ザ・アルバム・リーフとの共演や、タイのロック・フェスティバルへの参加など、国内外で評価の高い3ピースeuphoriaが、新作アルバム『fluidify』を何と全曲無料で配信する。買い手に価格を決めさせたレディオヘッドの『IN RAINBOWS』をはじめ、インターネットの発展によって作品の発表方法は多様化し、1曲フリー・ダウンロードぐらいは当たり前の時代になったものの、アルバム全曲を無料でというのはあまり例を見ない。大胆なリリース方法を選択したeuphoriaだが、その根本にあるのは「伝えたいことをいかに心に届けるか」という、変わらない彼らのコミュニケーションに対する思いだった。「fluidify=液体になる」というタイトルがつけられたこの作品が、あなたの心と混ざり合いますように。
(インタビュー・テキスト:金子厚武 写真:柏井万作)
レディオヘッドの『IN RAINBOWS』で、音源にお金を払うことの意味っていうのを初めて意識的に考えたかもしれない。
森川(Vocal&Guitar):これ、仕上がったので(と言ってサンプルCDを渡す)。ちょうど昨日の夜マスタリングが終わって。
―あ、Twitterに書いてあったの見ました(笑)。これがあと2週間もすればリリースされるんだからすごいですよね。
森川:そうですよね。CDにしてたら間に合わないですからね。
―今回の作品はやっぱり全曲無料配信っていうのが大きなトピックなわけですが、森川さんのブログによると、アイデアを思いついたのは2008年の秋ごろなんですよね? まずはそのときのことを話してもらえますか?
森川
森川:2008年の秋っていうのが、ちょうど僕らの前作、3枚目のアルバム(『silence in everywhere』)が出た後ぐらいのタイミングなんですけど、「次のアルバムは無料で!」って始まったわけじゃなくて、あくまで色んなアイデアの一つとして無料配信っていうのがあったんです。その考えが毎日生活をして色んなものに触れる中で徐々に大きくなって。
―パッケージ、有料配信、色々ある中の一つだったわけですね。配信するっていうアイデアに関しては、他のアーティストの影響とかもあったんですか?
木下(Drums):レディオヘッドが、無料ではないけど配信で出したりしてたのは、音楽をやってる人間として気にならなくはなかったですね。
―レディオヘッドの『IN RAINBOWS』は買い手が自由に価格を決められたわけですが、実際買いました?
木下:僕はレンタルするぐらいの金額で買ったんですけど、聴いてみたらすごくて、「すいません!」みたいな(笑)。
―僕はタダで買いましたよ(笑)。でも、その後パッケージも買いましたけど。
佐藤(Bass):僕もダウンロードしました。(木下と)同じくらいの金額で。
―金額を決めるときにどんなことを考えました?
木下:普段気にしないことを気にしましたね。音楽の価値っていうのを考えて、レディオヘッドが書いてることを読んだりして、自分の中で音楽との向き合い方を考えました。全然深くはないんですけど。それで、わからないから…中途半端な金額で(笑)。
佐藤:音源にお金を払うことの意味っていうのを初めて意識的に考えたかもしれないですね。クールな言い方をすれば、データと言えばデータですし、それにお金を払うことの意味とか、アーティストが生み出してる価値に対する対価なのかとか…僕も結論が出るまで深く考えたわけじゃないですけど。
リリース形態って、自分たちの表現したいことをどう伝えるかってことだと思う。
―森川さんはダウンロードしてない?
森川:そのときはしなかったですね。CDになってから聴きました。
―データで買うことへの違和感があった?
森川:うーんと…まあ、なんか待ってようかなって(笑)。特にデータが嫌だとかではなかったんですけどね。時々他のバンドと今回のリリースのことを話すと「レディオヘッドと同じだね」って言われるんですけど、僕たちとは立場も規模も違いますし、狙いも全く違うと思うので、すごく違和感があって。
―ではeuphoriaが色々な選択肢の中から無料配信を選んだのはなぜ?
森川:リリース形態って、自分たちの表現したいことをどう伝えるかってことだと思うんですね。だから自分たちが大切にしていることは何かっていうことと、改めて向き合うところから始めたんです。例えば、作った音を聴いてもらって、それで印税が入ったりとかっていうやり取りは、コミュニケーションという感じがしない。僕たちの大切にしてる部分っていうのはそこじゃないっていうのは3人ともわかってたんです。利益を考えなきゃいけなくなると、伝えることをある程度わかりやすくしたり、具体的にする部分がないと、バランスが取れないと思うんで。
―利益を考えると、商品価値を高めることを考えなきゃいけなくなる、と。
森川:そうですね。でも僕たちは、僕たち3人から「出てきちゃったもの」っていうのがこの3人の強みなんだと思うんです。具体的に何かを伝えたいとか、こういうことを考えてほしいとかではなくて、受け取ってくれた人の自由でいい。人にもっと優しくなろうでも、厳しくなろうでもいいし、もっとしっかり生きなきゃでも、楽に生きなきゃでも、なんでもいいんですけど、とにかく今いる自分から動き出す、新しい何かに動き出すきっかけに、僕らの音楽がなれれば素敵だなって思うんです。聴いてくれた人が動き出したアクションが、巡り巡ってまた僕たちのところに戻ってきて、それに僕たちが反応して、また新しいものができるっていう。
―循環していく、と。
森川:そうそう、それが理想的なんじゃないかって気づいたときに、無料配信っていうリリース形態が具体的に見えてきたんです。
木下
―でも無料で配信するということに怖さは感じませんでしたか?
木下:例えばハードコアの人ってDIYで自分たちでCDを作ってたりするし、僕も未だにCDを買うし、レコードも買うんで、CDに価値を見出してる人からするとどうなのかな? って不安はありました。でも自分たちの表現がまた違った形で見えるんじゃないかって希望もあって、僕の中では半々ですね。その思考は今も僕の中では続いてるんですけど。
データがいくらでも複製可能なことによって、生の演奏の価値がよりはっきり見えてくるのかなって。
―意地悪な言い方をすると、タダで音源が手に入っちゃうっていうのは、音楽の価値を下げることになりかねないですよね。「タダで手に入るわけだし、音楽にお金使うのはやめよう」っていう考えに繋がる危険性もある。そういうことに関してはどうですか?
佐藤:3人でそういう話もすごくしたんですけど、僕たちは生の演奏の価値を重く考えているんです。レコードがあって、CDがあって、mp3になってっていう音源を売ってきた歴史があると思うんですけど、レコードの前に売るための音源っていうのはなくて、生の演奏しかなかった。そういう風に考えると、大きな流れで見て戻ってるのかなって。データがいくらでも複製可能なことによって、生の演奏の価値がよりはっきり見えてくるのかなって。
―うん、やっぱり無料にすることで聴いてくれる人の数は増えるだろうけど、むしろ重要なのはそこから先で、音源を聴いて、ライブを見てみたいって思ってほしいですよね。
佐藤:そうですね。その流れが一番理想的ですね。
音楽があって、その他にそれぞれの表現活動があって、その二つが相乗効果を生むっていうのに魅力を感じる。
―あと音源を無料にするってことは、メジャーのレコード会社とかができることではなくて、音楽以外に自分の仕事があるからできることですよね? みなさんウェブデザインやイラストレーターもされているわけですが、そういう自分たちの活動スタンスについてはどのように考えていますか?
森川:その辺もミーティングでよく出てくるテーマなんですけど、僕たちの考え方としては、音楽があって、その他にそれぞれ表現したい部分もあって、その二つが相乗効果を生むっていうのに魅力を感じていて。表現としていいものが浮かんだりっていうことがバンドに反映されたり、それこそ日常の中で嬉しいことがあったりするのもバンドに反映されるだろうし、逆にバンド活動の中で発見したことが日常にも反映される。それはバンドが忙しくなり過ぎても成り立たないし、バンド以外があまりに忙しくても相乗効果は生まれない。そこはすごく難しいラインで、答えが見えてるわけじゃないけど、目指したいところは3人一致してるんで、それに向けて日々活動してる感じですね。
―euphoriaは海外での活動実績もあるので、配信だと世界に向けて発信できるっていうことも重要なポイントだったと思うんですけど?
佐藤
佐藤:MySpaceで以前から結構海外の人がリアクションをくれていて、音源を自分の国で買えないのか? って問い合わせとか、日本のサイトで通販すると送料がバカ高いって話とかあって、音源の値段より高い送料払って買うのってどうなの? って思ってて(笑)。そういう人たちにも早く聴いてほしいなって思いますね。
―言語が関係ないから世界とすぐに繋がれるっていうのはインストの醍醐味だと思うんですけど、改めて自分たちの音楽がインスト中心であることの意義とかって考えました?
佐藤:僕らインスト・歌ものっていう意識があんまりなくて、歌が入ってればいいなと思えば歌を入れるし、歌が必要ないというか、ギターが歌ってるって捉えてる部分もあったりするので。
森川:結成当初からこんな感じで、特にそのことを話すこともせず来てるんです。そうやって活動をしていく中で、インストであることにこだわりのあるバンドが増えて、聴かれ方も変わってるのかなって。僕らはホントに出てきちゃったものがそういう形だったってだけなんですけどね。
まずこっち側に来てもらえれば届くのにって思うと、それが惜しいっていうか悔しいなって。
―例えば今回歌ものが2曲入ってて、どっちも英詞なんですけど、それとかって世界に配信されることを意識したりしました?
森川:確かに、制作に入る前には世界同時配信っていうのは決まってました。ただ結成当初は英詞でやってて、活動の中で日本語をすごく考えた時期もあったけど、今回は迷わずというか、違和感なく英詞になって。自分たちの作る曲に乗せやすいし、自分が聴いてきた音楽も圧倒的に英詞が多いんで。
―作品全体からは、すごく自由度が高くなったなっていう印象を受けました。1分台の曲も入ってたりして、長い制作期間のそのときそのときを切り取った作品なのかなって。
森川:今回はどういうアルバムにしようかっていうのを意識的に話し合いました。そのきっかけが、前作のツアーで色んな所に行ったことなんですね。それまではツアーと言っても京都・大阪・名古屋・東京っていう形が多かったんですけど、前回は東北や北海道に行ったり、初めての所にも結構行って、僕たちのことを知らない人が圧倒的に多い会場とか、お客さんがほとんどいないような場所での演奏もいくつかあったんです。そこで、まず初めに引き込む取っ掛かりを作んなきゃって考えたんです。今まではじわじわと持っていって最後まで聴いてもらうって感じだったんですけど、それだけだと届かない。まずこっち側に来てもらえれば届くのにって思うと、それが惜しいっていうか悔しいなって。だから曲作りもコンパクトにまとめようってことだったり、曲の始まりから引き込む力がある構成を考えてみたりしたんです。
―3人が出す音だけで作られてるっていうのも意識的な部分ですか?
森川:一枚目のフル・アルバムのころはいろんなことを模索していたので、ライブのときにPCでギターやシンセのループを鳴らしてたときもあったんですけど、それは制作のときにライブを意識してなかったからなんですね。でもそういうアルバムを作って、ライブをして、何か伝わんない部分があるんだよなっていうのをすごく感じて。それは何だろうって考えたら、その場で3人で出せる音っていうのがすごく意味があるんだなって感じ始めたんです。3人の楽器だけで成り立つ音楽っていうのが、ライブでもすごく伝わるはずだって思って、それ以降3人の音でどれだけ豊かな音楽を奏でられるかっていうのを常に考えてます。
―euphoriaの3人は小学校時代からの付き合いで、タダでさえ結びつきの強い3人が、今回リリース形態のことなども含めて話し合って、より結びつきが強くなったんじゃないですか?
佐藤:もう腐れ縁過ぎてそれを通り越してる感じはするんですけど(笑)。でもホントにミーティングはすごいしましたね。午後から始めて深夜ファミレスで明け方まで話したりっていうのを何回かやったり。話した分量は今までのアルバム制作のミーティングの中でも一番多かった気はしますね。
―リスナーからどういうリアクションが返ってくるか楽しみですよね。
木下:話せればいいかなって、単純に。「よかったよ」でも「あんまりだった」でもいいし(笑)。そういうパーソナルなやり取りができれば。どんなに技術が進んでも、最終的にはそこなんじゃないかなって。
森川:これまでCDを6枚出してきてるんですけど、CDを聴いてもらえるタイミングや機会が年々細くなってきてる感じがしてて。自分たちが出したいものが作れても、それがいいのか悪いのかもそんなにリアルにはわからなくって、それは出してる方としては悔しい。その点においても、今回は違った形で見えてくるんじゃないかと思うので、楽しみですね。
- リリース情報
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- euphoria
『fluidify』 -
2010年2月5日発売
価格:無料1. stay alert!
2. parabola
3. monotone bed
4. morning alarm
5. circus boy
6. letter from winter
7. mystic room
8. melt Fe
9. random walk
10. cat in blanket
11. fluidify
- 入場無料イベント『exPoP!!!!!』にも出演決定!
viBirth × CINRA presents
『exPoP!!!!! volume35』 -
2010年2月25日(木)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:Shibuya O-nest出演:
euphoria
4 bonjour's parties
texas pandaa
and more料金:無料(2ドリンク別)
※ご予約の無い方は入場できない場合があります。ご了承下さい。
- euphoria
- プロフィール
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- euphoria
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凜とした内面の世界を研ぎ澄まされた感覚で描き出すeuphoria(ユーフォリア)。3ピースという最小限の編成でありながら、空間を何倍にも広げ、様々な音像、感情を思い起こさせるライブは各方面から高い評価を受けており、過去にはThe Album Leafなど来日アーティストと多数共演。2010年2月5日に4th Albumとなる『fluidify』は、全曲フリーダウンロードと大胆なリリースで国内外問わず注目を集めている。
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