashi
- 書籍情報
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- 『別冊文藝春秋』2016年3月号
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2016年2月19日(金)発売
価格:500円
発行:文藝春秋
- ウェブサイト情報
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オリジナル小説『虚無病』第1章公開中
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- プロフィール
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- amazarashi (あまざらし)
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青森県在住の秋田ひろむを中心とするバンド。日常に降りかかる悲しみや苦しみを雨に例え、僕らは雨曝だが「それでも」というところから名づけられたこのバンドは、「アンチニヒリズム」をコンセプトに掲げ、絶望の中から希望を見出す辛辣な詩世界を持ち、前編スクリーンをステージ前に張ったままタイポグラフィーと映像を映し出し行われる独自のライブを展開する。3DCGアニメーションを使ったミュージックビデオは文化庁メディア芸術祭で優秀賞を受賞するなど国内外で高く評価されている。また、リリースされるCDには楽曲と同タイトルの詩が付属されている。
- 浅井愛 (あさいあい)
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株式会社文藝春秋勤務する編集者。1946年の創刊以来、谷崎潤一郎や三島由紀夫など、時代を代表する作家の名作を掲載してきた文藝誌『別冊文藝春秋』(※2015年に完全電子化)編集部で、小説編集に従事。現在は東山彰良、冲方丁、深緑野分、七月隆文氏らの連載や書籍を担当。
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