サリー楓に密着したドキュメンタリー『息子のままで、女子になる』6月公開

ドキュメンタリー映画『息子のままで、女子になる』が6月19日から東京・渋谷のユーロスペースほか全国で順次公開される。

三宅洋平の選挙活動を追った『選挙フェス!』の杉岡太樹が監督を務め、『ロサンゼルス・ダイバーシティ・フィルムフェスティバル』ベストドキュメンタリー賞を獲得した同作は、男性として生きることに違和感を持ち続け、就職を目前に社会人生活を女性としてやっていこうと決断したサリー楓が社会的な評価を手にしたい野心的なトランスジェンダー女性と、父親との関係に自信を取り戻したいと願う息子の間を揺れながら自分だけの人生のあり方を模索する姿を描いた作品。

出演者はサリー楓に加えて、はるな愛、サリー楓と共にLGBT就職支援活動を行なうJobRainbow代表の星賢人と星真梨子、映画『ミッドナイトスワン』の脚本監修を務めた西原さつき(乙女塾)、浄土宗の僧侶でミス・ユニバース世界大会のメイクを担当した西村宏堂ら。スティーブン・ヘインズがエグゼクティブプロデューサーを務めた。

今回の発表とあわせてメインビジュアルが公開。MotionGalleryでは劇場公開を支援するクラウドファンディングが実施されている。

サリー楓のコメント

2018年の夏、プロデューサーのスティーブンから「Could we film your documentary?(君のドキュメンタリーを撮らないか?)」と言われた。LGBTドキュメンタリーって嫌いなんだよな……と、心の中でつぶやいた。

――LGBTドキュメンタリーが嫌いな理由は明白だった。私にとって、LGBT当事者だということは、数あるアイデンティティの一つにすぎないからだ。私は20年以上の男子生活をコンプレックスに感じているが、誰しもコンプレックスの一つや二つはあるだろう。

辛いことを乗り越えてきたLGBT。理解してあげなければいけないLGBT。私はトランスジェンダーだよ、自分らしく生きてるよ。多様性が大事なんだよ、あなたらしく生きていいんだよ……LGBTを取り巻くステレオタイプな主張は、「嫌い」を通り超えて、虚しいとすら感じる。私のLGBTっぽい部分だけが取り上げられ、あたかもそれが私のすべてであるかのように見せられるのは御免だ……。
それでも私は「Of Course!(もちろん!)」と返事した。「Your documentary」という言葉が魅力的に聞こえた。二度とないオファーを断る勇気はなかったし、映画に出演することで目立ちたかったのかもしれない。

とにかく、私は、矛盾を抱えたままドキュメンタリーの撮影を承諾した。

撮影が始まってからの約一年半、私はカメラの前で日常を過ごし続けた。化粧に気合いを入れたり、格好をつけてみたりすることはあったが、ほとんど日常を過ごしたように思う。夢を追いかける一人の若者としてそれなりに努力し、それなりに挑戦した。それなりに失敗し、それなりに泣いた。そんな「日常を生きる女性」が映っているだけの、ホームビデオのような映画になると思っていた……。

しかし、ここに、すべての人たちに観てほしいドキュメンタリー映画が生まれた。
特に、「自分は“すべての人たち”に入らない」と思っている、すべての“あなた”に観てほしい。
当たり前だと思っていた「日常を生きる女性」を手に入れるために、トランスジェンダーである私が何と闘い、何を諦めてきたのか。私の知らない私が、スクリーンを通して見えてきた。

両親は、今でも私を出生時の名前(男性名)で呼び続ける。トランスジェンダーの世界大会は、集客のために「ニューハーフの世界大会」と自らを言い換えた。長年の夢が叶ったとき、ネットには「オカマ建築家、誕生」と書き込まれた。
忘れ去ったはずの醜い思い出が、染みついた汚れのように拭えない。きっと、私に対する社会の理解はステレオタイプなところで止まっている。いっそのこと、「そうですよ、生まれたときは男ですよ。面白い人生でしたよ」と、開き直ってしまいたいが、そんな度胸もない。

「トランスジェンダーだ、男だ、女だ」
「トランスジェンダーだ、ニューハーフだ、オカマだ」
「トランスジェンダーだ、LGBTだ、ダイバーシティーだ」

世の中は私たちをステレオタイプに捉え、知っているカテゴリーに分類する。カテゴリーがあることで得られる理解もあれば、カテゴリーがあることで受ける苦痛もある。だから、やっぱり、私はLGBTドキュメンタリーが嫌いだ。
ところで、あなたに質問したいことがある。
「この映画は、LGBTドキュメンタリーだっただろうか」

You Decide.

スティーブン・ヘインズのコメント

私は人生を、そして人生が持つ素晴らしい可能性を愛しています。エグゼクティブ・プロデューサーとしての私の仕事は、幸いなことに、目の前で起きることを真っ直ぐ見つめることだけでした。
このドキュメンタリーには、真実、素晴らしい友人、記憶に残る瞬間、そして心からの涙が詰まっています。

私は楓に出会ったその時、彼女に尋ねました。
「あなたは自分が美しいと思いますか?」
彼女の答えはこうでした。
「あなたが決めてください」

私は、この映画が私たちの人生に必要な会話のきっかけになることを心から願っています。憎しみは無関心から始まるのですから、一緒に学んでいきましょう。この映画の核心は、LGBTQの人間が、安全に、自由に、幸せに世界を生きたいと願う人生を描いていることです。
........それは求めすぎなことですか?

だからこそ、若い人と心の若さを保つ人々が立ち上がり、声を上げ、日本がただ黙っている国ではなく、過去を振り返りながらも、私たちが自身を尊重しながら前進していることを世界に示さなければならないのだと思います。太陽が沈む前に、日本の良心と愛をみんなに感じてもらいましょう。

杉岡太樹監督のステートメント

この映画は、楓とスティーブンと僕、考え方も目的も違う三人が中心になって、様々なバックグラウンドを持つ出演者や制作陣と共に作りました。たくさんの衝突や苦境を乗り越えて、ついに本作の公開を迎えることができるという事実こそが、多様性の結晶にほかならないと自負しています。
一方で、近年目にすることが増えてきた「多様性」や「ダイバーシティー」という言葉の使われ方には、どこか排他的な空気を感じます。画一的なポリティカル・コレクトネスに沿った「多様性」を包摂できない人は、まるで存在してはいけないかのように扱われていないでしょうか。
男性に生まれた楓が女性として生きようとする意志も、その息子の決断に戸惑う楓の父親の感情も、誰にも蹂躙されるべきではないと思います。より多くの選択肢が認められる自由な社会を目指したい。だからといって、今はまだその選択肢を認められない人を第三者が悪者として非難する必要もないはずです。
多様性を含む社会では、理解できないことを理解できないまま受け入れ、共存する必要があるはずで、それは表面的には白黒はっきりせず、一筋縄ではいかないでしょう。そして、忍耐力が必要です。そのような「厄介でめんどくさいコミュニケーション」を尊ぶことが、本当の自分を恐れずに生きていく唯一の保証になる。そう信じてこの映画を作りました。

作品情報

『息子のままで、女子になる』

2021年6月19日(土)からユーロスペースほか全国で順次公開
制作・監督・撮影・編集:杉岡太樹 音楽:tickles、yutaka hirasaka、Lil'Yukichi、Takahiro Kozuka、Ally Mobbs、ruka ohta 出演: サリー楓 スティーブン・ヘインズ 西村宏堂 JobRainbow 小林博人 西原さつき はるな愛 上映時間:106分
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