Underworld、クリエイティブ集団tomatoのメンバーでもあるカール・ハイドの個展『What's going on in your Head when you're Dancing?』(踊っているあなたの頭の中では、いったい何が起こっているのか?)が、9月15日まで東京・ラフォーレミュージアム原宿で開催中だ。
世界初の開催地が東京というのは、日本のファンにとって嬉しいニュース。初日に開催されたライブペインティングの作品を含め、新作や旧作だけでなく創作メモやノート、制作プロセスをおさめた映像といったアーティスト、カール・ハイドの全貌に触れられる非常に貴重な展示となっている。カールの頭の中ではいったい何が起こっているのか、ぜひ会場で検証してみてほしい。
会場に足を踏み入れると、Underwoldのもう1人のメンバー、リック・スミスが今回の個展のために制作したBGMがすぐさま耳に飛び込んでくる。女性の日本語によるつぶやきや波の音などを取り入れたその音源に導かれながら、会場の奥へと進む。
力強い黒の曲線を主体に、赤や白、グレー、淡い緑、淡い黄色などの落ち着いた色がその黒の周りを踊る。同じ構図であっても、規則的なラインで構成されていたり、強烈な色がのっていれば、ジオメトリックやポップが主張されることだろう。しかし、変則的で流れる曲線、そして柔らかい配色ゆえだろうか、カールの作品には「書」の要素や「浮世絵」にみられる色使いが感じられる。それは、カールがペインティングを始めたきっかけが、日本の風景や日本で触れたものだったということと関係があるかもしれない。
また作品の中には、黒や淡い色の曲線に加えて鉛筆の曲線が描かれたものもある。映像での創作プロセスを見て気づくのは、カールはランダムに、思うがまま鉛筆の曲線を走らせているということだ。それから、必要のない鉛筆の曲線を消しゴムで消すことで、自身の思い描く作品に近づけていく。
余分なものを排除する。何が必要で、何が不必要なのか。きっとカールの頭の中でも、常に不必要なものが取り除かれる作業が行われているのだろう。そして、その行為は彼らUnderworldの音楽作りにもリンクしている。
引き続き映像を見ていると、作品に向き合うカールの後ろ姿だけでなく時折レンズの前に立ち両手を動かす動作が写し出される。それはまるで気功での「気」を感じる動きのようでもあり、創作の合間にこれから描くであろう曲線を、カール自らが体感しているかのようでもある。
その他、素材に段ボールを用いたり、曲線が枠からはみ出ていたり、カールの遊び心はペインティングでも健在だ。
彼はどんな時に、どんな環境の中で作品のインスピレーションがわくのだろうか? 会場には、完成された作品だけでなく創作メモの一部も展示されている。ホテルのネーミングの入ったメモにもアイディアが描かれていることから、旅の途中、またはライブを終えたあとといった、現実から離れた完全なるオフの状態でインスピレーションを得ているとの解釈は、あまりに深読みし過ぎだろうか。
会場の出口近くに設置されたガラスケースの中には、3冊の創作ノートが展示されている。それは、スケッチブックでも紙が束ねられた一般的なノートブックでもなく、蛇腹タイプのノートだ。カールは時にインスピレーションを断片としてとらえるのではなく、音楽の旋律のような連続性のあるものとしてとらえている。
そして、今回のメインでもあるライブペインティングで制作された作品は、木製の小屋の上に直接ペインティングして完成したインスタレーション。その小屋は、カールが日本のウェブサイト上で見つけた小屋を手本に準備されたという。今回の東京滞在中のカールの頭の中がそのまま形になった作品といえるだろう。
撮影(ライブペインティング):Taisuke Koyama
最後に、会場にはスペシャルゲストの作品も1点だけ展示されている。カールから「真の芸術家」との称号を与えられたそのスペシャルゲストが果たして誰なのか、そして、どのような作品なのか。こちらもぜひ会場で検証してほしい。
Karl Hyde
『What's going on in your Head when you're Dancing?』
2010年8月25日(水)~9月15日(水)
会場:ラフォーレミュージアム原宿
時間:11:00~20:00
料金:一般700円 学生500円
※ラフォーレカード会員および小学生以下無料