サイケポップのアンセムを生んだデビュー作から早10年
MGMTが実に5年ぶりとなる新作『Little Dark Age』を発表した。“Kids”や“Time to Pretend”といったアンセムを生み、デビュー作にして彼らを一躍シーンの寵児へと押し上げた『Oracular Spectacular』(2007年)から早10年。アンドリュー・ヴァンウィンガーデンとベン・ゴールドワッサーはAnimal CollectiveやVampire Weekendらとともに、ニューヨーク・ブルックリンを中心とするインディー / アートポップブームを牽引し、『第52回グラミー賞』の「最優秀新人賞」にもノミネート。その余波はここ日本にも及び、Czecho No Republicのようなバンドに大きな影響を与えている。
MGMT(左から:ベン・ゴールドワッサー、アンドリュー・ヴァンウィンガーデン)
1stアルバムで成功を手にした二人は、ファッションアイコンとしても知られるようになり、“Time to Pretend”で揶揄してみせた架空のロックスター像に自ら近づくこととなる。しかし、もともと彼らはThe Flaming Lipsやof Montrealといったインディーバンドをリスペクトし、アレハンドロ・ホドロフスキー監督のカルト映画『ホーリー・マウンテン』(1973年)をインスピレーション源に挙げるアート気質の持ち主。その後の歩みを見ればわかるように、彼らは決して商業主義に走ることはなかった。
2ndアルバム『Congratulations』(2010年)は、カルト的な人気を誇るSonic Boom(ex.Spacemen 3)をプロデューサーに迎えて制作。そんな作品が全米2位、全英4位とチャート上での成功を勝ち取ったのは異例のことだったと言える。3rdアルバム『MGMT』(2013年)ではさらに前衛性を強めたが、このサイケの彼岸に到達したような作品にセルフタイトルを冠したのも、「アンチコマーシャリズム」の明確なステートメントだったと捉えることができるだろう。
5年ぶりの新作は、アリエル・ピンクら参加の「ポップ回帰作」
その後は一時活動を休止するも、昨年活動を再開。この度無事に到着した復活作は、多くの人が望んでいたであろう「ポップ回帰作」だ。長年に渡って共同作業を続けてきたデイヴ・フリッドマンが今回も参加し、奇妙なサウンドテクスチャーが散りばめられていることに変わりはないが、「Beats 1」(24時間ライブでオンエアしているApple Musicのラジオステーション)で初オンエアされたゴス風味のタイトルトラック“Little Dark Age”をはじめ、1980年代感たっぷりのポップな楽曲が並ぶ。
その背景としては、制作環境の変化が大きく関係している模様。ベンがLAへと移り住んだことにより、今回の制作はファイル交換を軸に進められ、曲が固まってきたらセッションを行なうという流れだったそうだ。結成当初のスタイルが宅録デュオだったことを思い返せば、この作業が二人のリフレッシュにつながり、より開かれたポップな作風に向かったと想像できる。
また、本作には同じブルックリンのシーンに属していたパトリック・ウィンバリー(ex.Chairlift)がプロデューサーとして全面的に参加。彼の提案によりコラボレーターも数人参加し、アリエル・ピンクやコナン・モカシン(Soft Hair)といった名前がクレジットに並んでいる。この人選からしても、彼らのアート気質なセンスがよく表れていると言えよう。
アメリカ社会が抱える、デジタル依存という闇
一部海外メディアの記事によると、本作の背景においてドナルド・トランプ米大統領の存在は大きく、この『Little Dark Age』というタイトルも、トランプ政権に代表される社会の混迷を憂う意味合いと捉えて間違いはないだろう。
また、トラックリストのなかには“TSLAMP”という曲があり、これは「Time Spent Looking At My Phone(=携帯を見てすごしている時間)」の略とのこと。同じように、オープニングを飾る“She Works Out Too Much”では、<I could never keep up sick of liking your selfies>(君のセルフィーをいちいち褒めてられないよ)や、<I'm constantly swiping and tapping it's never relaxing>(僕は四六時中スワイプしたりタップしたりしている 一瞬もリラックスできない)といったラインが登場し、デジタル依存によって心を病む社会の闇を描いている。
もともとヒッピー的なビジュアルで、アンチ物質主義を掲げてキャリアをスタートさせた二人は、この現状について政治状況と同様に大きく気にかけていることだろう。これは昨年発表されたArcade FireやLCD Soundsystemのアルバムのテーマにも通じており、ヒップホップやR&Bのミュージシャンも含め、現代のアーティストにとって見過ごせないテーマとなっている。
なぜ「Dark」ではなく、「Little Dark」なのか?
もちろん、本作は決して「ダーク」なアルバムではなく、「リトルダーク」なアルバムである。アリエル・ピンクがソングライティングにも関わっている“When You Die”はオールディーズ風のアメリカンポップスだし、“One Thing Left To Try”のような、かなりアップリフティングなナンバーもある。
前者では<go fuck yourself>(くたばっちまえ)と繰り返され、後者では<do you want to keep us alive? do you want to feel alive?>(僕らを生かしておきたいのかい? 生きていると実感したいのかい?)と問いかけているが、「歌詞はダーク、曲調はポップ」というスタイルはMGMTの真骨頂だ。
3枚のアルバムを経て、ポップとアートのバランスを再考し、信頼のできる仲間と作り上げた本作は、「自分自身をしっかりと見つめ、本当に大事なものを理解することで、『ダーク』を『リトルダーク』に変えることができる」という、ポジティブなメッセージを発しているように思う。
え?「本当に大事なもの」が何なのかって? それはもちろん、富や名声などではない。昨年、Czecho No Republicが自分たちの現在地を見つめ直すために行なった『リリースツアーじゃないツアー』のファイナルで、「この感情が生きる上でキーになっているんじゃないか」と言って披露された新曲のタイトルは“好奇心”だった。MGMTの音楽にいつもワクワクさせられる理由も、つまりはそういうことなのだろう。
MGMT『Little Dark Age』ジャケット(Amazonで見る)
- リリース情報
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- MGMT
『Little Dark Age』(CD) -
2018年2月14日(水)発売
価格:2,376円(税込)
SICP-56121. She Works Out Too Much
2. Little Dark Age
3. When You Die
4. Me And Michael
5. TSLMP
6. James
7. Days That Got Away
8. One Thing Left To Try
9. When You're Small
10. Hand It Over
- MGMT
- プロフィール
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- MGMT (えむじーえむてぃー)
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NYブルックリンを拠点とする、元アート学生のアンドリュー・ヴァンウィンガーデンとベン・ゴールドワッサーを中心とするポップデュオ。2008年に、発表当初から高い評価を得ていたシングル“Time To Pretend”“Kids”などを収録したデビューアルバム『Oracular Spectacular』で人気が爆発。続く2010年には2ndアルバム『Congratulations』では全米2位 / 全英4位に輝き、2013年には3作目で初のセルフタイトル作『MGMT』をリリース。これまでに米『グラミー賞』「最優秀新人賞」(2010年)や英『ブリット・アワード』「最優秀インターナショナル・バンド」「最優秀インターナショナル・アルバム」(2009年/『Oracular Spectacular』)部門などでのノミネート、英『NMEアワード』「最優秀アルバム」(『Oracular Spectacular』)などの授賞歴も誇る。また、音楽だけなく、Gucciの2009年春夏のメンズコレクションでMGMTにインスピレーションを受けたコレクションが発表され、コンバース100周年キャンペーンモデルや仏ファッションブランド「プチバトー」のイメージ・キャラクターに選出されるなど、ファッション界からも高い注目を集め続けてきた。2015年から活動休止に入っていたが、2017に活動を本格的に再開。2018年2月、約5年ぶりとなる通算4作目のニューアルバム『Little Dark Age』をリリースした。『FUJI ROCK FESTIVAL '18』にも出演決定。
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