もはやポスト・ロックなど、とうに通り過ぎた季節のなかにいる、wooderd chiarie(ウッダード・チアリ)。2月17日には先行EPの表題曲” オルフェイス”を含む、1年3か月ぶりの2ndフ ル・アルバム―過去の自分たちを「供養」するための「聖なる詩集」という意味を持った『サクラメント・カントス』をリリース。扇情的に叙情的に繰り出され繰り返されるギター・フレーズ、静と動のコントラストが心地よいリズム、その隙間を縫い伸びやかに聴き手を連れ去る圧倒的なハイトーン・ヴォイス。そこに紡がれる、現代文学の土壌に根づいた詞の世界観。そして誘発される、甘美でゆるやかなトリップ感。バンドの本質を突き詰めた結果、それらすべてがこれまでとは一線を画し、大きく飛躍する意欲作となった。たとえるなら本作は、果てしなく深く碧い森のどこかで、静かに、しかし驚くほど鮮明に鳴っている愛の讃歌。あたたかくひたむきな執念を持った音楽=「愛と感謝」がここある。
(インタビュー・テキスト:ヨコタマサル 写真:小林宏彰)
“愛と感謝”というテーマが自分の伝えたいもの
―まず結成の経緯やバンドの構想などお聞きできればと思います。
小和瀬健士
小和瀬健士(G):結成の経緯は、当初のメンバー4人が同じ大学の同じ音楽サークルで、という取り立てて特徴のない感じです(笑)。上邨(うえむら)は僕の2つ後輩で入ってきて、途中からヴォーカルとしてバンドに誘いました。
―上邨さんは後からバンドに加わったんですね。
小和瀬:そうですね。音楽的なところでは、自分がつくりたい音楽をあますところなく表現できるバンドにしたいと思って、初めは技術を重視してメンバーを集めたんです。だから最初に箱をつくって、だんだん中身を入れていった感じですね。
―今作『サクラメント・カントス』と、前作『シンボリック・エレファント』は両方とも性的なシンボルを彷彿とさせる作品名を冠していますが、続編という位置づけなのでしょうか?
上邨辰馬(Vo&G):先に感覚的に言葉が出てきてその後考える、という方法でやっているので、事前に意図していたわけではないんです。前作の『シンボリック・エレファント』も感覚的につくっていて、その意味合いを後から考えて、それがまた今作にも反映されてはいます。
―意味やコンセプトが先にあるのではなく、自分の感覚の意味を考えていくんですね。
上邨辰馬
上邨:そうですね。そうやって自分にとっても謎だった部分を解き明かすことが、つくる上での原動力になったりもしていますし。前作より前に出した2ndミニ・アルバム『アルモニ・カフカ』のときに「愛と感謝」というテーマが自分の伝えたいものとして確立できた気がしてて、でも、そのシンプルな言葉はあくまで結果であって、言葉自体がしっくりくる場面はあっても、何故そこに至ったのかは僕自身もわからないんです。
―自分でも分からないけど感覚的にはフィットしていて、だから「愛と感謝」を軸にし続けることで、その意味を探している?
上邨:そうかもしれないですね。「愛と感謝」が常に中心にはなっていて、でもこれまでに表現し切れていない部分もある。それを今作でやってみました。だから前作も今作も「愛と感謝」という意味では繋がっていて、ただ違う側面を描いています。
小和瀬:たぶん『アルモニ・カフカ』のときにつかんだ「愛と感謝」というテーマが一本強く芯としてあって。その適用範囲というか、最初は密度の濃いところで語っていた世界観を、作品ごとに広げていってるような気がします。
『アルモニ・カフカ』ができたときにそれまでの自分が死んだ
―今作で「女性性」がテーマとして語られているのも、そういう理由からなのでしょうか?
上邨:前作の『シンボリック・エレファント』は男性的な側面を描いた作品だったから、今回の『サクラメント・カントス』は女性的なものを描いた、ということですね。
―なるほどそれで、象徴的なタイトルが付けられているわけですね。ではもう1つ、今作には「供養」というテーマも設定されていますよね。その理由は?
上邨:いちばん最初にリリースした 1stミニ・アルバム(『wooderd chiarie』2005年発表)までの自分って、主張を持っていなくて、それこそどれだけ箱(バンド)に自分を合わせていけるかを考えていたんです。で、『アルモニ・カフカ』ができたときにそれまでの自分が死んだという感覚があって、それが今回の「供養」というテーマに繋がっていったように思います。
―『アルモニ・カフカ』は英詞から日本語詞に変わった作品だったり、上邨さん的にも大きな変化を遂げた作品だったんですね。
上邨:変化はありましたね。それと、『アルモニ・カフカ』のなかに“存在のエピタフ”という曲があって、「愛と感謝」というテーマをいちばん強く意識した曲にも関わらず、そうしたテーマからそれているというか、ちょっと毛並みの違う曲になっていて。それがすごく気になっていて、今作をつくる上でもとても重要なヒントになりました。
―曲単位で言うとどの部分に「女性性」や「供養」が現れているんでしょうか?
上邨:たとえば2曲目の“アイメ”って、端的に言うと「女の人」って意味なんですよ。ちなみにこの曲の歌詞に出てくる「バー」というのは単純に「酒場」という意味もあるんですが、4曲目の“バー”は古代エジプトの死生観に出てくる言葉で、「あの世とこの世を行き来する魂」という意味なんです。で、映画の酒場のシーンとかで煙草を吸ってる煙が魂に似ているというか、そういう象徴なのかなあ、と。だから“アイメ”と“バー”は僕のなかで繋がっているんです。まあそんなふうに、ほかの曲の要素が別の曲に出てきたり、すべての曲が有機的に絡み合ってるんですけど。
―なるほど。それとアルバム収録曲のお話で興味深いのは、今作も曲作りに参加した小和瀬さんですが、そもそも音楽的ルーツはどのようなものなんですか?(6〜8曲目は小和瀬が作詞作曲)。
小和瀬:まあこういう音楽性ですからレディオヘッドの影響はあるんですけど、メンバーのルーツは見事にバラバラで、リズム隊はレディオヘッドにあまり興味を示さなかったですね。僕はジェフ・バックリィとかジェームス・イハのソロとか、ヴォーカルものが好きです。ただ基本的に歌が好きなんですけど、そのままやるには抵抗を感じるというか、単純にストレートにはつくれない(笑)。今作に入っているラスト3曲にしても、自分的にはすごいポップにつくってるつもりなんだけど、「全然ポップじゃないよ!」とか言われます(笑)。
―前作から歌詞も書いていらっしゃいますよね。
小和瀬:これだけ強烈な世界観がすでにあるなかで、僕が歌詞を書く意味を探っている時期ですね。いまのところ、バンドの内側から見たwooderd chiarieというか、上邨辰馬という強烈な世界のなかで生きてる、普通の人の感覚というか(笑)。僕はもともと、「普通の感覚」をたいせつにしたいと思っているところもあって。
上邨:(笑)。ルーツの話しをすると、僕はクラシックや映画音楽が好きですね。(スタンリー・)キューブリックやコーエン兄弟、最近だと『恋に落ちる確率』の音楽とか。それと、ミスチルがすごい好きです。なんかこう、自分のために歌ってくれているような気がするんですよね。小説で言うなら村上春樹とかも好きなんですけど、共通項としては自分のために書かれている錯覚に陥るというか、既視感があるんです。まあ、みんなそう思ってるのかもしれないですけどね(笑)。
―自分の作品に対しても、「自分のために歌われている錯覚」を表現しようとしてらっしゃいますか?
上邨:そこは逆に曲をつくることで、ある種の救いを求めてる部分がありますね。
―では楽曲をつくる際にたいせつにしていることって、どんなことでしょうか?
上邨:後ろ向きな気持ちがないと前向きな気持ちになれないし、そういうものをひとつのものだと意識するように心がけていますね。そうすれば、大事なものを見逃さずにいられるかなって。
たとえば方法論として、インストだったりもっと極端な音楽性もあると思うんですけど、そういう方法じゃないやり方で戦える
―それではサウンド面について教えてください。ギターのフィードバック・ノイズがあってヴォーカルが控えめでグランジ色もある、端的にいえばポストロックっぽい音って少し前までたくさんあって。そういう音楽への憧憬と反発を少し前までのwooderd chiarieに感じていたんですね。
小和瀬:そうですね、前はそういう気持ちが強かったです。レディオヘッド的な日本のバンドが嫌いで、でも自分がやっていることもその部類に含まれていて。今思うと、そこからどう抜け出せるか、どうやって独自色を出していくか、という歴史だったような気もします。でも今はもう吹っ切れちゃったのが正直なところですね。自然とこのメンバーが集まってやれるのがこれだから、って。たとえば方法論として、インストだったりもっと極端な音楽性もあると思うんですけど、そういう方法じゃないやり方で戦えるという感触を持ちながら続けているバンドなので、正面切ってやってやろうと。
―ミスチルの話じゃないですけど、wooderd chiarieは歌詞ひとつとっても、すごくわかりやすい部分がありますよね。でも、歌だけじゃなくてサウンドも面白くて。
小和瀬:やっぱりバンドとして、歌とメロディーが中心にあると思うんです。いろいろやってみた結果そこに至れたというか。でも、僕らはサウンドと歌詞が完全に分かれていて、レコーディングで歌入れするタイミングまで詞はついてないですから、入れた瞬間に曲ががらっとかわるんですよ。曲が立ち上がってくる感じで。
―バンドって大きく分けてふたつのタイプがあると思っていて。取り入れた音楽をすぐ燃料にして作品に反映にするタイプと、ずっと自分たちの武器を磨き続けるタイプと。僕はwooderd chiarieのことを後者だと思っていたんですけど、今までのお話で逆なのかなと。
小和瀬:そこは両方ですよね。音楽的な挑戦をしたいという気持ちもあるし、もっと自分たちの根本的な強い部分を磨き続けるということもあるし。軸足をしっかり自分たちの確信のあるところに置きつつ、どれだけ飛距離を出せるか、という話のような気がします。たぶん長いスパンでいい作品をつくり続けられるバンドって、それができてるバンドだと思う。
―wooderd chiarieは今作で、すごくひらけたようなイメージがあって、今後さらに大きくなっていくだろうと確信しています。3月からはツアーも始まりますけど、今作を出したことによって見えてきた、今後の展望などはありますか?
上邨:今のところまだ展望っていうのはないんですけど、やっぱりいつもツアーが終わってひと段落してからわかってくることが多いので、もちろん時間的制約はあるんですけど、そこで自然に感じたものを大事にしていきたいですね。作品づくりにしても僕は意味的なことを後から考えていくタイプなので。まずはアクションを起こしてみて、そこから出てくるもの、実感できたものを次に繋げていければと思います。
小和瀬:なんか「もっと早くやろうぜ!」という時期もあったんですけど、上邨は何があっても動じないというか、着実に自分のなかに積み上げていくことを何よりもたいせつにしてるタイプで。でもそれが終われば、きちんと新しいビジョンをメンバーに提示してくれる信頼感があるので。で、それとは関係ないかもしれないけど僕としては、いかに創作に対して充実した環境や時間をつくれるのか、という部分を考えていこうと思っています。まあ野望でもなんでもないんですけど(笑)。
- リリース情報
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- wooderd chiarie
『サクラメント・カントス』 -
2010年2月17日発売
価格:2,100円(税込)
PEMY-008 Penguinmarket Records1. アルター・エゴ
2. アイメ
3. オルフォイス
4. バー
5. サクリファイス
6. スタンピード
7. asa→hiru
8. 箱
- wooderd chiarie
- イベント情報
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- 『サクラメント・カントス』IN STORE LIVE TOUR
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2010年2月27日(土)15:00〜
会場:TOWER RECORDS 名古屋近鉄パッセ店 イベントスペース2010年2月28日(日)14:00〜
会場:TOWER RECORDS 梅田NU茶屋町店 イベントスペース2010年3月11日(木)20:00〜
会場:TOWER RECORDS SHIBUYA B1「STAGE ONE」
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- 『"サクラメント・カントス" RELEASE TOUR』
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2010年3月13日(土)
会場:稲毛 K's Dream2010年3月14日(日)
会場:水戸 club SONIC2010年3月20日(土)
会場:仙台 HooK SENDAI2010年4月18日(日)
会場:長野 LIVE HOUSE J2010年4月27日(土)
会場:甲府 CONVICTION2010年5月8日(土)
会場:京都 urbanguild2010年5月9日(日)
会場:名古屋 CLUB ROCK'N'ROLL2010年5月15日(土)
会場:大阪 難波 ROCKETS2010年5月20日(木)
会場:渋谷 duo music exchange
- プロフィール
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- wooderd chiarie
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2001年結成、東京都内を中心に活動を開始。時に深く/時に力強く表現される独自で壮大なバンドサウンドと、様々な感情/景色を想起させる表現力豊かな上邨の歌声と詩世界が織り成す音楽を作り続けるwooderd chiarie。作品を重ねるごとにその世界はさらなる広がりを見せている。前作から1年3ヶ月ぶりとなる2nd Full Albumが遂に完成。バンドの本質を突き詰め制作された全8曲を収録。
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