ジャスティン・ティンバーレイクの新作から見える、彼のルーツ

先行曲“Filthy”のイメージを覆す、自身の内側に向けたアルバムが完成

ジャスティン・ティンバーレイクが2013年の『The 20/20 Experience』以来となるニューアルバム『Man Of The Woods』をリリースした。ラップ系のアーティストを中心に作品のリリース量とペースが早まり、ストリーミングサービスのプレイリストで消費されるようになったことで「アルバム」の概念自体が揺らいでいる中、約5年ぶりというアルバムのインターバルも、全16曲約66分というボリュームも、ビッグアーティストならではの堂々たるもの。

そして何よりも、ティンバランドやファレル・ウィリアムスをはじめとする旧知の仲間たちと共に作り上げた内容が、ティンバーレイクのエンターテイナーとしての飛び抜けた才能、スケール、現在地を360度包括した圧倒的なものとなっている。

ジャスティン・ティンバーレイクのアルバム制作の様子を映した動画

アルバムに先行してミュージックビデオが発表されていた“Filthy”は2006年の代表曲“SexyBack”の発展形ともいえるディープなファンクチューン。続いて発表された“Supplies”は大流行中のトラップのビートを全面的に取り入れた楽曲。

特に前者では<ヘイターたちは俺のことをニセモノという。こんなにリアルなのに>と、怒気を込めたリリックを繰り返していて(『TIME』誌のワーストソングにも選ばれてしまった2016年の大ヒット曲 “CAN'T STOP THE FEELING!”に対する一部の批判を受けてのものかもしれない)、アルバムもテイラー・スウィフト『reputation』と同様、「ポップスターと大衆」をテーマにした自己言及的な作品になるのかもしれないと予感させた。しかし、その2曲はあくまでもアルバムの「ツカミ」。確かに自己言及的な側面もあるものの、それは外側(大衆)に向けられたものというよりも、内側(自分自身)に向けられたものだった。

ティンバーレイクが真正面から引き受けたエンタメ界の逆風

アルバムのタイトル『Man Of The Woods』を、そのまま直訳すれば「森の男」だ。それは、テネシー州メンフィス出身であるティンバーレイクのルーツを表している。11歳のときにテレビのオーディション番組に出演し、子役として人気番組に抜擢されたティンバーレイク。そのオーディション番組で、彼が大人顔負けのパフォーマンスをして審査員たちを驚愕させたのが、カントリーミュージックとゴスペルという、アメリカ南部に深く根づいたトラディショナルな音楽だった。

カントリーやゴスペルを取り入れた本作の「バック・トゥ・ルーツ」、あるいは「バック・トゥ・テネシー」というコンセプトは、実は前作『The 20/20 Experience』を引っさげて行なったワールドツアーから始まっていた。故ジョナサン・デミ監督が同ツアーの様子を収めた作品のタイトルは『ジャスティン・ティンバーレイク&ザ・テネシー・キッズ』(Netflixオリジナル作品)。これを見れば、今作『Man Of The Woods』がそこからダイレクトに繋がっていることがわかる。

ジャスティン・ティンバーレイク『Man Of The Woods』ジャケット
ジャスティン・ティンバーレイク『Man Of The Woods』ジャケット(Amazonで見る

白人であること(ティンバーレイクにはネイティブ・アメリカンの血も流れているが)。アルバムのリリース直前に37歳の誕生日を迎え、そろそろ「ミドルエイジ」の男性になること。そして、2016年の大統領選でドナルド・トランプを選出した南部の州の出身であること。いずれも、ブラックの若いミュージシャンが活躍し、都市部リベラル的価値観が支配的な現在のアメリカのエンターテイメント界においては、逆風が吹きかねない立場にあったティンバーレイク(彼自身はリベラル的な価値観をもった個人であるが)。

しかし、ティンバーレイクはその逆風を避けたり、時流に擦り寄ろうとするのではなく、その逆風を真っ正面から引き受けた上で、世界中から誤解されがちな「南部の中年白人男性」像を本作で刷新してみせる。

それを最も顕著に表しているのが、“Say Something”だろう。これは、つい先日の『第60回グラミー賞』でも最優秀カントリーアルバム賞、最優秀カントリーソロパフォーマンス賞、最優秀カントリーソング賞の三部門を制覇した、現在のアメリカンカントリー界を代表するミュージシャン、クリス・ステイプルトンをフィーチャリングゲストに迎えた一曲だ。

最初から最後までカットなしの一発録りで撮影されたこのミュージックビデオは、暗い部屋で一人、ティンバーレイクがシンセでビートを出力する様子からスタートし、やがてステイプルトンと合流してアーシーな旋律をギターで奏で、最後には白人、黒人、男性、女性と、あらゆる人々が集まった群衆と共にゴスペル的なクライマックスを迎える。<誰もが「何かを言え(=メッセージを発しろ)」と言う><時には何も言わないことが、何かを言うための最良の方法なんだ>。「言葉」の力ではなく「音楽」の力を信じて、ティンバーレイクはそう歌っている。

マイケル、プリンス以降のエンタメ界の中心に、南部の白人スターが立つ意義

2014年には“Love Never Felt So Good”で故マイケル・ジャクソンとの時空を超えたデュエットを実現(ティンバーレイクは生前のマイケル・ジャクソンからデュエットのオファーを受けていた)。先述したNetflixの『ジャスティン・ティンバーレイク&ザ・テネシー・キッズ』の最後には、当時亡くなったばかりのプリンスに捧げるクレジットが大きく記されていた。

2月4日には、そのマイケル・ジャクソンやプリンスもこれまでモニュメンタルなパフォーマンスを披露してきたスーパーボウルのハーフタイムショーに、ティンバーレイクは3たび(最初は'N Syncのメンバーとして、2回目はジャネット・ジャクソンと共に)立つ。二人が亡くなったあとの音楽シーンでは、ラップ界を中心にストリートからスターへと駆け上がる存在が次から次へと現れている。しかし、煌びやかなエンターテイメント界のど真ん中に立つ男性スターとして、いまや唯一無二の存在となったティンバーレイクが、そのステージに立つ意義は大きいだろう。世界中の視線が、いま、一人の男に集まっている。

ジャスティン・ティンバーレイク

リリース情報
ジャスティン・ティンバーレイク
『Man Of The Woods』

2018年2月2日(金)
価格:2,700円(税込)
品番:SICP-5757

プロフィール
ジャスティン・ティンバーレイク

1981年1月31日生まれ。テネシー州メンフィス出身。『グラミー賞』10冠、『エミー賞』4冠に輝く総合エンターテイナー。人気グループ、'N Syncのメンバーとしてトータルセールス4,000万枚以上という偉業を達成。2003年、アルバム『Justified』でソロデビュー。このアルバムは全米アルバムチャートで70週以上チャートイン、全世界で1,000万枚近いセールスを記録し、スーパースターとしての地位を確立した。アーティストとしてのみならず俳優としてのキャリアも確立。社会派デヴィッド・フィンチャー監督大ヒット映画『ソーシャル・ネットワーク』(2010年公開)等、ハリウッドヒット作に多数出演。最新作は、日本で2018年夏全国公開となるウディ・アレン監督作『ワンダー・ホイール(原題)』。2018年2月2日、自身4作目となる待望の最新アルバム『Man Of The Woods』をリリースした。



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