東京を中心に世界各国より多数のクリエイターや出版社が自身の作品を展示するTHE TOKYO ART BOOK FAIR(以下TABF)。昨年までは3日間に渡り開催されていた本イベントですが、今年は4日間に渡る開催となり、トークイベントやパネルディスカッションなど、ぎゅっと濃縮したイベントへと生まれ変わりました。さらに今年の新たな試みとしてダミーブックアワード「Steidl Book Award」も創設し、応募作品もズラりと並べられました。そこで昨年に続き、今年もHereNow TOKYOのキュレーターであるベン・デイビスが選りすぐりの5つの作品を紹介します。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
A Song for Windows / ホンマタカシ
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まず立ち寄ったのは、「Steidl Book Award」の入選作品が100冊以上並ぶエリアに隣接するtwelvebooksのブース。twelvebooksは、ヨーロッパやアメリカの出版社からコンテンポラリー系の写真集を扱う国内のディストリビューターです。素晴らしい作品が集結する中、一瞬にして目を奪われたのは写真家・ホンマタカシさんの新たな写真集でした。
ホンマさんの作品「A Song for Windows」は、「ムーミン」シリーズの執筆で有名なフィンランドの画家・小説家などで知られる、トーベ・ヤンソンへのオマージュ。ホンマさんは彼女のドキュメンタリー映画である「ハル、孤独の島」を鑑賞したのちに、ヤンソンが人生のパートナーとたくさんの夏を共に過ごしたフィンランドの小島・クルーヴハル島へ渡りました。
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「A Song for Windows」は彼女たちが共にときを過ごした小屋、そしてその小屋を囲う風景をとらえた写真集。ホンマさんは自身が撮影した写真に、ヤンソン著「The Summer Book」(1972)から引用した文章を重ね、今なおあり続ける風景に彼女の思い出を重ね合わせました。
本作品は厚みのある紙にプリントされており、光沢のあるラミネート加工が施され、ひとつひとつの写真に思い入れと物語が詰め込まれている素敵な写真集でした。
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Eye Candy / Gottingham & 柴田ユウスケ
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次にSoda Designがブースを設ける二階に上がり、そこで目にした二作目は、アイスキャンディーをコンセプトとするフォトブック「Eye Candy」。
フォトグラファーであるGottingham(杉山豪州)とSoda Designの柴田ユウスケさんのコラボレーションによる本作は、A5サイズで印刷されており、日本の夏には欠かせない「ガリガリ君」を中心とするユニークなもの。
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ページをめくるとソーダ味とキウイ味のガリガリ君の写真が現れ、大量生産されている商品でありながらも、ひとつひとつに絶妙な違いが。さらに一枚一枚異なる印刷業者に印刷を頼み、色合いや光の濃淡が少しずつ違うユニークな作りにも心をくすぐられました。
表紙でも3通りのフォントを使い回し、夏を象徴するスイーツ=「ガリガリ君」を中心とした遊び心が効いた見応えのある作品です。
FLOW / 大山ケンジ
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同エリアの角にブースを出店していたのは枠にはまらず、幅広いジャンルのzineやフォトブックを扱う世田谷・駒沢にお店を構える『Snow Shoveling』。そのブース中で見つけたのが、大山ケンジさんの「FLOW」でした。
これは大山さんが4年間にわたり、東京、サンフランシスコ、そしてヨーロッパの風景をバックにプラスチックバッグ(ビニール袋)を撮影した風景写真シリーズ。
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プロジェクトの一環とし、動画も制作しており、その間撮影された静止画たちはシンプルな写真集にバランスよく収められていました。
移り変わる街の中でポツりと浮かぶビニール袋を見ていると、自分たちもひとつの場所を行き来する風景の一部でしかないように思えてきます。
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公園遊具 / 木藤冨士夫
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二階の一番奥の部屋へと進むと、真夜中に撮影された公園遊具の写真たちを前に写真家・木藤冨士夫さんご自身もいらっしゃいました。
展示されている写真は、彼の作品「公園遊具」の一部であり、動物の形をした愉快で、そして少々不気味な公園の遊具たちが散りばめられていました。
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彼の人気シリーズ「公園遊具」は本作で四作目。もともと東京を軸としたデパートの屋上遊園地や、屋上の魅力に迫る作品「おくじょう」を発表した後に、本作「公園遊具」シリーズをスタート。木藤さんはこのシリーズのために、恐れ知らずの探検家のように国内を飛び回り、動物や宇宙人をかたどった可笑しな遊具たちを選び出し、真夜中の撮影に挑んできました。
今やたくさんの公園が取り壊され、遊具が別のプラスチック道具とすりかえられる中、「公園遊具」を見ると、木藤さんの手によって長年子供たちに愛されてきた遊具たちが温存されているように感じるのです。
Wildflower / 安藤晶子
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今年のTABFでの最後の掘り出しものは、偶然にも昨年紹介した成重松樹さんの「上下巻」の隣に置かれていた「Wildflower」という作品。「Wildflower」は、東京を拠点とするイラストレーター兼画家である安藤晶子さんが自費出版した作品です。
コンパクトに中綴じされた本書は、2015年にROCKETにて同名で開催されていた自身の個展の制作過程を追ったもの。ファッショナブルな女性たちが拡張し、花瓶や花のイメージが飾り付けられている絵図からなる作品です。
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水彩やコピックのペンで色付けされている安藤さんの作品は、鮮やかさの中にも深みが掛け合わされており、ピンクやインディゴなどを基調とする彼女のレトロなパステルカラーは、見るものを彼女の風変わりな世界へと惹きつける力を秘めていました。
「Wildflower」は、彼女の魅力的な作品たちを上手くまとめた一冊でした。
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- プロフィール
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- ベン・デイビス
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オーストラリア出身の編集者。2010年より東京を拠点に活動。ローカルな視点から都市を紹介するオンラインマガジン「The Thousands」東京版の編集者としての経験をした後、2015年にCINRAに入社。ANAの訪日外国人向けサイト「Is Japan Cool?」にコラムを寄せるなど、地域の魅力を伝えている。
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