哀愁漂うメロディーを武器に、転調やリズムチェンジを多用し、ドラマチックな楽曲展開で話題を呼ぶsusquatchが、ニュー・アルバム『In This World』をリリースした。 彼らがパニャ語と呼ぶ、いわゆるでたらめ英語で歌われる全10曲は、歌詞はないながらも様々な情景や感情を思い起こさせ、言葉で伝える歌とはひと味もふた味も違った感覚を与えてくれる。既存のJ-POPとはまったく異なる複雑な作品を作りながらも、あくまで「J-POP育ち」と断言する押切健太(Gt&Vo)に、個性的な音楽観、人生観を語ってもらった。
ハナからひねくれてやろうとは思ってないんですけど、引っかかりもなく聴き流せちゃうのも嫌だなと思いまして。
―susquatchの音楽は、普通のAメロ~Bメロ~サビみたいな展開に当てはめて聴こうとすると、頭が混乱して聴けないです。
押切:あー、ひねくれてるんですよねぇー(笑)。
―いわゆる普通のJ-POPとかとは違うことをやりたい?
押切:ハナからひねくれてやろうとは思ってないんですけど、引っかかりもなく聴き流せちゃうのも嫌だなと思いまして。自分は作曲者であって、プレイヤーでもあるから、リスナーよりも曲に触れ合う時間が多いじゃないですか。だから、いつやっても楽しめる、飽きのこないものがいいなと思うと、通常じゃないところにフックがあったほうがいいなと。最終的にドラマチックな展開になればいいと思うんですけどね。
―バンドを始めたりとか、音楽を始めたりとかって、普通は好きなものを真似することから始まると思うんですけど、それとは対照的な考えですよね。
押切:もちろん、いろいろ聴いてきたものから影響は多々に受けてますよ。曲作りも「こういうテイストの曲をやりたいな」とか思うことから始まることも多いし。でも、既存のものと同じものを作っても意味がないので、こういうニュアンスがミックスされてる曲がほしいなと思ったら、自分のなかにある引き出しからいろんなおかずを引っ張ってきて作り上げる感じですね。
―もともと普通のJ-POP的な音楽は聴いてたんですか?
押切:バリバリ聴いてましたね(笑)。
―どの辺を?
押切:いまだに聴くんですけど、B’zとかWANDSから始まって、シャ乱Qも聴いたし、FLYING KIDS、THE BOOM、中島みゆき、CHAGE and ASKA、ユニコーン……。最終的に長いこといったのはBUCK-TICKとか、THE MAD CAPSULE MARKETSとか。松坂世代(1980年度生まれ)なので、その辺は大好きですね。
―でも、生み出される音楽は全然別もので。
押切:どうなんですかね。susquatchは底抜けに明るいよりかは、ちょっと哀愁のあるメロディーが多いんですけど、それは意外とBUCK-TICKとかからの影響なんじゃないかなと思ったりして。ユニコーンも転調とかするんだけど、どっかにグッと来る切なげな部分転調とかを入れたりしてるから、そういう影響はすごい感じますね。だから、J-POPが作った音楽だと思います。
歌詞がない分、そういう細部では何かしら主張したくて。
―曲作りはどういうふうにされてるんですか?
押切:僕が元ネタを持ってきて、ドラム、ギターに肉付けを頼む感じですね。最初に、後半8小節に転調が入った、サビに相当する16小節分のコード展開とメロディーが作って、その時点でどういうテンポで、どういうカラーの曲かっていうのを徐々に固めていくんです。それでおおまかな展開ができたら、デモの状態でバンドに持っていって、部分部分説明して。「ここは導入部ね」とか、「ここで一回落ちて」みたいな。それを加味してもらって、みんなで作り上げていくという。
―その元ネタはどういうふうに浮かんでくるんですか?
押切:こういう曲がいいなとイメージして作ることもあるんですけど、まずはメロディーですね。やっぱJ-POP育ちなので。展開とかは二の次で、パッと聴いたときに、うわー頭に残るなぁと思えるメロディーが思い浮かぶと、じゃあこういうアレンジはどうかな、ジャジーなほうがいいかな、ちょっとハードコアなほうがいいかな、みたいな感じでできあがっていきますね。
―基本的に歌詞はでたらめ英語みたいな感じなんですよね?
押切:はい。パニャ語と呼んでます。
―でも、曲のタイトルと音のイメージは一致してますよね。
押切:この曲はこういう曲ですよ、っていうようなタイトルはつけてますね。 歌詞がない分、そういう細部では何かしら主張したくて。例えば“matsuri”だったら、日本のコブシのメロディーを意識して、夏特有のちょっとエモーショナルで和な感じを出そうと思って。もともと仮タイトルで「祭り」って呼んでたんですけど、RECが終わる頃には、もうこれ以外ないだろっていうことになって、そのまま“matsuri”になりました。
―タイトルを先につけて曲を作ることはないんですか?
押切:ありますよ。“Ghost”は曲ができる前から“Ghost”だなと思ってたし。“Ghost”は最初の段階から、あの世の人に対して向けたメッセージというか、そういうモヤモヤしたものがあって。今回から(歌詞カードに)日本語でイメージ詞を載せてるんですけど、そのイメージに向けて徐々に照準を絞るように作ってますね。
カラオケに行けばユニコーンだチャゲアスだって歌うクセに、なんで自分のバンドになったら詞がないんだよって話ですから(笑)。
―歌詞はないけどメッセージはある?
押切:メッセージではないんですけどね。歌碑みたいな。「こういうイメージの歌なんですけど、(受け取り方は)ご自由に」っていうくらいですね。前作を作ったときに、「何をやりたいかはわかるんですけど、何を考えて作ったかわからない」みたいな意見が多かったんですよ。何も考えてなければ載せなくていいんでしょうけど、今回も、前のアルバムも、1曲1曲思い入れはあるので、だったら載せてみようかなと。
―なるほど。でも、パニャ語とはいえ、部分部分にちゃんとした単語は入ってますよね?
押切:そうですね。だから次はちゃんと詞も用意してみようかなと思ってますね。パニャ語をやめる気もないけど、詞があるものに挑戦してもいいだろうし、日本語詞でやってみてもいいだろうし。カラオケに行けばユニコーンだチャゲアスだって歌うクセに、なんで自分のバンドになったら詞がないんだよって話ですから(笑)。
―別にそこに縛りを設けているわけではないんですね。
押切:全然ないですね。J-POPアルバムも作りたいですから。
“Ghost”は実をいうと、死んだうちの家族とか、親しい人に対して歌ってる曲で。
―話は戻りますけど、1曲目の“awakening at daybreak”とか、タイトルと音像とばっちり合ってて、まさに夜明けっぽい曲ですよね。
押切:そうですね。そこは感じてもらいたい部分です。この曲は、あえて同じ展開をかぶらせてないんですよ。Aメロ、Bメロっていうんじゃなくて、ABCDEFGで終わるようにしてて。あとは歌詞カードにあるイメージ詞と照らし合わせて聴いていただけると、より「へぇー」って気持ちになってもらえると思うんですけど。
―歌詞がないアーティストだと、作ってる側のイメージは感じ取らないでもいい、っていう人もいると思うんですけど、それとはまた違うんですね。
押切:そうですね。でも、あんまり押しつけたくもないので、基本的には聴いてくれる人が自由にイメージしてくれればいいかなと。“Ghost”っていう曲だからって、別に幽霊を意識しなくてもいいわけで。ただ、歌詞がないからって適当にやってるわけでもないし、生半可な気持ちで作ったアルバムではないので、歌ってる俺はみんなに知られなくてもいいけど、俺のなかでいまの気持ちとしてパックしておきたいなっていうのはあるんですよね。それは歌詞カードにちゃんとパックできたと思っているんですけど。
―生きた証的な。
押切:そういう意味で、(アルバムのタイトルが)『In This World』なんですよ。「この世で作ったぜ」っていう。
―なんで『In This World』なのに“Ghost”っていう曲があるんだろうと思ってたんですよ。
押切:“Ghost”は実をいうと、死んだうちの家族とか、親しい人に対して歌ってる曲で。大げさな言葉を用いるのも気持ち悪いですけど、なんか俺、死生観みたいなものが年々強くなっていて。やっぱり生きていれば死んでいく知り合いは増えるし、最初はバンドやりたいから東京に出てきたけど、どんどん家族も老いていくし、さぁどうするよここからっていうときに、そういう気持ちを込めたくなってきて。そういうグシャグシャとしたものがアルバムに入った気がしますね。
俺が思ってる疑問と、みんなが思ってる疑問って、きっと同じだと思うんですよね。
―どの曲に対してもそういった意味付けが?
押切:ありますね。イメージ詞を載せようっていうのも、最初はわかりやすい程度でいいんじゃん? と思ってやってたんですけど、だんだん書いてるうちに、実はバカにされるからあんまり言わないけど、普段真剣に考えてることがどんどん出てきちゃって。徐々にこの世とあの世がくっきりしていったというか。この世で俺らが見てるものと、もしあの世が存在して、世話になった連中がいたとしたら、俺があっちに言いたいことと……。
―難しい(笑)。
押切:そうですよね(笑)。あの世がなきゃ別にいいんですけど。
―すごくパーソナルな気持ちもこもってる作品だけど、リスナーは別にそれを感じ取らなくてもいいと。
押切:そうですね。ただ、共感できる部分はあると思います。自分のやってることに自信があるとかっていうのとは違うんですけど、俺が思ってる疑問と、みんなが思ってる疑問って、きっと同じだと思うんですよね。この世がいつから始まってるのかとか。俺らは普通にこうやってお茶とか飲んで、「お茶うまいっすね」とか言うくせに、なんで生まれてきたのかみんなわかんないじゃないですか。死んだらどこ行くかもわかんないかくせに、「お茶うまいっすね」とか言ってるのが、俺は不思議でしょうがないっていうか。
―突き詰めるとそうですよね(笑)。突き詰めすぎるとノイローゼになりそうですけど。
押切:あー、そうなんすかね。俺はそういうこと考えるのが楽しいんですよね。「なんで俺たちは生きてるんだろう?」って思いながら、「あー、お茶うまい」って言うタイプなんで(笑)。意外と楽天家なのかもしれないですね。
- リリース情報
-
- susquatch
『In This World』 -
2009年5月13日発売
価格:2,300円(税込)
HKP-022 K-PLAN1. awakening at daybreak
2. Ghost
3. glass marbles
4. Return of Spring
5.the gulf lab
6. A Gremlin
7. matsuri
8. after the thaw
9. Spin The Words
10. summer end
- susquatch
- イベント情報
-
- >CINRA presents 「exPoP!!!!! volume27」
-
2009年6月25日(木)
会場:渋谷O-nest
出演:susquatch、Clean Of Core、シリカ、and more!!!!!
料金:無料(2ドリンク別途)
- プロフィール
-
- susquatch
-
2002年10月、押切健太(ヴォーカル・ギター)と中野真季(ドラム)を中心に結成、都内を中心に活動を始める。ギター2本と、ドラム、ベースというシンプルな編成ながら、曲は時に賛美歌やオーケストラのようなアレンジの厚みを感じさせ、転調やリズムチェンジが音楽を体感する楽しさを伝えてくれる。自主制作のデモCDを約2,000枚売り上げ、07年5月に1stミニアルバム『Water Plant』を発売。09年5月13日には1stフルアルバム『In This World』をリリースし、大反響を集めている。
- フィードバック 1
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-