吠える! 難波章浩(Hi-STANDARD、ULTRA BRAiN)インタビュー

Hi-STANDARDのボーカルとして日本中の若者を熱狂させた難波章浩。音楽を通して人の輪を作り上げてきた彼が、チベットの自由を支援する為にベネフィット・コンピレーション・アルバム『ソングス・フォー・チベット・フロム・ジャパン』を作り上げた。 難波の呼びかけに応じたのは、CORNELIUS、細野晴臣、THA BLUE HERB、BOREDOMS、SHINICHI OSAWAなど全18組。他では考えられないラインナップである。これほどのアーティストたちがどうして難波に呼応し、「チベットの自由」を訴えているのだろうか。

去年ああいうことが起きて、何もやらないわけにはいかない、なにかしら動かないと自分が許せなかった。

―難波さんが「チベット問題」を知ったきっかけは何だったんでしょうか?

難波:『セブン・イヤーズ・イン・チベット』(1997年 ブラッド・ピット主演)という映画がきっかけでした。その時はまだ「チベット問題」は知らなくて、ダライ・ラマに興味をもったんですよね。すごい人だなーって。それで、ダライ・ラマが書いた『死の謎を解く』という本を読んだんです。

―その本にはどんなことが書かれていたんですか?

難波:人はいつか死ぬんだと。だから今を一生懸命生きろと。そういうことを言ってて、すごい感動したんだよね。そうやってチベットに興味を持ち始めた時期に、ビースティー・ボーイズから連絡があったんだ。「『チベタン・フリーダム・コンサート』に出ませんか?」って。

―1999年に行なわれた4回目の『チベタン』ですよね。世界4カ所で同時開催されて、東京ではHi-STANDARDや忌野清志郎が出演して。

cornerius

難波:そうですね。だけど最初は、出演するかどうか悩んだんですよ。社会的な問題を提起するイベントだから、そこにハイスタが参加するとファンの人達はどう思うんだろう? って考えていたんです。その時はまだ若かったし、そこに踏み込んでいいのかどうか、すごく怖かったんだよね。

―確かに、バンドが社会性を帯びていきますもんね。

難波:その時に初めて、人を集めることによって社会性を帯びちゃう、それくらいの規模のバンドになってるんだと自覚した。人を集めることで、自分たちに責任が出てくるんじゃないかって思ったんだよね。

―そうだったんですね。でもハイスタは、『AIR JAM』という時代を象徴するロックフェスまで主催していたじゃないですか。

難波:『AIR JAM』もさ、人を集めてただワーワーやるだけじゃなくて、最終的にはひとつの輪になれるような、そういうムードを持ちたいなって思ってた。大きな影響力を持つようになった時、ぼくはそういう方向に進んでいったんだよね。

『チベタン』に出た時、音楽のパワーのすごさを感じたんだよね。ぼくらだけじゃなくて、一万人くらいのお客さんも一緒にさ、みんなで「フリーチベット!」って叫んだんだよね。

―音楽によって、お客さんの意識がチベットに向いたんですね。

難波:でもそうやってファンの意識をチベットに持っていったのに、ハイスタが休止しちゃって、そういうことに携われなくなってしまった。それがずっとジレンマ だったんですよ。

―それで、今回のベネフィット・コンピレーション・アルバムを作ろうと思ったんですね。

THA BLUE HERB

難波:自分にできることってなんだろう? って考えてて、それはやっぱり曲を作ることだったんだよね。去年は北京オリンピックのボイコットが起きたり、世界中の意識がチベットに向かったじゃないですか。でも結局、何も変わらなかったんだよね。

―報道されている時は話題になっても、報道が止むと途端に忘れ去られていきますよね。

難波:そうやって忘れられちゃうことって多いじゃないですか。せめて自分は忘れたくないなって思ったし、方向だけは見失わずに続けていこうと思って。

―北京オリンピックに端を発した一連の出来事が決定的だったんですね。

難波:そうだね。去年ああいうことが起きて、何もやらないわけにはいかない、なにかしら動かないと自分が許せなかった。その時に作ったのが、コンピに収録される “ヒマラヤは泣いている”っていう曲なんです。現地の人たちの怒りとか悲しみとか、それを自分で想像しながら音に込めたんですよね。

日本の、こと音楽業界には疑問を感じるところもあって。

―実際、現地は大変な状況になっているんですもんね。

難波:そうだね。チベットは抑圧されているから、自分たちで海外に訴えるのは難しい状況になってる。だからこそ同じアジアの仲間として、日本から世界に向けて訴えかけていかなきゃいけないとも思うんです。

―日本から世界に向けてメッセージを発信していく。そういうことがもっと増えて欲しいですね。

MONGOL800

難波:日本もね、音楽がメッセージを伝えていくようになっていかなきゃいけないと思うんです。アメリカやヨーロッパにはそういう意味での表現の自由があると思うけど、日本の、こと音楽業界には疑問を感じるところもあって。

―その意味では今回、「チベット解放」というメッセージを軸に、レーベルの垣根を越えて18曲が集まったのは価値のあることですよね。皆さん快く引き受けてくれたんですか?

難波:本当にみんな快く受けてくれたんです。「自分もそういう意識があったけど、具体的にどうやったらいいのか分からなかったから、今回誘ってくれてうれしい」って。みんな言ってくれた。

みんなのことを信じて、楽しく、仲良く、夢を追ってもらいたいって思う。

―これはちょっと失礼な質問ですが、世の中にはチベット以外にも様々な問題がありますよね。何故チベットなんでしょうか?

SHINICHI OSAWA

難波:他にも色んな問題があるし、それをないがしろにするわけではないんだけど、ぼくはチベットが解放されるイコール、ワールドピースだと思っているんです。彼らは理不尽な状況の中でも、慈悲の心を持って、みんな平等だって考えて、「非暴力」を貫いている。その部分にすごく感動するんですね。そうしたチベットの精神を理解しているから、ビースティー・ボーイズやビョークをはじめ、多くのミュージシャンが「チベット解放」を呼びかけるんだと思います。

―それはダライ・ラマの精神によるところが大きいんでしょうか?

難波:そういうことでしょうね。平和や平等というテーマだけじゃなくて、エコとか、そういう大切なことが全部含まれている。彼らの考え方はもっと周知される必要があると思いますね。

―難波さんはダライ・ラマにお会いしたんですよね?

難波:神様ってこういうような人のことを言うんだろうなって思いました。言葉では説明できないですけど。その時に何を話したってわけでもないんだけど、「日本は君に任せたぞ」ってダライ・ラマに言われた気がしたの。勝手になんだけど。もう「任せてください!」って思った。

―本当の聖人だと言われている方ですもんね。ぼくもダライ・ラマが教典を読んでる声を聴いてほんとにビックリした経験があります。言霊だなって。

難波:ほんとにねー、そうなんだよね。やっぱりそうだな、音楽とか言葉とか、グッドヴァイブレーションを広めようと。そういうことでしょうね、今回のテーマも。それって別に特別なことじゃなくて、みんなが普段からやろうとしていることだよね。

―でも、やりたいとかやらなきゃと思っていても、なかなか行動に移せないことって多いと思うんです。

難波:そういうこともありますよね。だから、もっとみんな自由にやろう、もっともっと開放的にいこうよっていうメッセージにもなれば嬉しいな。 表現は自由なものだし、ことロックをやってる若い人たちはもっと爆発しちゃっていいと思うんです。ぼくももう40近いから、そこを解放してあげるのも役割なのかなって思う。「難波があんな風にやってるんだから俺もやろう!」って思ってもらえたらいいよね。みんなのことを信じて、楽しく、仲良く、夢を追ってもらいたいって思う。

思ったことがあったら吠えないとね。

―仲良くすることや、自由でいることというのは難波さんご自身のテーマでもあると思いますが、こうしたテーマを持つきっかけがあったんでしょうか?

DISCHARMING MAN

難波:そうだなあ。ぼくはずっとアウトローで、学校とかでも浮いてる存在だったんだよね。髪の毛を立ててパンクロックをやって、「自分はこういう人間なんだぞ、ここにいるんだぞ」って自分を主張する表現として音楽をやり始めてさ。だから、みんなに勇気を与えられる存在になれたらいいなぁって思うんです。

―ビョークとかビースティー・ボーイズも元々はパンクですよね。/p>

難波:そうそう、みんなパンクなんだよね。思ったことがあったら吠えないとね。

―吠えたいことって、ありますね、確かに。なかなか吠えられないんですけど(笑)。

難波:俺は吠えるよ(笑)。やっぱ自由だよね。

―お願いします(笑)。音楽自体の話をすると、今の難波さんの音楽はパンクだけじゃなくて、幅が広がっていますよね。

難波:そうだね。それもチベットが関係しているんだけど、『チベタン』に出た時、チベット人のディジュリドゥ奏者ナワン・ ケチョさんとセッションしたんだよね。それまでぼくはただのパンク少年だったから、民族音楽なんて聴いたことがなかったんだけど、ディジュリドゥと自分たちの音が噛み合った時に、意味が分かんない高揚感があって、泣いちゃったんだよね。その時からだね、音に対する解放が始まったのは。

純粋なことを言ってるとさ、前は照れちゃってたの。でももういいやって思って。バッチリ胸をはって、このまま行こうかなって思ってる。

―今回のコンピも幅が広いですが、みんなこのコンピのために曲を作ったんじゃないの? ってくらいまとまりも感じられますよね。

難波:みんな「自分は何なのか?」って探求している人たちだと思う。そうやって自由に表現をしている人たちってすごく共感が持てるんですよ。今回のコンピに入っている曲は、テレビでは流れないような音楽ばかりだけど、そこにもいっぱいいいものがあるんだよってことも伝えたいんです。

―音楽って、心を活性化させてくれますよね。感動して、盛り上がったり、悲しくなれたり。その力っていうのは、売上げだけでは測れないですもんね。

RIZE

難波:ね! そう思うよ。チャートに上がるものだけじゃないんだよね、音楽って。売れるとか売れないとかって、音楽の意味合いではないじゃん。音楽って昔っから、みんなが集まって太鼓を叩いたり、木を鳴らしたり、歌ったりしてきたものだよね。楽しいから集まってるんだよね。声の届かない山の向こうにいるやつに向かって、自分の気持ちを伝えるために音楽を奏でたりとかさ。

―今回のCDもそういうことですよね。いろんな人に届けばいいなっていう。

難波:そうだね。18曲のパワーとこれを聴いてくれている人たちのパワーが、間違いなく届くんですよ。本当に、具体的にね。そういうことを繰り返していけばいいと思うんです。

―このコンピを買ったり、このインタビューを読んだ人が「自分も何かやらなきゃ」と思った時、どうすればいいんでしょうか?

難波:「自分だけじゃない」って思ってもらえたら、すごく嬉しいです。困難にある人たちとか、家族とか、仲間とか、みんなで助け合っていければいいですよね。

―難波さんは、どうしていくんでしょうか?

難波:音楽を発信しまくりますよ。まず自分を解放するべくね。そしてそれに共感してくれた人が、解放されたらいいな。その人数はあまり意識せずに、どんどん自由にやってくことがこれからの目標ですね。

―難波さんから自由な表現が届けられるのを、とても楽しみにしています。今日は短い時間でしたが、難波さんの熱い気持ちが聞けて嬉しかったです。

難波:純粋なことを言ってるとさ、前は照れちゃってたの。でももういいやって思って。バッチリ胸をはって、このまま行こうかなって思ってる。みんな仲良く平和に。全開でいきますよ、本当に。

リリース情報
V.A.
『ソングス・フォー・チベット・フロム・ジャパン』

2009年3月25日発売
価格:2,600円(税込)
ULTRA BRAIN/TRAFFIC TRUB 1

1. ヒマラヤは泣いている / ULTRA BRAiN
2. HARVEST DANCE feat. HIFANA / dj KENTARO
3. A HOpe / TURTLE ISLAND
4. heiwa / RIZE
5. dcdc-feat.HIFANA / WRENCH
6. 3 / BOREDOMS
7. THE END / DISCHARMING MAN
8. OUR SONG / SHINICHI OSAWA
9. SUCH A GOOD FEELING / THA BLUE HERB
10. ARRIVAL TIME / BRAHMAN
11. 琉球愛歌 / MONGOL800
12. LIKE A ROLLING STONE / CORNELIUS
13. 恋は桃色 / 細野晴臣
14. あふりらんぽウォーーー!! / あふりらんぽ
15. Freedom Train / HAWAIIAN6
16. PEOPLE TO PEOPLE / COKEHEAD HIPSTERS
17. DHARMA feat.いとうせいこう / DJ BAKU
18. WORLD IS YOURS / CUBISMO GRAFICO

プロフィール
難波章浩

バンドHi-STANDARDのボーカル・ベース担当。現在は主にULTRA BRAiN名義での活動中。99年、Beastie Boysのアダム・ヤウクが提唱者となって日本で行われたチベタン・フリーダム・コンサートにHi-STANDARDとして出演。その時のライヴではチベット人アーティストとのコラボレーションを行なう。08年9月に発売されたチベットへのベネフィット・アルバム『ソングス・フォー・チベット(アート・オブ・ピース)』に楽曲を提供するなど、音楽を通じてチベット支援活動を積極的に行なう。そして今年3月、日本人アーティストによる、チベット支援コンピ『ソングス・フォー・チベット・フロム・ジャパン』の制作を自ら企画し、リリースする。



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