多田玲子/レイキン・ザ・キーー インタビュー

自身で活動するガールズパンクバンド、Kiiiiiiiのアルバムアートワークからファッション雑誌のイラストレーションまで、そのカラフルな動物や生き物が飛び交う世界で数多くのミュージシャン・アーティストを魅了しているレイキン・ザ・キーーこと多田玲子。今年は対照的な2つの世界を同時に体験できる個展を2会場で同時開催するなど、積極的にイラストレーション面の活動を行った彼女の作品について伺った。

私、ウォルト・ディズニーが生きてたら
けっこう話が合うと思う(笑)

―レイキンさんの作品には動物がたくさんでてきますよね。

多田玲子/レイキン・ザ・キーー

レイキン:単純に動物の形も好きだし、野生の動物達の何も考えてない真っ白な感じもすごく好き。だから動物の写真をよく見てるんです。動物がかわいくてうっかり写真を撫でたりします(笑)。で、見てると描きたくなっちゃう。私が描くのはリアルな動物じゃなくて、擬人化されているものばかりだけど、きっとあの動物たちはたぶん全部自分ですね。性格は自分だけど見た目は動物。

―レイキンさんのイラストはもちろん単純にかわいいけど、見ていてちょっとひっかかるシニカルなところが印象に残るんです。パッと見て動物なのにそれが何の動物なのかわからない。でもそれが嫌じゃなくてむしろ痛快にも感じます。

レイキン:ありがとうございます。例えば昔の日本の絵で、象を見たことないけど半分妄想で象を描いてる、みたいな作品があったりするんですけど、ああいうの大好きですごく惹かれます。

多田玲子/レイキン・ザ・キーー

―象という生き物は鼻が長いらしい、っていう情報だけできっと描かれただろう絵ってありますよね。

レイキン:情報は正しいけど見た目は似てない(笑)。そういえば私の好きな彫刻家で三沢厚彦さんというアーティストがいらっしゃるんですけど、一説によるとほとんど動物の写真を見ないで作っちゃうらしいの。で、「これ違うだろ!」みたいな形の動物もいるんだけど、何とも言えないかたちの面白さが含まれて説得力あるんです。ものによっては大きさが3mを超えるものがあったりしてほんとすごい。

―妄想の最果てに行き着いた感じですね。きっと一度見たものがどんどん頭の中で育っちゃうんですね。

レイキン:そうそう。私も資料よりは「私、動物の事どう思ってたかな」って自分の頭の中を見ながら描くことが多いです。

―でもそういったものって実はみんな好きだと思うんですよ。ミッキーとかネズミ離れしすぎてるけどみんな好きじゃないですか。

レイキン:ミッキーは確かに変。

―2本足で立ってるし、犬飼ってるし。

多田玲子/レイキン・ザ・キーー

レイキン:私、ウォルト・ディズニーが生きてたらけっこう話が合うと思う(笑)。でもあいつの商売っ気の強さとか人使いの荒さとかは煙たさを感じますけどね。

―イラストが仕事になった最初のきっかけはなんだったんですか?

レイキン:昔は着ぐるみを作っていたんですけど、そのときに仕事をご一緒したミュージシャンの伊藤サチコさんに絵も見せてみたら気に入ってくれて。で、彼女がアルバムを作るときにジャケットのイラストを「松本大洋か多田さんがいい」って言ってくれたらしく、結果身近だった私の方が選ばれまして描いたのが最初のお仕事です。

―それってすごい二択ですね(笑)。その頃はイラスト以外のお仕事はされてたんですか?

レイキン:当時はまだデザインの会社で働いてたんですが、勤めてみたらあまりにも自分が組織に所属することに向いてないことがわかってびっくり(笑)。凄く良い上司ばっかりだし、本当に良い会社だし、凄く勉強させてもらって、なのに辛いんです。ここで辞めたらみんなに「そらやっぱり!」って言われるからやれるだけは頑張ったんですけど...それでも自分の時間を売っているような気持ちになってきて、Kiiiiiiiも忙しくなってきたし結局辞めることにしたんです。「私の時間は私のために使いたい」って思いはすごく強いみたい。

たまに裏方にまわりたくなったりもするけど、一概にそれが向いているかというとそうじゃないとも思ってます

―なるほど。今年はKiiiiiiiはほとんどお休みですが、イラストメインの生活の中Kiiiiiiiiとの違いを意識したりしましたか?

多田玲子/レイキン・ザ・キーー

レイキン:イラストのほうが満足感というか充実感は体感できますねえ。もちろんKiiiiiiiもめちゃくちゃ楽しいけど 、Kiiiiiiiの場合はライブが終わると結構ホッとする部分もあります。常に色んな事を考えながらツアーとかレコーディングとかやって、ハラハラ綱渡りの間にいつの間にか過ぎていってるからかな。楽しい時間はたくさんあるけど満足を実感してる余裕があまりないのかもしれない。イラストでの今年の大仕事のひとつで、この前9月13日に解散したスーパーバタードッグ(以下、SBD)のベストアルバムのジャケットとツアーグッズやったんですけど、2ヶ月間SBDのことばかり考えて描いての繰り返しという感じだったので、やり遂げた充実感はすごかった。

―解散ライブの舞台美術もやられたんですよね?

レイキン:そうそう。でも当日はお客として客席で見てたので会場で写真を撮ろうとしたら警備員の人に「撮らないでください!」って注意されちゃったりして(笑)。しかし、舞台の上にも沢山自分の描いた絵があって、私が描いたTシャツをみんなが着てる、けど誰も私が描いたことをまわりのお客さんが知らないっていうのがすごくよかった。自分が表にいないっていうのがいい意味で楽だったし、すごく喜びがありました。

多田玲子/レイキン・ザ・キーー

―誰かのためのイラストと自分のアーティスト活動とどっちが向いてると思います?

レイキン:自分が表にいない状態って楽で、だからたまに裏方にまわりたくなったりもするけど、一概にそれが向いているかというとそうじゃないとも思ってます。「もっと自分のための作品制作とか展示もやんなきゃいけない、このままじゃただの『人のいい人』になってしまう!」とか思うときもあって。イラストレーターになるのかアーティストになるのかって悩む人たぶん多いと思うけど、私はどっちもやりたいし、やりたいこと全部やりたい。

―今年は個展にコンピ参加に他方面へのイラスト作品提供などなどとにかくアウトプット盛だくさんでしたが、今後の野望について聞かせていただけますか?

レイキン:本を作りたいです。ゆくゆくは本を作って暮らしていきたいなって実はずっと思ってます。まだ具体的には何も決まってないんだけど。今年はお仕事を人からもらってばっかりで、それはすごくありがたいことだし新しい出会いと勉強の連続で素晴らしいんだけど、もっともっと自分の中の謎の欲望を叶えることに対してハングリーにやりたい。企画して練って作って出版社とかにもっていったり、自分だけで作るのも良いと思うし。新しいことを取り入れつつ自分の内側をどっぷり見つめながら、お金とお金以上の楽しいものと、両方得られるようにしたいって思ってます。

プロフィール
多田玲子/レイキン・ザ・キーー

1976年福岡県生まれ。1979年東京都日野市に引越し。現在は東京都調布市在住。2001年多摩美術大学美術学部彫刻科卒業。2002年5月に幼なじみの田山雅楽子とアートとパフォーマンスとバンドのユニット「Kiiiiiii」を結成。 ドラム、作詞作曲、アートワーク(DVD「Gold & Silver」、アルバム「AL & BUM」のアートワーク)、グッズ全般も手がけている。2007年3月月~4月にはUSツアーを,9月から10月にはヨーロッパツアーを行い好評をはくす。(現在はバンド活動は休止中)

鮮やかでキュートな色使いで描くドローイングと、通好みな連想ゲーム風線画や動物画を得意とし、イラストレーターとしては他アーティスト(スーパーバタードッグ、THE BOOM、アルファ等)のCDジャケットやグッズ、BEAMS T、タワーレコード、音楽フェス(RAW LIFE、apBank fes等)のオフィシャルグッズにイラストを提供。現在COOKIE SCENE、CUTiE、京阪神L magazine、Hanako-WESTでコラムや挿画を連載中。



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