辛酸なめ子の小説『電車のおじさん』が刊行された。
『電車のおじさん』は、お茶の水の文房具会社に出勤するOL玉恵が、通勤電車で突然怒鳴りつけてきた「知らないおじさん」のことを毎日想い出す内に、その幻影を脳内で飼い慣らし、やがてたまたま街角で見かけた彼を尾行するようになる姿を描いたラブストーリー。辛酸なめ子は実際に電車内で見知らぬ男性に怒鳴られたことがあり、「あのおじさんにもキレたい事情があったり、実は優しい一面もあるのかもしれない」と妄想し始めたことが執筆のきっかけとなったとのこと。
同書には内田剛、佐伯敦子(有隣堂藤沢店)、山内百合(丸善お茶の水店)がコメントを寄せている。
内田剛のコメント
枯れた枝ほど味がある!
この観察眼恐るべし! 立ち読みできない面白さがここに。
探しませんか? 推しおじさん。佐伯敦子(有隣堂藤沢店)のコメント
面白い! 暴走する玉恵の妄想が最高。
ちょっと大人のOL女子、あるあるです。
久しぶりに「あははっ!」と声を出して大笑いしました。
“心に推しおじさんを持つ”いいかもしれない。山内百合(丸善お茶の水店)のコメント
こんなにおじさん愛に溢れた本を初めて読みました。
妄想プラトニックラブ、一緒に体験してみませんか。辛酸なめ子のコメント
冒頭、玉恵が電車でおじさんに押されて、「なんでそんなに押してくるんですか!」と思わず抗議したら「何を言っているんだ、お前は!!」とキレられたシーンがありますが、私自身に実際にあった体験です。おじさんに怒鳴られ、理不尽な思いにとらわれましたが、あのおじさんにもキレたい事情があったり、実は優しい一面もあるのかもしれない、と妄想していたのが、小説のきっかけとなりました。小説を書きながら、街で見かけた愛すべき変なおじさんたち(電車で猫の鳴きまねをしたり)の言動をメモ帳に書き留めて、何人かは小説に入れさせていただきました。電車のおじさんの背景や事情について考えていくのと、実際の父親の体調の衰えが重なり、おじさんに対する思いも変化していきました。老いや死を少しずつ受け入れながらも、自分の体や心が思い通りにならないことに戸惑っていて、それで感情が不安定になってしまっている姿に、いたわりやねぎらいの気持ちが芽生えました。この姿を見せてくれることで、人生の後輩に何か学ばせてくれているのでしょう。おじさんたちに感謝と尊敬の気持ちを抱いていけば、それが相手にも伝わり、おじさんの心も平和になるかもしれません。今は、街で見かけたおじさんたちが元気でいることを祈るばかりです。そして小説の電車のおじさんも、きっとどこか安全な場所で穏やかに暮らしていることでしょう……。
- 書籍情報
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『電車のおじさん』
2021年3月17日(水)発売 著者:辛酸なめ子 価格:1,650円(税込) 発行:小学館