巨大ターミナル・池袋駅から一駅。西武池袋線・椎名町駅の周囲には、昭和の時代から続く商店街など、懐かしい街並みが残っています。
しかし、近年は少子高齢化にともない、空き家や空き店舗が増加。商店街にもシャッターを閉めたお店の姿が目立つようになっていました。
そんな椎名町でいま、ユニークな新しい動きが生まれています。きっかけとなったのは、2016年に元とんかつ屋の空き店舗をリノベーションしてオープンしたホテル&ミシンカフェ『シーナと一平』。
国内外からの旅行者だけでなく、地元の高齢者や子育て世代も入り混じったコミュニティースペースとなっている『シーナと一平』とはいったいどんなところなのでしょうか? 店主の澤田剛治さんに聞きました。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
手塚治虫や赤塚不二夫も暮らした文化的な街・椎名町
平日、休日を問わず人であふれる池袋駅のある東京都豊島区。じつは、東京23区で唯一「消滅可能性都市(2010年から2040年にかけて、20~39歳の若年女性人口が5割以下に減少する市区町村)」に認定されているのをご存知でしょうか?
豊島区ではその対策として、2015年から「豊島区リノベーションまちづくり構想」を策定。空き店舗のオーナーと事業主をつなぎ、そこから生まれる新規事業によって街の課題を解決する「リノベーションスクール」というプログラムを実施しています。
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椎名町の商店街
『シーナと一平』もそのプログラムがきっかけで生まれた新規事業のひとつ。株式会社シーナタウン取締役の澤田剛治さんは当時を振り返ります。
澤田:豊島区は私の地元ということもあり、この街がもっと楽しくなってほしい、この街の良さをもっと多くの人に知ってもらいたい、という思いをずっと抱いていました。
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『シーナと一平』のスタッフと澤田剛治さん(右)
澤田:椎名町は、小さな食事処や居酒屋などが並ぶレトロな商店街だけでなく、かつては「池袋モンパルナス」と呼ばれるほど多くの芸術家が暮らしていたり、手塚治虫や赤塚不二夫などの漫画家が暮らした「トキワ荘」があったりと、文化的な雰囲気もある。
さらにターミナル駅からも近い下町として「東京のリアルな日常を体験できる」と、一部の訪日外国人観光客からも注目されるエリアです。
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澤田:そこで、この街の特徴を活かした事業をできないかと私たちが提案したのが「タウンステイ」というコンセプトのシンプルなホテル。
『シーナと一平』では、シンプルに寝室とダイニングキッチンだけを提供し、食事は街の飲食店もしくは商店街で食材を買って料理を、お風呂は街の銭湯を、といった具合に街全体を宿に見立てています。
旅の楽しみ方が「観光」から「体験」へとシフトしつつあるなかで、ありのままの街の魅力を旅行者たちに伝えるガイドのようなホテルがつくれたらと思ったんです。
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「布」で、旅行者と地域のコミュニティーをつくりたい
「リノベーションスクール」で、空き店舗となっていた元とんかつ屋『とんかつ一平』のオーナーとつながり、タウンステイ型のホテルの実現に向けて動き出した澤田さん。
そのモチベーションは、「宿をやりたい」ではなく「街を面白くしたい」。「タウンステイ」というサービスを実現するためには、周囲のお店との連携、コミュニティーの育成が求められます。
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澤田:それは『シーナと一平』の開業準備中から強く意識していました。街の方々と一緒に店舗の改装工事をするワークショップや餅つき大会などを開催しては、『シーナと一平』が挑戦したいタウンステイというコンセプトを伝えていきました。
もともと芸術家がたくさん住んでいたり、新しいものを取り入れたりする文化のある街だからなのか、みんな興味を示してくれたのが有り難かったですね。
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そんななか、同店のもうひとつのサービスが生まれます。
澤田:ミシンカフェです。ワンドリンクで2時間ミシンが利用できます。もともと1階をカフェにしようと思っていたのですが、元店舗のオーナーから「子育て世代も利用しやすい場所にしてほしい」と依頼され、ハッと気づいたんです。
国内外の旅行客だけでなく、地域の高齢者も、単身者も、若い子育て世代も交流できる場所をつくるためには「共通言語」が必要になる。そこで浮かび上がってきたのが「ものづくり」を軸にした場でした。
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澤田:「布」をテーマにしたのは、世界中のどんな文化、世代にも共通するアイテムだから。また、地域の高齢者の方々は、手芸ができたり、ミシンを上手に使えたりする人も多い。
「布」と「ものづくり」を接点に、ここに集まったあらゆる文化、世代の人々が交流する、そんなビジョンを実現できると感じました。実際、店内に置かれたクッションやコースターも、ミシンカフェで地域の人たちが手づくりしてくれたものなんです。
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少しずつ変わりはじめた「椎名町」
『シーナと一平』がオープンして4年。この間に椎名町の雰囲気も少しずつ変化しているように感じると澤田さんはいいます。
澤田:2019年1月にリニューアルした銭湯『妙法湯』さんでは「地域コミュニティーの場」としての役割を担うべく、豊島区の個性豊かな人や活動を紹介、交流する「としま会議」や、「銭湯寄席」といったユニークなイベントを開催しています。
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妙法湯外観
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銭湯寄席
澤田:また、鮮魚店兼食堂として地域の方に長年愛されていた『おぐろのまぐろ本店』も2018 年にリニューアル。かつて鮮魚を販売していた1階はスタンディングバーに、2階は畳を敷いた座敷席になりました。
地域の方はもちろん、「新鮮なマグロが安くて美味しい」という評判を聞いた新たなお客さんも加わり、新しいコミュニティーの場が生まれています。
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『おぐろのまぐろ本店』外観
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賑わいをみせる『おぐろのまぐろ本店』の店内
澤田:街の繁栄・衰退は数年で解決できるものではありませんが、街の顔となる人々が増えていくことで、自然と街の魅力は増していき、外からも人が集まってくるのではないかと思います。『シーナと一平』も椎名町の一翼を担う存在として、これからもこの街の魅力を発信し続けていきたいですね。
総務省の統計(平成28年経済センサス-活動調査)によると、「豊島区リノベーションまちづくり構想」の効果もあってか、豊島区の事業所数は、2014年から2016年にかけて944も増加。その数字にはもちろん『シーナと一平』も含まれます。
少子高齢化が進む日本全体において、小さな街の衰退や空き家の増加は共通の問題。しかし、そんな問題に新しいアイデアを加え、街の魅力を再発掘する人たちが着実に増えてきています。
下町情緒溢れる街並みに、創意工夫のあるお店が少しずつオープンし始めている椎名町を歩けば、「発信するべき魅力はすでにそこにある」ということに気づくことができるかもしれません。
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シーナと一平
住所: 東京都豊島区長崎2-12-4
営業時間: 【ホテル】チェックイン16:00〜21:00、チェックアウト10:00 【カフェ】月曜〜木曜 10:30〜15:30、金曜・土曜12:00〜18:00、日曜11:00〜18:00
定休日: 【ホテル】―、【カフェ】火曜定休
電話番号: 03-5926-4410
最寄駅: 椎名町駅
URL:http://sheenaandippei.com/
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妙法湯
住所: 東京都豊島区西池袋4-32-4
営業時間: 15:00〜1:00
定休日: 月曜
電話番号: 03-3957-8433
最寄駅: 椎名町駅
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おぐろのまぐろ 本店
住所: 東京都豊島区長崎1-4-17
営業時間: 16:00〜23:00
定休日: 日曜
電話番号: 03-3972-3639
最寄駅: 椎名町駅
Facebook: https://www.facebook.com/oguronomaguro/
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