ショーン レノン インタビュー

ショーン レノンが昨年秋に本田ゆか(チボマット)、シャーロット・ミュールと始動させた自主レーベル「キメラ・ミュージック」。今年9月にリリースされたオノ ヨーコ率いるYOKO ONO PLASTIC ONO BANDのニュー・アルバムに続いて、11月18日にショーンが手掛けたサウンドトラック『Rosencrantz and Guildenstern are Undead』がリリースされる。一風変わったこのサントラについて、そしていよいよ本格的に始動したキメラ・ミュージックについて、来日したショーンに取材することに成功した。いやらしい質問にも真摯に答えてくれたショーンの言葉は全クリエーター必読。アーティストの本質とは何かを改めて考えさせられる貴重なインタビューをどうぞ!

(インタビュー・テキスト:タナカヒロシ 写真:柏井万作)

初めて手がけたサウンドトラック

―11月18日にリリースされるアルバム『Rosencrantz and Guildenstern are Undead』は、同名映画のサウンドトラックとして作られたそうですが、どういう経緯でサントラを作ることになったんですか?

ショーン:この映画の監督をやっているジョーダン(Jordan Galland)は昔からの友達で、いろんなことを一緒にやってきたパートナーなのですが、彼から頼まれてサントラを作ることになりました。非常に予算も少なく(笑)、制作に費やせる時間も少なかったので、全部の楽器を自分で演奏して、自宅で制作しました。

―これまでサントラ的なものを作ったことはあったんですか?

ショーン レノン インタビュー

ショーン:ありません。ただ、ジョーダンはとても古い友達だし、音楽の趣味やアートに関する考え方も非常に似ているので、彼がどういう音楽を欲しているかは、話さなくても通じるものがあったと思います。だから初めてのサントラの制作ではありましたが、いままでやってきたプロジェクトと比べても、特に難しいことは感じませんでした。むしろ、もっと自分が自由に表現できる易しさがあったと思います。というのも、自分の考えを表現するものではなくて、その状況にあったものを描いていくという作業だったので、より自由に曲を書くことができたと思います。

―映画のほうはいまのところ日本で公開される予定はないそうですが、どういった映画なんですか?

ショーン:シェイクスピアのハムレットの話を土台にしたヴァンパイア映画になっています。ハムレットにはホレイショー、オフィーリアという登場人物がいるんですけれども、ハムレットとホレイショーが闘っています。それを、ホレイショーはヴァンパイアになったほうがいい、ハムレットはヴァンパイアになりたくないという内容で闘争しているわけです。基本的にはコメディー映画です。

―サントラの制作は、実際に映画を見ながら曲をつけていったんですか?

ショーン:基本的にはシナリオを見ながら曲を作りました。

―それは難しい作業ではなかったんですか?

ショーン:そうですね。ある意味ではすごく難しかったと思いますが、スクリーンの映像に合わせなくてもいいという意味では易しかったと思います。例えば、マーティン・スコセッシやクエンティン・タランティーノは、既にある曲を使って、そこに映像を編集していくというやり方をよくするのですが、この映画はどちらかというと、そういうスタイルでできたものです。

2/3ページ:自身が立ち上げた音楽レーベル「キメラ・ミュージック」

映画における、理想的な音楽の使われ方とは?

―楽曲を作るうえでは、シナリオのどういう部分を大事にしたいと思いました?

ショーン:どちらかといえば脚本重視というよりも、自分の好きな音楽を考えていました。例えばニーノ・ロータがやった『アマルコルド』とか、『プラネット・ソバージュ』というフランスの古いアニメ映画、セルジュ・ゲンス0ブールがやった『キャベツ頭の男』、そのあたりの音を、特に60年代後半の音を考えながらやっていました。

―普段から映画を見るときに音楽は意識しながら聴かれてるんですか?

ショーン レノン インタビュー

ショーン:もちろん。すごく考えています。映画を見るときは、どのように制作されたのかということを非常に意識して見ています。このショットはどうやって撮ったのか、カメラはどうやって使ったのか、会話はどういうふうに組み立てられているのか、という制作過程を意識しています。

―映画において、ショーンさんが理想とする音楽の使われ方は?

ショーン:個人的に特に素晴らしいと思うのは、ニーノ・ロータの音楽の使われ方だと思います。特に、フェデリコ・フェリーニ監督作品のニーノ・ロータの音楽の使われ方、『ゴッドファーザー』(フランシス・コッポラ監督)での音楽の使われ方は、一番理想的なものだと思います。ヒッチコックの音楽も素晴らしいですね。

―それはどういった点が?

ショーン:本当にすべてが美しいと思うのですが、その美しさは表面だけではなくて、ミステリーを持っていたり、ダメージされたものを持っていたり、非常に複雑な要素を持っていると思うんです。素晴らしいジャズ・オーケストラでも、それは幽霊のような、ゾンビでできたジャズ・オーケストラのような、そういう要素が素晴らしいと思っています。

―僕は今回のサントラを聴いて、ドキドキしたり、きれいな景色が見えてきたり、すごくいろんなシーンが頭に浮かんできました。ショーンさんは、リスナーにこの作品を聴いてどんな気分になってほしいとか、そういった希望はありますか?

ショーン:自分ではこういうふうに聴いてもらいたいということは考えたことはありません。聴いてもらえることが幸せだと思っています。

キメラ・ミュージックの設立

―レーベルの話についてもお訊きしたいのですが、キメラ・ミュージックの設立の経緯は?

ショーン:そういう時代が来たということがとても大きいと思います。自分も昔はメジャー・レーベルにいて、それはそれでよかったのですが、いまは個人で作品を発表する時代になったと思います。その流れでキメラはレーベルを立ち上げようと思いました。

―キメラの由来は?

ショーン:キメラとは、いろいろなものが統合した生き物のことをいうのですが、自分たちがやっていることも、いろんなことをやっている人が集まってひとつの生き物を作ったということで、ピッタリだと思いました。

―レーベルの体制的には、どのくらいスタッフがいるんですか?

ショーン:日本とアメリカでキメラ・ミュージックの会社を持ってるのですが、どちらも4〜5人くらいの体制で、非常に小さな形でやっています。誰が何をやるというよりも、全員がすべてをやるという形になっています。

―日本でも会社を作られたということで、これから日本に来ることも増えたりするんですか?

ショーン:ぜひ、そうしたいと思ってます。

―普段から日本の音楽は聴かれますか?

ショーン:Buffalo Daughterとか、チボ・マットとか、ボアダムスとか、90年代のオルタナ系の音楽は非常によく聴きました。それからヤン富田さんとか、YMOとか、日本の音楽には非常に興味を持っています。また、横尾忠則さん、久里洋二さんや田名網敬一さんなど、日本のポップアートにも非常に興味を持っています。

―ひとまとめで言うのは難しいと思いますが、日本のアーティストのいいところはどこだと思います?

ショーン:日本のアーティストだからいいと思って聴いているわけではありません。そのバンドがいいと思って聴いているだけで、そのなかの日本人のものをいま述べました。

―これから日本でも株式会社を作ったので、もっと日本のアーティストとの絡みが増えることを期待してしまうのですが、いかがでしょう?

ショーン:もう既にコーネリアスとやったり、細野晴臣さんとやったり、(母である)オノさんとやったり、日本のアーティストとは非常に交流が深いと思っています。OOIOOのレコーディングもやりましたし、Buffalo Daughterのベースもずっと弾いていました。いまやってる以上に活動する時間があるかわかりません(笑)。

3/3ページ:全てのものを、納得のいく形で作り上げるために

全てのものを、納得のいく形で作り上げるために

―いま現在はレーベルのスタッフでもあるショーンさん、本田ゆかさん、シャーロット・ミュールさんが関連するグループと、YOKO ONO PLASTIC ONO BANDが所属アーティストで、すべてファミリー的なアーティストになるわけですが、今後は新しく出会ったアーティストたちのリリースも?

ショーン:いまはそんなに深くは考えていませんが、可能性はあると思います。

―いま所属しているアーティストたちの共通点は?

ショーン:いま言われたように、ファミリーということだけが共通点です。

―それぞれのなかで、思想とか、音楽に対する考え方は違うものですか?

ショーン レノン インタビュー

ショーン:もちろんそうです。自分の家族ということは共通点なのですが、自分としては、自分の保ちたいクオリティのレベルというものを持っています。そのクオリティとは主観的なものですが、音楽にしても、写真にしても、Tシャツにしても、すべて自分たちが納得できるハイ・クオリティなものを出していくようにしたいと思っています。もちろんどんな会社の人もそう思っているのでしょうが、普通の会社というのは時間の制限があったり、会社によってはとにかく機械を動かすことが大事だったりすると思います。私たちはそういうことは一切考えていません。クオリティ中心で活動していきたいと思っています。

―それはいままでの作品に関して、満足いかないものもあったということですか?

ショーン:自分で出した作品は、自分で納得できるクオリティで出してきたと思うのですが、自分ではコントロールできなかったものもありました。音楽に関しては全部コントロールできましたが、例えばCDに使う紙やTシャツの生地、どこの製造会社で作るか、そういう部分までコントロールできることを知りませんでした。ほかの人が投資しているものを使っていたので、自分にコントロールする権限がなかったのですが、いまは自分が100%コントロールする力を持っています。すべてのものを自分が納得できるクオリティで提供できるということに満足しています。

―経営者という視点では、マーケットの状況なども考えなければならないと思うのですが、最近の音楽業界は決して景気がいいとは言えません。そういった現状について考えられることはありますか?

ショーン:レーベルは確かに経営するようになったのですが、基本的には自分ではまだアーティストだと思っています。だから市場を考えたりとか、株をやったりとか(笑)、そういうことは正直言ってそんなに深く考えていません。ただ、いい作品を作ることだけを考えています。マーケットの状況がいいときでも、悪いときでも、自分ができる最高のものを作ることが一番大事だと思っています。

―レーベルとしてでも、ショーンさん個人としての意見でもいいのですが、音楽はどういう存在であるべきだと思いますか?

ショーン:そういう考え方はしたことがありません。自分がやることによって、社会にどのような影響があるか、どういうふうに受け取られるか、そういう考え方は一切していません。非常に近視感的にやっていると思います。例えば絵を描いているときであれば、いまどのペンを使うべきか、どういう線を書くべきか、どれが一番最高であるかを考えています。ほかのことには興味がありません。家を建てるときも、この家は社会にとってどういう影響があるかではなく、目の前にあるレンガをどれにするか、何を使ったら一番いいか、そういうふうに考えていかないと、いい家は建てられないと思います。

リリース情報
SEAN LENNON
『Rosencrantz and Guildenstern are Undead』

2009年11月18日発売予定
価格:2,500円(税込)
Chimera Music PECF-2002

1. Title Theme
2. Elsinore
3. Feed
4. Elsinore Reprise
5. Fortenbras
6. Yorick's Skull
7. Charlotte's Theme
8. Hamlet's Theme
9. Gibber And Squeak
10. Elsinore Revisited
11. ‘s Blood
12. Bobby's Bedroom
13. The Interview
14. Finale
15. Desire

プロフィール
ショーン レノン

天才ポップミュージシャンの父と天才前衛芸術家を母に持つ”キメラ”であるショーン レノンは、1998年にビースティーボーイズのレーベルGrand Royalから『Into The Sun』でデビュー。ボサノバからサイケデリックロック、クラシカルなピアノの弾き語り、ジャズ、ヘビーメタルとあらゆるジャンルの曲をほとんどの楽器を自分で演奏・録音し、多才な音楽性を発揮する。2006年、本人プロデュースで制作した2枚目のアルバム『Friendly Fire』ではアルバム全曲に映像をつけて発表。演技の才能を発揮するだけではなく、脚本、演出にも参加。アニメーションの原画も描き、ビジュアル・アーツに対する才能の片鱗を見せる。レニー・クラビッツからマニー・マーク、ソニックユースのサーストン・ムーア、ルーファス・ウェインライトなど歴代共演者も幅広い。



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