映像作家・河合宏樹のドキュメンタリーPV『“蒼い魚”を夢見る踊り子~藤間紋寿郎の沖縄戦~』が本日8月15日に公開された。
2020年に新作映画の公開を予定している河合宏樹。基地問題を抱える沖縄を題材に制作された七尾旅人の楽曲“蒼い魚”から着想を得た同PVには、河合の実の祖父であり、今年で98歳となった日本舞踊家・藤間紋寿郎が出演。七尾のライブ映像作品『兵士A』の監督でもある河合は、「いつか“蒼い魚”のPVを世に出したい」と思いを抱いていたという。
藤間の創作舞踊のルーツは、沖縄戦での米軍捕虜収容所で過酷な労働の合間にもうけられた日本兵向け演芸会での踊りの場。映像には、沖縄戦の体験談や米軍捕虜になった経緯、捕虜時代に行なった宴会芸について語る藤間の姿が映し出されている。さらに車椅子生活を送りながらも、「もう一度、諦めずに足を一歩前に踏み出し踊ること」を夢見る藤間の日常が確認できる。本日8月15日の終戦記念日に合わせて公開された。
河合宏樹のコメント
映像作家の河合宏樹です。
数年前、七尾旅人さんの『蒼い魚』という楽曲の誕生に出会い、感激し、いつかリリースの際にMVを作りたいとご本人に申し出たことがきっかけとなり、今回の映像制作がはじまりました。
MV、とは言ったものの、ありふれたプロモーションビデオ的なものを作るつもりはありませんでした。
楽曲に触れている間に、とても身近な人の心身の変化を見たことで、私的で必然的な制作衝動にも駆られていたからです。
今年で98歳となった日本舞踊家・藤間紋寿郎(私の祖父)。
沖縄戦で九死に一生を得た彼は、米軍捕虜となり、過酷な労働の合間に許可された演芸会で、日本舞踊のヒントを得ます。沖縄の海を見てアイデアを練り過ごしていたそうです。そして今日まで舞踊作品を作り続けてきました。
持ち前の足腰の強さで飛び回って稽古をしていた彼は、昨年から足が動かせなくなり、現在は車椅子生活でありますが、もう一度、"諦めずに足を一歩前に踏み出し"踊ることを夢見ています。
七尾旅人さんの楽曲『蒼い魚』は、沖縄県高江の米軍ヘリパッド問題で長きに渡って苦悩しながらも対峙し続けてきた、高江在住の方々との関係性から生まれた歌です。
そして、この曲が高江で生まれて以降、幾度のライブ演奏を経て、高江だけでなく様々な境遇に置かれた人の共感を得られる、普遍的な曲に変化してきた、という印象を私は受けました。
私にとっての『蒼い魚』は、沖縄の基地問題に対する本土の無関心を変えるために、遠い海を渡ろうとする小さな魚の歌であり、同時に、私の祖父のような、けして順風満帆ではない人生をなんとか歩もうとしたひとりひとりの生を照らすような楽曲だと感じていました。「蒼い魚はまだ泳いでいるよ」と。
戦前から戦後を生きた祖父の力強い足の一歩と、旅人さんのメッセージが私の中で出会った時、この作品が出来上がりました。
かなしい戦時の海にもきっと居た、活き活きと泳ぐ魚のように、いま98歳になっても、車椅子になっても、まだ踊ってみたいと、かつての沖縄を思いながら、蒼い魚となって、悠々と踊る(泳)ことを夢見ている、祖父がまだいます。