「刑事コンビ」ものは、もはや出尽くしたのか?
『あぶない刑事』(日本テレビ系列)、『相棒』(テレビ朝日系列)などを例に挙げるまでもなく、性格や出自の異なる男性二人が、ときに反目し合いながらもタッグを組んで、事件捜査にあたる……というのは、もはや刑事ドラマの王道パターンのひとつである。男女ペアから歳の差ペアまで、そのバリエーションは、いまや枚挙にいとまがない。そんな、もはや出尽くしたかのように思える「刑事コンビ」のなかにあって、昨年放送されたドラマ『刑事ゆがみ』(フジテレビ系列)は、確かな新味を感じさせる作品だったと言えるだろう。
主人公である刑事、弓神適当(ゆがみ ゆきまさ)を演じるのは、意外にも今回が民放連続ドラマ初主演となった、浅野忠信。名実ともに日本を代表する俳優のひとりだ。そんな彼とタッグを組む新人刑事、羽生虎夫(はにゅう とらお)を演じるのは、神木隆之介。まだ24歳でありながら、すでに20年以上のキャリアを持つ、若きベテランだ。年の差、実に20年という、異色の刑事コンビの誕生である。
しかし、それがいわゆる先輩後輩の関係でもなければ師弟関係でもない、ましてや探偵と助手のような関係でもないというのが、本作のユニークなところだった。
『刑事ゆがみ』メインビジュアル ©井浦秀夫/小学館 ©2017 フジテレビ(サイトで見る)
いつも見ている浅野忠信、神木隆之介とは違う、絶妙な違和感
弓神は、ベテラン刑事でありながら、常にヘラヘラと軽口を叩き、周囲の人間にちょっかいを出しているような、その名のごとく「適当」な男。けれども、捜査におけるその直感の鋭さは本物で、しばし、法やルールを超えた大胆なやり方で犯人を検挙する、ある種の異端刑事である。
となれば、神木演じる羽生は、そんな彼の行動を咎めながらも追従する、真面目な「後輩キャラ」となりそうなものだけれど……どうも勝手が違うのだ。端的に言うならば、「出世欲に燃える腹黒刑事」。先輩を先輩と思わないどころか、自身の出世のためなら、弓神を出し抜くことさえ辞さないという、少々歪んだ正義感を持ったキャラとして描き出されているのだ。
神木隆之介演じる羽生虎夫 ©井浦秀夫/小学館 ©2017 フジテレビ
そんな羽生を、ことあるごとに茶化し続ける弓神と、それに負けずと立ち向かいながら、弓神に罵詈雑言を浴びせる羽生。毎回繰り広げられるこの二人のやり取りは、ときに事件を置き去りにしながら、延々と繰り広げられる。その様子にいつしか好感を持つようになった視聴者は、恐らく筆者だけではないだろう。「いつも映画やドラマで見ている彼らと、ちょっと違うぞ?」と。
いつもと違うのは、彼ら2人だけではない。弓神の同期であり、現在はその上司でもある菅能理香(かんの りか)を演じる稲森いずみもまた、これまでとは違うクールな佇まいと時折見せるそのギャップによって、視聴者の関心を捉えていた。それは、弓神の密かな協力者である、声を発しない謎の女性ハッカー氷川和美(ひかわ かずみ)を演じた山本美月も同様であった。
従来のイメージとは異なる役なのに、妙に説得力のある、浅野忠信
このように、主要キャラクターのいずれもが、それぞれの役者にとって、従来のイメージとは少々異なる役であることがこのドラマのポイントのひとつとなっていた。しかも、そのいずれもが、案外ハマっているという新鮮な驚き。というか、「実はこういう人だったんじゃないか?」と思わせてしまうような説得力が、いずれの役者にもあったのだ。
無論、その極みは、浅野忠信である。浅野忠信といえば、これまでは、どこか狂気(あるいは侠気)を秘めた役どころが多かった。民放ドラマで初レギュラーを務めることが話題となった、木村拓哉主演の『A LIFE~愛しき人~』(TBSテレビ系列)で彼が演じた役どころも、やはりどこか狂気を秘めたキャラクターだった。しかし、「僕は意外と適当なんでピッタリの役です(笑)」という本人のコメント通り、神木隆之介を嬉々としていじり倒す「大人気ない大人」である今回の役どころは、これまで映画やドラマであまり披露することのなかった、彼の人懐こい人間的な魅力を引き出すことに成功していたのだ。
浅野忠信演じる弓神適当 ©井浦秀夫/小学館 ©2017 フジテレビ
地力のある浅野忠信、神木隆之介が吹かせた「刑事コンビ」界の新風
そんなコメディタッチが基調となったドラマであるにもかかわらず、本作が意外と骨太のドラマとして成立していたのは、その原作である漫画が『弁護士のくず』などで知られる井浦秀夫によるものだったことも大きく関係しているのだろう。
市井に生きる生活者の立場から、人間の良心や良識、正義の曖昧さ、果ては法律の是非を問うその作風は、本作においても健在だ。そう、個性あふれる刑事たちの活躍を通して、この社会の「ゆがみ」そのものを浮き彫りにすることが、実は本作の大きなテーマなのだ。
原作漫画以上にコメディ部分がブロウアップされた印象のある今回のドラマ版ではあるけれど、そのトーンがシリアスに転じたときに見せる役者たちの表情は、やはり流石のひと言だ。とりわけ、シリーズのクライマックスで弓神の前に現れる、因縁の男を演じたオダギリジョーとの対決は、まさしく手に汗握る緊張感に溢れていた。
一見、軽妙なコメディ作品のようでいて、その実、浅野忠信と神木隆之介という地力のある俳優を起用することによって、それだけには終わらないシリアスなテーマを描き出すことにも成功した『刑事ゆがみ』。本作が「刑事コンビ」界に新風を吹かせた真の理由は、実はそのあたりにあるのかもしれない。
- リリース情報
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- 『刑事ゆがみ』(Blu-ray BOX)
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2018年3月28日(水)発売
価格:25,380円(税込)
品番:PCXC.60082
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- 『刑事ゆがみ』(DVD BOX)
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2018年3月28日発売
価格:20,520円(税込)
PCBC.61766
- 番組情報
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- 木曜劇場
『刑事ゆがみ』 -
演出:西谷弘、加藤裕将、宮木正悟
脚本:倉光泰子、大北はるか、藤井清美
原作:井浦秀夫『刑事ゆがみ』(小学館『ビッグコミックオリジナル』)
主題歌:WANIMA“ヒューマン”
出演:
浅野忠信
神木隆之介
仁科貴
橋本淳
稲森いずみ
ほか
- 木曜劇場
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