イヤホンズが単なる声優ユニットを超越しているワケ
人はいつも「物語」を欲しがる。自分自身に物語を欲しがる人は自分探しに懸命になり、誰かの物語に共感したい人は、映画やドラマを見て溜飲を下げる。芸能人のスキャンダルも、ワイドショーを通せばすぐさまドラマティックな物語へと変貌し、人々によって消費されていく。そんな圧倒的な「物語」への欲求を、新たな作品スタイルによって、チャレンジングに表現している集団がいる。それが声優ユニット「イヤホンズ」だ。
イヤホンズは、若手女性声優の高野麻里佳、高橋李依、長久友紀による三人組音楽ユニット。2015年のCDデビュー以来、これまで5枚のシングルと1枚のアルバムをリリースし、ライブの動員数も着実に拡大。大槻ケンヂ、石田燿子、ROLLY、串田アキラなど、バラエティーに富んだアーティストとのコラボレーションも話題を呼んできた。
そのイヤホンズが、3月14日に2ndフルアルバム『Some Dreams』をリリース。これを聴いて、誰もが「なんじゃこりゃ!?」と思うのではないだろうか? 筆者もこれまで数多くの声優アーティストの楽曲と出会ってきたが、イヤホンズほど「音楽そのもので『物語』を紡ぐ」驚きを与えてくれるユニットはなかった。
三人の声優が16のキャラを演じる過激かつ壮大な「歌劇」
イヤホンズの最大の魅力は、声優ならではのキュートな歌声で歌が紡がれる心地よさだけでなく、「声の芝居」がシームレスに楽曲に融合していることにある。たとえば、『Some Dreams』の幕開けを飾るリードナンバー“新次元航路”。「歌劇」と銘打たれたこの曲は、イントロから度肝を抜く。
シンフォニックなサウンドにのせて流れ出すのは、メンバーによる勇壮なナレーション。そこから曲はロック的なアプローチで奏でられるカントリー調ポップ、アイリッシュ、ノスタルジックなワルツ、ロックミュージカルなどへとつながり、様々なジャンルを横断。しかもそこに、メンバー三人のかけ合い芝居と、歌唱法も表現法も異なるあらゆる声色を駆使したボーカルがのる。6分20秒にもわたる壮大な音世界は、1曲のなかで様々なキャラクターが活き活きと躍動するノンストップの物語だ。
なんと歌詞カードにも、メンバーが本人として歌うフレーズ以外の箇所には、「船主像」「マダム」「バスタオル」「乗組員A」といったように、演じられているキャラクター名が書かれているのだ。文章で説明してもよく意味がわからないかもしれないが、PVを見てもらえばわかってもらえるはず。これは紛れもなくポップスの枠をはみ出た過激な「歌劇」。“新次元航路”1曲を耳にするだけでも、イヤホンズの特異性が理解できるだろう。
ももクロなども擁する所属レーベルのプロデューサーが語る
それにしても、なぜそんな楽曲作りをしているのか。そんな素朴な疑問を晴らすため、イヤホンズをデビューから手がけている「EVIL LINE RECORDS」プロデューサー・平野宗一郎にコンタクトを取り、彼女たちの音楽のこだわりを聞いてみると、こんなコメントが寄せられ、ハタと膝を打った。
平野:基本的に、1曲1曲に物語設定を作り、その役を演じてもらうことは意識しています。メンバーのみなさんの根幹が「声優」なので、ドキュメントを切り売りするような音楽を作っても、そこにはあまりリアルがない。「言葉の役者」というスキルを活かせるよう、音楽を作っています。きっと声色も毎回違うでしょうし、そこが面白い。過去と同じことをするのはつまらないのでやりませんし、ものを作る際のリファレンスにも入れません。毎回、音楽実験をしている感じがして楽しいです。
毎回、同じことはやらないのが身上のイヤホンズにとって、『Some Dreams』は新たな実験の場所。オープニングナンバーの“新次元航路”が一番象徴的ではあるが、本作はすべての楽曲が、セリフとキャラクターを演じる歌声で構成され、異なる物語が紡がれているというから手が込んでいる。
J・A・シーザー、三浦康嗣(ロロロ)、ROLLYらバラエティーに富んだ作家陣
「実験場」だと平野が言うように、多彩な音楽的聴きどころを用意するのがイヤホンズの流儀だ。『Some Dreams』について、「全曲に濃い思い出がある」と言い、「声優ユニットとしてやってみたかったことをそれぞれチャレンジした」という楽曲群には、一筋縄ではいかないアーティストたちが楽曲提供者として名を連ねる。
ももいろクローバーZや上坂すみれへの楽曲提供も行い、全員が作詞・作曲・編曲家でありアーティストでもある、前代未聞の音楽クリエイターギルドバンド・月蝕會議、1970年代からスケール感あふれるシンガーソングライターとして活躍する小坂明子、あの「天井桟敷」(寺山修司主宰で演劇実験室を標榜した演劇グループ)の音楽などで知られる、前衛的な音楽家 / 劇演出家のJ・A・シーザー、独特のポップセンスを披露するロロロの三浦康嗣、そして正統的クラシカルロックの遺伝子を今に伝えるROLLY&永井ルイらが作家として参加。1曲たりともイメージが被らない、バラエティーに富みすぎた(作品資料には、「今回も統一感完全無視、で攻めに攻め抜いた音楽達」との表記あり!)、潔いパンキッシュな魂を伝えてくれる。
造語のおまじないをとなえ、イヤホンズ版メリーポピンズともいえるキュートで楽しい世界を生み出した“ミーチャイキュットンティーガプリウテグバンコ”。アカペラのコーラスワークとウィスパーボイスを大幅にフィーチャーし、曲の進行に合わせて重層的で広がりに満ちた音世界を作り上げた“Fuwa くちゃ Dreamer”。13世紀に実際に存在した悪魔契約の呪文をそのまま使ったという、メタルテイストのゴシックオペラ“ウィッチクラフト 《テオフィルの奇蹟》”。
そして、1人の女の子が「安定の道」と「冒険の道」の2種類の未来を選んだ姿を、イヤホンズ三人がそれぞれを演じてパラレルワールドを描く“あたしのなかのものがたり”も珠玉の名曲だ。ロロロ・三浦康嗣の浮遊感あふれるひねくれポップにのせて、それぞれの女の子の声をL(レフト)、C(センター)、R(ライト)に単独配置し、かけ合う、独創的でファンタジックな音像に驚かされる。「ぜひ『イヤホン』やヘッドホンで聴いてほしい」と、平野も語ってくれた。
ミュージシャンの心を掴み、そして動かす、音の遊び場にして実験場。それがイヤホンズ
そして、“新次元航路”からスタートする全12の「物語」を締めくくる“未来泥棒”は、QueenやThe Beatlesといった王道ロックのエッセンスを目一杯盛りこんだROLLY&永井ルイによるスペクタクルナンバーだ。テーマは「人類滅亡後に取り残された、人工知能の世界」だと平野は語る。壮大なロマンにあふれたこの曲のレコーディングでは、ミュージシャンへのリスペクトにあふれたエピソードがあったそうだ。
平野:“未来泥棒”の制作では、ROLLYさん、永井ルイさんと最初に打ち合わせしたとき、曲の雰囲気のイメージのひとつに、すかんちの“ロビタ”(1995年)を挙げました。そこから紆余曲折、試行錯誤してこの曲ができたのですが、ボーカルレコーディング時、ROLLYさんから人工知能のセリフとして“ロビタ”の歌詞の一節をご提案いただき、イヤホンズメンバーに声を入れてもらえたのは、とても嬉しかったです。
全12曲、ひとつとして同じテイストの曲がなく、同じ声も登場しない声優だからこその音楽——イヤホンズは、まさに「音(=声)」を「楽しみ」ながら、我が道を切り拓いている。彼女たちが紡ぐ音楽という名の物語は、毎日、様々な楽曲が生まれてくるシーンにおいて、唯一無二の輝きを放ち続ける。そして最後に、平野に「イヤホンズの今後の目標は?」と問うと、ただ一言、こんな言葉が返ってきた。
平野:「また音楽で遊ぼうぜ!」と思ってます。
こんな魅惑的な遊びがあるなら、ジョインしない手はないだろう。
イヤホンズ『Some Dreams』通常盤ジャケット(Amazonで見る)
- リリース情報
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- イヤホンズ
『Some Dreams』月世界旅行楽団LIVE盤(CD+Blu-ray) -
2018年3月14日(水)発売
価格:8,640円(税込)
NKZC-20/1[CD]
1. 新次元航路
2. 理想郷物語
3. 一件落着ゴ用心
4. ミーチャイキュットンティーガプリウテグバンコ
5. あたしのなかのものがたり
6. Fuwa くちゃ Dreamer
7. 予め失われた僕らのバラッド
8. ウィッチクラフト 《テオフィルの奇蹟》
9. Yummy Yummy Party
10. サンキトウセン!
11. ヨロコビノウタ
12. 未来泥棒
[Blu-ray]
・『イヤホンズ2周年記念LIVE「月世界旅行楽団」』映像(予定)
- イヤホンズ
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- イヤホンズ
『Some Dreams』初回限定盤(2CD) -
2018年3月14日(水)発売
価格:4,968円(税込)
KICS-93684[CD1]
1. 新次元航路
2. 理想郷物語
3. 一件落着ゴ用心
4. ミーチャイキュットンティーガプリウテグバンコ
5. あたしのなかのものがたり
6. Fuwa くちゃ Dreamer
7. 予め失われた僕らのバラッド
8. ウィッチクラフト 《テオフィルの奇蹟》
9. Yummy Yummy Party
10. サンキトウセン!
11. ヨロコビノウタ
12. 未来泥棒
[CD2]
・イヤホンズのMUSIC TRIP
- イヤホンズ
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- イヤホンズ
『Some Dreams』通常盤(CD) -
2018年3月14日(水)発売
価格:3,240円(税込)
KICS-36841. 新次元航路
2. 理想郷物語
3. 一件落着ゴ用心
4. ミーチャイキュットンティーガプリウテグバンコ
5. あたしのなかのものがたり
6. Fuwa くちゃ Dreamer
7. 予め失われた僕らのバラッド
8. ウィッチクラフト 《テオフィルの奇蹟》
9. Yummy Yummy Party
10. サンキトウセン!
11. ヨロコビノウタ
12. 未来泥棒
- イヤホンズ
- イベント情報
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- 『イヤホンズ 3周年記念LIVE Some Dreams Tour 2018 -新次元の未来泥棒ども-開催決定!』
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2018年6月17日(日)
会場:愛知県 NAGOYA ReNY limited2018年6月24日(日)
会場:大阪府 umeda TRAD2018年7月7日(土)
会場:東京都 豊洲PIT
- プロフィール
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- イヤホンズ
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高野麻里佳、高橋李依、長久友紀による三人組声優ユニット。TVアニメ『それが声優!』と共に2015年6月18日『耳の中へ』でデビュー。これまでに3度のワンマンライブ、Aice5とのツーマンライブ、『Animelo Summer Live』出演等を果たす傍ら、大槻ケンヂ、石田燿子、ROLLY、串田アキラといったバラエティー豊かなアーティストとのコラボレーション展開も繰り広げてきた。2018年3月14日には待望の2ndアルバム『Some Dreams』をリリースし、6月から東名阪ツアーを開催する。声優ならではの「声」を生かしたオリジナリティ溢れる楽曲群で、さらなる飛躍を目指すイヤホンズ! 今日もどこかで、あなたのお耳をイヤホンジャーック!する予定だ。
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