YUKIの『まばたき』を歌詞から紐解く 過去の作風との変化が鍵

リスナーをドキっとさせるであろう、らしからぬ歌詞から見えるもの

YUKIのニューアルバム『まばたき』、そのリードシングルとして2月にリリースされた“さよならバイスタンダー”を初めて聴いたとき、ドキっとするような言葉が心に引っかかった。<才能は途中で生まれない 何故か最初から決まってる>。あれ? YUKIってこういうことを歌う人だったっけ?

この歌詞を聴いて思い出したのは、以前、村上春樹が「読者からの質問になんでも答える」というウェブ企画(『村上さんのところ』)で「文章が苦手なのですが、書きやすくなるにはどうしたらいいか?」といった趣旨の質問に返答した、こんな言葉だった。「文章を書くというのは、女の人を口説くのと一緒で、ある程度は練習でうまくなりますが、基本的にはもって生まれたもので決まります」。思わず、「あなたのキャリアと立場でそれを言っちゃう?」と仰け反る、しかし気持ちがいいほどストレートな正論だった(諸説あるとは思いますが)。

そう、誰もYUKIのようには歌えないし、誰もYUKIのように輝き続けることはできない。性別は違えど、1学年差で、JUDY AND MARYでデビューした頃からずっと(遠くから)見てきた自分は、現在のYUKIがYUKIであることがどれだけ奇跡的なことか、よくわかっているつもりだ。そんなYUKIからの<何故か最初から決まってる>という「それを言っちゃあ、おしまいよ」な言葉。しかし、落ち着いて“さよならバイスタンダー”の歌詞を追えば、その直後に<額から汗が流れて目に沁みて痛い>とあるように、YUKIが自分を特権的な立場に置いて歌っているような曲ではないこともわかる。そもそも、これは羽海野チカ原作のTVアニメ『3月のライオン』のために書き下ろされた曲。原作のテーマに寄り添ったフレーズでもあるのだろう。

いつになく自伝的な言葉が目立つ『まばたき』

だが、ポップミュージックというのは本質的には瞬間の芸術である。そして、送り手から受け手に届いた途端に受け手のものになる表現フォーマットでもある。“さよならバイスタンダー”を最初に聴いたときのドキッとした気持ちは、本作『まばたき』に向き合う中で自分のひとつの立脚点となった。

YUKI『まばたき』ジャケット
YUKI『まばたき』ジャケット(Amazonで見る

「みんな同じ夢を持って東京に上京してきて、でも、志半ばに(故郷に)帰る友達もすごくて。今でも手紙でやりとりをしてるんですけど。そういう目に見えない信頼が私にとっての歌」「これが私のライフワークなんだな、と思って書いた曲」。3月9日に放送されたNHK『SONGS』で、YUKI本人がそんなふうに曲の紹介をしていた“ポストに声を投げ入れて”。

さらに、<視界狭い 歪んだ世界 予測不可能 オイルショック世代>とラップから始まる“こんにちはニューワールド”では、同じモチーフをより具体的に<雪の降らないクリスマスにも 少しは慣れたし 故郷へ帰った友達は 「今が幸せだ」って 手紙をくれた>と歌ってみせる。“ふがいないや”“うれしくって抱きあうよ”といった楽曲のタイトルにしても、<死ぬまでドキドキしたいわ/死ぬまでワクワクしたいわ>と歌われる“JOY”にしても、例を挙げていけばきりがないが、これまで主に、日々の暮らしの中でフッと生まれる「気持ち」を歌ってきたYUKIだったが、今回のアルバム『まばたき』にはいつになく自伝的、そして自己言及的な言葉が目立つのだ。

カメラに向かって言った「私はずっと当事者でいたいのです」

ダンスミュージックの様々なジャンルのサウンドを横断していった前作『FLY』とは対照的に、一部の曲を除くと比較的オーソドックスなアレンジのポップソングが並ぶ今作。そのラストから2番目の曲“聞き間違い”は、このエバーグリーンなポップアルバムのひとつの着地点と言えるだろう。そこでYUKIは、<「素直で明るいだけで人には価値がある」と 誰でもいい もう少し早く教えてよ>と歌う。同じアルバムの中で歌われる<才能は途中で生まれない 何故か最初から決まってる>というフレーズとのコントラスト。その鮮やかなコントラストの中に、YUKIというアーティストはいるのだと思う。

YUKI
YUKI

誰から見ても「特別な女の子」と、誰の中にもいる「普通の女の子」。もしかしたら、彼女は過去にそれぞれの「女の子」を演じてきた部分もあるのかもしれない。しかし、本作『まばたき』において、そのふたつは何の矛盾もなく自然に溶け合い、ひとつのくっきりとしたYUKIというアーティスト像を結んでいる。ちなみに、“さよならバイスタンダー”の「バイスタンダー」というあまり聞き慣れない言葉は、「傍観者」の意。先日の『SONGS』の最後、彼女はカメラに強い視線を向けてこう言っていた。「私はずっと当事者でいたいのです」。あんなに誇らしげな「素」のYUKIの表情を見たのは初めてだった。

リリース情報
YUKI
『まばたき』初回限定盤(2CD+DVD)

2017年3月15日(水)発売
価格:5,616円(税込)
ESCL-4837~9

[CD1]
1. 暴れたがっている
2. さよならバイスタンダー
3. こんにちはニューワールド
4. 無敵
5. 名も無い小さい花
6. レディ・エレクトリック
7. 私は誰だ
8. tonight
9. ポストに声を投げ入れて
10. バスガール
11. 2人だけの世界
12. 聞き間違い
13. トワイライト
[CD2]
1. コミュニケーション
2. ありがとう
3. ファンキー・フルーツ
4. あおぞら
5. ミス・イエスタデイ
6. 恋人よ
7. スウィートセブンティーン
8. 君を束縛したいのです
9. あの娘になりたい
10. 集まろう for tomorrow
[DVD]
『YUKI LIVE“commune of ten”』ダイジェストムービー

YUKI
『まばたき』通常盤(CD)

2017年3月15日(水)発売
価格:3,240円(税込)
ESCL-4840

1. 暴れたがっている
2. さよならバイスタンダー
3. こんにちはニューワールド
4. 無敵
5. 名も無い小さい花
6. レディ・エレクトリック
7. 私は誰だ
8. tonight
9. ポストに声を投げ入れて
10. バスガール
11. 2人だけの世界
12. 聞き間違い
13. トワイライト

YUKI
『まばたき』(アナログ盤)

2017年3月29日(水)発売
価格:3,780円(税込)
ESJL-3088/9

[SIDE-A]
1. 暴れたがっている
2. さよならバイスタンダー
3. こんにちはニューワールド
4. 無敵
[SIDE-B]
1. 名も無い小さい花
2. レディ・エレクトリック
3. 私は誰だ
[SIDE-C]
1. tonight
2. ポストに声を投げ入れて
3. バスガール
[SIDE-D]
1. 2人だけの世界
2. 聞き間違い
3. トワイライト
※完全生産限定盤

YUKI
『まばたき』(カセットテープ)

2017年3月29日(水)発売
価格:3,888円(税込)
ESTL-4

[SIDE-A]
1. 暴れたがっている
2. さよならバイスタンダー
3. こんにちはニューワールド
4. 無敵
5. 名も無い小さい花
6. レディ・エレクトリック
7. 私は誰だ
[SIDE-B]
1. tonight
2. ポストに声を投げ入れて
3. バスガール
4. 2人だけの世界
5. 聞き間違い
6. トワイライト
※完全生産限定盤

イベント情報
『YUKI concert tour“Blink Blink”2017』

スケジュール
2017年4月29日(土・祝)
会場:広島県 広島グリーンアリーナ

2017年5月13日(土)
会場:福岡県 マリンメッセ福岡

2017年5月14日(日)
会場:福岡県 マリンメッセ福岡

2017年5月20日(土)
会場:宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ

2017年6月7日(水)
会場:愛知県 日本ガイシホール

2017年6月8日(木)
会場:愛知県 日本ガイシホール

2017年6月24日(土)
会場:新潟県 朱鷺メッセ新潟 コンベンションセンター

2017年7月1日(土)
会場:神奈川県 横浜アリーナ

2017年7月2日(日)
会場:神奈川県 横浜アリーナ

2017年7月8日(土)
会場:大阪府 大阪城ホール

2017年7月9日(日)
会場:大阪府 大阪城ホール

2017年7月22日(土)
会場:北海道 函館アリーナ

2017年7月23日(日)
会場:北海道 函館アリーナ

プロフィール
YUKI
YUKI (ゆき)

1993年、JUDY AND MARYのボーカリストとしてデビュー。2001年、JUDY AND MARYを解散後、2002年2月にシングル『the end of shite』でソロ活動を開始。先鋭的なサウンドや前衛的なビジュアルで独自の世界観を確立し、2011年までに、音楽チャートで1位を獲得したアルバム4枚を含む、6枚のオリジナルアルバムをリリース。2012年5月、ソロ活動10周年を記念して開催した東京ドーム公演では、バンドとソロの両方で東京ドーム公演を行った女性ボーカリストとして「史上初」という記録を作り、約5万人を動員。その後も日本武道館2daysを含む全国ツアー『YUKI TOUR“BEATS OF TEN”』(22公演)を行い、同年12月31日、第63回NHK紅白歌合戦にもソロとして初出場。独特の歌声、表現、存在感は、あらゆる方面から多くの注目を集め、今後も音楽活動とそれに伴うライブ、アートワークの全てから目が離せない。



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