士郎正宗原作の『アップルシード』で、世界中を熱狂させたアニメーション監督・荒牧伸志。このたび、その続編である『エクスマキナ』のBlu-ray Discが、7月24日(金)に発売された。キャラクターの衣服や表情など細部までこだわり抜いて演出したという『エクスマキナ』は、圧倒的な映像美を誇るBlu-ray Discのポテンシャルを、最大限に引き出していると言える。荒牧監督が「テクノロジーと人間がうまく付き合い、共存していくことが大事」だというテーマを込めた本作について、じっくりとお話をうかがった。
皮膚感覚に直接訴えかけるような映画にしたかったんです
―『エクスマキナ』の前作『アップルシード』は、全世界で大ヒットした作品ですね。前作ではできなかったことで、本作で達成できたことはありますか?
荒牧:CGのキャラクター周りの表現力を格段にアップできたことですかね。CGの技術的な部分の基本的なスキルって、じつはあまり変わっていないんですが、『アップルシード』のときは、先の見えない手さぐり状態で進めていたので、どうしても時間が足りなかったんですよ。キャラクターの表情や存在感まで、十分に表現できなかった。
本作では、キャラクターの微妙な表情の振れ幅を丁寧に表現することを、第一の目標に据えました。役者さんの顔をフェイシャルキャプチャーする技術を試してみたんですが、どうもしっくりこなくて、スタッフの手でイチから作っていきました。アニメーションっぽい記号化も少々入れましたが、各々のシーンにあった表情を作ることができましたね。
―CGアニメのキャラクターという、実在しない人物を造型していく上で、親しみを持ってもらうために工夫したことはありますか?
荒牧:実写の場合、視聴者がよく知っている役者が出ていることが多いけど、CGとなるとそうではない。そのため、ヒロインであるデュナンのキャラクターをどういう風に動かせば、生身の人間がもつ存在感が出るんだろう、というようなことを常に念頭に置いていました。皮膚感覚に直接訴えかけるような映画にしようと、キャラクター同士が身体を叩きあったり触ったりするシーンを意識的に増やしていったんです。CGでそういうシーンを作るのって、じつは大変なんですけどね。
―生身の人間に対する興味が、CGアニメを成り立たせていたんですか。
荒牧:CGアニメというと、暗い部屋で黙々と作っている印象があるかと思いますが(笑)、意外に生身の人間への意識を強く持っているものなんですよ。Blu-ray Discの特典映像にも入っていますが、役者さんの動きをCGキャラクターに反映させるモーションキャプチャーの演出を経験したことで、生身の役者さんにお芝居をつける楽しさにも改めて気づきました。僕のイメージとは違うことをやってくれたりするんです。それがおもしろくて、キャラクターの存在感を増すために、そうした即興的な要素を取り込もうと工夫しました。
―プロデュースをされた映画監督のジョン・ウーさんは、キャラクターたちについて「美女が多いのはいいけど美男が多すぎだな」とおっしゃったそうですね(笑)。
荒牧:そうですね(笑)。それぞれのキャラクターたちは、あるタイプの究極形なんです。例えば、きつくて謎めいている女性、というイメージがあったとして、その究極形とはどんな人物なのかを突き詰めて作り上げるようにしました。男性キャラクターについては、女性スタッフとも相談しながら考えましたね。顎の形をもっとこうしてだとか、脱いだらマッチョなんだけど着やせさせてほしいとか、かなり勝手な注文をされたんですけど(笑)、できるだけ反映させるようにしました。
衣服の縫い目や、布の質感の違いまで、細かく作り込めたんです
―『エクスマキナ』のBlu-ray Discが7月24日に発売されましたね。DVDの画質と観くらべてみると、格段に違っていて驚きました。ものすごくキレイですよね。
荒牧:いやー、そうなんですよね。じつはDVDを発売した際、もうちょっとディテールを表現したかったな、という思いが残ったんです。『エクスマキナ』は、ブリアレオスとテレウスというキャラクターの、一見すると同じような皮ジャンも、衣服の縫い目や、布の質感の違いまでしっかり作り込んだんです。そういうこだわりまで、Blu-ray Discならじっくりとご覧いただけるわけで、とても嬉しいですね。画面の明るさもすごく鮮明なので、暗くてよくわからないなと感じられていたシーンでも、見やすくなっているんじゃないかなと思います。
―アクションや群衆シーンも、Blu-ray Discではかなり違って見えるんでしょうか?
荒牧:そうですね。僕はCGくささっていうものを前向きにとらえているんですが、特にアクションシーンは、実写では難しいカメラアングルを表現できる。そこに快感を感じてほしいという思いがあるし、Blu-ray Discになると迫力がとても増すんです。
また前作でやり残した課題として、群衆シーンの表現があったんですが、本作では街に生活感を与えようと、街中のどの場所にカメラを振っても人が映っているようにしました。クライマックスでは、人が山ほど出てくる上に、ひとりひとりの表情もしっかりつけているのが売りですね。
―監督ご自身が気に入っていらっしゃるシーンはどこでしょうか?
荒牧:どこも気に入っていますが、後半のクライマックスの前あたりで、ブリアレオスを助けにデュナンがやってくるシーンが一番好きです。 デュナンの心情を考えると、あのシーンが本作のクライマックスかもしれないと思っています。表情ひとつとっても、観るたびにいいなと。基本的に、原作のファンであれば分かると思うのですが、デュナンは心情がぶれるはずがない人なんです。でも、人間らしい悩みは常に持っている。あ、デュナンはいま揺れ動いてるな、というように見ている人には思ってもらいたいのですが、見終えてから振り返ると、あ、ぶれてなかったんだな、と気づいてもらえると思います。
細野さんの楽曲は、10秒くらいしか使っていないものもある。かなり豪華な使い方ですよね
―ミウッチャ・プラダさんや細野晴臣さんなど、豪華なスタッフが名を連ねてらっしゃいますね。そういった大物の方々に、どういうふうに指示を出されたのでしょうか?
荒牧:指示を出しにくいだろうな、と感じられるかもしれませんが、楽しくできましたね。細野さんの場合、『アップルシード』を封切り初日に観ていただいてたようなんです。この作品に関われることがとても嬉しいとおっしゃってくれたので、いろいろと注文をつけてしまいました。はじめは3、4曲ぐらいの予定だったのが、HASYMO(細野晴臣、坂本龍一、高橋幸宏によるユニット。本作には、テーマ曲「RESCUE」などを提供した)の曲も含めて10曲ぐらいは作っていただきましたね。
―音楽と映像のタイミングがバッチリなシーンがあって、盛り上がりますよね。
荒牧:そうなんです。最初はアンビエントやエレクトロニカっぽいものを中心に作っていただきましたが、映像に合わせてみたくなっちゃったよと、ロックテイストの激しい曲も作ってくださいました。嬉しかったのは、もう曲を入れる空きが無いにも関わらず、さらに一曲作ってくださったことですね。10秒あるかないかぐらいの使い方しかできなかったんですが、おかげでとても贅沢な作品になったと思っています。
―原作者の士郎正宗さんは、ご覧になった感想をおっしゃっていましたか?
荒牧:士郎さんは、3DCGのアニメにとても興味を持ってくださっていたので、完成を喜んでくださいましたね。シナリオ段階から、デザインの提案も含めてたくさんアイデアをくださっていたんです。また映画の特典として、キャラクターが登場するデザイン画を描いてくださったんですが、アニメバージョンに近い姿にしてくださったんです。『エクスマキナ』を認めていただいているんだなと、嬉しく思いました。
ものづくりで大事なのは「思い込み力」
―今後やってみたいことについて教えていただけますか?
荒牧:いま一生懸命取り組んでいるプロジェクトがあるんですが、まだお知らせできないんです。今後も、基本的にはCGでアクションものやSFものを作っていきたいですね。
自分のようなスタイルで映画を作ることを、あまり他の方々はやっていないんですが、海外も含めてファンだと言ってくれる方が多くいらっしゃって、励みになっています。アニメは苦手なんですっていう人や、女性の方にも、普通のアクション映画を観るノリで観てもらっても楽しんでもらえると思いますよ。
―では最後に、作品をクリエイトすることの、一番の魅力をお伺いしたいと思います。
荒牧:ものづくりというのは本当に大変なことですが、大事なのは「思い込み」です。「思い込み力」って呼んでるんですけど、この作品は素晴らしいとどれだけ思い込めるかで、作る力が決まってくる。どう受け取られるのか気にすることも必要ですが、まずは作り出してみることだし、その次は作り続けていくことが大事なんです。その力を信じるしかないんですね。
- リリース情報
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- 『エクスマキナ -APPLESEED SAGA-』
Blu-ray Disc -
好評発売中
発売元:ミコット・エンド・バサラ
販売元:ポニーキャニオン
品番:PCXE-50018
価格:6,825円(税込)
©2007士郎正宗/青心社・EX MACHINAフィルムパートナーズ
- 『エクスマキナ -APPLESEED SAGA-』
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- 荒牧伸志
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