『鉄コン筋クリート』監督マイケル・アリアス、新作DVDを語る

松本大洋のマンガが原作の『鉄コン筋クリート』で、第31回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞を受賞した気鋭のビジュアル・クリエイター、マイケル・アリアス監督。彼の実写での初監督作品『ヘブンズ・ドア』が今年2月に公開された。このたび、DVDの発売に伴い、監督にインタビューを敢行。余命いくばくもない男女による最期の「冒険」を切なく描いた本作には、岩井俊二や行定勲らの映画とも通じる淡い切なさがくっきりと刻み込まれていた。
※一部ネタバレが含まれますのでご注意ください

『鉄コン筋クリート』が完成したとき、映画監督をやめようと思っていたんです。

―マイケル・アリアス監督の最新作『ヘブンズ・ドア』は、ドイツで99年に公開され、350万人を動員した名作『ノッキング・オン・ヘブンズ・ドア』のリメイクですね。まずは、作品を撮られた経緯をお伺いできますか?

マイケル・アリアス監督(以下、アリアス):前作の『鉄コン筋クリート』が完成したとき、持てる力を出し尽くしてしまっていて、映画監督をやめようと思っていたんです。一本だけ作って映画界から去るっていうのも、カッコイイかなと(笑)。でも、やっぱり自分ができることといえば映画以外になかったんです。そんなことを考えていた時に、『鉄コン筋クリート』を出品したベルリン国際映画祭の会場で、蜷川実花監督の映画『さくらん』をプロデュースした友人と偶然会って、『ノッキング・オン・ヘブンズ・ドア』をリメイクしてみないかという話をもらいました。でも、作品を見てみたら、リメイクする余地の無い、完成された作品だったんです。

『鉄コン筋クリート』監督マイケル・アリアス、新作DVDを語る

―とはおっしゃいますが、『ヘブンズ・ドア』にはアリアス監督独特の感性がとても感じられます。原作がハードボイルドというか、カラッと乾いた調子のコメディであるのに対して、叙情的というか、ポエジーがあふれているように思えたんです。

アリアス:そういうウェットなテイストのほうが日本映画としてふさわしいんじゃないか、という思いがあったんです。主人公の二人にしても、原作では男性2人の設定で、彼らの友情の素晴らしさがハードボイルドタッチに描かれていましたが、僕は正反対のキャラクターが徐々に絆を深めていく話にしたかった。それで、脚本の大森美香さんとプロデューサーとの間で、30歳くらいのダメ男と14歳のフシギ少女という、一番噛み合わなさそうな2人に設定したいという話を聞いて、これだなと思いましたね。

―冒頭の灰色の世界から、徐々に色づいていく色彩処理の巧みさも、詩的な雰囲気を醸し出すのに一役買っていたと思います。監督の作品はどれも色彩へのこだわりがあるような気がするのですが・・・。

アリアス:こだわりというよりも、アニメーションでの経験が影響しているんだと思います。アニメーションでは、一色一色決めるのは当たり前のことなんです。アニメーションのキャラクターって、引きの絵で見た時に、どっちがどっちなのかわからなくなるので、色で識別できるようにしないといけません。『鉄コン筋クリート』でも、シロとクロというキャラクターを、色を描き分けることで区別できるようにしました。今回の『ヘブンズ・ドア』では、長瀬さん演じる勝人を赤、マユちゃん(福田麻由子)演じる春海を青のイメージにしています。たぶん実写のスタッフにとっては、なんでそこまで青とか赤なのか、っていう疑問はあったような気がしますけどね。他の監督はそんなに言わないんでしょうね。

音楽は、Plaidに2週間くらい寝ないで作曲してもらいました。

―音楽は『鉄コン筋クリート』に引き続きイギリスのテクノ・ユニット、Plaid(プラッド)です。長瀬さんのシーンではゆったりとした、福田さんのシーンでは速いテンポの曲が流れ、二人の心の距離が埋まるにつれて、徐々にそれらが融合したメロディーになっていくという、見事なものでした。

『鉄コン筋クリート』監督マイケル・アリアス、新作DVDを語る

アリアス:とても素敵な音楽に仕上がっていると思います。でも、実は今回、彼らにしっかりとイメージを伝えることができなくて。『鉄コン筋クリート』のときは、アニメーションは制作期間が長いので、声をかけてから3年くらい制作期間があったんですよ。マンガ原作も絵コンテもあって、美術設定とかキャラクターデザインなどいろんな資料がある中で音楽を考えられる。

今回の場合、台本を翻訳して送っても、原作の映画を見せてもむしろ逆効果ですから。結局、彼らに来日してもらって2週間くらい寝ないで作曲してもらったんです。彼らの音楽を作るプロセスにはもっと時間が必要だとわかってはいたのですが…。

―主演の長瀬智也さん、福田麻由子さんの演技はいかがでしたか?

アリアス:2人とも役者としてのスタイルは近いのかなと。自然体で、アドリブもうまいし、観察力もある。マユちゃんは若いからどうしても理屈っぽく考えてしまうところもあるんですが、それは場合によってすごくいい方に出ることもある。台本を自分のセリフじゃないところまで、本当によく読みこんでくれました。

『鉄コン筋クリート』監督マイケル・アリアス、新作DVDを語る

―アドリブによるシーンが多いとお聞きしたのですが、それは2人の気分がリアルに出てくると判断されてのことでしょうか?

アリアス:作品が違えばもっと台本に沿ってやるべきだと思いますけど、この映画はロードムービーなので、作る側にとっても観客にとっても、予想外の何かがあるほうがいいかな、と思ったんですよね。雨の中でダンスをするシーンにしても、台本にはただ「踊る」としか書いていない。僕は長瀬くんに、こういうふうに踊るんじゃないかなって説明はしたんだけど、僕が踊ってもカッコ悪くて(笑)、長瀬くんがその場で工夫して踊ってくれたんです。だから、「踊る」っていう指示は台本にあるし、しっかり絵コンテもあったので純粋にアドリブというわけではないんですが、それらをもとにして、その場で自由に解釈しながら演じてもらうことを大切にしました。

ラストの海のシーンは、最終日に撮ろうと決めていたんです。

―『鉄コン筋クリート』では、クロの心の危機を、シロが救う。勝人も春海と出会うことで、残り少ない時間を充実して生きることができるようになります。この2組の関係には共通点があるように思うのですが。

アリアス:そうですね。けっこう似ているなっていうのは、じつは作り終わってから気づいたんです。原作の頃から似ていたのか、それとも自分が作ったから似てきたのか、同じPlaidが音楽を担当しているからなのか、よくわからないんですけれども。どうしてなんでしょうね(笑)。普段作っているときには、じつはあまりテーマについては考えないんですよ。その場その場での自分の判断を、長瀬くんやマユちゃん、スタッフさんたちに投げて、彼らがそのとき感じたことを形にした結果、こういう作品になった、ということしかないので。

『鉄コン筋クリート』監督マイケル・アリアス、新作DVDを語る

―作り終えてからテーマが浮かびあがることもあるんですね。確かに普段生活しているときって、テーマを持って生活しているわけではないわけですし。

アリアス:特に今回はそうでしたね。作り始めた時から、脚本通り最初のシーンから順番に、リハーサルを一切しないで撮っていって、最後の海のシーンも最終日に撮ろうと決めていたんです。それがこの作品には合っていると。作っている自分たちも、登場人物の勝人や春海と近い目線に立ち、近い体験をしていくことで、完成した作品になにかしらのプラスアルファというか、立体感が出てくるようにしたかった。だからラフな感じもある分、勢いがある映画になっていると思います。

―順撮りしていったことで、堆積してきた時間の重みが、ラストシーンによく出ていますよね。

アリアス:この撮影が終わったら、もう勝人と春海とは会えないし、映画作りが終わったらスタッフどうしも会えないことをわかって撮っているので、そういう切なさも映り込んでいる。もしド頭に撮っていたら、絶対ああいうシーンにはならなかった。とはいえ、それも撮った人間の妄想というか、現場の雰囲気は絶対にお客さんにも伝わるはずだと信じたいだけかもしれないですけどね。

―そんなことはないですよ。本作に「ひざまずいて生きるよりも、立って死ぬほうがいい」という名セリフが出てきますが、まさにそうした勝人と春海の生き様が、画面から立ち昇ってくるように思える、切ないラストシーンになっていました。またDVDで何度も観たいと思います。それでは、最後にCINRA.NETをご覧の皆様にメッセージをお願いします。

リリース情報
『ヘブンズ・ドア』初回限定生産2枚組プレミアムBOX / DVD2枚組<本編DISC+特典DISC>

価格:6,825円(税込)
豪華化粧箱仕様、封入り特典のプレミアム・ブックレットには、DVD限定未公開写真多数掲載、絵コンテ他盛りだくさんの60P。メイキング映像等の映像特典の他に、オーディオ・コメンタリー(長瀬智也×マイケル・アリアス)の音声特典もついています。

監督:マイケル・アリアス
脚本:大森美香
原案:『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』
音楽:Plaid(サウンドトラック:BEATINK)
主題歌:アンジェラ・アキ‘Knockin’On Heaven’s Door’

キャスト:
長瀬智也
福田麻由子

発売元:アスミック
販売元:ポニーキャニオン

『ヘブンズ・ドア』初回限定生産2枚組プレミアムBOX / DVD2枚組<本編DISC+特典DISC>

価格:3,990円(税込)
封入り特典ブックレット8P、メイキングなどの特典映像の他にコメンテタリー音声特典も収録。

『ヘブンズ・ドア』【Blu-ray】 / 2枚組<本編ブルーレイDISC+特典DVD>

価格:5,985円(税込)
※【Blu-ray】特典DISCは、同時発売の初回限定生産2枚組プレミアムBOXの特典DISCと共通です。

プロフィール
マイケル・アリアス

アメリカ・カリフォルニア生まれ、ビジュアルクリエイター。80年代後半より、コンピュータを使ったVFXスタッフとして活動を始め、数々のハリウッド映画に参加する。日本で1年ほどイマジカ特撮映像部に在籍した後、ニューヨークに拠点を移し、映画のCGで多くの賞を獲得。再び日本に戻り、CGと手書きのアニメの組み合わせに特化した" ソフトイマージ・トゥーンシェーダー"を開発・特許取得(宮崎駿監督作品『もののけ姫』にて使用)した。日米合作の『アニマトリックス』(02)ではプロデューサーを担当。大ヒットした『鉄コン筋クリート』(06)が初監督作品となり、本作『ヘブンズ・ドア』が実写初監督作品となる。



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