想田和弘監督による「観察映画」新作『精神0』5月2日に公開決定、予告編も

想田和弘監督の新作映画『精神0』の公開日が5月2日に決定。予告編が公開された。

『第70回ベルリン国際映画祭』フォーラム部門エキュメニカル審査員賞を受賞した同作は、想田和弘監督の「観察映画」第9弾となるドキュメンタリー作品。2008年に公開された『精神』の主人公の1人である精神科医・山本昌知が、82歳で引退を決意し、妻・芳子と新しい生活を始める姿が映し出される。英題は『Zero』。想田監督は同作について「山本昌知個人というよりも、夫婦についての作品になっていった。その結果、本作は期せずして『純愛』についての映画になったのではないかと思っている」と語っている。

予告編では、手を繋ぐ山本夫妻の後ろ姿をはじめ、山本を前にした男性が「山本先生が辞められたら、僕はどうしたらいいんでしょうね」と戸惑うシーン、芳子が「召し上がってください」と微笑む様子、山本が流し台に積まれた食器を見て「そうか、洗わにゃいけんな」と呟く場面、山本が自身の背後を歩く芳子の方へ視線を向ける様などが確認できる。

仲代達矢のコメント

素晴らしいドキュメンタリーでした。
愛おしく、やさしい気持ちになり、最後は泣きました。『精神』からだいぶ時が流れたことも思い知らされ、人間は年をとるもんだし、人間はやっぱり穏やかでいることが何よりだ、と。資本主義に埋もれた感性に、少しでもこの慈しみが沁みれば良いなあ。

ジョシュ・シーゲルのコメント

自分自身の老いに直面した医師の、深い慈愛に満ちたポートレイト。

クリスティーナ・ノードのコメント

『精神0』は、非常に卓越したドキュメンタリー映画である。一見何の意味もなさそうな、些細な出来事や身振りをも見過ごさない。その忍耐強さには、深い感銘を受けた。二人の主人公に対する誠実さは、あらゆる瞬間に溢れている。高齢の夫婦に全神経を集中させながら、『精神』撮影時の映像を差しはさむことで、作品そのものの一時性にも意識が向けられる。映画作家の存在は、隠されるわけでも、過度に強調されるわけでもない。その結果、人間の脆さや無常を、類稀なる優しさと気品を持ってとらえることに成功している。並外れたドキュメンタリーである。

想田和弘監督のコメント

『精神』(観察映画第2弾、2008年)を撮り始めたとき、僕の興味は精神科診療所「こらーる岡山」に通う患者さんたちに向いていて、診察室で彼らの話を眠そうな顔で聞いている老医師には、特別な注意を払っていなかった。しかし彼が患者さんたちから神か仏のように慕われ、絶大な信頼を得ていることを知るにつれ、この山本昌知という精神科医はいったい何者なのだろうと思い始めた。
山本医師の凄さを「発見」したのは、「精神」の編集を進める過程においてである。診察の様子を繰り返し観察していると、彼が発する一つひとつの言葉や仕草に、治療的な戦略が隠されていることがわかる。そして彼のあらゆる行動が、静かで豊かな慈愛の情によって基礎づけられていることに気づかされる。僕はいつかこの類まれなる医師を主人公にしたドキュメンタリーを撮りたいものだと、漠然と考え始めた。そうこうするうちに、10年が経ってしまった。
2018年、山本医師が3月一杯で、82歳でついに引退するとの報に接した。彼のドキュメンタリーを撮るならば、今すぐにカメラを回さなくてはならない。僕は『港町』の宣伝キャンペーンの合間をぬって、新幹線で岡山へ通った。いつものことだが、どんな作品になるのか、かいもく見当もつかなかった。制作過程は、僕が自分自身に課したルールである「観察映画の十戒」を忠実に実践する場となった。
撮りながらすぐに感じたのは、仕事中毒の山本医師にとって、精神医療は彼の人生そのものであったということである。仕事こそが山本昌知という人間を定義づけ、生きる意味をも規定しているように見えた。そして山本氏は、そのあまりにも重要な現場を、今まさに手放そうとしていた。
山本氏が、医師という地位や看板、役割や生きがいから離れ、一人の「人間」になったときに、どう生きていくのか。同じく仕事中毒の僕には、その点が興味津々だった。想像するだけで途方に暮れてしまうが、それは僕もいつかは通らなければならない道である。いや、何らかの仕事をする人間ならば必ず通ることになる、普遍的で過酷な道である。
そのような視点で山本氏を撮影していくうちに、もう一人の主人公が浮かび上がってきた。妻の芳子さんである。そしてこの映画は、山本昌知個人というよりも、夫婦についての作品になっていった。その結果、本作は期せずして「純愛」についての映画になったのではないかと思っている。

作品情報

『精神0』

2020年5月2日(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国で順次公開 監督:想田和弘 配給:東風 上映時間:128分
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