目立たず平穏に生きるなら周囲の空気に順応しているほうが楽なんだけど、一回きりの人生を本当に楽しんで生きているかどうか、不安を感じてしまうこともあったりする。Far Franceという、まだ少年ともいえる若者たちの話に耳を傾け、彼らが作り出した音楽を聴いてみると、そんな不安がさらに加速してくるのだ。今回話を伺ったのはギター&ボーカルの英真也とギターの畠山健嗣。「考えるより先にやれ」なんて言っちゃう彼らはリスク計算しなさ過ぎなのかどうか、その目で一度確かめてください。
最近見たブログで、当時のぼくらを知ってるらしき人が、「最近のFar Franceは昔に比べたら丸くなった」って書いてましたね(笑)。
―二人は小学生の頃から一緒だったらしいですね。
英:そうなんですよ。畠山くんが音楽的にかなり早熟で、小学校4年生でBLANKEY JET CITYを聴いてるような人だったから、彼の家に集まって色んな音楽を聴き始めて。それで中学生になった頃、「自分たちで音楽作ったら面白いんじゃない?」って音楽を作り始めたのがきっかけですね。
畠山:その頃にちょうどソニック・ユースの来日公演を観に行ったりしていて、ノイジーでアブストラクトなものに惹かれてたんですよね。だから最初に作り始めたのは、レコードをゆっくりと手で回したり、ビニールをくしゃくしゃやったりしたのを録音して、明らかに前衛的な音楽でした。
(写真左:英、写真右:畠山)
―そうやって何かを形にしていくのが楽しかったんでしょうね。
英:そうそう。一年くらい、飽きずにそういうことをやり続けて。
畠山:それがだんだんエスカレートして、音がどんどん大きくなっていって、しまいには親に怒られて(笑)。その時に、音楽のリハーサルスタジオがあることを知って、前のベーシストと3人で行くようになったんです。まだ誰がどの楽器を演奏するとか決まってなくて、みんなで順番に楽器を持ち替えて演奏していました。ストロークスとかソニック・ユースのカバーをしたり。何故かスピッツのカバーもやってたな(笑)。
英:それが中学3年生くらいで、その頃から今のドラムも参加するようになって。
―聴いてる音楽は周りの友達とかなりギャップがあったでしょ?
英:音楽に関しては完全に孤立してたけど、他のことで気の合う友達はいっぱいいましたね。
畠山:友達のテーマ曲を作って遊んでたよね。録音した友達の声を編集してテクノっぽい音楽を作って、お昼休みに流したりとか。怒られましたけど(笑)。
―相当尖ってたね(笑)。
畠山:最近見たブログで、当時のぼくらを知ってるらしき人が、「最近のFar Franceは昔に比べたら丸くなった」って書いてましたね(笑)。
英:俺らが最先端でしょ、って本気で思ってたし。調子に乗ってましたね、完全に。
―何で丸くなったんですか?(笑)
英:高校生になって、軽音部の先輩のイベントに出ることになった時に、ちゃんとしたイベントだからちゃんとしたバンドで出ないとマズいと思って。そこでちょっと丸くなったのかな?(笑) その前にも、メンバーの演奏する楽器を固定するという丸くなる作業もあったり(笑)。
―尖ってればいいってわけじゃないですからね。ベースのメンバーが変わったのもその頃のことですか?
英:高校を卒業すると同時に前のベースが脱退することになって、仕方なく、誰も見てないようなぼくたちのwebサイトにベースメンバー募集の告知を載せたら、今のベースの松島くんが応募してきて。ビックリしましたね。それでスタジオに入って一緒にセッションしてみたんですけど、いつの間にか松島くんがバンドを引っ張ってて。それで今の4人が揃った感じです。2006年の夏の話でしたね。
畠山:それから都内に進出すべく、shelterとか名の知れたライブハウスに音源を持っていってオーディションを受けたりしたんですよ。
―意識が変わってきた?
畠山:そうですね。それにそれまでは高校生の企画ばかりだったけど、外の知らないバンドと対バンし始めて、もっとしっかりしなきゃいけないと思いましたね。やっぱり認められたいじゃないですか。だから定期的にスタジオにも入るようになったし、今までの曲は「これは無いんじゃないか?」って話になって(笑)。
英:我に返った(笑)。
畠山:まあ色んな音楽を聴いてきたから、やりたいこともいっぱいあったんですよね。
「考えるより先にやれ」っていうか。
そういう意気込みだったりエネルギーを伝えたい。
―色んな音楽が好きだと、どんな音楽をやるのか迷ったりしないんですか?
畠山:迷いはしないですね。「自分たちが楽しめるもの」っていうのが当たり前のようにありますから。でも、そこには「新鮮さ」が必要なんです。だからメロディーとか、コードの絡み方とか、色んな面白さを知ってどんどん多様化していきましたね。
英:そうやって音楽性は少しずつ変わっているかもしれないけど、基本的な部分は中学生の頃から変わってないんですよ。あの当時も今も、その時に一番興奮できるものをやっていて、だから今もすごいテンションでライブをすることもできて。
―一番多感な頃だし、色んなことを試せる時期でもあるもんね。それからすぐにレーベルが決まってデビュー作『LOVE』をリリースすることになったわけですが、デビュー作がライブ盤というのは異例でしたね。
畠山:マネージャーさんから「下手でもいいから、君たちが若いうちに作品を出しておきたい」と言って頂いたのもあって、普通じゃないことをしたいと思ったんです。それに、基本的にライブ活動しかしてなかったから、ライブ盤の方がその時のFar Franceを伝えられるんじゃないかと思って。
―すごいエネルギーの詰まった作品でした。
英:その時自分たちが何をしたかったのか、一番率直に伝えられるものになっていると思いますね。
畠山:ライブでしか出せないものって確実にあるんですよね。「考えるより先にやれ」っていうか。そういう意気込みだったりエネルギーを伝えたいし、それはライブのほうがずば抜けて出てると思うんです。
変わっていくけど、必ずFar Franceらしさはあって。その「らしさ」がある上で、その時その時にやりたいことをやっていきたいと思いますね。
―そして遂にスタジオ録音での新作をリリースするわけですが、まずはタイトルの『AHYARANKE』(「あひゃらんけ」と読む)っていうのが、意味不明ですね(笑)。
英:そうですよね(笑)。ベースの松島くんに神の啓示がありまして。バソコンにババババッと打ったところ、「あひゃらんけ」になったらしいです(笑)。
畠山:実はその言葉が出てきたのは2年くらい前なんですよ。彼がやってるブログで、締めの言葉を書こうと思った時に出たらしくて。そのお陰で、一時期彼が「あひゃらんけ」と呼ばれている時期もありました(笑)。
英:それも最近は沈静化してたんですけど、今回のアルバムタイトルが決まらず悩んでいる時に、「そういえば“あひゃらんけ”ってあったよね」って話になって。これだけ忘れられずにいる名前には何かあるよな、と。
畠山:アルバム自体も得体の知れない感じがあるし、強引なところもアルバムに通じてますしね(笑)。
―なるほど(笑)。
畠山:コンセプトがないアルバムなんですよ。思わず出来てしまったアルバムというか。でもよくよく考えると、自分が潜在的に作りたいと思っていたものが出てるんだと思います。
―それっていうのは、これまでやりたいと思っていた色んなことがレコーディングで試せたから?
畠山:そうそう。初のスタジオ録音だったから、ライブではやれない色々なことを試せたのが大きいと思います。内在的にぼくらが持っている要素をうまく引き出せた。それはエンジニアの近藤さんのお陰でもあるんですけど。
―個人的にはこの幅広さがすごく楽しかったです。既存のパンク的な要素だけじゃなくて、ポップやサイケとか、メロディーラインの美しさとか、色んな聴き所がある。全体的にも分かりやすさが増してきましたね。
畠山:今は外に向かってどんどん間口が広がっているし、この先もさらにバラエティー豊かな色んな曲が生まれてくる気がしてるんです。今作は、その第一歩のような気がしますね。だからこの次に出る作品がどうなるのか、ぼくら自身でも予測がつかないくらいで。Far Franceを始めた当時から、こうやってどんどん変化しているんですよね。
英:変わっていくけど、必ずFar Franceらしさはあって。その「らしさ」がある上で、その時その時にやりたいことをやっていきたいと思いますね。
―それはすごくいいことですよね。ロックだろうとパンクだろうとポップだろうと、バンドの軸さえしっかりしていればジャンルに縛られる必要はないと思うし。
英:そう、どのアルバムを聴いても一緒だと面白くないと思うから、音楽的には色んなアプローチをしていきたいです。
畠山:それって自分たちの本質が変化したんじゃなくて、「自分たちをどう理解してもらうか?」っていうところで、表現方法が変容しているだけなんですよね。
音楽って、一般社会とは違うところで鳴らすことができるから、逆に社会をハッとさせることができると思うんです。
―聴いてる人たちに理解してもらおう、伝えようとする気持ちが高ぶっている?
英:そうですね。高校生の時までは自分たちが楽しければいいやって思ってたけど、最近は聴く人のことも少しずつ考え始めていて。自分たちも聴く人も、どっちも楽しいのが最高じゃないですか。
―それはやっぱり、デビュー作を出してからの様々な経験も影響しているんでしょうね。凄いバンドたちと共演したりして。
英:そうなんです。ライブはとにかく暴れればいい、みたいな感じでやっていたけど、対バンの人たちはしっかり演奏に集中してるんですよ。演奏している側はまったく動いてないのに、お客さんたちは踊りまくってたりして。そこはまだ、演奏の説得力が違うんだと思いましたね。だからぼくらも、とにかく説得力を増していきたいですね。
―それでもこの一年で、ライブがどんどん良くなってますよね。今後がすごく楽しみです。二人が色んな音楽を聴いてきて、その広がりが音楽にも反映されてきているし。
畠山:自分がやりたいのって、バラエティーに富んでいて色彩が豊かなんだけど、決してキレイなものではなくて、ゴチャゴチャしているんですよね。
―確かにFar Franceは一貫して「混沌」としてるかもしれない。それが「Far Franceらしさ」にも繋がっているかもしれないですね。
畠山:うん、ぼく自身は混沌としたものが確実に根付いているし、バンドの音数自体は少しずつ減っていても、どこかに混沌は内在していて、そこがこのバンドの面白い要素だと思うんです。たとえばマヒルノがいい例だと思うんですけど、彼らもいい意味で混沌ですよね。どう表現したらいいのか分からない音楽で、一つの側面だけじゃなくて、多角的な音楽になっている。
―だからこそ、不意にハッとさせられる面白さがあると思います。Far Franceは歌詞にもそういう側面があると思うけど、ネガティブに受け取られちゃうこともあるらしいですね。
英:そういうつもりはないので不思議なんですけどね。歌詞に流れる空気感のせいかもしれませんけど。
畠山:英にとってのポジティブが、他の人にとってはネガティブだったら面白いけどね(笑)。
英:それ、人としてかなりイタいね(笑)。
―(笑)。でも、歌詞の中に鬱屈とした部分は確かにあって、そこから前向きに進んでいこうとする感じはとてもポジティブですよね。
英:表面が鬱屈としていて、裏のテーマがポジティブ、みたいなものは多いですね。
畠山:メンバーみんな能天気な人間ではなくて、周りの空気を気にする現代人的なところがあると思うんです。でも、そういうのを音楽として表現した瞬間に、どうでもよくなれたり、逆に空気読めない奴になってたりもする。そういう部分が歌詞にも出てたら面白いですよね。多分みんな、空気を読んじゃうところがあるから。
―ステージに立ってる時はKYなんて関係ないもんね。
英:自分たちの音楽を聴いてくれる人たちと直で接せられるのがライブだと思うから、ライブの時くらいは自分を全てさらけ出そうと思いますね。その気持ちが、音楽をやる上で一番大事なものだと思う。ライブの時くらいKYでいいじゃんって。
畠山:ぼくは、音楽をやり始めてちょっとは人とまともに接せられるようになったと思うんですよ。むちゃくちゃな音楽をやっているけど、ちゃんと自分に自信を持てているから。自己表現って、そういうことだと思うんですよね。
―そういう若者が、これからどんな音楽を作って、世の中に衝撃を与えてくれるのか楽しみです。
畠山:音楽って、一般社会とは違うところで鳴らすことができるから、逆に社会をハッとさせることができると思うんです。そういうことを、どんどんやっていきたいと思います。
- リリース情報
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- Far France
『AHYARANKE』 -
2009年2月4日発売
価格:2,000円(税込)
colla disc CLA-600311. 穴から逆さま
2. 過ち
3. 真昼にて
4. しがちな
5. 呼び声
6. 雨
7. クレイジィリズム
8. ブレブラ
- Far France
- イベント情報
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- 『AHYARANKE Release Tour』
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2009年2月11日(水・祝)
会場:前橋DYVER AIR PORT
出演:EARTHing switch、Hi-CUT、FEED BACK2009年2月14日(土)
会場:下北沢SHELTER
出演:ATTA BELTERSS、MELT-BANANA lite、YOUNG PARISIAN2009年2月15日(日)
会場:新宿red cloth
出演:乍東十四雄、PLATON、プリングミン2009年2月20日(金)
会場:八王子Matchbox
出演:sister jet、under the yakucedar、Sweet Non Sugar、studio3 and more2009年2月24日(火)
会場:横須賀かぼちゃ屋
出演:sister jet、weave、myasma、51=27、24HOUR PARTY TIME2009年2月26日(木)
会場:HEAVEN’S ROCK 宇都宮
出演:BlieAN、零式、SAKOTO2009年3月2日(月)
会場:千葉LOOK
出演:America Short Hair、mean flower、或るミイ2009年3月4日(水)
会場:名古屋CLUB ROCK'N ROLL
出演:マヒルノ and more2009年3月5日(木)
会場:十三ファンダンゴ
出演:マヒルノ、YOLZ IN THE SKY、nayuta2009年3月6日(金)
会場:京都NANO
出演:マヒルノ、OUT AT BERO、swimm、theorem2009年3月8日(日)
会場:京都METRO あらかじめ決められた恋人たちへ、スーパーノア、Valva、LainyJGroove2009年3月13日(金)
会場:下北沢CLUB QUE(ALL NIGHT)2009年3月22日(日)
会場:新潟RIVERST
出演:嘘つきバービー、毛皮のマリーズ、つしまみれ2009年3月23日(月)
会場:金沢vanvan V4
出演:嘘つきバービー、毛皮のマリーズ、つしまみれ2009年3月28日(日)
会場:仙台MACANA
出演:マヒルノ、The Mirraz、under the yakucedar、ジャガー、パックマンディフェンス2009年3月30日(月)
会場:吉祥寺PLANET K
出演:よしむらひらく2009年4月6日(月)
会場:京都MUSE
出演:スーパーノア、viridian and more2009年4月7日(火)
会場:大阪LIVE SQUARE 2nd LINE
出演:スーパーノア、viridian and more2009年4月9日(木)
会場:名古屋APOLLO THEATER
出演:スーパーノア、viridian and more2009年4月10日(金)
会場:新宿NINE SPICES
出演:スーパーノア、viridian and more2009年4月26日(日)
会場:東高円寺U.F.O CLUB
出演:水中、それは苦しい 、神さま、坂本移動どうぶつ園、悲鳴『TOUR FINAL ワンマンライブ』
2009年5月22日(金)OPEN 19:30 / START 20:00
会場:下北沢SHELTER
料金:前売2,000円 当日2,300円(ドリンク代別)
チケット発売:2月20日発売開始
チケット取り扱い:チケットぴあ(Pコード:316-717)
ローソンチケット(Lコード:74003)
問い合わせ:下北沢SHELTER(03-3466-7430)
- プロフィール
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- Far France
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メンバー全員1987年生まれ、西東京在住のローファイ・ハードコアバンド。2008年2月に初の公式音源にしてライブ盤『LOVE』をリリース。その後、下北沢SHELTERでワンマン、KING BROTHERS/ズボンズ/ミドリ/嘘つきバービー/nhhmbaseを迎えた真夏のカオティック・フェスティバル「大運動会2008」の開催など、貪欲にライブ活動を積み重ねる。そして2009年2月、満を持して“初”スタジオアルバム『AHYARANKE』をリリース。
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