裸のコミュニケーション文化「銭湯」を再解釈。東京の個性派銭湯のいま

日本独自のユニークな文化「銭湯」。後継者問題や設備の老朽化などを理由にその数は年々減少していますが、新しい世代にその価値が再認識されはじめ、独自のサービスを展開する新しい銭湯が誕生しています。いまの時代にフィットするかたちへと変貌しはじめた、東京の最新銭湯、BathHaus、大黒湯、久松湯、富士見湯をチェックしてみましょう。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

なぜ、いま東京で銭湯が再注目されているのか?

古くから日本人の心と身体を癒やし続けてきた銭湯。「特定の成分を含んだ温水や鉱水」を使う「温泉」に対し、「銭湯」は、地下水や水道水を沸かして使用する入浴施設を指しています。

温泉に比べて都市部に多いのも銭湯の特徴で、近所の住民同士が顔を合わせる「地域コミュニティーの場」としての役割も担っています。

1960年代までの東京の一般家庭にはまだお風呂が少なく、ほとんどの場合「入浴」は「銭湯に行く」ことを意味していました。銭湯で1日の汗を流し、住民同士で談笑し、家路に着く。それが東京の日常だったのです。

その後、一般家庭にもお風呂が普及しはじめたことで、銭湯の数は減少。1960年代には全国で約20,000軒あった銭湯も、2017年には約3,700軒にまで減ってしまいました。ちなみに、現存する銭湯のうち600軒以上は東京の銭湯で、東京は銭湯天国ともいわれています。

数だけ見れば減っていますが、近年、銭湯に注目が集まっています。要因のひとつが、最盛期だったころの経営者から後を継いだ若い店主が増えていること。いまの時代に求められる新しい銭湯のあり方を模索し、改装や建て替え、独自の施策などを積極的に行っているのです。

何十年も前に建てられた古い銭湯も、若い世代が見ればレトロでかわいい建物。ここでは、銭湯の魅力を再解釈し、独自のアイデアや設備、サービスによって新たな付加価値を提案している、東京の個性派銭湯4軒をピックアップ。「新しい銭湯」の最前線に迫ってみましょう。

銭湯、バー、コワーキングスペースが一緒になった『BathHaus』

小田急線の代々木八幡駅から徒歩で約10分。周囲の建物とは趣の異なるビルに『BathHaus』はあります。

掲げられたコンセプトは、「仕事して、ひとっ風呂浴び、ビールを1杯ひっかける」。1階にお風呂と、クラフトビールなどを楽しめるバースペースを、地下1階にコワーキングスペースを設けた斬新なフロアレイアウトが、従来の銭湯と一線を画しています。

オーナーを務めるのは、自分らしい暮らしのかたちを世の中に提案する株式会社chill&work代表のroseさん。オープンしたのは2018年12月のこと。

roseさん:日常のなかで気軽に立ち寄れて、仕事もできて、おまけにくつろぐこともできるような、そんな空間があったらいいなと以前から考えていました。

そんなとき、友人が高円寺に『アンドビール』というクラフトビールバーをオープンして、ピンと来たんです。お風呂上がりにクラフトビールが飲める銭湯があったら面白いのではないか、銭湯とクラフトビールバーに、オープンなコワーキングスペースを併設した施設なら、働きに来る人と地元住民のおもしろい交流が生まれるのではないかと。

クラフトバースペースを奥へと進み、かわいらしいイラストがデザインされた暖簾をくぐって、お風呂場へ。

暖簾のイラストは、代々木上原ゆかりのイラストレーター「白根ゆたんぽ」さんによるもの。浴槽は檜とタイルの2種類で、男湯と女湯は1週間ごとに入れ替わります。どちらも浴槽自体は広くありませんが、清潔で、スタイリッシュな雰囲気。

roseさん:日本の伝統的な旅館の浴槽で使用される檜や、プールをイメージしたタイルを使用しました。銭湯に対して、古くて垢抜けないイメージを持っている方は多いと思いますが、そういう方にも気持ち良く過ごしてもらえると思います。

リゾートテイストのバーカウンターが設えられた1Fのバースペースでは、roseさんがセレクトした、ヴィンテージ家具や、ポップな壁掛けイラストがフランクな空気感をつくり出しています。

ガラス張りの空間は、日差しがたっぷりと差し込み、明るく、過ごしやすい雰囲気。カウンター奥の壁面にはクラフトビールのサーバーを備え、『アンドビール』とのコラボタップをはじめ、常時5タップのクラフトビールが楽しめます。

地下1Fのコワーキングスペース。コンクリート打ちっぱなしの壁はクールな印象ですが、照明を合わせることでほどよいリラックス感を演出。

全40席で、複合プリンターを完備。作業の合間にひと息つけるよう、キッチンや冷蔵庫なども用意されています。利用時間は9時~23時で、有料会員なら誰でも利用できます。

入浴しに来る人はもちろん、ビールを飲むだけ、仕事をするためだけに足を運ぶ人も多いのだそう。気軽に立ち寄れる場所を探している感度の高い人と、地元の人が交わるスポットになっているようです。

外国人の利用も多く、欧米、アジア、オーストラリアなど国籍はさまざま。roseさんはじめ『BathHaus』には英語が堪能なスタッフも揃っています。

BathHaus
住所:東京都渋谷区西原1-50-8 1F • B1F
電話番号:050-5128-0982
営業時間:平日・土10:00~22:00、日・祝10:00~20:00
定休日:-
料金:700円

東京スカイツリーも眺められる。オールナイト営業で生まれ変わった老舗銭湯『大黒湯』

東京スカイツリーのある押上駅から歩くこと約5分。職人の工房や工場も点在する住宅街で視線を上げると、空へと伸びる白い煙突が見えてきます。

お湯を薪で焚くときに使うこの煙突が、1950年に創業した『大黒湯』の目印。大きな瓦屋根とレトロな外観が、老舗銭湯ならではの風格と味わいを醸し出しています。

オーナーの新保さんが先代から後を継いだのは、2012年のこと。当時は近所に住む年配のお客さんが時おり顔を見せる程度で、お世辞にも活気のある銭湯とは言えなかったそう。

新保さん:歴史ある銭湯を継ぐのだから、なにか新しいアクションを起こして、これから40年、50年と続いていく銭湯にしなければいけない。そんな思いで改装に踏み切りました。

取り壊してビル型の銭湯にする案も出ましたが、ここ墨田区は、江戸時代から続く下町の景観や風情、人情味がいまなお残る地域です。そうしたものを損なわずに、地域の皆さまに愛される下町銭湯を続けていくことにしました。

そうしてリニューアルされた「大黒湯」は、レトロな外観をそのまま残しつつ、24時閉店だった営業時間を朝10時まで延長。深夜でも入浴できるオールナイト営業の銭湯に生まれ変わりました。

露天風呂、スチームサウナなど次々と設備を拡充していき、現在は9種類のお風呂が楽しむことができます。

内湯の壁に描かれた富士山の絵は、ペンキ絵師の中島盛夫さんの手によるもの。2年に一度、絵を描き変えることで、浴室の雰囲気も変化し、常連さんも飽きずにお風呂を楽しめるそうです。

露天風呂の階段を登るとウッドデッキに出られ、お風呂でほてった身体を外気でほどよく冷ますことができます。リクライニングチェアにゴロンと身体をあずけて東京スカイツリーを眺めたり、ハンモックでくつろいだり。入浴の合間にちょっとひと息つける贅沢な空間です。

新保さんが力を入れているのが、訪日外国人観光客の集客。2014年に英語版、フランス語版の公式ウェブサイトを開設し、現在は、外国人がひと目でわかるイラスト入りの英語版入浴マナーガイドも用意されています。

新保さん:浅草に近い押上エリアに新しい宿泊施設が続々とオープンしていることもあり、ホテルや民宿からの紹介で『大黒湯』に足を運んでくださる外国人の方も多いですね。1日5~6組の外国人グループに訪れていただいており、「銭湯」という文化に興味を持っていただいているのを実感します。

また、外国人のお客さまにマナーガイドをお渡しすると必ず目を通してくれますし、知りたい、学びたいという思いが伝わってきます。入浴後、来場ノートに感想を書いてくださる方もいらっしゃるんですよ。日本の文化を楽しんでいただけていると思うと、こんなにうれしいことはありません。

ロビーの一角にギャラリースペースを設け、定期的にイベントや企画展を実施しているのも「大黒屋」のアピールポイント。

写真家の蜷川実花さん、バーチャルアイドルの初音ミク、歌舞伎役者の中村獅童さん、熊本のマスコットであるくまモンなどの展示をしたこともあり、地元民や常連さんはもちろん、クリエイターにも好評を博しているそう。ギャラリーは基本的に無料で楽しめる点も魅力的です。

地域に根ざしつつ、設備の拡充や訪日外国人の集客、イベントの開催など、新しい取り組みをはじめている『大黒湯』。年配の方から若年層、赤ちゃん連れのお母さんまで、幅広い世代のお客さんが暖簾をくぐっていく光景が印象的でした。

大黒湯
住所:東京都墨田区横川3-12-14
電話番号:03-3622-6698
営業時間:平日15:00~翌10:00、土14:00~翌10:00、日・祝13:00~翌10:00
定休日:火曜
料金:大人470円、中学生370円、小学生180円、0歳~幼児80円、サウナ200円
URL:http://www.daikokuyu.com/index.html

プロジェクションマッピングが楽しめるモダンな銭湯『久松湯』

池袋駅から西武池袋線に乗車し約8分。桜台駅から徒歩で約5分の場所にある、スタイリッシュな建物が『久松湯』です。

1956年に創業した歴史ある銭湯ですが、先代から後を継いだ店主・風間さんが、「これまでにない銭湯をつくりたい」と2014年にリニューアル。モダンな内外装に建て替えるとともに、浴室でプロジェクションマッピングを行うという、新しい試みに挑戦しました。

「光と風、雑木林のなかの銭湯」をコンセプトに設計された「久松湯」の外観は、白を基調としたスタイリッシュな佇まい。まるで美術館や博物館のようです。

ロビーの内装には木をふんだんに使用し、温もりを感じる空間に。浴室は中庭を囲むような構造にすることで、明るくて開放的な空間をつくりだしています。

ジェット風呂や炭酸泉風呂、サウナや水風呂がある内湯と、露天風呂が用意され、屋根のない開放的な露天風呂ではヒーリングミュージックも流れています。

また、リニューアルにあたり地下1,500mまで温泉掘削を行ったというこだわりのお湯も魅力。良質な温泉を男女の露天風呂に供給しています。

風間さん:塩分濃度の高い温泉で、殺菌力が強く、湯冷めしにくいのが特徴です。寒い季節でも身体が芯から温まりますよ。

銭湯といえば、富士山が描かれた壁画。そんなイメージを持っている人も多いはずですが、『久松湯』では、プロジェクターで映像作品を白い壁に投影するプロジェクションマッピングを行っています。

風間さん:銭湯は1日の疲れを癒す場所。そのお湯は、漂ったり、流れ落ちたり、私たちにさまざまな表情を見せてくれます。

そんなお湯の特性を光で表現する手法として、プロジェクションマッピングを採用しました。おそらく銭湯でプロジェクションマッピングを行っているのは当銭湯だけだと思います。

プロジェクションマッピングを手掛けたのは、日本のアーティスト集団、アトリエオモヤ。フランスのシャルル・ド・ゴール国際空港に常設展示されている、水中の気泡でさまざまな模様を描く作品『WATER CANVAS』でも知られています。

お湯をモチーフとした幾何学模様が移ろい、変化するアーティスティックなプロジェクションマッピングをひと目見ようと、区外から足を運ぶお客さんも多いのだとか。

美しいプロジェクションマッピングを鑑賞しながらお湯に浸かっていると、時が経つのを忘れてしまいそうです。

清潔で開放感のある空間づくりや、世界的アーティストが手掛けたプロジェクションマッピングなどで話題を呼び、最近では、1日に900人以上の利用者が訪れる日もあるとのこと。従来の銭湯のイメージを覆し、新しい銭湯のスタイルを築いた大人気の銭湯です。

久松湯
住所:東京都練馬区桜台4-32-15
電話番号:03-3991-5092
営業時間:11:00~23:00
定休日:火曜
料金:大人460円、小学生180円、0歳~幼児80円、サウナ400円
URL:http://hisamatsuyu.jp/

約7,000冊の漫画が読み放題。楽しくてでクレイジーな銭湯『富士見湯』

新宿からJRで約40分、東京都昭島市にあるJR青梅線・東中神駅を降りると、インド料理店や寝具店、文房具店などが軒を連ねる昔ながらの商店街が伸びています。

都心エリアとは異なる、静かで穏やかな雰囲気。そんな空気感を楽しみつつ、商店街を5分ほど歩いたところに『富士見湯』はあります。

1953年に創業した『富士見湯』がリニューアルオープンしたのは2016年のこと。「若者も足を運びたくなるような、楽しくてクレイジーな銭湯」を新たなコンセプトに掲げ、日本らしいサブカルチャー要素など、さまざまな付加価値を提供しています。

お風呂場に入るや否や、カラフルな壁画に目が釘付けに。招き猫、亀、富士山、鳳凰。縁起が良いとされるものが描かれています。

ひときわ大きく描かれているクジラはその昔、昭島市でクジラの化石が発見されたことにちなんだもの。縁起物をギュッと凝縮した、なんともインパクトのある壁画です。

田川:とにかくおめでたい世界観にしたくて、この奇抜な壁画が生まれました。リニューアル以前からの常連さんはとても驚かれていましたが、いまでは皆さんに好評です。御利益がありますように、運気が上がりますように、なんて、ちょっと期待しながら湯に浸かるお客さんも多いですよ。

と話してくれたのは、「富士見湯」で働く田川さん。

壁画の下には、高温・中温・低温に設定された3つの浴槽が並んでおり、露天風呂も併設。広い空を見上げながら、開放感あふれる岩風呂に浸かる時間は至福のひとときでしょう。

なお、昭島市は東京都で唯一地下水のみを水源としている自治体で、「富士見湯」のお湯はその地下水を100%使用しているそう。蛇口からそのまま飲める、おいしい地下水をお風呂に使うというのは贅沢ですね。

「自宅のようにくつろげる、だらだらできる銭湯」を目指し、ロビーの壁一面には、約7,000冊の漫画を陳列。もちろん、無料で何冊でも読むことができます。また、中2階には男女別々の寝ころびスペースが設けられており、ゴロンと横になって漫画を楽しむことも。

田川さん:約7,000冊もの漫画を揃えている銭湯は、うちくらいではないでしょうか。無料で読めますので、とても好評ですよ。また、寝ころびスペースは2019年4月にできたばかりですが、皆さん、漫画を読んでくつろいでいらっしゃいます。サッとお風呂に入って帰られる方もいらっしゃいますが、19時以降は、のんびりと過ごされる方で席が埋まっていることも多いですね。

営業時間は昼12時~翌朝10時まで。時間を気にせずゆっくりと過ごせます。

田川さん:来店者数はリニューアル前の3倍以上になり、常連さんに加えて、20代~30代の若い方や、小さなお子さんのいる家族での利用も増えました。ありがたいことです、本当に。

ユニークかつアーティスティックな壁画や、約7,000冊の漫画を取り入れた空間づくりなど、あの手、この手の新提案で利用者の裾野を広げている『富士見湯』。次はどんなアイデアで、銭湯に新たな付加価値をプラスしてくれるのでしょうか?

富士見湯
住所:東京都昭島市中神町1260
電話番号:042-541-2081
営業時間:12:00~翌10:00
定休日:月曜
料金:大人460円、小学生180円、6歳未満80円、サウナ無料
URL:https://www.fujimiyu.co/


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