新生lostage、その「覚悟」に迫る

誰だって「褒められる」のは嬉しいことだけど、もっと多くの人を喜ばせるためには、時としてその賛辞を裏切ってでも“変わって”いく必要があるだろう。そしてこのlostageほど、貪欲にその変化を求めるバンドもいないかもしれない。

「カッコいい」からこそアンダーグラウンドなシーンで話題を集めたバンドが、昨年のメジャーデビュー作、そしてメンバー交代という危機を乗り越え作り上げた新作で遂げた変化の背景には、彼らが変わっていくだけの「覚悟」があった。メジャーレーベルからのリリース、東京から奈良への引っ越し、自分たちで道を「選択」してきたから、彼らにはそれ相応の覚悟が生まれたようだ。ボーカル・ベースの五味岳久と、新メンバー中野博教に話しを聞いた。

売れれば良いとは思わないけど、
一人でも多くの人を巻き込んで感動させたい

―中野さんが加入して初のレコーディング作品リリースですね。まずlostageと中野さんのなれ初めを教えてください。

中野:僕は大阪でバンドをやってたんですけど、初めてlostageと会ったのは、MINUS THE BEARっていうシアトルのバンドの来日公演で対バンした時かな。それで仲良くなって、lostageを大阪に呼んだり、奈良に呼んでもらったり。

―そのバンドは今も続いているんですか?

中野:大阪から東京に拠点を移して活動していんたんですけど、メンバーが辞めて結局解散しちゃって。そのタイミングでlostageが誘ってくれたんですよね。

lostageインタビュー

―「東京から奈良に来い!」と?

中野:「来い!」とは言ってないけど、「行くしかない」っていう状況にはなりましたね(笑)。迷いはなかったけど、バンドを続けるしんどさは身にしみているから、「しんどくなるなぁ」って(笑)。でもバンドはやりたかったし、誘われてやりたいと思うバンドなんてほとんどないですからね。

五味(岳):本人を目の前にして言うのもアレですけど、ギターが上手いから誘ったわけではなくて、音楽に対する価値観や想いが同じだと思ったんですよ。音楽性はみんなその時々の気分で変わっちゃうから、音楽をやる姿勢のほうが大事だなって。ずっと一緒に音楽を作っていくんだから。

―東京を出て奈良に引っ越して来てくれるんだから、嬉しいですよね。

五味(岳):それだけでめちゃくちゃアガりましたよ。嫌らしい話かもしれないですけど、バンドがバカ売れしてるんだったらまだ分かる話しじゃないですか。でも、バンドをやるために東京から何もない僕らのところまで引っ越してくるなんて、本気で一緒に音楽をやりたいっていう気持ちだけですもんね。中野が加入してからバンドのモチベーションも上がるし、悪い事が一つもありませんでしたね。

―中野さんが加入してからすぐに新作を完成させたわけですが、いい意味で「変化」が表れている作品ですよね。

五味(岳):メンバーが一人変わったら、どんなに上手くやっても絶対に「あいつら何か変わったな」って言われるじゃないですか。それならもう、変われるところはどんどん変わっちゃえということで、今作は「変化」というのをテーマにしたんですよ。メンバーの加入だったり、それぞれの意識の変化だったり、「こいつら変わったな」ってみんなにちゃんと伝えたかったんです。

―「変化する」って、言うほど簡単なことではないですよね。特に「意識の変化」というのは難しいことだと思いますが、実際今作を聴くと、意識の部分から変化しているのが如実にわかりました。リスナーの喜びを、以前よりもかなり真剣に考えたんじゃないですか?

五味(岳):僕は考えましたね。聴く人はどう感じるかとか、これまでのリアクションを見て考えることも沢山あったし。売れれば良いとは思わないけど、一人でも多くの人を巻き込んで感動させたいと思うし、そういうことをしっかりやっているバンドのライブを観て自分も感動したんです。「音楽ってすごいな」って思ったし、色んな可能性があるのに、変に凝り固まった考えで地下に潜るのは嫌だなって。どうせだったら行ける所まで行きたいんですよね。

―その感動させてくれたバンドって、教えてもらえますか?

五味(岳):去年の暮れにASIAN KUNG-FU GENERATIONのツアーで三か所ぐらいオープニングアクトをやったんですけど、アジカンを観に来てる3000人くらいのお客さんが、熱狂的に盛り上がってたんですよ。音楽がそれだけ大勢の人の気持ちを一つにまとめているのを体感して感動したし、自分にだってやれる可能性はあるんじゃないかと思って。それで意識は変わりましたね。

さっき別の取材で、「もっとノイジーな佇まいなのかと思ってた」って言われましたよ(笑)。

―そういう経緯もあったんですね。今日はlostageの「変化」を具体的に探っていければと思いますが、まず変化の一つとして、音楽の幅が広がりましたよね。

五味(岳):そうですね。今までだって持っていた要素なんだけど、「これは別に俺らがやる必要ないな」とか「バンドのイメージに合わん」って勝手に制限しちゃってたんですよ。でも中野は、たとえば僕が「やっぱやめようかな」って思っても「やれよ!」ってどんどんケツを叩いてくれるんですよ。

―曲を作る側としては、すごいやりやすそうですね。

五味(岳):やっぱりメンバーがやりたいと思ってくれる曲になったほうがいいから、作る段階で意見を聞くんですけど、みんなが「ちょっと違う」と思ったらそこで止まっちゃってたんですよ。でも中野は、そういう曲を引っ張り上げてくれるんです。

中野:まだ途中段階で「これどうなんや!?」ってメンバーに聴かせるのはすごく大事なことだけど、聴かせる立場の人にしたらすごい勇気のいることだと思うんですよ。そうやって出してきてくれた曲を最初から潰すのが好きじゃないというか。その過程で共有できることもあるし、経験になりますしね。

五味(岳):今まではメンバー間のぶつかり合い、せめぎ合いで作ってたんですよ。それが中野が入ったことで、これまでぶつかり合ってたエネルギーを全部同じ方向に向けられるようになってきてる。それは大きな変化ですね。

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―今作はいい意味でサウンドがスリムになったと思ったんですが、それはメンバーが同じ方向を向いた結果なのでしょうか?

五味(岳):そうですね。今までは四人で演奏したら四人全員が同じバランスで鳴らしていて、そのせめぎ合ってるバランスが一番良かったんですけど、たとえば今作の“テレピン、叫ぶ”という曲では、中野がベースを弾いて、僕は何も弾かずに歌だけ歌ってるんですよ。そういう風に、「これは俺じゃなくてお前がやればいい」っていう感じでやれる。今までとは違ったバランスの良さを発見したというか、それでもやれるというのがわかりましたね。

個人の持ってるユーモアとか人間臭さが出せてると思う

―今までやらなかったこと、という話しだと、今回はドラムやギターのソロも入ってきていますね。

五味(岳):僕はそういったロックのベタな展開とかダサいソロが好きなんですけど(笑)、「それはちょっとないわ」っていう雰囲気がやっぱりあったんですよ。でもそれを一緒になって面白がれる奴が入ったから、みんなでゲラゲラ笑いながらやってみたら「面白いし、ええんちゃう」っていう(笑)。

―全然恥ずかしくないですよ!(笑)

五味(岳):そうですね(笑)。笑いの要素って大切だと思うんですよ。「そこでサビに来るやろな」と思ったら「ほんとにサビが来た!」みたいなのとか(笑)。

―そういう予定調和とかダサさみたいなものも、音楽にとっては一つの武器だったりしますもんね。逆に今までのlostageはカッコ付け過ぎていた?

五味(岳):うん、そう思いますね(笑)。

中野:もともとみんな面白い奴らですからね。今までの曲で伝えられていなかった、個人の持ってるユーモアとか人間臭さが出せてると思うんですよ。そういう意味で、すごく自然体だし健康的だなって思います。

―確かにこれまでの音源だけ聴いていると、「lostageってすげークールな奴らなんだな」って思いますよね(笑)。

五味(岳):よく言われますね(苦笑)。さっき別の取材で、「もっとノイジーな佇まいなのかと思ってた」って言われましたよ(笑)。

わかる事もあるし、
わからない中でわかったつもりにならなきゃいけない事もある

―でもまあ、それだってlostageが持っている側面の一つであることは確かですよね。相変らず研ぎ澄まされた緊張感はあって、ゾクゾクしますから。音楽を鳴らす原動力というのは変わりないですか?

五味(岳):何かに対する不満だったり、カウンターみたいなものが原動力になっているとは思うんですけど、それだけじゃなくなってきた、と思います。マイナスな原動力だけじゃなくて、「俺はどっかに羽ばたいていきたい」とか「もっと行ける」みたいなプラスの面もあるし、そういうのが混ざって混沌とした得体の知れない、そういうのが音楽を作っている理由というか。一言では割り切れない何かがあると思うんですけど。

―わかっちゃったら音楽を作ってる意味なんて無さそうですもんね。

五味(岳):そうですよねぇ。そうなんですよ。「わからなさ」が最大のテーマというか、それがわかっちゃったら音楽を辞めて別の事をやると思うし。

―音楽は、その「わからなさ」を如何に表現するか、という作業ですか?

五味(岳):でも、その中で「ちょっとわかった」事もあったりすると思うんですよね。ただ単に「わからなさ」だけじゃなくて、わかる事もあるし、わからない中でわかったつもりにならなきゃいけない事もあるし、割りきらないとできない事もあるし。表現したい事がちょっと変わってきたっていうのはありますね。

否が応でも良い感じに持って行こうと思っていました

―五味さんの歌詞はこれまでも評価が高かったと思うんですけど、今作はこれまでの良さも残しつつ、すごいわかりやすくなりましたね。

五味(岳):あっ、わかりました? これまでは「意味かわからない歌詞」の良さを追求していたんですよ。でも特に歌詞って、意味がわかる良さっていうのもあるじゃないですか。意味がわかる言葉がメロディーに乗っかることで出てくる説得力があると思うんですよ。その両方の良さを出したいと思って、今回は聴く人みんなが共有できるイメージを、歌詞として曲の中に出していこうと思ったんです。

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―聴く立場としては、歌詞にもいい意味で「きたきた!」という喜びが増して嬉しかったです。予定調和だけだとつまらないけど、無いと楽しめないから、今回はそのバランスが本当に良かったと思いました。歌詞で使われている言葉がすごく面白いですけど、文学の影響があるんでしょうか?

五味(岳):読書量はそんなに多くはないですけど、本を読むのは好きですね。歌詞って日常会話で使われる言葉で作られるのが当たり前になっているけど、そういうんじゃなくて、自分にしかできない曲や歌詞を作りたいんですよ。だから突拍子もないことを言ってみたり、試行錯誤はしていますね。

―奇をてらった歌詞を書く人は多いですけど、lostageは抜きんでていると思うので、歌詞の世界がこの先どう発展していくのかも楽しみにしています。正直な話、メンバー脱退で一時はどうなることかと思いましたけど、それからの変化がポジティブな方向に出てきていて驚いたし、これからが本当に楽しみになりました。

五味(岳):やっぱり人一人が一大決心して、バンドに加入するために奈良に引っ越してきて、そこでネガティブに転じるっていうのは選択肢としてありえないわけじゃないですか。自分の中でも「そんなわけにはいかん!」っていうのがあったし、否が応でも良い感じに持って行こうと思っていました。それが良い結果として出てきていますね。

―うまく行き過ぎてて、ちょっと怖いですけど(笑)。

中野:まだ何にもわかんないですよ(笑)。

五味(岳):何か悪い事があるとしたら、これからわかってくるんじゃないですかね(笑)。でも、それも込みで「lostage」になるようにしていきたいですね。

リリース情報
lostage
『脳にはビート 眠りには愛を』

2008年9月24日発売
価格:1,600円(税込)
POPDVD-102X TOY'S FACTORY

1. AMPLIFIED TEENAGE STRESSES AND STRAINS
2. 母乳
3. DIG
4. テレピン、叫ぶ
5. PURE HONEY
6. 脳にはビート 眠りには愛を

イベント情報
ロストエイジのたからさがしツアー2008

2008年10月26日(日)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:NEVERLAND(奈良)
出演:
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HOLSTEIN
料金:前売2300円 当日2800円

2008年10月29日(水)OPEN 19:00 / START 19:30
会場:CLUB UPSET(名古屋)
出演:
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aie
料金:前売2,300円

2008年11月7日(金)
会場:PEPPER LAND(岡山)
出演:
lostage
ゲスト未定

2008年11月9日(日)
会場:DRUM SON(福岡)
出演:
lostage
ゲスト未定

2008年11月19日(水)
会場:Shangri-La(大阪)
出演:
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MASS OF THE FERMENTING DREGS

2008年11月22日(土)
会場:BIRDLAND(仙台)
出演:
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54-71

2008年11月24日(月)
会場:KLUB COUNTERACTION(札幌)
出演:
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ゲスト未定

2008年11月27(木)OPEN 18:30 / START 19:30
会場:渋谷CLUB QUATTRO(ワンマン)
料金:前売2,500円

プロフィール
lostage

奈良県出身の4ピース・ロックバンド。ボーカル・ベースの五味岳久とギターと五味拓人の五味兄弟を中心に01年に結成。04年にUK PROJECT内に自身で立ち上げたレーベルqoop music(クープミュージック)よりデビューミニアルバム『P.S.I miss you』をリリース。

07年7月にTOY'S FACTORYからメジャーデビュー作となる2nd Album 『DRAMA』リリース。全国ツアー、数多くの海外バンドとの共演、大型ロックフェスへの出演など精力的に活動を行うも、2008年1月18日にギターの清水雅也が脱退。08年2月、ギターリストとして中野博教が加わり、同年9月にミニアルバム『脳にはビート 眠りには愛を』をリリース。新生lostageとして新たなスタートを切る。



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