ロンドンのフィルムスクールで学び、『エコエコアザラク』が高評価を得た映画監督・佐藤嗣麻子。彼女の最新長編『K-20』は、第二次世界大戦が起こらなかった架空の日本が舞台だ。身分の格差が加速し、ギスギスした社会の中で、「弱きを助け、強きをくじく」ヒーロー・怪人二十面相が活躍するさまを描く。主人公の金城武が魅せる華麗なアクション、彼を取り巻く数々の陰謀、そしてSF映画ファンにはたまらない作り込まれた映像美。本作のDVD発売を記念し、映画的興奮にあふれた本作に込めた思いを監督からお伺いした。
怪人二十面相のような突拍子もないヒーローは、架空の世界に登場したほうが馴染むんですね
―作品の舞台となるのは、第二次世界大戦が起こらなかったもうひとつの日本ですね。そうした設定の作り込みをする上で、こだわった点はどこでしょうか?
佐藤:設定の提案があったのは、プロデューサーの阿部さんからなんです。彼にその理由を聞いたところ、怪人二十面相という突拍子もないヒーローが登場する舞台に、単に現実に存在した昭和日本ではなく、こうであったかもしれない架空の世界を設定したほうが、馴染むんじゃないかと思ったからだそうなんです。そのアイデアに基づき、もし戦争が起こらなかったのなら、どういう世界になっていたんだろうと想像を膨らませていきました。
―作品に登場する独特の街並みは、そうした想像から出てきたんですね。
佐藤:そうなんです。この架空の世界では、東京は空襲に遭っていないので、ヨーロッパ風の建物や、長屋みたいなものも残っていただろう。また、階級制度も続いていて、財閥も解体されていないのではないか。そんなふうに世界観を突き詰めていきました。東京オリンピックもやっていたはずなので、テレビも開発され、大きなテレビ塔ができていただろう。また、日本陸軍はベルリンに留学していたので、アメリカではなくむしろドイツの影響が強い社会になっていたのではないかと思い、登場する横文字はすべてドイツ語にしました。
―元になったのはプロデューサーのアイデアだとおっしゃいましたが、監督自身も、ドイツの影響が強い社会に愛着を感じますか?
佐藤:感じますね。若いころロンドンに住んでいたのですが、ドイツにも何度も足を運んで、とても愛着がありますよ。ロンドンに住んでいると、自然とアンティークなものに触れる機会が多くなるんです。本作では、衣装にヨーロッパ的なセンスをうまく取り込もうと力を注ぎましたが、それにはロンドンでの経験が大きく物を言いました。
―イラストレーターの田島昭宇さんが、コスチュームのデザインをされていますよね。田島さんの起用は、監督ご自身が希望されたのですか?
佐藤:はい。昔から田島さんの絵が好きだったんです。田島さんの描く洋服って、着られそうな感じがするんですよね。他にも絵の上手なイラストレーターはたくさんいらっしゃいますが、実写にすると普段着っぽくなくなっちゃうんです。でも田島さんの絵は、カッコよくて、かつ実写にしても普段着のように見えるんです。とはいえ、若干コスチュームっぽくなってしまったかもしれませんが。
―いかにもコスチュームっぽいな、という感じはしませんでしたよ。
佐藤:ありがとうございます。戦隊モノっぽくならないように注意してデザインしましたね。
SFというより、冒険活劇を作りたかったんです
―本作には、座標を入力した地点に電気エネルギーを移送できるという、なにやら怪しげな(笑)テスラ装置をはじめとして、さまざまな機械が出てきますけれども、ああいった、いかにも男の子が好きそうな装置には、もともと興味がおありだったんでしょうか?
佐藤:機械自体が好きというよりは、テスラという人が好きなんです。江戸川乱歩の『少年探偵団』に、怪人ニコラっていうキャラクターが出てくるんですが、彼はニコラ・テスラがモデルになっています。いかにも怪しい人というイメージがあって、作品に登場させることで、スチームパンク(※2)※サイバーパンクから派生したSFジャンルのひとつ。スチームエンジン(蒸気機関)が世界を支配するパラレル・ワールドを舞台に設定した作品が多い。宮崎駿『天空の城ラピュタ』、大友克洋『スチームボーイ』などが代表作とされる。 っぽい雰囲気を出せるかなあ、と思ったんです。フリッツ・ラングの昔のSF映画『メトロポリス』のような。
―監督は別のインタビューで「SF作品にはしたくなかった」とおっしゃっていましたが?
佐藤:SFというより、冒険活劇を作りたかったんです。プロデューサーとは、『インディー・ジョーンズ』のような、楽しい映画にしたいと言い合ってたんです。日本では、ああいった冒険活劇のジャンルって、あまり作られないじゃないですか。
―SF的な要素も取り入れた冒険活劇を撮りたかったということですね。
佐藤:そうですね。『インディー・ジョーンズ』もそういう作品ですよね。オカルト現象も登場しますけれども、ジャンル分けをするならば、SFという感じではないですよね。
やっぱり、金城くんのアクションを思う存分見たいなあ、と。彼が まだ若いうちにやっておかないと(笑)
―役者さんの印象をお聞きしたいのですが、金城さんのアクションはいかがでしたか?
佐藤:彼、すごく動きがきれいなんですよ。金城くんが主演するのは、私が原作を読む前から決まっていたんです。ミステリー色が強い、頭脳戦を見せる映画にしてもいいかなと思ったんですけれども、北村さんの原作にはあまりその要素がなかったことと、やっぱり金城くんのアクションを思う存分見たいなあ、と。彼がまだ若いうちにやっておかないと(笑)
―金城さんと言えば国際的に活躍されている俳優さんですが、佐藤監督も、デビュー作はイギリスで撮られましたよね。日本とイギリスでは、役者さんやスタッフさんの性格に違いはあるんでしょうか?
佐藤:それはすごく違います。イギリスの役者は、演劇学校を出ている人が多く、基礎をちゃんと教え込まれているんですが、日本の役者は、現場で演技を覚えていくっていう感じですね。まったく何も知らない子たちが多いです。スタッフもそうですね。イギリスには映画学校があるから基礎を学べるんですけど、日本の学校はイギリスで教えるようなことは教えていないみたいなので。どちらの学校でも、きちんとした教科書を使っているわけではないんですが、授業の内容の違いがあるのではないでしょうか。
―これから日本で映画を撮っていく際に、佐藤監督が気をつけようと思っていらっしゃることはありますか?
佐藤:海外では、役者と仲良くなるべきではない、と教わりましたが、日本ではむしろ仲良くなった方がやりやすいんです。スタッフにしてもそうなんですが、日本の撮影現場はとても家族的で、人間関係がとても大事。その点は、雰囲気作りをしっかりする必要があるな、と常に気配りをしていますね。
―本作は公開時、上映期間が延長されるなど大ヒットを記録しましたが、監督ご自身は「こういうものを得た」という実感はありますか?
佐藤:非常に個人的なことで申し訳ないですけれども、この映画のような、大作と呼んでいい作品をちゃんと一本作ると、大作を監督するお話が来るようになるんだな、と。これまでは、おもにインディー系の映画かテレビを作ってきましたので、こうした経験は初めてで、また違ったやりがいを感じられています。
- リリース情報
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- 『K-20 怪人二十面相・伝』
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DVD&Blu-ray発売中、DVD同時レンタル中
脚本・監督:佐藤嗣麻子
原作:北村想『怪人二十面相・伝』(小学館・刊)
脚本協力・VFX協力:山崎貴
VFXプロダクション:白組
企画・制作プロダクション:ROBOT出演:
金城武
松たか子
仲村トオル
國村隼
高島礼子
鹿賀丈史
- プロフィール
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- 佐藤嗣麻子
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1964年生まれ。1987年、ロンドン・インターナショナル・フィルム・スクール留学後『ヴァージニア』(1992)で、東京国際ファンタスティック映画祭アボリアッツ賞受賞。『エコエコアザラク』(1995)で’95ゆうばり国際ファンタスティック映画祭批評家賞受賞。その他、ドラマ『アンフェア』の脚本や、人気ゲーム『鬼武者』、『バイオハザード』のオープニングムービー等の監督も務める。
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