『THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY』全150タイトルがハイレゾ化。e-onkyo music、moraほか配信サイトで5回に分けて配信される。
『THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY』は2008年にキングレコードからCDで発売された民族音楽シリーズ。音源は故小泉文夫が1960から1970年代に行なったフィールドレコーディングから、2008年の最新高品質デジタルレコーディングまでを網羅している。日本を含むアジアのほか、ヨーロッパ、アフリカ、アメリカ各地域にわたり、ユネスコの世界無形遺産に設定されているジャンルなども多数ラインナップ。
第1弾として本日7月28日にヨーロッパ、アフリカ、西アジア、中央アジアの32タイトルが配信。第2弾では8月25日に南アジアの26タイトル、第3弾では9月29日に東南アジアの49タイトル、第4弾では10月27日に東アジアの31タイトル、第5弾では11月24日にアメリカ大陸の12タイトルの配信を予定している。
e-onkyo musicではサラーム海上による『THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY』紹介記事第1弾が掲載。各国や地域の音楽についての話や、おすすめアルバムをピックアップして紹介している。5か月間の連載形式で今後も記事を掲載予定。
また7月30日26:00からJ-WAVEで放送される『ORIENTAL MUSIC SHOW』では『THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY』が特集される。ナビゲーターはサラーム海上。
坂本龍一のコメント
人類の共通遺産として次世代に
最近のDNAの分析によると、人類は約6万年前にとても少ない集団で、東アフリカを出たそうです。ぼくはいつもその頃の人たちが、どんな唄を歌い、どんな音楽を楽しんでいたのか想像します。そして、その人たち−つまり私たちの共通の祖先ですが−の音楽の痕跡がどこかにまだ残ってはいやしないかと、あちこち嗅ぎまわります。もちろんぼくが生きてきたたった数十年という歳月を眺めても、世界の音楽は大きく変化してきましたから、それに比べると6万年とは気が遠くなるほど長い時間であり、そんな遠い過去の痕跡なんかあるはずがない、と思う方もいるでしょう。どちらにしろ調べようがないことですので、ぼくはこの想像を楽しむ権利をこれからも行使することにします。
6万年という時間の中で、その人口の増大と生息圏の拡大につれて、人類の言語や文化がおどろくほど多様化したように、その音楽も世界のあちこちで多彩な花を咲かせました。まさに百花繚乱です。その中には、先祖たちが何十何百世代も大事に受け継ぎ、発展させてきた音楽もあるでしょう。空気の振動という、形に残らない音楽だからこそ、極めて注意深く誠心誠意守ってきたのです。
ところが20世紀に始まったメディアの発達と急速なグローバル化のせいで、その多様性が急速に世界から失われつつあるのは、こと音楽だけではなく言語や伝統的民族文化も同じです。この百年だけでも数千の言語が失われたとも言われます。音楽はどうでしょう。研究者に発見されず、登録されないまま失われた唄や音楽も、数知れずあるかもしれません。ぼくたちは、このような世界の多様な音楽を、これ以上失うわけにはいきません。それだけでなく、一度失われそうになったアイヌ語やゲール語が復活しつつあるように、なんとかそれらがこれからも人類の共通遺産として次世代に受け継がれることを、せつに願うものです。
※2008年7月9日発行「the world roots music library」カタログより