自分の中には描きたいことはあるんですけど、それをみている人に押し付けたくはない。
―今回CINRA MAGAZINEのために新作をつくっていただいたのですが、いつも短期間でつくることが出来るのですか?
浅野:そんなことないです(笑)。今回はちょうど、映像をやりたい人たちと演劇の稽古をしていた助走期間があったのでつくれました。普段は、あんまりすぐつくれる方ではないですね。
―浅野さんの作品は3作拝見していますが、どの作品でも“非日常”の日常性をみた気がします。空き巣に入られたり、死体を発見したり、外人と生活しなければならなくなったり・・・ その違和感の大小は色々あれど、これって現実にもありえるな、と。そういうハプニングに遭遇し、そこからどう行動を起こしていくか、何を見出すかが物語の出発点になりテーマに繋がっていくのだと思うのですが、浅野さんが一貫して作品の中で描きたいと思っていることは何でしょうか?
浅野:それはちょっとずつ変わってきてて、最初の頃は日常の中で自分が感じたことをまず一番に出していた気がします。それが段々、物語を描きたいと思うようになった。客観的になったのかな。映画って別に自分を表現するものでなくてもいいと思うようになったんです。ただ描きたい物語を映画にしたいと思うようになりました。もし一貫性があるとすれば、人ってうまくいかない時に「どうする!?」ってことばかり考えると思うんですけど、そういう人間の困ったり悩んだりしている状態に興味があるのかも知れませんね。
―浅野さんの作品の登場人物は、ハプニングや異物をわりと冷静に、面と向かって受け入れている印象を受けたのですが・・・
浅野:それは、あまり意識していませんでした。そうみえましたか?
―ええ、私はそう感じたのですが、あまり作品にメッセージ性を込めたり、こうみて欲しいと想定してつくることはないのですか?
浅野:あんまりないですね。勿論、自分の中には描きたいことはあるんですけど、それをみている人に押し付けたくはないというか、自由にみてくれればいいかな。でも、「面白くない」って言われたらちょっと嫌ですけどね(笑)。
それぞれの中で戦っているんだから、色々あっていいんじゃないかな
―映画をつくる過程で一番楽しいのはどんな作業ですか?
浅野:脚本を書いている時に「出てこない」って悩んでる時じゃないですかね(笑)。
―そうなんですか(笑)。でもそれは、完成した後の喜びをわかっているからじゃないですか?
浅野:そうですね。いつまでも完成しなかったら辛いだけですものね(笑)。逆に、まだちゃんと楽しめてないなと思うのは撮影段階で、もともと気が弱いから、現場に行くと、あんまり強く指示をだして人を使えない(苦笑)、それは今後の課題です。
―演劇・舞台の方もやられているのはどうしてですか?
浅野:専門学校を卒業した時に、演出をやりたかったんですね。でも、そのための勉強が出来てないなと感じて。例えば、何かシナリオがあって、自分は役者さんをこう動かしたいと思ったとしても、その根拠がない。自分の好みで動かしてしまう。それが凄く頼りないなと思ったんです。そして、根拠は何だ? ということを学びたいと思った時に、映画監督をやっている人たちより、演劇をやっている人たちの方が考えていると思ったし、自分にとって実になると思ったんです。そこから、演劇に近づいていきました。
―確かに、役者さんに演出をつけるのはとても難しいことですが、作品の要になる重要なところですよね。映画の中では、役者にどんな演出をされますか?
浅野:そうですね、なるべくその人の演技を否定しないように、盛り上げるようにしています。役者さんなりの演技を引き出せたらいいですね。まずは、自然に。それで気になるところは言います(笑)。
―浅野さんは自主レーベルを持ってらっしゃいますが、立ち上げたきっかけは何だったのでしょうか?
浅野:自分がどうなりたいか考えた時に、超メジャーになることを目指しているわけではないなということに気付きまして。どんな規模でやりたいことを実現させるかは、自分で選択することができるんだということもわかって、インディーズの音楽レーベルみたいなことをやりたいなと思ったのがきっかけです。まだうまくいっていないのが現実ですが(笑)。
―そこにはメジャーに対する反発心があるんですか?
浅野:いえ、メジャーを否定するわけではなくて、大きな仕事がくれば勿論やってみたいんですけど、知名度や箱の大きさにこだわるのは違うなと。千人でも、ちゃんと観てくれる人がいれば、それはそれで良いんだと思います。演劇でも、芝居小屋でやる芝居と国立の大劇場でやる芝居はものが全然違う。映画もそうですよね。大作で、有名な女優さんを使えても演技が気に入らないこともあったりする。けど、仕事だからやらなければならない。逆に、自主だとお金もかけられないし人も集まらなかったりって難しさがある。それぞれの中で戦っているんだから、色々あっていいんじゃないかなと思います。
―なるほど。それぞれに合った方法でというのは、自由に作品を受け取って欲しいという受け手に対するスタンスにも繋がっていますね。では最後に、新作をご覧になったCINRA読者に一言お願いします。
浅野:自分の中では、冒険だなと思ってつくった作品です。これってどうなのよ? みたいな突っ込みや感想を聞かせていただけると嬉しいです。
- プロフィール
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- 浅野晋康
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1977年生まれ 岐阜県大垣市出身。これまでの主な監督作品として、「新しい予感」(2002年)※PFFアワード2004入選、「Catchball With ニコル」(2005年)※山形国際ムービーフェスティバル2005にてフィクション賞受賞・CO2シネアストオーガニゼーション大阪エキシビションにて奨励賞&主演男優賞受賞・SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2006短篇映画部門にて審査員特別賞受賞・PFFアワード2006入選「A DAY IN THE LIFE」(2006年)※第1回山形国際ムービーフェスティバルスカラシップ作品などがある。
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